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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

脳神経外科における生涯教育

著者: 伊藤昌徳

ページ範囲:P.3 - P.4

 脳神経外科医は「一生勉強,一生青春(相田みつを)」を地で行っている人が多いが,脳神経外科医としての人生のなかで,自らに最も学習負荷をかける時期は,専門医試験の受験前であろう.過日,日本脳神経財団主催の「生涯教育研修会」の講師の依頼を受け,講演を行った.受講者のほとんどが専門医試験を受験する若手脳神経外科医であった.Teachingには単なる情報の伝達以上のものが要求されるが,何をどのような形で伝達するかに苦慮した.講演の準備の過程で学ぶことも多く,まさに「Teaching is learning」を再認識させられた.そこで,生涯教育,生涯学習(continuing medical education, lifelong medical learning)について考えてみた.

 明治時代以降の日本人に生涯教育を勧めた名言の1つとされる「Ancora imparo」は,ミケランジェロの言として伝えられ,「私は今でも勉強している(still learning)」という意味である.日本脳神経外科コングレスのモットーとしてその紋章に書き添えられている.ミケランジェロが死の直前に描いた,砂時計をもった老人(おそらくは自画像)のデッサンの片隅に,「Ancora imparo」という文字が書き添えられていたという.私の認識ではミケランジェロはあくまでも彫刻家,画家であり,医学や教育とどのような関わりがあるのか,ずっと疑問に思っていた.明治六大教育家の1人である中村正直は,英国留学の帰国の際,サムエル・スマイルズ著「Self help(自助論)」を英国人のフリードランドより餞別として送られ,その翻訳を「西国立志編」として出版し,100万部以上を売り上げた.その中に西郷隆盛の遺訓として有名な「敬天愛人」の心と共に,ミケランジェロ(安日洛)の「Ancora imparo」の訳語「予ナホ方ニ学習ニ従事ス」が記載されている.ミケランジェロは多くの弟子をもつ教育者であると同時に,常に新しい情報の収集とその利用に努め,熱心な学習者でもあった.

総説

てんかん診療の新時代

著者: 神一敬 ,   岩崎真樹 ,   冨永悌二 ,   中里信和

ページ範囲:P.5 - P.14

Ⅰ.はじめに

 てんかんの有病率は約1%で,わが国に約100万人の患者がいると考えられており,脳神経領域における“common disease”の1つである.しかし,わが国のてんかん診療は残念ながら欧米各国と比べ明らかに遅れをとっている.近年ようやくこれらの遅れを取り戻す動きがみられている.本稿では,ここ数年のわが国におけるてんかん診療をめぐる進歩として,①長時間ビデオ脳波モニタリング検査,②新規抗てんかん薬,③切除術以外の外科治療について取り上げる.

書評

病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 IDATEN感染症セミナー--IDATENセミナーテキスト編集委員会●編

著者: 柳秀高

ページ範囲:P.14 - P.14

●日々の診療に必要な知識を築くのに有用な1冊

 この本では,病棟やICUで感染症診療を行うとき,また相談を受けたときに必要とされる知識の多くがわかりやすく解説されている.サンフォードマニュアルのような網羅的なマニュアル本ではなく考え方の筋道が書いてある.総論では病院内での感染症診療の一般原則や免疫不全総論などがよくまとめられている.感染臓器と患者の免疫状態,基礎疾患などから起因菌を推定し,empiric therapyに用いる抗菌薬を決める.培養が返ってきたら最適な抗菌薬を決めてdefinitive therapyを行う.抗菌薬の投与期間の決定については各論で提示されるケースでは議論されないが,各項目の概説のなかで語られることが多いように感じた.

 人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染・尿路感染などの項目では,米国感染症学会などのガイドラインを用いてケースのマネジメントを説明している.あるいはケースを使って,ガイドラインを解説している.ケースの説明のみならず,疾患・ガイドラインの概説も行っているので全体像をつかむのによい.いずれのケースも基本的に感染臓器,起因菌の推定からempiric therapyを考え,培養結果などを用いて特異的治療を決定するという実践的な流れからぶれずに議論されており,日々の病棟での感染症診療や感染症コンサルタント業務に必要な知識を築くのに有用であると思われる.

基礎から読み解くDPC 第3版 実践的に活用するために--松田 晋哉●著

著者: 秦温信

ページ範囲:P.87 - P.87

 松田晋哉氏の著書『基礎から読み解くDPC第3版─実践的に活用するために』が刊行された.著者は評価システムともいうべきDPCについて設計・開発から普及まで厚生労働省の作業を中心的に主導してきた研究の第一人者である.

 初版から筆者も含め当院職員が利用しており,対象病院にとっては診療や病院運営の見直しや今後の方向を考える際の参考書として,新たに導入を検討されている病院には座右の書としてぜひ購入をお勧めしたい.

研究

脳動脈瘤を合併した下垂体腺腫の特徴および治療方針に関する検討

著者: 笹川泰生 ,   立花修 ,   白神俊祐 ,   高田久 ,   赤井卓也 ,   飯塚秀明

ページ範囲:P.15 - P.21

Ⅰ.はじめに

 下垂体腺腫に対する脳動脈瘤の合併頻度は5.4~7.4%8,13)といわれており,その頻度は健常人の未破裂脳動脈瘤の保有率と比べ,同等もしくは高率である.一方,経蝶形骨洞手術は低侵襲な手術法として下垂体腺腫を含めたトルコ鞍病変の標準的手術法として確立されているが,術野や使用器具が制限されるため,脳動脈瘤のクリッピング処置は困難である.よってトルコ鞍近傍の脳動脈瘤の有無を術前に確認することは重要であり,両者が合併した際に治療をどのような方法,順序で行うかを決定しなければならない.今回,自施設で経験した脳動脈瘤を伴った下垂体腺腫における特徴や治療内容,問題点について検討した.

未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術時にコイルが母血管に突出した症例における予後の検討

著者: 山尾幸広 ,   佐藤徹 ,   村尾健一 ,   宮本享 ,   飯原弘二

ページ範囲:P.23 - P.29

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤のコイル塞栓術はGDC(Guglielmi detachable coil)の普及に伴い,飛躍的に増加してきた3,4).ISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)9)にも認められるように,従来のクリッピング術に対してコイル塞栓術の治療成績が劣らないことも報告されている.また,コイルの改良,バルーンなどの併用により,従来困難とされていた脳動脈瘤に対してもコイル塞栓術による治療が可能となり,コイル塞栓術を選択する症例が増加してきている.ただ,コイル塞栓術周術期の合併症として血栓塞栓症,血管損傷,コイルの母血管への突出などが挙げられる.コイルが母血管へ突出した症例において,経験的には塞栓性合併症の増加や,新たな神経学的症状の出現を認めていないが,現在のところevidenceは存在していない.今回われわれは,未破裂脳動脈瘤コイル塞栓術時にコイルが母血管に突出した症例の予後の検討を行ったので報告する.

症例

脳室心房シャント術に伴う腎炎の1例

著者: 菊地亮吾 ,   田伏将尚 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳 ,   今福俊夫 ,   亀山香織

ページ範囲:P.31 - P.36

Ⅰ.はじめに

 脳室心房シャント術(VAシャント)・脳室腹腔シャント術(VPシャント)に伴う稀な合併症として,シャント腎炎と称される糸球体腎炎が知られている.今回われわれは,VAシャント術2年後にシャント腎炎を発症し,シャント抜去により治癒した1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

2つの圧可変式シャントバルブを要したLOVAの1例

著者: 小野健一郎 ,   畑田淳一 ,   山田美紗子

ページ範囲:P.37 - P.42

Ⅰ.はじめに

 中脳水道狭窄に伴う水頭症に対する標準的治療基準は定まっていない16)が,内視鏡下第三脳室底開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)は臨床的改善が69%13),88%9),89%5)にみられたと報告されており,有効な方法である.最初にETVを行い,それが無効の場合は脳室腹腔シャント術を施行することは理にかなっている7,11).そしてオーバードレナージに起因した硬膜下血腫に対する理想的な治療法として,圧可変式シャントバルブを用いることも妥当とされている6,11).今回われわれは,圧可変式バルブを用いてもオーバードレナージを呈した症例に,さらにもう1つ圧可変式バルブを増設することで治療できた1例を報告する.

頚部内頚動脈閉塞症を伴った側頭動脈炎に対する浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術の1例

著者: 阿美古将 ,   中野茂樹 ,   西崎隆文 ,   池田典生 ,   坂倉孝紀 ,   岡村知實 ,   阿美古征生

ページ範囲:P.43 - P.48

Ⅰ.はじめに

 側頭動脈炎は巨細胞性血管炎とも呼ばれ,頭頚部を中心とした中~大動脈に生じる巨細胞性の肉芽腫性血管炎で,浅側頭動脈,眼動脈,頭蓋外椎骨動脈が高率に傷害される.

 今回われわれは,側頭動脈炎に左内頚動脈閉塞を合併した症例に対して,左浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術を行い,良好な結果を得た.症例を呈示し,治療方法や治療上の問題点について文献的考察を加えて報告する.

IVR-CT/angio systemによる術前の画像診断が有用であった脊髄hemangioblastomaの1例

著者: 谷正一 ,   芦田信示 ,   米田弘幸 ,   吉岡奈央 ,   岡田光正 ,   川端康弘 ,   新田武弘 ,   山下耕助

ページ範囲:P.49 - P.54

Ⅰ.はじめに

 脊髄hemangioblastomaの摘出手術の際の出血コントロールのためにはfeeding arteryやdraining veinの処理が重要であるが,術中損傷を避けるべき正常組織が狭い術野の中で病変部に隣接しているため,関係する血管との位置関係の情報を術前に得ることは,安全な手術操作にとって非常に有用である.しかし,一般の脊髄血管造影(disital subtraction angiography:DSA),3D-CT angiography(3D-CTA)などは,腫瘍や周囲の椎弓骨,脊柱,feeding artery,draining veinなどの3次元上の相対的位置関係を詳細に検索するには一長一短があり,複数の検査結果をお互いに突き合わせることで,術者の想定上に全体像が構築される.腫瘍が元来小さいことと,腫瘍への血流が肋間動脈から根動脈,脊髄動脈を経由してようやく到達することが,腫瘍とその成分の空間的および時間的な描出を不十分・不完全にさせる原因と思われるが,本報告では,脊髄DSAの際にカニュレーションされた肋間動脈から造影剤を注入して3D-CTAで病変を検出することで,従来の検査法による放射線学的情報を一度に鮮明な解像度でコンピュータに3次元情報として記録できることを提示する.さらにCT装置とDSA装置を縦列させて1つのベッドで両者の撮影が可能なIVR-CT/angio system(IVR:interventional radiology)を利用すれば,上述の検出方法を実施するための一連の操作を,部屋から部屋への患者の移送なしに簡便に施行できることを紹介する.

内視鏡下経鼻的経蝶形骨洞手術後の遅発性鼻出血に対し塞栓術が有効であった1例

著者: 岡哲生 ,   杉生憲志 ,   石田穣治 ,   菱川朋人 ,   小野成紀 ,   徳永浩司 ,   伊達勲

ページ範囲:P.55 - P.60

Ⅰ.はじめに

 下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術の合併症として,内頚動脈系,特に海綿静脈洞部の損傷による鼻出血は,稀ではあるが重要な合併症として報告されている1-3,5-7,9,10).一方,外頚動脈系の損傷による大量鼻出血に関する報告は少ない4,8).われわれは,経蝶形骨洞手術3週間後に多量の鼻出血で発症した外頚動脈損傷に対して,出血源であるsphenopalatine arteryの血管内治療(塞栓術)により止血・救命し得た症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

破裂急性期にバルーン閉塞試験を行い母血管閉塞が可能であった錐体部巨大内頚動脈瘤破裂の1例

著者: 竹下朝規 ,   堀江信貴 ,   宗剛平 ,   氏福健太 ,   林健太郎 ,   森川実 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.61 - P.66

Ⅰ.はじめに

 内頚動脈錐体部巨大動脈瘤は稀であるが一般的に予後不良であり,治療に難渋することが多い.直達手術,脳血管内手術いずれにおいても動脈瘤のみの処置は不可能なことが多く,母血管閉塞が行われることが多い.その場合,バルーン閉塞試験(balloon occlusion test:BOT)にて血行動態の評価が有用であることは言うまでもなく,虚血耐性が得られない症例においてはバイパス術を併用する.しかし,緊急を要する症例では迅速な判断,対応が求められる一方,耐性の有無を正確に判断することが難しい場合が多い.今回われわれは,鼻出血で発症し出血性ショックを呈した内頚動脈錐体部巨大血栓化動脈瘤に対し,緊急でBOTを行い,引き続き母血管閉塞が可能であった症例を経験したので,出血発症急性期におけるBOTのマネジメントについて文献的考察を加え報告する.

連載 脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景

9.モヤモヤ病

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.67 - P.87

Ⅰ.はじめに

 過日(2011年7月21~22日),ここKinderspital Zürichで第2回のMoyamoya disease (MMD)のInternational Meetingが開催された(Fig. 1).第1回は米国のStanford大学(Prof.Steinberg)で2009年に開催されたという.今回の開催責任者はFrau PD Dr.Khanである.彼女は私の在任中にMoyamoya angiopathy(MMA)をテーマにPrivatdozent(PD)(私講師:教授に推挙される前提資格)の論文を仕上げ,念願のPDとなったが,私の2007年の定年退官を機にZürichを出立し,Lausanne,Stanfordと遍歴を重ね,Kinderspital Zürichに帰ってきたのである.私は具体的なことにタッチせずhonorary lectureのみの責ということで,気安く参加した.

 ちなみにKinderspital Zürichは,私どもの学生時代,1960年代前半に小児科学の教科書として先輩から推薦されていた「FanconiのKinderheilkunde」(Fig. 2)として有名であったProf.Fanconiが在任した病院である.当時は,小児科のよい日本語の教科書がまだなかった時代で,ドイツ語の本書が学生には薦められていた[ちなみに,当時,解剖学ではRauber-Kopsch(ドイツ語),生理学ではFulton(英語),内科学ではHarrison(英語)が薦められていた].また,私が,Zürich大学病院脳神経外科の助手時代の1970年代に小児のV-A shunt,V-P shuntを行いに出かけた病院で,のちにProf.Rickham(Rickham reservoirで有名)が英国から病院長として招聘され,10年ほど前まで在任された名門小児病院である.ちなみに,Fanconi's anemiaは本症と結合して,Moyamoya syndrome(MMS)を形成することもあり得る.

 日本からは,北海道大学の寳金清博教授とその一門,東北大学,それに福井大学の菊田健一郎教授らの参加があった.また,米国からはProf.Scott(Boston),Prof.Steinberg(Stanford)らの一門,それにドイツ,フランス,イギリスから脳神経外科,神経内科,molecular biologyの研究者の参加があった.Bypass surgeryで一世を風靡したReichman,Chater,Peerless,Ausman,Fein,Khodadad,Schmiedek,Gratzlなどのbypass surgeonの姿,顔はなく,講演でも言及されることはなかった.時代が過ぎてゆくのを感じた.

 私は基調講演でMMDの発見,厚生省難病調査研究班研究の成果をもとに治療,epidemiology,pathophysiology,病因究明の歴史と本症のupdateを述べたが,以下の内容は,そのoutlineと,このmeetingで感じた事柄である.今回は,私にとっても,これらの発展の歴史を辿りなおし,自分の行っている臨床を考えるよい機会であった.日本で,1992年末までに約70症例,Zürichで1993年以来同じく70症例ほどの血流再建術を行ったが,その結果は別の論文にゆずるとして,私が今回この機会に,様々な人々の助けも得ながら文献などを掘り出し,自分の経験をもとに見直した知見を以下に述べるが,興味のある人はさらに自分で追究していただきたい.

海外留学記

欧米のてんかんセンターを渡り歩いて

著者: 久保田有一

ページ範囲:P.89 - P.92

はじめに

 私は,医学生の時に出会ったペンフィールドの『脳と心の正体』を読んでから,ずっと脳への興味,てんかんという疾患への興味を持ち続けてきました.その後,医師になってからは一貫して「てんかん医療」に従事してきました.留学に際してはそれぞれの目的があると思いますが,私の場合,世界のてんかん医療の最先端を自分自身で経験してくること,もう1つはてんかんを通じて,人間の脳をもっと知ること,以上2点が目的でした.

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欧文目次

ページ範囲:P.1 - P.1

お知らせ

ページ範囲:P.21 - P.21

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.42 - P.42

ご案内 第31回The Mt.Fuji Workshop on CVD

ページ範囲:P.60 - P.60

期  日 2012年8月25日(土)

会  場 グランキューブ大阪

文献抄録 Rapid online language mapping with electrocorticography

著者: 國井尚人

ページ範囲:P.93 - P.93

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.94 - P.94

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.95 - P.96

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.97 - P.97

次号予告

ページ範囲:P.99 - P.99

編集後記

著者: 若林俊彦

ページ範囲:P.100 - P.100

 新しい年を迎えた.伊藤昌徳先生の「扉」は,新春を飾るに相応しい巻頭言である.脳神経外科医の生涯教育に言及し,「脳神経外科における生涯教育は,一生勉強,一生青春」であることを述べられている.また,引用されているミケランジェロの名言「私は今でも勉強している(Ancora Imparo)」は,日本脳神経外科コングレスのモットーとして,その紋章に今も刻まれている.現役の脳神経外科医として生き続けるためには,日々弛まぬ努力と実践が必要であり,学び取る姿勢に終わりはない.その覚悟で,本誌を読み進めると,まずは神一敬先生のてんかん診療の新時代の幕開けの総説である.新規抗てんかん薬の相次ぐ市場への参入,診断の解析にビデオ脳波モニタリング検査が保険適応となり,さらには迷走神経刺激術の保険適応なども相俟って,近年,脳神経外科医のてんかん医療に対する興味が急速に高まっている.しかし,未だてんかん専門医が絶対的に不足している現状においては,脳神経外科を含む関連各科で的確に診断・治療をする体制を整えることが急務であり,その啓発の意味でもタイムリーな内容となっている.さらにページを捲ると,動脈瘤と下垂体腫瘍が合併した症例や,未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術中に母血管にコイルの一部が突出した症例の検討など,さまざまな難題に立ち向かう果敢な脳神経外科医の勇姿が映し出されてくる.今回の症例報告も,一筋縄では解決できなかった困難な例を,いかにして救ったかの,武勇伝に等しい強者ばかりの報告であり,感服させられる.さらに,米川泰弘先生の脳神経外科手術手技に関する連載が,今回はもやもや病である.脳神経外科疾患の中でも本疾患は,本邦で発見され,邦人がその発見者であり,その後の調査研究でも世界をリードしている疾患として,極めて価値の高い病態である.その詳細を纏め,一気に報告した内容は,只々読む者を圧倒する.引用されているヒポクラテスの言葉,「物事に熟練するには長くかかる,人生は短い,好機は早く逃げてゆく,物事を試すことは危険である,正しい判断は難しい」とは,まさにこの病態の解明に携わった面々の歴史を見れば一目瞭然である.脳神経外科を究める道に王道はない.あるのは前人未到のイバラの道のみなのであろうか.日々の研鑽が続くこの道は,今年も変わることはない.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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