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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻10号

2012年10月発行

雑誌目次

“卒前医学教育”はこのままでいいのか?

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.857 - P.858

はじめに─CTの導入に伴う激震

 コンピュータ技術の進化によって測定データの処理速度が信じられないほど高速化し,医学界に革命的変化がもたらされた.脳神経外科領域での象徴的出来事は,1970年代後半にcomputed tomography(CT)が導入され,神経学的診断法が頭蓋内疾患診断の主役の座を降りることになったことである.さらに,補助検査法としてそれまでルーティーンに用いられていた各種撮影法は,数年で姿を消してしまった.

 今や,CTおよびmagnetic resonance imaging(MRI)は,症候性のみならず,無症候性疾患の存在までも診断し,頭蓋内腔のどこに存在する疾患も診断され,“no man's land”はなくなりつつある.現在では,CTおよびMRIなしに脳神経外科診療を行うことは考えられない.

総説

新しいMRIシークエンスとその臨床応用

著者: 増本智彦 ,   椎貝真成 ,   那須克宏 ,   南学

ページ範囲:P.859 - P.869

Ⅰ.は じ め に

 MRIが医学に臨床応用されてから30年ほど経つが,その間のMRI装置のハードウェア・ソフトウェアの進歩はめざましいものがある.spin-echo法,fast spin-echo法,gradient-echo法,echo planar imagingといった撮像の原理的な進歩もさることながら,これらをベースとしたさまざまなコントラストの撮像法がこれまでに開発されてきた.一方,まったく新しいコントラストの撮像法が急に出てくるということは意外に少なく,拡散強調像のように原理的には古くから存在するものが,ハードウェア・ソフトウェアの進歩とともに臨床応用可能となってきたというものもある.近年の潮流としては,これまで信号雑音比や撮像時間の問題から臨床応用が難しかった撮像法が,3テスラMRI装置の普及とともに活発に用いられるようになってきており,逆にそこで得られた成果が1.5テスラのMRI装置にもフィードバックされている.本論文では,比較的新しいMRI撮像法,もしくは近年新しい展開をみせている撮像法として,磁化率強調画像,拡散テンソル画像,arterial spin labeling,black-blood imagingの4つを取り上げる.

研究

慢性硬膜下血腫の再発因子に関する後ろ向き統計学的分析:単変量,多変量解析による検討

著者: 高山東春 ,   照井慶太 ,   大岩美嗣

ページ範囲:P.871 - P.876

Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫は高齢者に多く,治療予後については良好な疾患であるが,しばしば,その再発率が問題となる.開頭と穿頭による血腫除去手術の比較では再発率に差がないとの結果を受け4,6,13),現在では局所麻酔下による穿頭手術が一般的となっている.しかしながら穿頭手術後の再発率は9.2~26.5%と報告により幅があり2,3,10),血腫腔の洗浄方法やドレナージ手技の差が再発率の差を生んでいる可能性がある.また,再発率に関与する因子としては,高齢者2)や術前に神経脱落症状が強いもの1),血腫量が多いもの15),抗血栓療法中の患者7),血腫がCTで高吸収を示すもの11),術後の残存空気量が多い例8)などは再発率が高いと言われているが,報告によってばらつきがありしばしば議論の的となる.高齢者ゆえに他の疾患を合併している症例が多いなど患者背景が多様であるため,母集団に含まれるさまざまな因子の違いにより統計学的分析の結果に差が出るのではないかと推測される.

 一方で,この疾患は手術方法や術後管理も比較的単純であるため,手技を統一すれば手術者によるばらつきが少なく,治療成績を後ろ向きに検討することは難しくはない.本研究では,当院で穿頭手術,すなわち慢性硬膜下血腫穿頭洗浄術を行った239例を後ろ向きに検討し,血腫の再発率に関わる因子を単変量解析と多変量解析の両者を用いた統計学的手法にて分析した.

腰仙椎単根障害例からみた疼痛・しびれ範囲の検討

著者: 倉石慶太 ,   花北順哉 ,   高橋敏行 ,   南学 ,   渡辺水樹 ,   上坂十四夫 ,   本多文昭

ページ範囲:P.877 - P.885

Ⅰ.諸言

 神経学的診断において疼痛・しびれの領域は最も重要な要素である.過去に報告された皮膚髄節の図譜は作成方法が異なり,かなりのバリエーションがある1-6,11,15,16,18,19).今回,われわれは臨床・画像所見から腰仙椎単根障害と考えられ,手術にて圧迫を確認し,さらに除圧にて改善を確認できた症例の痛み・しびれ領域を前向きに調査し,文献的考察と併せて検討した.

症例

術後過灌流症候群を来した出血発症の円蓋部硬膜動静脈瘻(Cognard typeⅣ)の1例

著者: 阿部英治 ,   田島篤 ,   中野俊久 ,   藤木稔 ,   古林秀則

ページ範囲:P.887 - P.894

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の外科的治療の適応は,脳皮質静脈への逆流を伴う症候性例で孤立した静脈洞にシャントがある場合,シャント血流が静脈洞への流出がなく直接脳表静脈に逆流している場合や根治的血管内治療が困難な場合である.

 われわれは出血発症の左後頭葉円蓋部硬膜動静脈瘻に対し手術を施行したが,術後過灌流症候群を認めたため,文献学的考察を加え報告する.

Long-standing overt ventriculomegaly in adults(LOVA)に続発した髄液鼻漏の1例

著者: 吉村政樹 ,   松阪康弘 ,   寺田愛子 ,   石黒友也 ,   中島英樹 ,   山中一浩 ,   岩井謙育 ,   小宮山雅樹 ,   坂本博昭

ページ範囲:P.897 - P.902

Ⅰ.はじめに

 中脳水道狭窄症による水頭症において,慢性の頭蓋内圧亢進によって頭蓋底部の骨・硬膜に菲薄化が生じ,髄液漏を来すことが稀にあるが1-8,11,13),髄液が漏れることにより頭蓋内圧が下がるため,頭蓋内圧亢進に対する代償機転として働き,発見が遅れるとされる.この病態に対する治療には種々の報告があるが,シャント手術だけでは術後に気脳症を来すことがあり3,4,6),髄液漏根治術を追加する場合が多い.今回われわれは,2年間にわたる髄液鼻漏を契機に発見された,long-standing overt ventriculomegaly in adults(LOVA)に伴う非外傷性髄液鼻漏の症例に対して,脳室ドレナージおよび髄液漏根治術を行った後に,内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)を行い,良好な結果を得たので経過を報告する.

Pterional approachの際に生じたtrigeminocardiac reflexの1例

著者: 北林麻由美 ,   中村一仁 ,   村田高穂

ページ範囲:P.903 - P.907

Ⅰ.はじめに

 術中に心静止を来す例はときにあるが,短時間の一時的な心静止の場合,その原因が判明しないまま手術が続行または中止されることがある.今回われわれはpterional approachを行う際の前頭側頭開頭において,硬膜操作時に限り3回にわたり心静止を来した症例を経験した.その再現性と解剖学的特徴からtrigeminocardiac reflex(TCR)が心静止の原因であると判明した.TCRは後頭蓋窩手術での報告が散見されるが,pterional approachでの報告はない.TCRについて述べるとともに,本症例での発生事由について考察する.

書評

ボツリヌス療法アトラス―Wolfgang Jost:著,梶 龍兒:監訳

著者: 有村公良

ページ範囲:P.895 - P.895

●実地で手元に置いて利用できる実用的な教科書

 日本のボツリヌス治療の草分けであり,第一人者である徳島大学臨床神経科学分野教授の梶龍兒先生の監訳による『ボツリヌス療法アトラス』が発刊された.ボツリヌス療法の実地臨床に役立つ待望の書の登場である.

 これまで数多くのボツリヌス療法の解説書が出版されたが,その内容は対象疾患の解説,ボツリヌストキシンの作用機序・投与法・効果,および予後まで幅広くボツリヌス療法に対する基礎知識を述べたものが中心であった.本書の特徴は『ボツリヌス療法アトラス』というその名の通り,ボツリヌス療法を行う実地の場で,手元に置きながら利用できる,まさに実用的な教科書である.

連載 脳神経血管内治療医に必要な知識

(2)機能的血管解剖・神経放射線診断

著者: 後藤正憲

ページ範囲:P.909 - P.920

Ⅰ.はじめに

 脳神経血管内治療においては,治療デバイスや診断機器の進歩に伴い,複雑な症例を扱う機会も増えている.そのため,血管解剖の理解や種々の検査による,病態把握や治療戦略がより重要となっている.今回は,機能的血管解剖と神経放射線診断について述べる.

合併症のシステマティック・レビュー─適切なInformed Consentのために

(4)髄液シャント手術

著者: 伊東雅基 ,   寳金清博 ,   斎藤久泰 ,   新保大輔 ,   茂木洋晃 ,   川堀真人 ,   宮本倫行 ,   山内朋裕

ページ範囲:P.923 - P.945

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科手術合併症のシステマティック・レビューシリーズの第4回目として,髄液シャント手術に伴う合併症の文献レビューを行った.これまでの3回のシリーズでも述べられてきたように,手術合併症に関する知識は実際の手術現場において,極めて実用的で重要である99,120,226).起こり得る合併症を知り,それを未然に防ぐための手術戦略を構築することは,手術手技・技術の向上とならんで,手術による疾病の治療成績を向上させるために必要な条件の1つである98).医療者側にとって,合併症の知識やそれを予見する能力は,合併症が予測される場合や実際に起こった後の適切で効率的な対処を可能とする.その結果として,合併症の発生頻度や程度を最小限に抑え,治療効果・成績の向上につながる.患者側にとっては,これから受けようとする手術で起こり得る合併症とその頻度に関する正確な情報は,意志決定に有用である.

 本シリーズの目的は,informed consentの際に有用となる合併症に関する知識を体系的に整理して提供することにある98,99,145).本論文では,髄液シャント手術における手術合併症の種類を稀なものまで含めてレビューし,合併症の具体的な内容とまとまった報告を集積し,水頭症シャント手術による合併症を総合的に把握した.詳細な方法は後述するが,PubMedを用いて,髄液シャント手術の合併症に関する記述のある論文を検索した結果,500を超える論文が抽出された.これらの論文では水頭症以外にpseudotumor cerebri(benign intracranial hypertension)・cerebrospinal fluid leak・growing skull fractureなども対象疾患に含まれていた.したがって,今回の合併症レビューシリーズのタイトルは,髄液シャント手術の合併症とした.

 予想されたことではあるが,合併症の定義や対象症例・髄液シャント手術後の追跡期間はすべての論文でばらつきがあり,髄液シャント手術の合併症内容と頻度の整理は困難を極めた.そのような状況ではあるが,髄液シャント手術の合併症を稀な合併症も含めて可能な限り広く抽出し,まとまった報告があればその頻度を明らかにしたいという目的に沿うよう,可能な限り系統的に整理した.

 重ねて強調するが,本論文に記載されている合併症の頻度は,あくまで筆者らが適切と判断した論文の総合的な解析に基づく数値であり,個々の疾患,個々の施設,個々の術者とそのまま比較可能な合併症頻度ではない.あくまで髄液シャント手術の合併症に関する知識の整理・共有を目的としたものであり,その知識を基に患者への適切な説明がなされ,よりレベルの高い手術治療が提供され,より有効な治療成果につなげる一助になることが本論文の目的である.

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欧文目次

ページ範囲:P.855 - P.855

お知らせ

ページ範囲:P.885 - P.885

お知らせ

ページ範囲:P.894 - P.894

お知らせ

ページ範囲:P.895 - P.895

文献抄録 Detection of modern spinal implants by airport metal detectors

著者: 青山剛

ページ範囲:P.947 - P.947

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.948 - P.948

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.949 - P.950

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.951 - P.951

次号予告

ページ範囲:P.953 - P.953

編集後記

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.954 - P.954

 扉「“卒前医学教育”はこのままでいいのか?」では,大阪医科大学の太田富雄名誉教授が現在の卒前医学教育のあり方を危惧し,警鐘を鳴らし,1つの斬新で大胆な方法を提唱している.私も,同様に卒前医学教育のあり方に疑問と不満を持っている.現在の医学教育は,医師国家試験合格を主たる目的とし,受験予備校化してしまっている印象が強い.しかし,よい解決法が思いつかず忸怩たる気持ちでいる.こうした状況を社会に対して積極的に情報発信するとともに,医学部教官ならびに医学生がともに大胆な意識改革をしない限り,良い変革はできないのではないだろうか.

 総説では,近年新しい展開をみせているMRI撮像法として,磁化率強調画像,拡散テンソル画像,arterial spin labeling,black-blood imagingがわかりやすく解説されており,知識の整理に有益であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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