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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻11号

2012年11月発行

雑誌目次

超高齢化社会における脳神経外科医

著者: 中村博彦

ページ範囲:P.957 - P.958

 政治がどのように変化していくのかは皆目見当がつきませんが,近い将来日本では確実に超高齢化社会が到来します.最近の新聞記事によると,65歳以上の高齢者人口が総人口の23.3%(2,975万人)に達し(2011年10月1日時点),団塊の世代が65歳以上になる2015年には3,395万人になって,2042年まで増え続けると予想しています.後期高齢者は既に1,471万人(11.5%)で,100歳以上も4万7千人と決して珍しくはなくなりました.平均寿命は経済情勢から考えると頭打ちになるかもしれませんが,高齢者の平均余命は確実に増加し,医療機関と関わる機会の多い75歳以上の後期高齢者がさらに高い比率で増え続けます.

 今から35年前になりますが,私が脳神経外科医として働きはじめた頃は,70歳以上のくも膜下出血患者さんに急性期で手術を行うと,とんでもないことをすると人非人のように責める方々がいました.現在では,高齢者のくも膜下出血の患者さんにクリッピング手術を行っても,どなたも「手術適応がない」などととがめたりはしないでしょう.患者さんが肉体的に若くなったのと同時に,高齢者に対する麻酔法や術後管理,手術機器や手術技術の進歩により,手術が安全に確実に行えるようになったからです.コイルによる血管内手術が可能であれば,もっと治療に対する抵抗感が少ないはずです.

総説

特発性正常圧水頭症

著者: 新井一 ,   宮嶋雅一 ,   中島円

ページ範囲:P.959 - P.965

Ⅰ.はじめに

 人口の高齢化が進む本邦においては,アルツハイマー病などの認知症患者の数は年々増加しており,介護にたずさわる患者家族の身体的・経済的負担,さらには介護保険などの社会が負うべき責任の増大が大きな問題となってきている.一方で,認知症と診断された患者のなかに,外科的治療によって症状の改善をみる一群の疾患があることが知られている.これらの疾患のうち,最近“治療可能な認知症”として注目されているのが特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)である.“治療可能な認知症”との文言が若干強調され過ぎの感は否めないが,本疾患を的確に診断・治療することにより,上述の患者家族ならびに社会の負担を軽減することが可能になるものと期待されている.

研究

五苓散とトランサミンの併用による慢性硬膜下血腫の再発抑制効果

著者: 若林礼浩 ,   山下正憲 ,   浅野智重 ,   山田昭 ,   祁内博行 ,   近藤やよい ,   堀雄三 ,   永冨裕文

ページ範囲:P.967 - P.971

Ⅰ.目的

 慢性硬膜下血腫は,近年の急速な高齢者の増加に伴い,発生頻度が増加している4).高齢化に伴い,全身合併症,特に心血管系の合併症を伴っていることが多く,抗血小板療法や抗凝固療法中に発症する頻度も5~41%と報告されている1,2,6).治療法は穿頭ドレナージ術が確立されているが,その再発率は約10%と比較的高い1,6).五苓散は近年,慢性硬膜下血腫の治療に効果を挙げているが5,7),単独使用では血腫増大を防げない症例もある.そこでわれわれの施設では,以前から止血剤および抗炎症剤として用いられているトランサミンを単独あるいは五苓散との併用で慢性硬膜下血腫症例に使用してきた.今回われわれは,慢性硬膜下血腫の術後に五苓散やトランサミンを投与し,その再発率を低下させることができるのか検討を行った.

症例

ガンマナイフ後に増大した甲状腺乳頭癌脳深部転移の1例

著者: 黒川泰玄 ,   井川房夫 ,   浜崎理 ,   日高敏和 ,   築家秀和 ,   大沼秀行

ページ範囲:P.973 - P.977

Ⅰ.はじめに

 甲状腺乳頭癌(thyroid papillary carcinoma:TPC)は比較的予後のよい癌で,他臓器転移は少ない.転移する部位は,主に肺や骨が多く,脳への転移は,0.1~5%と少ない3,6,7,13)

 今回われわれは,大脳深部のTPC脳転移に対するガンマナイフ照射後,腫瘍が増大し,CTと駒井式フレームを用いて定位的手技を利用して腫瘍摘出術を行った1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

経眼窩的に小脳および側頭葉下面に穿通した篠竹を30年後に摘出した1例

著者: 黒見洋介 ,   佐藤拓 ,   安藤等 ,   松本由香 ,   織田惠子 ,   伊藤英治 ,   市川優寛 ,   渡邉督 ,   佐久間潤 ,   齋藤清

ページ範囲:P.979 - P.983

Ⅰ.はじめに

 経眼窩的に小脳や側頭葉下面に刺入し,脳膿瘍を繰り返した篠竹を,30年後にzygomatic osteotomyとanterior petrosal approachを併用し,海綿静脈洞およびテント上下を展開して除去した.シルビウス静脈が翼突静脈叢に流出する症例では,中頭蓋底操作で静脈路を損傷すると合併症を来すと報告されている3).本症例ではこの静脈路が発達しており,遮断の可否の判断も含めて報告する.

右運動前野の脳挫傷後に四肢失行や失語を伴わずに口腔顔面失行を発症した1症例

著者: 新田直樹 ,   椎野顕彦 ,   渡辺俊之 ,   阪上芳男 ,   野崎和彦

ページ範囲:P.985 - P.990

Ⅰ.はじめに

 頭部外傷後に意識が改善し,四肢の明らかな麻痺や失行を認めないにもかかわらず,口腔および顔面の随意運動のみが両側性に障害されることは比較的稀である.このような障害は口腔顔面失行と呼ばれ,右利きの人では,左半球の障害で引き起こされるとされている.今回われわれは,右利きにもかかわらず,右前頭葉弁蓋部と右運動前野の脳挫傷により,失語を伴わずに口腔顔面失行を来した1症例を経験したので報告する.

中心静脈カテーテル抜去後に両側海綿静脈洞の空気塞栓症を来した1例

著者: 山中巧 ,   宮崎裕子 ,   佐藤雅春

ページ範囲:P.991 - P.995

Ⅰ.はじめに

 中心および末梢静脈カテーテルの挿入や抜去に伴い空気塞栓症を来すことがあるが,これは肺塞栓症や心腔内塞栓症,脳塞栓症など致死的な転帰となり得る重要な合併症である.今回われわれは,右内頚静脈経由で留置された中心静脈カテーテルの抜去後に海綿静脈洞内の空気塞栓症を生じ,一過性の意識障害を呈した症例を経験したので報告する.

後硬膜動脈がPICAの側副路となった椎骨解離性動脈瘤の自然閉塞の1例

著者: 荒井篤 ,   宮本宏人 ,   蘆田典明 ,   甲村英二

ページ範囲:P.997 - P.1002

Ⅰ.はじめに

 非出血発症の椎骨動脈解離は,一般に予後がよいために保存的治療が第一選択となる.瘤様拡張部が認められた場合は,より慎重な経過観察が必要で,瘤様拡張部の増大時には出血予防のための手術治療が考慮される.今回われわれは,疼痛発症の後下小脳動脈(PICA)involved typeの椎骨解離性動脈瘤が,後硬膜動脈を側副路としてPICAが温存され,自然閉塞した稀な経時的変化を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳底動脈先端部血栓化動脈瘤に対してYステント併用コイル塞栓術を施行した1例

著者: 大谷理浩 ,   杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   菱川朋人 ,   伊丹尚多 ,   平松匡文 ,   大熊佑 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1005 - P.1012

Ⅰ.はじめに

 脳底動脈先端部血栓化動脈瘤はwide-neckや巨大なものが多く,治療困難なことが知られている.今回,くも膜下出血で発症した本動脈瘤に対してYステント併用コイル塞栓術を施行した1例を経験したので報告する.

血管内手術および直達手術で治療した幼児横静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 新妻邦泰 ,   坂田洋之 ,   小山新弥 ,   昆博之 ,   長南雅志 ,   佐々木達也 ,   西嶌美知春 ,   江面正幸 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.1015 - P.1020

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻は成人に多い疾患であり,72%が40~60歳代に発症する9).小児硬膜動静脈瘻は稀な疾患であるが,その原因としては遺伝的要因や出産時外傷が挙げられている8).予後不良な疾患であり,血管撮影上での治癒が得られるものは9%にとどまり,死亡率も38%と高い8).したがって,神経症状の安定化や悪化の防止が治療の主目標となる場合が多い.今回われわれは,血管内手術および直達手術で根治した幼児横静脈洞部硬膜動静脈瘻の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(4)再発傍矢状洞髄膜腫に対する放射線治療後に著明な浮腫を生じ減圧術を余儀なくされた1例

著者: 秋山武紀 ,   𠮷田一成

ページ範囲:P.1021 - P.1025

Ⅰ.経験症例

1.症例

 56歳女性.けいれん発作と腫瘍残存を主訴に加療を希望して当院を受診した.5カ月前に他院で右傍矢状洞髄膜腫に対し,摘出術が行われている.上矢状洞が開存していたため,同部の腫瘍は残存する結果となっていた.病理学的にはmeningioma,WHO gradeⅠとのことであった.初回術後4カ月の時点(Fig. 1A)で腫瘍の再増大とそれに伴う脳浮腫を認めていた.初診時に左下肢の不全麻痺,および週に1回程度の左下肢から始まる部分けいれんを認めていた.

脳神経血管内治療医に必要な知識

(3)周術期管理,BOT(閉塞試験),誘発試験,システムセットアップについて

著者: 鶴田和太郎 ,   松丸祐司

ページ範囲:P.1027 - P.1037

Ⅰ.はじめに

 脳血管内治療は低侵襲治療としてその適応を拡大しつつある.しかし治療が無事終了しても,術後に思わぬ合併症で悪化することもあり,周術期管理は重要である.脳血管内治療に共通する特有の問題として,穿刺部合併症,抗血栓療法の併用,造影剤の使用がある.また未破裂脳動脈瘤患者には合併する疾患はほとんどないが,頚動脈ステント患者は,冠動脈疾患をはじめさまざまな動脈硬化性疾患を合併していることが多く,注意が必要である.本稿では,脳血管内治療の周術期管理において重要と思われる事項,および治療頻度が高い頚動脈ステントと未破裂脳動脈瘤の周術期管理の実際について概説する.

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欧文目次

ページ範囲:P.955 - P.955

お知らせ

ページ範囲:P.990 - P.990

お知らせ

ページ範囲:P.990 - P.990

ご案内 第2回都医学研シンポジウム 脳神経疾患の臨床・研究の拠点形成による医療イノベーション

ページ範囲:P.995 - P.995

趣  旨

 本シンポジウムでは,全国規模で行われているプリオン病の調査研究,アルツハイマー病の疾患修飾療法の開発へ向けた大規模な臨床研究に加えて,主に都立病院との連携を視野に入れた非アルツハイマー病(前頭側頭葉変性症),脳腫瘍,および難治性てんかんにフォーカスを当てた病態解明の研究,診断・治療のデータベース構築とその応用について紹介します.

 

日  時 2012年11月28日(水)13:30~16:15

場  所 津田ホール(JR総武線千駄ヶ谷駅)

お知らせ

ページ範囲:P.1012 - P.1012

お知らせ

ページ範囲:P.1026 - P.1026

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.1037 - P.1037

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.1040 - P.1040

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.1041 - P.1042

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1043 - P.1043

次号予告

ページ範囲:P.1045 - P.1045

編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.1046 - P.1046

 本号の扉で中村博彦先生が,「超高齢化社会における脳神経外科医」について書いておられる.興味深く拝読した.すでに地方は超高齢化社会の中にある.地方の関連病院では,入院患者の多くが70歳代,80歳代,90歳代であり,外来患者も60歳代であればとても若く感じるほどである.30年前,80歳以上でSAHの開頭手術をするのは論外であったと思う.80歳代のSAH患者など本当に珍しかったので,適応なしでも支障はなかった.現在,超高齢者に対する手術適応は“済し崩し”に広がっている.中村先生が指摘するように,社会環境も変化したし,高齢者自身も変化したかもしれない.若・壮年であれば,救命を大義に医療者も家族も迷いなく手術を考えるが,超高齢者のような適応の辺縁では,医療者・家族ともにさまざまな事情,思惑の入り込む余地があるのも事実である.

 もう一度超高齢者の脳神経外科医療に正対すべきであると思う.非高齢者SAHの術後成績を見れば,通常術前重症度グレードの悪化に従って予後不良群は,階段を上るように増えてくる.しかし高齢者群では,はじめからもう1段高い階段を上るように,予後不良群が増えてくる.このはじめからの1段は,縮小の余地があるのか,あるいは高齢者とはそのようなものとして受け入れなければならないのか.いずれ通常の治療の対象の多くが高齢者・超高齢者となってくることを覚悟しなければならない.超高齢者をどこまで手術するかを再考してもよい時期にきていると思う.手前味噌になるが,来年3月に東京で開催される日本脳卒中の外科学会では,80歳代のSAHをどうするかをテーマにシンポジウムを組んだ.ご議論いただければ幸いである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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