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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻4号

2012年04月発行

雑誌目次

若い眼からのキャリアパス作り

著者: 加藤庸子

ページ範囲:P.295 - P.296

 このところ中学生,高校生やその父兄に話をする機会が増えてきました.

 先日,大手の予備校が初の試みとして,「未来発見フォーラム」と題したセミナーを開催し,私も講師として招かれました.文系,理系,宇宙学,遺伝子から再生医療に至るまで,さまざまな領域の第一線の講師を集め,子どもたちに自分の将来について考える機会を提供するという趣旨でした.部屋に入ると,お母さんや仲間と一緒に来た可愛らしい中学生,高校生の一群,中学,高校の先生など,驚くほど幅広い年代層や職種の方が座っておられました.最近では,同窓会の講演会の席でも同様の現象に遭遇し,およそわれわれの時代からは考えられないほど,若いうちから人生,将来について設計していこうという風潮が広がっていることを痛感しております.参加していた女子中学生に,この会にどうして来たかと聞くと,自分の将来のロールモデル探しとか,脳神経外科の真髄が知りたかったなど,中学生からこのような答えが出てくるとは正直期待していませんでした.真っ黒に日焼けし,地区の水泳大会で優勝することしか考えていなかった自分の中学時代を思い起こしてみますと,大きなギャップを感じずにはいられませんでした.

総説

IDH遺伝子異常と脳腫瘍に関して

著者: 園田順彦 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.297 - P.306

Ⅰ.はじめに

 神経膠腫の発生に関与する遺伝子異常としては,古くはepidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子の増幅あるいは変異,p53遺伝子異常,p16遺伝子のホモ欠失,PTEN遺伝子の異常,染色体1番短腕,19番長腕の共欠失(1p19q codeletion)などが報告されている.これらの遺伝子異常の頻度は神経膠腫の組織型,悪性度と相関しており,これをもとに膠芽腫(glioblastoma)の発生モデルが提唱され,今日に至っている(Fig. 1).近年,欧米のグループによるgenome wide mutational analysisは多数例の膠芽腫DNAを網羅的にスクリーニングすることで,未知の膠芽腫発生に関与する遺伝子を発見しようという試みである.本プロジェクトにより多くの新しい知見がもたらされたが,その中で最も重要な発見の1つにイソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(isocitrate dehydrogenase(IDH)遺伝子)の変異が挙げられる.この遺伝子異常は,膠芽腫の中で特に続発性膠芽腫(secondary glioblastoma)において高頻度に認められた23).本稿ではIDH遺伝子変異による機能異常,神経膠腫発生に関わるIDH遺伝子異常の役割を中心に最新の知見を紹介する.

研究

頚動脈内膜剝離術におけるICG螢光血管撮影の有用性(第2報):FLOW800システムを用いた偽閉塞・高度狭窄例の検討

著者: 大川将和 ,   安部洋 ,   緒方利安 ,   野中将 ,   上羽哲也 ,   東登志夫 ,   井上亨

ページ範囲:P.309 - P.317

Ⅰ.はじめに

 ICG螢光血管撮影(indocyanine green videoangiography:ICG-VA)は脳血管障害の分野で広く普及しつつあり,ますます重要性が増してきている.Carl Zeiss社の顕微鏡OPMI® Pentero INFRARED 800で撮影したICG-VAのデータの経時的輝度解析が可能となるFLOW800システムが開発され,われわれの施設にも導入された.以前われわれは頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA) におけるICG-VAの有用性を報告した7)が,このシステムを偽閉塞を含む高度狭窄症例に用いて新たな知見を得たので報告する.

テクニカル・ノート

腰椎椎間孔部病変の手術方法

著者: 竹内幹伸 ,   安田宗義 ,   島浩史 ,   船井三規子 ,   大須賀浩二 ,   高安正和

ページ範囲:P.319 - P.323

Ⅰ.はじめに

 椎間孔部狭窄の概念は,1976年にArnoldi 1)らが初めて外側型狭窄として報告した.また,1981年にBurton 3)らは,この病態はfailed back surgeryの約60%を占め,術後成績不良の要因になると報告した.近年,MRI,CTなどの画像診断の普及によりさまざまな診断方法が確立したが,治療方法,特に手術方法に関しては,罹患椎体固定術5)か,単独除圧術9)のみかについてのコンセンサスはない.われわれは,久野木の分類8)に従って,椎間孔部狭窄と診断した症例について,当科での手術方法(顕微鏡的単独除圧術)を示すとともに,術後臨床評価についても報告する.

脳卒中後疼痛に対する8極リードを用いたdual lead SCSの経験

著者: 種井隆文 ,   中原紀元 ,   竹林成典 ,   平野雅規 ,   梶田泰一 ,   若林俊彦

ページ範囲:P.325 - P.329

Ⅰ.はじめに

 脳卒中後疼痛(central post-stroke pain:CPSP)は,脳卒中を原因とする中枢性神経障害性疼痛に分類される.薬剤抵抗性の疼痛であり,外科的治療も視野に入れて治療に当たる必要がある.CPSPに対して運動野刺激術(motor cortex stimulation:MCS) の有効性が報告されているが7,11,12,14),近年,機器の進歩に伴い脊髄刺激術(spinal cord stimulation:SCS)の有効性が示唆されている1).SCSは経皮的に脊髄硬膜外腔へ刺激電極を挿入できるため,MCSと比べ侵襲度が低いことが大きな特徴である.今回,CPSPに対して8極電極を用いたdual lead SCSの有効性を検討したので報告する.

症例

PICA原発の紡錘状動脈瘤に対し血行再建術を併用し治療が奏功した4例

著者: 乙供大樹 ,   川島明次 ,   山口浩司 ,   高須雄一 ,   小林智範 ,   岡田芳和

ページ範囲:P.331 - P.336

Ⅰ.はじめに

 Posterior inferior cerebellar artery(PICA)原発の動脈瘤は全動脈瘤中0.28~1.4%と非常に稀なものであり,このうち紡錘状動脈瘤の割合は7.4~22%といわれている3,5,11,12)

 根治的治療法としては,瘤を含めたPICAの閉塞が必要であるが,脳幹部への穿通枝やPICA本幹の血流が遮断され,脳幹部やPICA領域に脳梗塞の出現6)が懸念される.一方で,PICAは側副血行路が豊富であり,PICAを遮断したとしても問題を認めなかったという報告もある14).しかしながら,PICA閉塞に伴う血行再建術の必要性の有無を術前に完璧に予測することは困難である.

 今回われわれは,PICA proximal(anterior medullary segment, lateral medullary segment)に局在するPICA原発の動脈瘤を4例経験した.これらに対し血行再建術を併用し,治療が奏功したので文献的考察を加え報告する.

NMO spectrum disorderの1例

著者: 光山哲滝 ,   米山琢 ,   鈴木咲樹子 ,   加川瑞夫 ,   川俣貴一

ページ範囲:P.337 - P.342

Ⅰ.はじめに

 視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は視神経と脊髄を首座とする炎症性疾患であり,アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)に対する抗体が高頻度に認められ,3椎体以上の長大な脊髄病巣を特徴とする1,2,9,10).視神経病変のない抗AQP4抗体陽性の脊髄病変単独例は,NMO spectrum disorder(NMOSD)と定義され,NMOと同じ病態を有する疾患として治療を行う2,5,10)

 今回われわれは,四肢不全麻痺で発症し,変形性頚椎症と脳梗塞を合併し,診断に難渋したNMOSDの1例を経験した.脊髄疾患の治療を行う際に銘記すべき疾患の1つであると考えられたので,文献的考察とともに報告する.

類上皮腫に合併した乳癌治療後27年で発症した癌性髄膜炎の1例

著者: 田島洋佑 ,   堀口健太郎 ,   中野茂樹 ,   廣野誠一郎 ,   樋口佳則 ,   大出貴士 ,   岩立康男 ,   佐伯直勝

ページ範囲:P.343 - P.349

Ⅰ.はじめに

 乳癌は転移性脳腫瘍を来す頻度が高く,特に癌性髄膜炎,髄膜播種の頻度は他の癌腫に比較し高い12).乳癌治療後,頭蓋内病変を来すまでの期間は比較的長いものの,長期間再発所見がなく癌性髄膜炎を呈する例は極めて稀である.

 良性腫瘍である類上皮腫は自然破裂によるchemical meningitisを来すことがある16).今回われわれは,髄膜炎症状を呈した症例で,この2つの病態が存在したため,確定診断に苦慮した症例を経験したので報告する.

胸髄硬膜内血管周皮腫の1例

著者: 鳥越恵一朗 ,   赤井卓也 ,   飯田隆昭 ,   白神俊祐 ,   笹川泰生 ,   立花修 ,   飯塚秀明

ページ範囲:P.351 - P.357

Ⅰ.はじめに

 血管周皮腫は,1942年にStout,Murrayにより初めて報告された発生起源の不明な腫瘍である16).本腫瘍は,血管に富み,急速に増大する特徴があり,中枢神経系に発生した場合では,肺や骨などの頭蓋外への転移も報告されている悪性腫瘍である.頭蓋内原発腫瘍の1%の頻度で発生するが10),脊椎・脊髄における硬膜内血管周皮腫の報告は少なく,その多くは脊椎を含む硬膜外発生例である1,2,4,6,11).われわれは,胸髄硬膜内血管周皮腫の1例を経験したので,これまでの報告例を検討し,その治療上の問題点などを報告する.

頚胸髄軟膜下脂肪腫の1例

著者: 内山拓 ,   岡本浩昌 ,   若宮富浩 ,   坂田修治

ページ範囲:P.359 - P.363

Ⅰ.はじめに

 二分脊椎などの神経管閉鎖異常を伴わない脊髄軟膜下脂肪腫は稀な疾患であり,全脊髄腫瘍の1%以下と報告されている1-5,7).今回われわれは,外科的治療を施行し,歩行障害,感覚障害の改善が得られた頚胸髄軟膜下脂肪腫の1例を経験したため,報告する.

読者からの手紙

「Lumboperitoneal shuntに特有な術後合併症:脊髄側チューブ硬膜貫通部の脇漏れによる硬膜外腔への髄液漏」の論文(39(5):497-504)について

著者: 渡辺新

ページ範囲:P.364 - P.364

 貝嶋光信先生らの「Lumboperitoneal shuntに特有な術後合併症:脊髄側チューブ硬膜貫通部の脇漏れによる硬膜外腔への髄液漏」(No Shinkei Geka 39(5):497-504)を大変興味深く拝読いたしました.本論文でも指摘されているように,特発性正常圧水頭症患者に対して,脳実質への直接的な手術侵襲がないL-P shuntを選択する施設が増えています.

 一方で,特発性低髄液圧症候群(脳脊髄液漏出症)についての知見が増加しています.L-P shuntはある意味で,人工的に脳脊髄液漏出症に近い状態を作っているとも言えると思います.圧可変式バルブによって,術者の意図した圧力に維持されていればよいのですが,本論文の症例のように脇漏れによる脳脊髄液の漏出が起こる症例や,設定圧が低すぎる場合には脳脊髄液漏出症と同様の症状を来す可能性があると考えます.

連載 合併症のシステマティック・レビュー―適切なInformed Consentのために【新連載】

(1)未破裂内頚動脈瘤の外科治療

著者: 寳金清博 ,   伊東雅基 ,   宮本倫行 ,   穂刈正昭 ,   数又研 ,   中山若樹 ,   黒田敏

ページ範囲:P.365 - P.375

Ⅰ.はじめに

 今回,合併症のシステマティック・レビューを行うにあたって,試みにデータベースから代表的な脳神経外科手術に伴う合併症を抽出した.予想していたが,日常的に遭遇する合併症に関して,信頼に足る報告はほとんどなかった.例えば,内頚動脈─後交通動脈分岐部の動脈瘤に対するクリッピング術の際にみられる動眼神経麻痺は,それほど稀ではないと想像されるが,2000年以降のすべての論文を渉猟しても,系統的な調査は1編も存在しなかった.あるいは,半球間裂アプローチによる前交通動脈瘤の際の嗅神経障害や感染症に関しても,信頼に足る頻度に言及した研究をみつけることができなかった.

 一般に,合併症に関する論文は少ない.学会発表や学術雑誌などでは,合併症などの負の記録を系統的に記載した報告はそれほど多くなく,成功例などの正の記録が重視される.学問の発展は,成功例という正の記録の点と点を連結して,理論の確立とその検証を行うほうが,実用的で,スピードが速いことを私たちは経験的に知っている.医学は,「健康の増進と疾病の予防,治療」というわかりやすいゴールドスタンダードがあり,成功体験を重視する医学や社会の要請に即時性をもって的確に応えるためには,やむを得なかったという社会的要因もある.p<0.05のポジティブデータという 「点」 を線で結んできたのが,現代の医学・脳神経外科である.特に,evidence based medicine(EBM)が確立された1960年代以降は,そのスピードに拍車がかかると同時に,一方で,外科的な手技に伴う合併症の研究は,EBMが成り立ちにくいこともあり,むしろ停滞した印象がある.こうした条件の下で,合併症を系統的に検索することは容易ではない.

 しかし,合併症に関する知識は,実際の臨床現場では,正の記録として教科書や論文に記載されてきた事実以上に,極めて実用的で実際的な知識である.また,何より,患者への正しいinformed consentにとって必須の情報を与えてくれる.

 今後,隔月で連載される本シリーズには,このような背景があることを読者の方々にはぜひご理解いただきたい.

 また,重ねて言うまでもないが,本シリーズの利用の最大の目的は,患者への適切なinformed consentを行うデータベースを提供することにある.合併症というものは,頻度の高いものから極めて稀なものまでさまざまであり,個人的な経験だけでは,全貌を把握することはできない.思いがけない合併症も,実は,その多くは既に報告されており,これに関する知識をもつことが,良質な日常診療にとって必須のことである.

 重ねて言うが,本論文は,あくまで,信頼できる論文の総合的な解析に基づいたものであり,個々の症例,個々の施設,個々の術者にとって,適応されるものではない.必要に応じて,referenceとして活用していただきたい.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.293 - P.293

お知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.336 - P.336

ご案内 第19回 日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.357 - P.357

会  期 2012年9月14日(金)・15日(土)

会  長 末綱 太(八戸市立市民病院整形外科)

会  場 グランドサンピア八戸

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.383 - P.383

編集後記 フリーアクセス

著者: 宮本享

ページ範囲:P.384 - P.384

 本号にも毎号と同じように,加藤庸子先生からの扉,園田順彦先生のIDH遺伝子異常に関する総説,寳金清博先生による合併症についてのシステマティックレビュー,ICG螢光血管撮影の知見に関するoriginal article,腰椎椎間孔部病変への手術,脳卒中後疼痛に対するdual lead SCSに関するtechnical note,そして5編の症例報告など,多彩な内容が盛り込まれている.

 さて,私事で恐縮ではあるが,日本脳神経外科学会の機関誌である「Neurologia medico-chirurgica(NMC)」の編集委員長に昨年就任するにあたり,その創刊号に掲載されていた中田瑞穂先生と荒木千里先生のご寄稿を拝読した.そこには学会創立当初は本誌「脳神経外科」,「脳と神経」などの出版医学雑誌の力を借りていたが,漸く機関誌の創刊にこぎつけたという喜びが記されており,本誌が本邦の脳神経外科の発展に大きな貢献をしてきたことを再認識した.私も医師になって以来,毎月本誌に注目してきた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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