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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻5号

2012年05月発行

文献概要

驕りと誇り

著者: 田口芳雄1

所属機関: 1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院脳神経外科

ページ範囲:P.387 - P.388

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 2008年度診療報酬改定の影響を調査した日本病院会などの4病協は,2008年末に共同で次のような声明を厚生労働省保険局長に提出した.声明では「20年余にわたる医療費削減と,医師養成の抑制策による医師不足の結果,医療崩壊が現実のものとなってきている.各病院団体の調査結果を見る限り,2008年度改定は医療崩壊を食い止めることは全く期待できず,わが国の医療は今後も確実に崩壊していくことが予想される」ことから,総括として診療報酬の早期引き上げが必要であることを強く訴えたのである.その結果,2010年度改定は病院にとって追い風となった.看護基本料や難易度の高い手術に高い診療報酬が設定され,経営月次表には,それまで目にしたことのないような数値が踊り始めたのである.都内の特定機能病院などは前年度比10%アップが当然のように報道された.しかし,相変わらず,医師不足は解消されない.これはなぜだろうか.

 問題解決のためには,なぜ,どこに医師不足が起こったのかを検証する必要がある.原因は,労働条件や対価の低さ,患者期待権と権利意識の増大,それに伴う医療訴訟や院内暴力の増加,初期臨床研修発足に伴う医師の偏在など,多数の要因が負の連鎖を形成しているのであろう.いずれにせよ病院勤務の医師が激減していることは周知の通りである.そもそも,医師の絶対数は不足しているのである.遅ればせながら,2009年度から医学部入学定員が増えたが,この増員分が医師として活躍するのは少なく見積もっても10年後である.この頃になれば,団塊の世代が後期高齢者目前となるので,さらに多くの医師が必要になるに違いない.わが国と医療制度の類似しているヨーロッパの国々と同等の医師数を得るためには,単純計算しても年間4,000人の医学部定員増が必要といわれる.これが現実的数値でないことは,医学部教員ならば誰がみても明らかである.臨床系教員は未だ定員増の影響を受けていないと思われるが,ただでさえ人員不足に喘いでいる基礎系教員は,年間10人の定員増に辛うじて対応している.このうえ地域枠などが適用されれば,多くの医学部で基礎研究は成り立たず,危機的状況に拍車をかけることになろう.医学部新設などという考えは論外で,まったく門外漢の戯言といえる.診療報酬をさらに引き上げれば,一時的に医師を病院に引き留めることはできるかもしれない.しかしながら,中長期的展望は開けてこない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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