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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻6号

2012年06月発行

雑誌目次

さまざまな評価

著者: 桐野高明

ページ範囲:P.479 - P.480

 一般的に言って,ある存在の社会からの評価は一斉に大きく動くことが多い.それまでは社会が高い評価を与え,尊敬の対象でさえあったものが,急激に低い評価になり,ともかく全部よろしくないという雰囲気に満ち溢れるという具合だ.例えば,高度成長期には日本の政治は二流・三流にしか過ぎないが,わが国には優秀な官僚がいて,国を立派に運営してくれるというような考え方が広く流布していた.しかし,最近の官僚に対する批判は,仮にそれぞれの根拠があってのことであったとしても,その変わりように驚くばかりだ.医療に対する評価も,大きく動いた1つだろう.私が1972年に大学を卒業して研修医になった頃は,どう考えても現在よりかなり治療成績が悪く,期待外れに終わる率もずっと高かったと思うが,それでも医療は信頼され,医師は尊敬されていたように思う.ところが,世界的な消費者運動の進展や個人の権利意識の高まりもあって,だんだん昔の権威主義的な医師のあり方が嫌悪されるようになってきた.そして1999年に患者取り違え事件を含む重大な医療事故が続き,医療に対する信頼は地に落ちた.医師は信頼されないどころか,常に疑いの目で見られるようになった.日本の医療は非常に問題があるという雰囲気が満ち溢れていた.その流れは大づかみに言うと,福島県立大野病院事件 (出血多量で妊婦が出産後に死亡し,その約1年後に産科医が逮捕された事件)で,担当した医師に最終的に無罪判決が下される2008年頃まで続いた.そして,やっとこの頃になって,医療には不確実性があり,医師だけを攻撃することはかえって問題であることをマスメディアが認識しはじめた.また,医師に対する不当な報道の勢いはようやく収まってきた.

 しかし,このように医療に対する非難ともいえる言説が広く流布していた1999年頃から,世界的には日本の医療がそれほど悪いものではないという証拠が何度も繰り返し流されていたのだ.2000年のWHO World Health Reportでは,健康の到達度と公平性,人権の尊重などの項目の総合点で,わが国は加盟191カ国中1位と評価された.2008年に米国の医療経済・政策専門誌「Health Affairs」は先進19カ国を対象に行った「回避可能な死に関する調査結果」を掲載した.それによると,1位はフランス,2位は日本で,米国は最下位と評価された.その後,2009年にカナダの非営利調査機関The Conference Board of Canadaは先進諸国の医療制度ランキングを発表し,日本は16カ国中で1位,米国は最下位となった.2010年に「Newsweek」は国別ランキングの記事を掲載し,その中で医療部門では日本を1位とした.2011年Lancet誌は日本の保険医療制度を高く評価し,皆保険制度50周年を期して特集を刊行した.筆者が知っている限りでも,これくらいは簡単に列挙できる.詳しく精査すれば,他にも例があるだろう.もっと多くの日本を高く評価する記事があったに違いない.日本国内と諸外国でのこのような見解の相違には驚くばかりだ.

総説

膠芽腫に対する血管新生抑制療法のトピックス

著者: 高野晋吾 ,   松村明

ページ範囲:P.481 - P.502

Ⅰ.はじめに

 腫瘍は直径が2mmを超えると血液の需要が急激に高まり,腫瘍増殖はlatent phase(潜在期)からlogarithmic phase(対数期)に移行する.したがって,これらの血管新生の促進因子を抑制,あるいは血管新生の抑制因子を増強することで血管新生のバランスを負に調節できれば,腫瘍増殖はdormant phase(休眠期)(注1)に誘導され,腫瘍の増殖,進展を阻害できると考えられた.

 ベバシズマブ(抗VEGF中和抗体)の登場により,使用した膠芽腫症例では画像上,必ずといってよいほど周囲浮腫,腫瘍増強効果の軽快がみられ,ステロイドの減量によりADL(activities of daily living)の拡大がみられる.しかしながらその期間が短い場合も多く,その理由として耐性,浸潤増加での説明がされている.今後の血管新生抑制療法は,単独の抑制剤に頼らず,膠芽腫を形成する腫瘍微小環境(周皮細胞,壁細胞,マクロファージ,間質細胞,幹細胞,場合によっては周囲の正常グリア細胞)をともに制御しなければならない時代になってきている.

 もちろん,血管新生抑制療法に関しては,膠芽腫,再発膠芽腫に対してさまざまな標的分子の臨床試験が主に海外で行われているが,第Ⅲ相までの試験では,その評価方法について問題が解決できていない部分もあり,概説にとどめた.

 本稿では,

 1)腫瘍に対する血管新生抑制療法を知るためには,正常な血管新生のメカニズムを知っていることも大切であることと,最近では膠芽腫の腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と遺伝子学的にも違うことが明らかにされてきており,これまでの単に新生血管を抑制すればよい時代から腫瘍の内皮細胞にも合わせた治療の必要性が出てきたため,正常血管内皮細胞と腫瘍血管内皮細胞の違いを述べる.

 2)そうはいっても欧州や米国では膠芽腫に対してベバシズマブが多く使われているために,毎週といってよいほど多くの論文が発表されている.日本で使用されるときにtemozolomideの導入も既に5~10年遅れたスタートであり,日本からのデータは皆無であった.特に臨床面でのデータもであるが,実際の使用に際する副作用への対処,人種による違いを把握しておくことが,まだ日本で保険使用できない薬剤への対応として大切であると考えており,その点を述べる.

 3)ベバシズマブ単独ではなく,ベバシズマブを中心とした他の薬剤との併用療法,特に,膠芽腫細胞,腫瘍血管内皮細胞だけでなく膠芽腫微小環境(低酸素,周皮細胞,壁細胞,マクロファージ)を血管新生抑制の標的とした次世代の治療のトピックスを中心に述べる.

 したがって,これからの膠芽腫に対する血管新生抑制療法のトピックスとして,以下の8つの話題を取り上げる.

 1.腫瘍血管新生のプロセス

 2.腫瘍血管の内皮細胞は正常か?

 3.腫瘍血管新生における血管の成熟化・正常化

 4.Notchシグナルを標的とした腫瘍血管新生抑制療法

 5.膠芽腫微小環境を考えた腫瘍血管新生抑制療法(マクロファージと低酸素)

 6.膠芽腫に対する血管新生抑制療法の現状(臨床試験):VEGF阻害による代償機構とマルチキナーゼ阻害による臨床試験

 7.膠芽腫に対する血管新生抑制療法の副作用

 8.他の癌に対するベバシズマブ療法から学べることはないか?

研究

肺腺癌の髄膜癌腫症に対するEGFR-TKI, VPシャント,放射線治療による集学的治療

著者: 三矢幸一 ,   中洲庸子 ,   溝上義人 ,   高橋利明 ,   中村有希子 ,   小野哲 ,   戸田陽子 ,   山本信之 ,   原田英幸 ,   西村哲夫

ページ範囲:P.503 - P.509

Ⅰ.はじめに

 髄膜癌腫症(leptomeningeal metastasis:LM)は著しいQOLの低下を生じ,予後不良の病態である.特に肺腺癌のLMに対しては,乳癌の場合と比較し,髄腔内化学療法の効果が十分とはいえず,過去の報告でも緩和ケアで生存期間中央値が4~6週,放射線治療例で2~3カ月,メトトレキサート(MTX)髄注と放射線治療例で5カ月である1,8)

 近年EGFR-tyrosine kinase inhibitor(EGFR-TKI)が,肺腺癌の他臓器転移に有効であるだけでなく,脳転移や髄膜癌腫症にも効果を認めた報告が散見される20).しかし,EGFR-TKIの血液脳関門の通過性・髄液移行性が,他の臓器への移行性よりも劣る点から,全身の癌のコントロールがよいにもかかわらず,中枢神経系のみに再発を来すことも指摘されており12),化学療法のみでは治療効果に限界がある.

 このような状況のなか,当院では,LMに対して,他臓器転移がコントロールされている症例には積極的に集学的治療を行ってきた.LMでは,高率に水頭症を合併するため,脳室腹腔シャント術(VPシャント)を施行し,著明な症状改善を得ることができた.さらに,他臓器転移が制御され,状態のよい症例には,全脳全脊髄照射も選択肢の1つとした.

 今回,肺腺癌からのLMに対し,EGFR-TKIとVPシャントと放射線治療を組み合わせた集学的治療が奏功した4例を報告する.

テクニカル・ノート

腹腔鏡支援下の水頭症シャント手術:自験例の検討と手技の工夫

著者: 青木司 ,   鮎澤聡 ,   松尾亮太 ,   細尾久幸 ,   丹野翔五 ,   三木俊一郎 ,   松原鉄平 ,   松村明

ページ範囲:P.511 - P.517

Ⅰ.はじめに

 近年,さまざまな領域で内視鏡支援による検査・手術法が導入され,より低侵襲で安全な外科的治療法が報告されている.脳神経外科においても,下垂体手術や頭蓋底手術14),クリッピング術12,19),脳内血腫除去術18)など,多くの分野で用いられるようになった.水頭症に対するシャント手術においても,腹側カテーテルの腹腔内挿入を腹腔鏡支援下で行う手技が報告されている1-3,5-8,10,15-17).直視下で操作ができ,腹腔内で遠位カテーテルの開存を確認できること2,3,5),手術創が小さく低侵襲で,術後腹腔内癒着が最小限で済み,創部イレウスが少ないこと2,11),創部痛が軽減されること2,11),小児や肥満など比較的体型を選ばずに行えること3,5),遠位カテーテル閉塞が少ないこと8)などの有用性が報告されている.しかしながら本邦においては必ずしも普及していない7,16).これには,腹腔鏡使用において消化器外科の協力が必要であることに加えて,専用の腹腔穿刺針が存在しないなど,いまだ手技が確立されていないことが1つの要因であると思われる.

 われわれは2010年6月より,すべてのシャント手術を腹腔鏡支援下に行ってきた.またその過程で,経臍的腹腔鏡手術およびそれに新しいデバイスを導入することで,より低侵襲な手技を確立することができた.

 本報告では,われわれの行っている腹腔鏡支援下での挿入方法を紹介するとともに,これまでの自験例の手術成績について報告し,有用性と問題点を検討する.あわせて,われわれが用いているカテーテル挿入の際の腹腔穿刺針について紹介する.

症例

塞栓術後に硬膜動静脈瘻が発生した新生児ガレン大静脈瘤の1例

著者: 浅野剛 ,   黒田敏 ,   寳金清博 ,   吉田大介 ,   長和俊 ,   白石秀明 ,   齋藤伸治

ページ範囲:P.519 - P.525

Ⅰ.はじめに

 ガレン大静脈瘤(vein of Galen aneurysmal malformation:VGAM)は,ガレン静脈の前駆血管であるmedian vein of prosencephalonの拡張を伴う高流量の動静脈シャントで,主に胎生後期から小児期にかけて心不全や水頭症などにて発症する稀な疾患である.今回,心不全を呈した新生児VGAMに対し経動脈的塞栓術を行い,病変は閉塞し良好な結果を得たが,閉塞した流出路近傍に新たに硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:DAVF)が発生した症例を経験したので報告する.

脊髄脂肪腫に合併した非交通性脊髄空洞症に空洞─くも膜下腔短絡術(syringosubarachnoid shunt)を施行した1例

著者: 山室俊 ,   森下登史 ,   渡邉学郎 ,   前島貞裕 ,   片山容一

ページ範囲:P.527 - P.532

Ⅰ.はじめに

 脊髄空洞症の原因疾患としては,Chiari奇形,脊髄外傷,脊髄腫瘍,癒着性くも膜炎などが知られているが,稀に脊髄脂肪腫に対して外科的治療を行った後に脊髄空洞症を合併することが報告されている.このような脊髄空洞症に対する有用な治療法は確立されていないが,空洞─くも膜下腔短絡術(syringosubarachnoid shunt:S-S shunt)が施行された報告が散見される.われわれは,小児の脊髄脂肪腫の術後に脊髄空洞症を合併し,S-S shuntを施行して良好な結果を得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

舌咽神経痛と三叉神経痛が同時に認められた1例

著者: 加藤正仁 ,   会田敏光 ,   森脇拓也 ,   吉野雅美 ,   青樹毅 ,   鐙谷武雄 ,   今村博幸 ,   緒方昭彦

ページ範囲:P.533 - P.537

Ⅰ.はじめに

 特発性の三叉神経痛,顔面痙攣,舌咽神経痛の原因が,主に血管による神経圧迫にあることは,今や広く知られている.機能的な疾患であり,薬物を中心とした内科的な治療が第一選択であるが,症例によっては,外科的に微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)が選択される.これらのいわゆる神経血管圧迫症候群の中で,舌咽神経痛は稀な疾患であり,三叉神経痛との合併例はさらに稀である.われわれは,この稀な合併例を経験したが,multi-volume法により,術前に両神経の状態を把握することができた.若干の文献的考察を加え,報告する.

右心室内に脳室心房シャントカテーテル片が迷入し経静脈的に回収を行った1例

著者: 松原功明 ,   宮地茂 ,   塚本信弘

ページ範囲:P.539 - P.545

Ⅰ.はじめに

 水頭症に対する外科的治療として,最近では脳室腹腔(ventriculoperitoneal:VP)シャントや腰椎腹腔シャントが広く行われている.脳室心房(ventriculoatrial:VA)シャントは施行される機会はかなり減ったものの,腹膜炎などの理由により,腹腔側が使用できない場合にはVAシャントが行われる.今回,VAシャントがルートの途中で断裂して心房側カテーテル先端が右心室内に迷入し,経静脈的に回収を行った症例を経験したので報告する.

海外だより

ボストンから

著者: 脇本浩明

ページ範囲:P.547 - P.552

Ⅰ.はじめに

 かつて米国独立戦争の表舞台となり,今は米国北東部の政治,文化,教育,研究の一拠点として知られるボストン.ここでの2度目の留学を決意し,ハーバード大学の関連施設であるマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital:MGH)で脳腫瘍研究に専心するようになってから,ちょうど6年が経過した(Fig. 1).本稿では,この間に個人的に体験した話題を提供するとともに,日頃の研究生活を通して感じるところを述べてみたい.

連載 合併症のシステマティック・レビュー─適切なInformed Consentのために

(2)未破裂前大脳動脈瘤の外科治療

著者: 杉山拓 ,   寳金清博 ,   伊東雅基 ,   穂刈正昭 ,   中山若樹 ,   数又研 ,   黒田敏

ページ範囲:P.555 - P.565

Ⅰ.はじめに

 合併症のシステマティック・レビュー・シリーズの一環として,前回の内頚動脈瘤に引き続いて,未破裂前大脳動脈瘤の外科治療に伴う合併症に関するシステマティック・レビューを行った.内頚動脈瘤のレビューと同様に予想されたことではあるが,未破裂前大脳動脈瘤に限定した,多施設間にわたる大規模なrandomized controlled trialや,meta-analysisは,存在しなかった.また,予想以上に,合併症に関する記載は,多様かつ報告間でばらつきがあり,合併症の正確な頻度を調査することも困難であった.

 しかしながら,生じ得る合併症を知り,患者に適切なインフォームド・コンセントを実施することは,日常診療において不可欠なことは言うまでもない.また,それ以上に,起こり得る合併症を知ることにより,それを未然に防ぐ努力をすることは,外科治療の水準を高めるうえで重要な意義があると考えられた.さらには,医療の不確実性から考えて,万全な準備と治療を行っても,合併症をゼロにすることは不可能である.しかし,そうした合併症が起こり得ることを前もって認識していることにより,万が一,合併症が起こった場合も,それに対して適切に対処することが可能になる.したがって,稀な合併症も含めて,起こり得る合併症に関する知識は,外科医に求められる必須の知識であるとも考えられた.

 合併症に関する有用な知識は,大規模studyによって明確に数字で示されたmorbidityやmortalityだけではない.これらは,一様に,統一性をもった合併症の定義と強い科学的根拠を有し,その治療成績の全貌と正確な合併症頻度を把握するうえで,極めて重要なものであることは疑いようがない.しかしながら,実際には,個別の動脈瘤を前に,起こり得る合併症について,こうした大規模studyのデータは必ずしも適切な情報を与えてはくれない.個別の動脈瘤に対して,具体的にどのような手術が行われ,どういった合併症が生じたかは,実質的に見えてこない場合も多い.逆に,頻度としては極めて低いものであったとしても,詳細に記述されたsingle case reportが,実質的に有用な情報を提供してくれることもある.

 そのため,本論文の執筆にあたり,多様な論文の中から,生じ得る合併症を可能な限り抽出することに尽力した.抽出された論文も,合併症に注目した主旨のものが多い.そのため,以下に示す合併症率は,一様に高い傾向を示しているかもしれない.その意味では,本論文での合併症率は,あくまでそういった背景のもとで論文の解析を実施して導き出した数値であり,個々の症例,個々の施設,個々の術者にとって,必ずしも適応されるものでもない.必要に応じて,referenceとして活用していただければ幸いである.

 また,本論文は,未破裂前大脳動脈瘤の手術適応の是非,あるいは,pterional approachとinterhemispheric approachのどちらが優れているというような手術法の優劣を比較することを目的としていない.たとえどんなに優れた術者が,どんなに優れた手術法を行ったとしても,合併症は生じ得る.その合併症に関する知識共有が目的であり,その知識をもとに患者に適切な説明がなされることが重要であることを,改めて強調したい.

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欧文目次

ページ範囲:P.477 - P.477

お知らせ

ページ範囲:P.525 - P.525

ご案内 第7回臨床神経生理技術講習会・東京/お知らせ

ページ範囲:P.532 - P.532

日  時 2012年8月5日(日)9:00~16:30

場  所 東京医科歯科大学(お茶の水キャンパス)

ご案内 第42回(2012)新潟神経学夏期セミナー

ページ範囲:P.565 - P.565

期  日 2012年8月3日(金)~5日(日)

テーマ 脳と心の基礎科学から臨床まで最前線の研究者,臨床家に触れて体感しよう

場  所 新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター(6F)セミナーホール

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.568 - P.568

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.569 - P.570

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.571 - P.571

次号予告

ページ範囲:P.573 - P.573

編集後記

著者: 岡田芳和

ページ範囲:P.574 - P.574

 東日本大震災からの復興の遅れ,マニフェストという新たな手法で立ち上がった政権への失望感,さらに工業生産を中心とした経済界の不況など,日本沈没的状況がメディアから日々流れてきます.しかし日本は約300年の鎖国時代でも自給自足で約4,000万人を養い,高い文化も築いていました.また戦後も類まれな経済復興を遂げ,ノーベル賞受賞者も輩出してきました.困難な現状ではありますが,今後も国内外で一生懸命頑張り,輝く日本であり続けてほしいと思います.

 本号の「扉」では桐野高明先生が「さまざまな評価」と題して,メディアから発信される情報をもとに医療全般から社会全体に関わる重要な問題が検討されることが多く,正しい評価の重要性とその困難さを鋭く指摘くださっています.メディアの情報でも,個人が発信したインターネットの情報でも,発信する側と受け取る側の両方に情報を適切に評価する感性が必要であり,それは社会の成熟化の必須条件だと受け止めたいものです.「海外だより」では,脇本浩明先生から自らの人生と海外で頑張る日本人の姿を大変印象的に報告いただいています.若い先生方の大いなる飛躍のきっかけとしていただきたいレポートです.連載では杉山 拓先生に「合併症のシステマティックレビュー─適切なInformed Consentのために」第2回として,未破裂前大脳動脈瘤の外科治療に関する合併症を,2000年からの文献をもとにレビューしていただいています.また,本号の総説では,膠芽腫に対する血管新生抑制療法に関して高野晋吾先生に精力的な解説をいただいています.三矢幸一先生には研究論文,青木 司先生にはテクニカルノート,浅野 剛先生,山室 俊先生,加藤正仁先生,松原功明先生には症例報告をいただいています.いずれも明日からの実地臨床に役立つ貴重な論文です.一読いただき,情報の正しい発信と評価に一考をお願いいたします.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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