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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻7号

2012年07月発行

雑誌目次

医療機器開発とレギュラトリーサイエンス

著者: 伊関洋

ページ範囲:P.577 - P.578

 新規医療機器を使用した治療技術の開発および普及(医療現場への導入)には,臨床研究・治験を経た薬事承認が必須である.本稿では,その開発・普及における視点について概説する.

総説

頚動脈プラークイメージング

著者: 佐々木真理

ページ範囲:P.579 - P.584

Ⅰ.はじめに

 頚部頚動脈狭窄病変は脳卒中の重要な危険因子であり,しばしば頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)や頚動脈ステント術(carotid artery stenting:CAS)の対象となる.CEAの治療適応や治療成績はほぼ確立されているが,CASはCEAの高リスク群における非劣性が証明されているものの15),CEA適応群における脳卒中イベントが多いことが問題視されている2).本稿では,CEA・CASの塞栓性合併症の予測に有望視されている頚動脈プラークイメージングの現状について概説する.

研究

rt-PA静注療法におけるASPECTS-DWI,MRAの役割:転帰との関連について

著者: 出井勝 ,   佐々木達也 ,   田邉智之 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   目黒俊成 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.585 - P.591

Ⅰ.はじめに

 rt-PA静注療法適正治療指針には,CTで広範な早期虚血巣が認められた場合,適応禁忌となっている.「広範な」の定義は記載されていないが,一般的には中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)領域の1/3を超えるものとされ5),いわゆる1/3 MCA ruleとして広く知られている.近年CTの判定基準として,Alberta Stroke Programme Early CT Score(ASPECTS)が用いられるようになり,患者転帰と相関するということが報告されている2)

 一方で,日本は世界有数のMRI保有台数を誇っており,脳卒中急性期診断にMRIを施行し,rt-PA静注療法の適応を判定している施設も多いものと思われる.しかし,超急性期MRIの意義は未だ確立しておらず,MRAについても,脳血管評価は虚血性脳血管障害の治療方針決定に重要な情報を提供するが,rt-PA静注療法における意義は明らかでない8)

 そこで,われわれはDWIを用いたASPECTS(ASPECTS-DWI:AD)とMRAによる閉塞血管評価,脳梗塞病型診断を行い,rt-PA静注療法後の転帰との関係を検討し,rt-PA静注療法におけるDWI,MRAの役割について考察し報告する.また,検討結果を踏まえ,現在われわれが遵守しているrt-PA静注療法適正治療指針の問題点について提起したい.

高齢悪性神経膠腫症例に対する少分割照射

著者: 青木洋 ,   棗田学 ,   阿部英輔 ,   宇塚岳夫 ,   小林勉 ,   青山英史 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.593 - P.598

Ⅰ.はじめに

 現在の悪性神経膠腫の標準治療は,可及的摘出の後に放射線治療とテモゾロミドの併用療法を行うことであるが,高齢者に適用することが困難な場合も少なくない.本邦において高齢悪性神経膠腫症例は増加しており4),高齢者を対象とした治療の選択肢が必要と考えられる.近年,高齢者を対象とした放射線治療に関する報告が多くなされているが,1-3,6-11,13-15)少分割照射は,治療期間を短縮し,その治療効果は標準的放射線療法に比べて同等とされている.

 われわれは,2005年以降,75歳以上の膠芽腫症例に対し,患者の負担を軽減することを目的に少分割照射を採用しており,retrospectiveに調査を行った.また,1995年から2004年に標準的放射線療法を施行した75歳以上の膠芽腫症例と比較し,文献的考察を加えた上で少分割照射の有用性を評価した.

Hypervascular tumorに対するNBCAによる術前塞栓術の有用性

著者: 長内俊也 ,   浅野剛 ,   寺坂俊介 ,   寳金清博

ページ範囲:P.599 - P.606

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内hypervascular tumorの術前塞栓術には,粒状塞栓物質が主に使用されてきたが,近年,液状塞栓物質の使用の報告が散見される.しかしながら,その報告例は少なく6,8,9),その有用性やpitfallなどについて十分議論されているとは言い難い.そこで,今回これまで当科で,n-butyl 2-cyanoacrylate(NBCA)を用いた術前塞栓術を施行した頭蓋内腫瘍に加え,頭頚部や椎体のhypervascular tumorについても検討範囲を広げ,適応や留意点について検討した.

脳腫瘍を含む小児がんに対するステロイド使用の現状:全国アンケートの集計結果

著者: 山崎文之 ,   中村和洋 ,   杉山一彦 ,   小林正夫 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.607 - P.616

Ⅰ.はじめに

 小児がんは5~15歳の子どもの病死の原因の第1位である5).総死亡数では白血病が最も多いが,白血病は治療の進歩に伴いその死亡率は減少してきており,死亡率では脳腫瘍が最も高い5,12).悪性脳腫瘍の治療成績の改善は急務であるが,小児の脳幹神経膠腫や上衣腫などにおいては抗がん剤の効果が不十分で,分子標的薬の効果も未だ限定されたものであり2),ステロイドによる脳浮腫治療と緩和ケアは患児のquality of life(QOL)を保つために重要な地位を占める14).また,脳腫瘍以外の小児がんでも,緩和ケアにおいてステロイドは重要な薬剤である1).しかし,脳腫瘍を含む小児がんへのステロイドの長期投与は,GVHD 10)やリンパ性白血病11)などを除き,多くの場合個々の症例に対して治療医の経験に基づいて行われており,適切な薬剤の選択,治療量や副作用対策についての明確なガイドラインは存在しなかった.ステロイドの副作用は多岐にわたるが16,17),脳腫瘍を含む小児がん患者においてもステロイドの種々の副作用対策は重要であり,治療指針の整備は急務である.

 以上の諸点を踏まえ,小児がんに対するステロイドの使用状況の実態調査を行い,その課題を検討した.

症例

副鼻腔・頭蓋底原発clear cell carcinomaの1例

著者: 鈴木健吾 ,   鰐渕昌彦 ,   秋山幸功 ,   池田潤 ,   南田善弘 ,   長谷川匡 ,   寳金清博 ,   三國信啓

ページ範囲:P.617 - P.621

Ⅰ.はじめに

 画像診断の進歩に伴い,腫瘍性病変の術前診断はより正確に実施可能となってきた.しかし,年齢,局在などからある程度の鑑別は可能であるが,稀な疾患ほど非侵襲的なcomputed tomography(CT)やmagnetic resonance imaging(MRI)などでの診断に苦慮することも多い.Clear cell carcinoma(CCC)は,腎,唾液腺,肺,副甲状腺,甲状腺,女性器など各腺組織に発生する,ジアスターゼで消化されるperiodic acid-Schiff(PAS)染色陽性のグリコーゲンを含む半透明の細胞質をもつ腫瘍であるが,副鼻腔原発のCCCは過去に3例の報告をみるのみである.

 今回,画像診断に苦慮した副鼻腔原発のCCCを経験したので,その臨床経過,診断,治療に関して報告する.

頭部打撲を契機に増大を認めた孤立性骨囊腫の1例

著者: 中村歩希 ,   二階堂孝 ,   内田将司 ,   鈴木由布 ,   小野寺英孝 ,   古屋優 ,   田口芳雄

ページ範囲:P.623 - P.628

Ⅰ.はじめに

 孤立性骨囊腫(solitary bone cyst:SBC)は骨の類腫瘍性疾患に分類され,大腿骨や上腕骨など長管骨に好発し,頭蓋骨発生例は稀である3-6,9-13).今回,打撲を契機に腫瘤の増大傾向を示したと推察できる頭蓋骨発生のSBCを経験したので,文献的考察を加えて報告する.

経動脈的塞栓術のみで根治し得た頭蓋円蓋部dAVFの1例

著者: 目黒俊成 ,   冨田祐介 ,   田邉智之 ,   出井勝 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.629 - P.633

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の治療においては脳血管内治療が広く行われており,その方法としては経静脈的塞栓術(transvenous embolization:TVE)が根治的治療の第一選択としてなされることが多い.ただし,病変部へ経静脈的にアプローチできない場合などには,経動脈的塞栓術(transarterial embolization:TAE)が第一選択としてなされたり,外科的治療や定位的放射線治療などを行わざるを得ないこともある.

 今回われわれは,頭蓋円蓋部dAVFの1例を経験した.この部位に発生するdAVFは比較的稀であり,幸いにもTAEにより根治させることができたため,文献的考察を加え報告する.

脳梗塞とくも膜下出血を同時期に発症した前大脳動脈解離の1例

著者: 南原翔 ,   堤圭介 ,   高畠英昭 ,   藤本隆史 ,   川原一郎 ,   小野智憲 ,   戸田啓介 ,   馬場啓至 ,   米倉正大

ページ範囲:P.635 - P.642

Ⅰ.はじめに

 従来,前大脳動脈解離(anterior cerebral artery dissection:ACAD)は比較的稀な疾患とされていたが,画像診断機器の進歩に伴い報告例は近年増加傾向にあり,虚血発症例が多いとされている11).脳梗塞とくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を併発する症例は稀であり11),その治療方針にも未だ定説はない5).最近,この2病態を同時期に発症し保存的治療により良好な経過を辿った症例を経験した.文献的考察とともに報告する.

顕著なpleomorphismを呈した小脳血管芽腫の1例

著者: 小野隆裕 ,   笹嶋寿郎 ,   小田正哉 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.643 - P.650

Ⅰ.はじめに

 血管芽腫は腫瘍増殖能が低く,WHO gradeⅠに分類される腫瘍で,しばしば散在性に核の大小不同や異型性がみられるが,限局性にpleomorphismを示すことは稀である.また,von Hippel-Lindau病の症例においては,血管芽腫内への腎明細胞癌の転移も知られている1-3,6,9,10,13,15,21)

 最近,著しいpleomorphismを呈しMIB-1 indexが比較的高値で,腎明細胞癌の転移との鑑別が困難であった小脳血管芽腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(2)くも膜下出血で発症した多発脳動脈瘤症例の治療戦略:コイル塞栓に適した動脈瘤とコイル塞栓不可能な動脈瘤の合併症例において

著者: 穂刈正昭 ,   長内俊也 ,   中山若樹 ,   濱内祝嗣 ,   伊藤康裕 ,   下田祐介 ,   寳金清博

ページ範囲:P.651 - P.656

Ⅰ.経験症例

1.症例

 46歳女性,意識障害を主訴に当院に救急搬送された.来院時の意識レベルはGlasgow Coma Scale(GCS)でE2V3M3,瞳孔不同(左5mm>右3.5mm)を認めた.頭部CTでFisher groupⅢのdiffuseなくも膜下出血(SAH)を認め,大脳縦裂(interhemispheric fissure:IH)にやや厚い血腫を認めた (Fig. 1A-H).血管撮影を行ったところ,3D-DSAにて左P1に上向きの細長い動脈瘤(長径約5mm)と(Fig. 2A),左A1-2に約2mmの動脈瘤を認めた(Fig. 2B).

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欧文目次

ページ範囲:P.575 - P.575

ご案内 第21回日本脳神経外科漢方医学会・演題募集

ページ範囲:P.591 - P.591

 第21回日本脳神経外科漢方医学会を下記の通り開催致します.今回は演題テーマを限定せずに,広く漢方治療について,臨床的・基礎的検討の演題を募集します.

 本会は日本脳神経外科学会生涯教育クレジット(3点)の対象学会となっております.

 

日  時 2012年11月3日(土)11時開会予定

     *プログラムによって開始時刻が変更となる場合がございます.

会  場 日本都市センターホテル 5階『オリオン』

     東京都千代田区平河町2-4-1/TEL:03-3265-8211/http://www.toshicenter.co.jp/

     最寄駅 東京メトロ有楽町線「麹町駅」半蔵門方面1番出口より徒歩4分

         東京メトロ有楽町線・半蔵門線・南北線「永田町駅」9b番出口より徒歩3分

お知らせ

ページ範囲:P.598 - P.598

お知らせ

ページ範囲:P.621 - P.621

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.658 - P.658

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.659 - P.660

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.661 - P.661

次号予告

ページ範囲:P.663 - P.663

編集後記

著者: 斉藤延人

ページ範囲:P.664 - P.664

 医学の進歩は,偉大な先人たちのさまざまな創意工夫と試行錯誤の上に成り立っています.特に抗生物質の発見をはじめとして,現代に入ってからの医学の進歩はめざましいものがあり,脳神経外科学もその最先端の一角に位置していると言ってよいのだと思われます.その脳神経外科学の進歩に関しても,CTやMRI,手術顕微鏡などブレイクスルーとなる医療機器の開発の他にも,多くの先人たちの個別的な創意工夫の集大成として,ここまでの進歩を遂げています.ところが近年,その創意工夫に対してもさまざまな規制を受けるようになってきました.厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」が,平成20(2008)年に改訂され,その前文には,「被験者の人間の尊厳及び人権を守るとともに,研究者等がより円滑に臨床研究を行うことができるよう,ここに倫理指針を定める」とあり,臨床研究における倫理的な対応が強く求められるようになっています.一方で,平成22(2010)年6月に閣議決定された「新成長戦略~元気な日本復活のシナリオ~」においては,新たな医療技術の研究開発・実用化促進が重要項目として計画立てられています.臨床試験やトランスレーショナルリサーチを活性化して,日本発の薬や医療機器の開発を推進し,国力を上げようとする動きです.

 さて,本号の扉では東京女子医科大学の伊関 洋先生が,「医療機器開発とレギュラトリーサイエンス」について述べられています.臨床試験の方法やその考え方,新規医療機器開発を行う上での心構えや押さえておくべき基本的知識を簡潔にまとめられています.また,「新規医療技術には未知の危険が存在する」ために,その対策としてレギュラトリーサイエンスがあり,それはリスクとベネフィットのバランスを評価する科学であると定義づけています.「有効性と安全性の評価科学」であるレギュラトリーサイエンスの,今後の成熟が期待されます.総説では,岩手医科大学の佐々木真理先生が,「頚動脈プラークイメージング」について詳しく解説されています.T1強調MRI画像と言っても,さまざまな撮像法があることがわかりやすくまとめられており,頚動脈狭窄性病変の理解と治療の進歩に貢献するタイムリーな総説と言えます.その他にも研究論文が4編,症例報告が5編,連載の「教訓的症例に学ぶシリーズ」が収載されており,本号も大変内容が濃いものとなっています.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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