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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

変革期の真っただ中で

著者: 吉本高志

ページ範囲:P.667 - P.668

 筆者は,日本脳神経外科学会に,昭和44(1969)年から所属し,時間の経過とともに多くの貴重な職責に就かせていただいた.日本脳神経外科コングレス会長,専門医認定委員会委員長,生涯教育委員会委員長,学術総会会長などである.さらに,社団法人日本脳神経外科学会の設立に関与させていただき,任意団体解散総会と法人設立準備総会を主宰した.そして文部科学省より社団法人として認可されたことを契機に初代理事長に就任した.

 平成20(2008)年,当時の学術総会会長の小川彰氏が発行した『日本脳神経外科学会60年のあゆみ』に著した「法人化後の初代理事長として」の一文をここに引用させていただく.

総説

脳卒中におけるシームレスな地域医療連携:医療・介護地域連携クリティカルパスの活用に向けて

著者: 藤本俊一郎

ページ範囲:P.669 - P.683

Ⅰ.はじめに

 2008年度診療報酬改定53,54)で脳卒中に対する「地域連携診療計画管理料」と「地域連携診療計画退院時指導料」の算定が可能となり,その後も2009年度に介護報酬改定,2010年度に診療報酬改定55),2012年度に診療・介護報酬同時改定56-59)が施行された.現在,全国各地で脳卒中地域連携クリティカルパス(以下,パスと略す)が作成・運用されているが1-35,38-46,48,49,51),その多くは急性期病院から回復期リハビリテーション病棟/維持期施設を経て,在宅復帰までを対象とした医療連携にとどまっている.香川シームレスケア研究会では,脳卒中地域連携パスの運用結果からシームレスな医療介護連携の必要性を指摘し1,33-35),既存の地域連携パスを「医療・介護地域連携パス」に改定した.今回,2012年度診療・介護報酬改定に対応可能な「医療・介護地域連携パス」を提示するとともに,「嚥下・NST(nutrition support team)・PEG(percutaneous endoscopic gastrostomy)地域連携パス」と「歯科地域連携パス」併用の必要性についても報告する.

研究

胸郭出口症候群の診断における内側前腕皮神経の電気生理学的評価の有効性についての検討

著者: 寺尾亨 ,   石井卓也 ,   川村大地 ,   大橋聡 ,   斎藤江美子 ,   阿部俊昭 ,   谷諭 ,   高橋浩一

ページ範囲:P.685 - P.694

Ⅰ.はじめに

 肩こり,頚肩腕部痛を呈し,多くの症例で尺骨神経(ulnar nerve:UN)領域のデルマトームに一致したしびれや痛みを訴える胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)の原因として,前斜角筋,中斜角筋および第一肋骨に囲まれた斜角筋間隙や肋鎖間隙における腕神経叢および鎖骨下動脈の絞扼などが関与している13,15,17).TOSの中には頚椎症性脊髄症や絞扼性末梢神経疾患との鑑別が困難なため,その診断に難渋し見逃される症例も存在する16).TOSは神経型(neurogenic TOS),血管型(vascular TOS)および混合型(combined TOS)に分類され,それぞれがさらに,原因不明(disputed TOS)または外傷型(traumatic TOS)に区分される18).この中で95%以上と最も頻度が高いneurogenic TOSの補助的診断方法として,C8,Th1神経根で形成される腕神経叢の内側束由来の感覚神経である内側前腕皮神経(medial antebrachial cutaneous nerve:MAC)の電気生理学的評価の有用性が提唱されている6,11).今回,われわれは当施設に入院し加療したTOS症例の電気生理学的評価の有効性を検証したため報告する.

脊髄硬膜動静脈瘻の画像診断:MDCTAの新たな展開とpitfall

著者: 長内俊也 ,   飛騨一利 ,   浅野剛 ,   青山剛 ,   寳金清博

ページ範囲:P.695 - P.703

Ⅰ.はじめに

 脊髄動静脈シャントの画像診断の方法として,MRIによりくも膜下腔のflow void,脊髄の浮腫や出血を確認し脊髄動静脈シャントが疑われる場合,確定診断のために脊髄血管造影を施行することが一般的と考えられる.しかし,脊髄血管造影検査に関しては,脳血管造影に比べて検査時間が長く,技術習得までに時間がかかること,また侵襲的で合併症が起こり得ることなどが問題点として挙げられる.そこで,より侵襲性の低いMRIやCTにより,digital subtraction angiography(DSA)の代用もしくはDSAを行う前に有用な情報を提供するための役割が検討されてきた.

 近年の画像診断技術の進歩に伴い,脊髄動静脈シャントの拡張したperimedullary veinやシャントポイントの同定,栄養血管(feeder)と考えられる分節動脈の把握など,より詳細な画像診断が可能となってきている.Gadolinium(Gd)enhanced MRAは,病変の存在部位やときには関与する分節動脈のレベルの把握にも有用であり2,5,11),multi-detector-row CT angiography(MDCTA)は多列化によって大幅な撮像時間の短縮に加え,広範囲の撮像が可能となり,時間・空間分解能の大幅な向上が得られた.特に冠状断像を注意深く観察することによって,分節動脈の左右,高位(レベル)の同定が可能になってきている.

 脊髄動静脈シャントの中でも特に脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural arteriovenous fistula:SDAVF)では,feederとなる根動脈の硬膜枝は脊髄動脈に比べて相対的に径が大きく,他の脊髄動静脈シャントに比べ,MDCTAやMRAによる病変部やfeederの描出は容易とされ,その有用性についての報告が散見されている8,9,20)

 これらの比較的非侵襲的な検査により,DSAを行う前に病変の部位,病変に関与する分節動脈のレベル,脊髄動脈との関係について評価することは,DSAの際に速やかな標的血管へのcatheterizationにつながるため,検査時間の短縮や造影剤の使用量を軽減できるという利点をもつと考えられる.

 一方,動静脈シャントがinternal vertebral venous plexus(内椎骨静脈叢)に存在するspinal epidural AVF(SEDAVF)について,近年の画像診断の進歩により,従来想定されていたより頻度が高いと考えられている.

 しかしながら,これまでSEDAVFのMDCTAについて詳細に述べられた報告はない.

 今回,当院で最終的にSDAVF,SEDAVFと診断された症例のうち,MDCTAを施行した症例についてDSAの結果と比較し,MDCTAの臨床的意義やpitfallについてretrospectiveに検討した.

テクニカル・ノート

Neurofibromatosis Type 1に合併した椎骨動静脈瘻に対するtandem balloon technique

著者: 竹上徹郎 ,   今井啓輔 ,   梅澤邦彦 ,   木村聡志 ,   荻田庄吾 ,   濱中正嗣 ,   池田栄人

ページ範囲:P.705 - P.709

Ⅰ.はじめに

 脊髄神経圧迫による左頚部痛と左上肢しびれ感を呈したneurofibromatosis Type 1(NF-1)患者に認められたhigh flowの椎骨動静脈瘻に対し,tandem balloon techniqueにて治療し得たので,文献的考察を加えて報告する.

症例

頭蓋骨転移で発症した悪性paragangliomaの1例

著者: 金井秀樹 ,   山下伸子 ,   橋本信和 ,   小川久美子 ,   鈴木周五

ページ範囲:P.711 - P.716

Ⅰ.はじめに

 Paragangliomaは,副腎髄質以外のクロム親和性細胞から発生する褐色細胞腫である.本来は良性腫瘍であるが,経過中に非クロマフィン組織へ転移し,悪性paragangliomaと診断されることがある.この場合,組織学的には悪性診断は困難である5).また,骨へも転移するが,脊椎や体幹骨が多く,頭蓋骨や頭蓋内への転移は稀である2,8,11,12)

 今回,中頭蓋窩に骨融解を伴って生じた腫瘍が,7年前に腎門部に原発したparagangliomaからの転移であることが判明した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

両側外転神経麻痺を呈したくも膜下出血治療例

著者: 齋藤久泰 ,   中山若樹 ,   瀧川修吾 ,   牛越聡 ,   新保大輔 ,   黒田敏 ,   寳金清博

ページ範囲:P.717 - P.722

Ⅰ.はじめに

 外転神経は,頭蓋内で比較的長い距離を走行し,かつ複雑な走行経路を辿るという解剖学的特徴をもつため,他の脳神経に比べて障害されやすいといわれている2,3).外転神経麻痺の原因は,糖尿病や高血圧などの全身性疾患から脳腫瘍や外傷などの機械的要因までさまざまであるが,くも膜下出血(SAH)を原因とした両側性障害の報告は少ない.今回われわれは,両側外転神経麻痺を呈したSAHの症例を経験したので報告する.

低血糖症状で発見されたgranular cell tumor of the neurohypophysisの1例

著者: 鈴木亮太郎 ,   高野晋吾 ,   阿久津博義 ,   里見介史 ,   森下由紀雄 ,   高橋昭光 ,   野口雅之 ,   松村明

ページ範囲:P.723 - P.728

Ⅰ.はじめに

 下垂体後葉顆粒細胞腫(granular cell tumor of the neurohypophysis:GCT)は下垂体後葉または下垂体柄,漏斗部より発生する顆粒細胞を主体とする腫瘍で,症候性となるのは原発性脳腫瘍の0.02%と稀な腫瘍である17).ただし,無症候性のものは6.7%(1,364例の剖検で91例)10),他の報告では17%1)にみられる.症候としては視力視野障害,下垂体機能低下,頭痛などがみられ,他の下垂体疾患との区別は難しい.今回われわれは,低血糖症状により発見されたGCTの1例を経験したので報告する.

書評

今日の救急治療指針 第2版―前川 和彦,相川 直樹:監修,杉本 壽,堀 進悟,行岡 哲男,山田 至康,坂本 哲也:編

著者: 平出敦

ページ範囲:P.716 - P.716

●多様な救急ニーズに対応するために,各専門家がエッセンスを込めて執筆

 本書は,初版から15年の間使われてきた『今日の救急治療指針』の改訂版である.救急医学は,少子高齢化,産業構造の変化,交通安全社会の構築といった社会の構造変化の大きなうねりの中で,急速に変貌しつつある.

クリニカルクエスチョンにこたえる! 臨床試験ベーシックナビ--臨床試験を適正に行える医師養成のための協議会:編

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.730 - P.730

●新薬・医療機器開発に不可欠な臨床試験のガイドブック

 日本において新薬や医療機器の開発の遅れが指摘されてから,かなりの年月が経過した.厚生労働省,医療関係者および企業の方々の努力にもかかわらず,いまだ思うような成果がみられていない.文部科学省でも,医科系大学や研究所の最先端研究を少しでも早く実用化させるため,橋渡し研究の拠点を整備し,新薬や新しい医療機器の開発支援に力を入れている.このような動きを加速させるために重要なことは,新薬や医療機器の開発において欠かすことができない臨床試験をもっと推進させることであり,それには医師,薬剤師,看護師をはじめ臨床試験に携わる多くの方々に臨床試験の重要性を理解してもらう必要がある.

 臨床試験にはいろいろな種類があり,新薬や医療機器の開発ばかりでなく,各診療領域において,診断や治療に関する日本人のエビデンスを得るための大規模臨床試験も重要な試験であり,その普及も強く求められている.

ティアニー先生の診断入門 第2版--ローレンス・ティアニー,松村 正巳:著

著者: 佐藤泰吾

ページ範囲:P.742 - P.742

●大切なことは後から,わかる

 私は2000年~2004年までの4年間に何度かティアニー先生とともに過ごす幸せに恵まれた.松村理司先生(現・洛和会音羽病院院長)が中心となって運営されていた,舞鶴市民病院での「大リーガー医」招聘プログラムでの経験だ.

 『ティアニー先生の診断入門第2版』を読了した時,松村理司先生の声がよみがえってきた.「大リーガー医がホームランを打っているときに,何をボーっとしとるんや!」と,いら立ちとともに発せられた声である.

連載 合併症のシステマティック・レビュー─適切なInformed Consentのために

(3)未破裂中大脳動脈瘤の外科治療

著者: 川堀真人 ,   数又研 ,   大西浩介 ,   杉山拓 ,   伊東雅基 ,   中山若樹 ,   寳金清博

ページ範囲:P.731 - P.740

Ⅰ.はじめに

 未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は約1%の頻度といわれており4,32),それに対する治療によるmorbidity,mortalityは1施設の200~300例の検討で,それぞれ2.0~7.3%,0~1%と報告されている45,62).しかし,後年の多施設研究において約13~15%という高いmorbidityが報告され,未破裂脳動脈瘤の低い破裂率を勘案すると本治療の妥当性に疑問が投じられる契機となった1,7,61).その後,本邦におけるUnruptured Cerebral Aneurysm Study of Japan(UCAS Japan)において,未破裂脳動脈瘤の治療による合併症は5%未満と報告され,多施設での研究にもかかわらず過去に発表された単一施設での優れた治療成績に匹敵する結果となっている32,33)

 近年,血管内治療の進歩が目覚ましいが,中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)の動脈瘤はアクセスが容易なため通常は開頭手術で治療が行われている.小さく処置が容易なものから,血栓化,巨大動脈瘤など難易度が異なるカテゴリーを包括しているが,一般的にどのカテゴリーも積極的に治療が行われる傾向があるといえる.現時点では,未破裂脳動脈瘤の治療成績に関する報告は,その大半が特定の施設,術者に限定されているため,観察数に限界がある.また部位別に区別せず検討されているため,中大脳動脈瘤に固有なmorbidity,mortalityを把握することが困難だった.

 本検討の目的は,より多数の症例を背景に,未破裂中大脳動脈瘤の開頭手術に関わる合併症を量的,質的に予測することである.個々の研究で症例のinclusion,exclusion criteria,合併症の定義が異なることが制約となるが,症例を統合することにより個々の研究の偏移を減じ,一般化された合併症の確率を算出することは可能であると考えた22).加えて,稀な合併症や個々の手術手技に関わる合併症は,多数の症例を経験した術者による質的記述にも一定のevidenceがあると考え,これらの網羅的記載も追加した.

 既に,本連載の第1回,第2回(内頚動脈瘤,前大脳動脈瘤の合併症のシステマティック・レビュー) でも述べてきたが12,55),本論文は,あくまで,多くの論文の総合的な解析に基づいたものであり,個々の症例,個々の施設,個々の術者にとって,適応されるものではない.患者へのinformed consentにあたっては,それぞれの施設の成績,術者の経験などに応じたtailor-madeの説明と同意が必要である.しかし,限られた症例からは経験されない数多くの合併症に関する知識は必要であり,これまでのシリーズと同様にreferenceとして活用していただきたい.

海外留学記

Charité Universitätsmedizin, Berlin―Campus Virchow Klinikum

著者: 高橋里史

ページ範囲:P.743 - P.746

はじめに

 私は卒後7年目に脳神経外科専門医を取得,9年目に大学院を卒業し,卒後10年目の2011年8月からドイツ学術交流会(DAAD)奨学生として,ドイツ国内で2カ月間の語学研修を受けた後,10月よりベルリンのCharité Universitätsmedizin,Berlin-Campus Virchow KlinikumにGastarzt(clinical fellow)として1年間の予定で留学させていただいております.10歳の頃,父親の仕事の関係でドイツに住んでいたことがあり,2回目の長期ドイツ滞在です.

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欧文目次

ページ範囲:P.665 - P.665

ご案内 第4回日本レックリングハウゼン病学会学術大会

ページ範囲:P.703 - P.703

会  期 2012年11月4日(日)午前9時50分より

会  場 慶應義塾大学三田キャンパス北館ホール(〒108-8345 東京都港区三田2-15-45)

お知らせ

ページ範囲:P.728 - P.728

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.748 - P.748

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.749 - P.750

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.751 - P.751

次号予告

ページ範囲:P.753 - P.753

編集後記

著者: 片山容一

ページ範囲:P.754 - P.754

 この号の扉で,日本脳神経外科学会を社団法人にした頃について,吉本高志名誉教授が回想しておられる.あれがもう10年も前だったことを思い起こした.あの当時,吉本教授は,初代の理事長として淡々と山積する課題を片付けておられるように見えた.しかし,これを拝読して,実は大変な決意と覚悟をもって取り組まれていたことを知った.あらためて,日本脳神経外科学会への貢献に御礼を申し上げたい.

 この号に掲載されている他の論文も,1つひとつが実に興味ある問題を含む力作である.注目に値するのは,いずれもが,多額の研究費によって実現したものではなく,臨床の現場での地道な努力や工夫の成果であることである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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