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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科40巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

ベン・ケーシーと美しい脳

著者: 安井信之

ページ範囲:P.757 - P.758

 外務省は人材を養成するシステムが整っていない.「幸運」が大きく作用する.もっとも,偶然の機会をそのような「幸運」に転換できるかどうかがその人の能力であろう.(佐藤 優『獄中記』より引用)

 

 近年,脳神経外科(脳外科)を専攻する若い医師の減少,特に,初期臨床研修制度が導入されてからの減少が激しく,導入以前に比べると半減しています.私が脳外科医を専攻した当時を思い返しながら,このような現況について私見をまとめました.

研究

被災時の意識障害患者対応に関する全国アンケート調査

著者: 嶋村則人 ,   棟方聡 ,   大熊洋揮

ページ範囲:P.759 - P.764

Ⅰ.はじめに

 2011年3月11日に発生した東日本大震災により,日本全体が多大な影響を受け続けている.特に東北地区においては被害が甚大であり,医療体制の復旧にはまだ多くの時間を要する.

 これまで,地震,ハリケーン,戦争などにおける救急患者の治療については多くの報告があるが,病院としての対応についての報告は少ない5).東日本大震災のような災害時において,意識障害患者の治療や介護への対応はどのようになされているかについて,第20回日本意識障害学会(以下,本学会)においてアンケート調査を行う機会を得た.将来の不測の事態へ備えるべく知識の共有を行うために,アンケートの詳細を報告する.

脳底動脈先端部動脈瘤に対するコイル塞栓術

著者: 杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   菱川朋人 ,   伊丹尚多 ,   大熊佑 ,   平松匡文 ,   春間純 ,   伊達勲

ページ範囲:P.765 - P.774

Ⅰ.はじめに

 脳底動脈先端部動脈瘤は,一般に開頭clipping術が解剖学的に困難で,血管内治療が有利とされている2-4,8,16,21).海外からは脳底動脈先端部動脈瘤に対する血管内治療の有用性を示唆する論文はいくつか報告されているが,本邦からの多数例の報告はない2,4,16,21).今回,2000年以降にコイル塞栓術を行った同動脈瘤79例を対象とし,その成績を検討した.

症例

Liposomal amphotericin Bとvoriconazoleが奏効した脳室内cryptococcomaの1例

著者: 井上明宏 ,   原田広信 ,   岩田真治 ,   寺岡幹夫 ,   山下大介 ,   久門良明 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.777 - P.784

Ⅰ.はじめに

 真菌性中枢神経感染症であるクリプトコッカス脳髄膜炎は,一般的には免疫機能不全患者の日和見感染症として知られているが,ときに健常者にも発生することがある.また,病態が進行しcryptococcomaと呼ばれる脳実質内肉芽腫を形成することも報告されており,未治療では致死的となる場合も多く,迅速な診断,治療が必要な感染症である11,14,18).元来,クリプトコッカス脳髄膜炎の治療は,amphotericin B(AMPH-B)と5-flucytosine(5-FC)の併用投与が基本とされていたが4),薬剤毒性による腎障害などの問題もあり,最近ではliposomal amphotericin B(L-AMB)やvoriconazole(VRCZ)などの副作用が軽減された薬剤への関心が高まりつつある11,16)

 L-AMBは,ポリエンマクロライド系の抗真菌薬であり,発熱や腎毒性などの副作用がAMPH-Bより少ない抗真菌薬として知られており,クリプトコッカス脳髄膜炎においても,腎機能低下が問題になるような症例において特に推奨されている11,14).また,トリアゾール系の抗真菌薬であるVRCZも高い抗真菌作用を有し,侵襲性アスペルギルス症を対象としたAMPH-Bとの比較試験では,有効性および安全性においてAMPH-Bより優れていることが報告されており6),本邦のクリプトコッカス脳髄膜炎の治療ガイドラインでも第二選択薬に位置づけられ,今後の効果が期待されている18).今回われわれは,非免疫機能不全患者の脳室内に発生したcryptococcomaの1症例を経験し,L-AMBおよびVRCZを使用することで良好な治療結果を得ることができたので報告する.

脳梗塞で発症した非外傷性direct CCFの1例

著者: 池田剛 ,   加藤徳之 ,   渡部大輔 ,   緒方敦之 ,   粕谷泰道 ,   山崎友郷 ,   杉田京一 ,   園部眞

ページ範囲:P.785 - P.792

Ⅰ.はじめに

 Carotid-cavernous fistula(CCF)は眼球結膜充血・眼球突出・血管雑音を三主徴とし,なかでもdirect CCF(dCCF)は,致命的な頭蓋内出血や失明を含む視力低下を生じる頻度が高いとされる4).一方,dCCFに起因する脳虚血についてはこれまでに5例の症例報告を認めるのみであり,稀な合併症と言える4-7,11).これらの報告は外傷性のものばかりで,非外傷性の報告例は見当たらない.今回われわれは,典型的な三主徴を認めずに脳梗塞で発症した非外傷性dCCFの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

成人大脳半球に生じたpilocytic astrocytomaの1例

著者: 村橋威夫 ,   佐藤憲市 ,   伊東民雄 ,   尾崎義丸 ,   杉尾啓徳 ,   中村博彦 ,   田中伸哉

ページ範囲:P.793 - P.797

Ⅰ.はじめに

 毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma:PA)は,星細胞性腫瘍の1つであるが,通常型といわれるびまん性星細胞腫とは異なり,限局型に分類される特殊な星細胞腫である20).WHO分類ではGrade 1に分類される生物学的悪性度の低い腫瘍である.主に小児,若年者に発生し,成人発生例は稀といわれている8).今回われわれは右頭頂葉に発生した囊胞性のPAの1例を経験したので報告する.

難治性複雑部分発作を呈した島回部psammomatous meningiomaの1手術例

著者: 井本浩哉 ,   藤井正美 ,   丸田雄一 ,   貞廣浩和 ,   出口誠 ,   石原秀行 ,   野村貞宏 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.799 - P.804

Ⅰ.はじめに

 てんかん症例において,発作が島回部より起始する場合,多彩な臨床症状を呈するために症候のみでの焦点診断は困難なことが多い.特に複雑部分発作が発作症状の主体である場合には,側頭葉てんかんとの鑑別に苦慮する場合がある9).今回われわれは,側頭葉てんかんと同様な複雑部分発作を呈した島回部に主座をおく髄膜腫(deep sylvian meningioma)の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(3)第三脳室chordoid gliomaの1例

著者: 成澤あゆみ ,   隈部俊宏 ,   齋藤竜太 ,   園田順彦 ,   渡辺みか ,   冨永悌二

ページ範囲:P.805 - P.811

Ⅰ.経験症例

1.症例

 40歳女性,軽度頭痛の精査目的で施行したMRIにて第三脳室内腫瘍を指摘され,当科に紹介された.MRIで,第三脳室前半部に境界明瞭で均一に造影されるほぼ球形の腫瘤 (体積2.3cm3)を認めた(Fig. 1).視機能・下垂体機能とも正常で,高次機能障害も認めなかった.無症候であったことから,半年ごとにMRIで経過を追っていたところ,5年後に腫瘍体積は3.5倍(8.1cm3)となった(Fig. 2).後方視的に腫瘍体積を計測すると,腫瘍の増大速度はほぼ一定だった(Fig. 3).摘出術前の2年間で体重は16kg増加し,公務員としての勤務は継続可能であったが,短期記憶障害が顕著となってきていた.症状出現および腫瘍増大の経過から摘出術を行う方針とした.

 CTでは石灰化を伴わず,軽度高吸収域を呈し(Fig. 4A),proton MR spectroscopy(1H-MRS)ではコリン(choline:Cho)の高いピークとN-アセチルアスパラギン酸(N-acetyl aspartate:NAA)およびクレアチン(creatine phosphate:Cre)ピークの低下を認めた(Fig. 4D).見かけ上拡散係数最低値(minimum apparent diffusion coefficient:mADC)は0.623×10-3mm2/secと低値であった(Fig. 4C).2-[18F]fluoro-2-deoxyglucose positron-emission tomography(FDG-PET)では,SUVmax(maximum standardized uptake value)8.4と比較的高値を示した(Fig. 4B).

脳神経血管内治療医に必要な知識【新連載】

(1)放射線とDSAの知識,薬事,医の倫理など

著者: 反町隆俊

ページ範囲:P.813 - P.821

Ⅰ.はじめに

 本稿は脳神経血管内治療を始めた,あるいは行う予定の読者を対象としている.第1回は,脳神経血管内治療を行う際に必要な放射線とdigital subtraction angiography(DSA),治療に際して使用する薬剤,治療時に考慮すべき医療倫理について,基本的な知識の要点をまとめた.

脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景

10.MicroneurosurgeryとPET scan:一脳神経外科医の経験から

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.823 - P.846

Ⅰ.まえおき

 筆者が脳神経外科医として主に勤務した3施設(京都大学医学部附属病院1965~1969年,1977~1985年,国立循環器病研究センター1986~1992年,Zürich大学病院1970~1976年,1993~2007年)ともにpositron emission tomography(PET)を施設内にもっていた.筆者らが新入局員の頃は存在しなかったCT,MRIの発達とともに,PET,single photon emission CT(SPECT)の発達は脳神経外科の日常活動,診断,手術適応の一助となり,follw-upにも大きく関与してきた.以下の内容は,microneurosurgeryを修得した筆者がいかにSPECT,PETと関わってきたかを述べたものである.

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欧文目次

ページ範囲:P.755 - P.755

ご案内 第42回日本脳卒中の外科学会

ページ範囲:P.764 - P.764

会  期 2013年3月21日(木)~3月23日(土)

会  場 グランドプリンスホテル新高輪

     〒108-8612 東京都港区高輪3-13-1(TEL:03-3442-1111)

ご案内 第9回新都心神経内視鏡症例検討会

ページ範囲:P.784 - P.784

開催日 2012年11月24日(土)午後3時より

テーマ 頭蓋内囊胞性疾患の内視鏡治療

演題締め切り日 10月26日

お知らせ

ページ範囲:P.792 - P.792

お知らせ

ページ範囲:P.811 - P.811

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.821 - P.821

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.848 - P.848

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.849 - P.850

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.851 - P.851

次号予告

ページ範囲:P.853 - P.853

編集後記

著者: 新井一

ページ範囲:P.854 - P.854

 本号の「扉」に,安井信之先生から「ベン・ケーシーと美しい脳」と題する原稿をいただきました.安井先生ご自身が脳神経外科医を志した契機,さらに伊藤善太郎先生が急逝されたためにご自身が施設の責任者としての職務を負うことになった経緯などが紹介されています.一流の脳神経外科医として確固たる地位を築かれた先生の軌跡を知ることができる,読者にとっても興味深い一文であると思います.そして,そのなかで安井先生は,脳神経外科医の育成について厳しいご意見を述べられています.すなわち,本邦においては脳神経外科医が成長するチャンスは偶然によって与えられる場合が多く,外科医(術者)を育てる教育システムを組織的に構築する必要があるとの指摘であります.大学病院の脳神経外科を預かる立場として,私自身がこれまでどのような教育を若い世代に施してきたのか,思わず自分の胸に手を当て自問せずにはいられませんでした.年次ごとにある程度の到達目標を設定し,専門医試験を1つの区切りとして,その後は学位の修得,さらにsubspecialtyの知識・技術を学ぶといったコース設定は準備されていますが,果たしてそれが十分に機能しているのかどうか心配な部分もあります.国内外への留学,手術症例への曝露など,教育を受ける側の資質も大いに影響しますが,一方で偶発的に生じる「幸運」が左右するといった状況がない訳ではないのも事実です.

 さて昨年度より,大きく改革された脳神経外科学会専門医認定制度のもとでの新たな専門医教育がスタートしました.この新制度は,「我国の脳神経外科医は,脳神経疾患領域の広い範囲にわたって,その予防,救急対応,診断,外科的・非外科的治療,周術期管理,リハビリ,長期予後管理などを一貫して担当する」という脳神経外科学会が定めた脳神経外科医の定義に則して専門医を育成すべく,旧制度を改変したものです.脳神経外科は基本的診療領域に属し,手術以外のさまざまな診療行為を担当する間口の広い診療科でありますが,一方で,外科技術の習得,すなわち外科医(術者)の育成は,その専門医教育のなかでも重要な位置を占めることは言うまでもありません.私自身を含め研修プログラムの責任者は,外科医(術者)を育成するための組織的な教育プログラムを,専門医試験の前後にまたがって構築することの重要性・必要性を改めて認識すべきなのでしょう.今回の専門医に関する制度改革は,安井先生が提示された命題,すなわち次世代の脳神経外科医をどのように育てるのかを真剣に考える機会を私達に与えています.そして私達には,若い世代が希望を持って進むことのできるキャリアパスを,明確に提示することが求められているのだと思います.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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