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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

脳神経外科という外科医学

著者: 早川徹

ページ範囲:P.3 - P.4

 わが国において「脳神経外科」が医療法上の標榜診療科:「脳,脊髄及び末梢神経に関する外科」として公認されたのは,1965年(昭和40年)とのことである.

 そもそも「外科」というのは,どのような「診療科」なのであろうか?

総説

頚部頚動脈狭窄症におけるvascular-associated lymphoid tissue(VALT)ネットワークおよび新生血管の役割について

著者: 川原一郎 ,   堤圭介 ,   永田泉

ページ範囲:P.5 - P.13

Ⅰ.はじめに

 動脈硬化性疾患は,欧米諸国と同様にアジア諸国においても現在もなお増加の一途をたどっており,死亡原因にも関連する極めて重要な疾患であることは言うまでもない.とりわけ頚部頚動脈病変は,脳梗塞発症に関連する代表的動脈硬化性疾患であるが,狭窄度のみが重要視されていた時代から,近年では狭窄度に加えplaqueの性状がより重要視されるようになり,そのvulnerabilityによって虚血イベントの危険性が大きく異なることが明らかとなった8,9).Magnetic resonance(MR)imagingをはじめとした診断機器によるvulnerable plaqueの検出は,治療方針決定において極めて重要であり,数多くの報告がなされている12,26,27).一般的なvulnerable plaqueの病理学的定義としては,豊富な脂質成分の存在,薄い線維性被膜,著明な炎症細胞の浸潤などが挙げられる1,4)が,免疫系統の関与や新生血管の存在も極めて重要であり,これらは動脈硬化の進行とも深く関連している3,5,6,11,18,19,25).しかしながら,plaque vulnerabilityに関連した一連のmechanismは複雑で,今なお解明されていない点も多く,それらを明らかにするためには,病理組織学的方面から動脈硬化病変の形成過程(Fig.1)を再確認し,researchすることは極めて重要である.本稿では,plaque内における免疫・炎症反応や新生血管の存在に着目し,その役割や今後の展望について概説する.

研究

脳動脈瘤手術における経頭蓋運動誘発電位モニタリング

著者: 山下愼也 ,   佐々木修 ,   鈴木健司 ,   高尾哲郎 ,   中村公彦 ,   小池哲雄

ページ範囲:P.15 - P.24

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科手術における種々の術中モニタリングのうち,特に四肢や顔面運動機能の監視を行う目的で運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)モニタリングが用いられ,これまで大動脈,脊椎脊髄手術8,10)や頭蓋底手術3,4)におけるMEPモニタリング法が報告されてきた.脳血管疾患についても同様であり,特に脳動脈瘤クリッピング術におけるMEPモニタリングの有用性については,錐体路に関与する穿通枝や皮質領域の血流不全を検知するという観点から最近広く認められてきている5,7,14-16,18).しかしながら,術中MEP波形変化とwarning criteriaの設定や術後の運動麻痺の関連など,未だ不明な点が多い1,7,16-18).また,MEPモニタリングの刺激は,経頭蓋,皮質のどちらで行うのか,記録は四肢の筋肉からか,頚部硬膜外からD-waveを得るのか,などの点も議論のあるところである2,12,14)

 今回われわれは,これまで当科で施行してきた脳動脈瘤クリッピング術における術中経頭蓋MEPモニタリングの方法と結果を提示し,その有用性について検討した.

Evans indexが0.3以下であったが,iNPHと考え髄液シャント術を施行した14例

著者: 成瀬裕恒 ,   松岡好美

ページ範囲:P.25 - P.30

Ⅰ.は じ め に

 「特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)診療ガイドライン」(第2版)によれば,iNPHの特徴的な画像所見として脳室拡大,シルビウス裂拡大,高位円蓋部のくも膜下腔狭小化,後交連を通る冠状断において脳梁角が急峻であることが挙げられている4,5,9).実際の臨床場面では,画像所見において脳室拡大は明らかではないが,症状・病歴からiNPHが疑われる例を経験することがある.今回われわれは,術前にEvans indexが0.3以下であったが,タップテスト後に症状の改善が認められ,髄液シャント術を施行した14症例について検討を行った.

頚動脈内膜剝離術あるいはステント留置術を施行された入院患者のコスト比較

著者: 定政信猛 ,   小柳正臣 ,   岩室康司 ,   沈正樹 ,   半田明 ,   山形専

ページ範囲:P.31 - P.35

Ⅰ.はじめに

 本邦における国民皆保険制度は,国民の医療費負担の低減に大きく貢献している.2009年の統計ではOECD加盟国において本邦の総医療費の対GDP比は24位であり,1位である米国の約半分である6).また,本邦では高額療養費制度が存在するため,手術治療を受けた場合の患者負担が少ない.しかしながら,国民医療費は年々上昇しており,医療費を含めた社会保障費の増大は社会問題の1つとなっている.先述の高額療養費制度により,実際に医療にかかるコストが患者側から見えにくい側面もある.

 頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)は2008年4月より保険収載となり,2010年4月に頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)とともに保険点数に上乗せの改定が認められたが,改定後の両者のコスト面からの検討は渉猟し得た限り認められない.

 今回われわれは2010年4月の保険点数改定後に,入院加療中にCEAまたはCASを施行された患者について,コスト面からの比較検討を行ったので報告する.

症例

くも膜下出血で発症した膠芽腫の1例

著者: 常喜達裕 ,   大橋聡 ,   森良介 ,   坂井春男 ,   藤ヶ崎純子 ,   松島理士 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.37 - P.43

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血症例のうち,15~24%において血管撮影上異常所見が認められず,その中で稀に脳腫瘍が出血源になると報告されている9,16).われわれが渉猟し得た限りでは,くも膜下出血で発症した神経膠腫の報告は,これまでに計9例が報告されている3,6,7,10,13,18).なかでも膠芽腫の報告は本例を含めて3例のみであり,稀な病態といえる.今回,くも膜下出血で発症し,診断に頭部MRIが有用であった膠芽腫症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

上小脳動脈動脈瘤に対する治療:clippingおよびcoilingの2例報告

著者: 春間純 ,   杉生憲志 ,   島津洋介 ,   道上宏之 ,   徳永浩司 ,   伊達勲

ページ範囲:P.45 - P.51

Ⅰ.はじめに

 後頭蓋窩動脈瘤のうち,上小脳動脈にみられる動脈瘤は稀であり,その解剖学的特性から手術方法や手術手技に関しても議論の分かれるところである.今回われわれは,同部の破裂動脈瘤に対し直達手術を施行した1例,動脈瘤末梢部の虚血症状にて発症した未破裂動脈瘤に対し脳血管内手術を施行した1例の,計2症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

前大脳動脈遠位部非分岐部に発生したnarrow neck囊状脳動脈瘤の1例

著者: 武内勇人 ,   辻野仁 ,   藤田智昭 ,   岩本芳浩

ページ範囲:P.53 - P.57

Ⅰ.は じ め に

 前大脳動脈遠位部(distal anterior cerebral artery:DACA)に発生する動脈瘤は比較的稀であるが,その多くは,通常の囊状動脈瘤と同様に血管分岐部にあって血行力学的機序により増大すると考えられている.一方,血管分岐部以外に発生する動脈瘤はこれとは異なる機序により発生・増大するという説があるが,その多くは解離性動脈瘤,もしくはいわゆる血豆状動脈瘤であり,非分岐部囊状動脈瘤の報告例は少ない.今回われわれは,DACA非分岐部囊状動脈瘤の1例を経験したので,病理組織学的考察とともに報告する.

Persistent primitive proatlantal arteryの狭窄により脳梗塞を発症した症例に対するステント術

著者: 大橋元一郎 ,   猪野屋博

ページ範囲:P.59 - P.64

Ⅰ.はじめに

 原始遺残動脈にはtrigeminal artery, otic artery, hypoglossal artery, proatlantal arteryがあり,胎生期を過ぎても存在している症例に関して多くの報告がなされている1,3,6,7,9,11,12).原始遺残動脈は通常吻合血管として機能しており,内外頚動脈や椎骨脳底動脈あるいは後頭動脈側の血管に障害を来した場合には,側副血行として機能する半面,血行力学的原因から動脈瘤を合併したとの報告も認められる1,7,8,10)

 今回われわれは,原始遺残動脈の1種であるpersistent primitive proatlantal artery(PPPA)の起始部狭窄病変が原因と推測される脳梗塞発症例に対し,ステント治療を行うことで良好な経過を得た1例を経験した.原始遺残動脈自体に対し血管内治療を行った症例は過去に報告例がなく,非常に稀な治療例であると思われる.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(5)鞍上部胚細胞腫における血中hCG値のPitfall

著者: 藍原康雄 ,   柏瀬しのぶ ,   三木伸泰 ,   木村利美 ,   岡田芳和

ページ範囲:P.65 - P.69

Ⅰ.経験症例

1-1.症例1

 11歳で発症した鞍上部胚細胞腫患者に多剤併用療法(Day 1カルボプラチン450mg/m2,Day 1~3エトポシド150mg/m2)計4回と放射線療法(全脳室照射:1回1.8Gy,計25.2Gy)を施行した.画像上腫瘍陰影は消失し,腫瘍マーカーも陰性化(総hCG-β 0.1,Day 1)した.腫瘍再発のモニタリングは,腫瘍マーカー(α-fetoprotein:AFP,human chorionic gonadotropin:hCG)の測定を基本とし,再発が疑われる場合には画像での評価を行うこととしていた.

 Day 10より思春期遅発症に対する男性ホルモン補充目的にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(以下,hCG製剤)「プロファシー®注5000」(メルクセローノ社,原末の入手が困難なことから現在は販売中止)を週1回,内分泌内科にて3,000単位筋肉注射することとしていた.

脳神経血管内治療医に必要な知識

(5)脳動脈瘤塞栓術の応用(補助テクニック)

著者: 今村博敏 ,   柴田帝式 ,   坂井信幸

ページ範囲:P.71 - P.82

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤塞栓術の基本は,1本のマイクロカテーテルを脳動脈瘤に誘導し,離脱型コイルをできるだけ多く充塡するsimple techniqueである.しかし,実際にはsimple techniqueで満足する結果の塞栓術を行える脳動脈瘤は,われわれの経験では約25%である.大きな動脈瘤や,頚部の広い動脈瘤では単純にコイルを挿入すると,母血管にコイルが逸脱することが少なくない.このような場合はballoon assisted technique14),stent assisted technique6),double catheter technique8)などのadjunctive techniqueが必要となる.これまでわれわれは,約50%の症例でballoon assisted technique,約20%の症例でstent assisted techniqueを使用している.過去の報告ではadjunctive techniqueは血栓塞栓症の危険因子にはならないと報告されているが1,3,15),手技が煩雑になることに注意しなければならない.

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欧文目次

ページ範囲:P.1 - P.1

ご案内 第22回日本脳ドック学会総会

ページ範囲:P.13 - P.13

会  期 2013年6月21日(金)~22日(土)

会  場 江陽グランドホテル(仙台市)

ご案内 第13回日本術中画像情報学会

ページ範囲:P.24 - P.24

会  期 2013年7月13日(土)

会  場 山形国際ホテル(山形市)

お知らせ

ページ範囲:P.30 - P.30

ご案内 第32回The Mt. Fuji Workshop on CVD

ページ範囲:P.43 - P.43

会  期 2013年8月31日(土)

会  場 江陽グランドホテル(仙台市)

お知らせ

ページ範囲:P.70 - P.70

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.86 - P.86

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.87 - P.88

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.89 - P.89

次号予告

ページ範囲:P.91 - P.91

編集後記

著者: 吉峰俊樹

ページ範囲:P.92 - P.92

 新年号の「扉」に早川徹先生のお言葉をいただきました.昭和30年頃の久留勝先生の「系統外科学」では「外科は組織損傷を前提とする『侵襲的治療』であり,その意味では『本道』である内科からはずれた『外道』的治療である」とされていること,しかし近年では手術の低侵襲化や種々の低侵襲的治療法が導入され,その概念が変わってきたこと,などが述べられています.手術の「低侵襲化」の提唱は20年近く前,早川先生が第23回日本脳卒中の外科研究会を開催された際,主題を「less invasive surgery for cerebral stroke」として取り上げられたのが本邦で初めてのように思います.この頃は頭蓋底手術など,手術規模を拡大して新たな領域を開拓する努力がなされていました.早川先生もtransoral transclival approachによる脳底動脈瘤のクリッピングやlong vein graftによる頭蓋内血行再建術などに取り組んでおられましたが,その一方では手術の低侵襲化の必要性を痛感されていたようです.その後,多くの外科領域で手術の低侵襲化が追求され,また内科では血管内治療や内視鏡の使用が盛んとなり,外科と内科の垣根が低くなってきたものです.しかし,多くの場面では今も手術は最も強力な治療手段です.この手術は外科医だけに可能であり,それゆえ外科医はその責任者として手技の研鑽や改良,開発に全面的な責任を負っているといえます.

 このようななかで,昨年の脳神経外科学会学術総会では,テーマを「脳神経外科という医学―医学に育ち,医学を伸ばす―」として,脳神経外科が医学のなかで果たすべき役割や「立ち位置」について考えてみました.これで感じたことは,早川先生の述べられているように,日本の脳神経外科医は手術手技にこだわりその修練と改良に努める一方,患者さんの治療のためには手術以外の方法にも力を注ぐ点です.海外では珍しい取り組みです.本邦での恵まれた医療環境や医師の熱意とパワーや思考の柔軟性が,これを可能としているのかも知れません.多くの国ではこのような余裕はなく,「ひたすら手術に専従する」状態です.日本脳神経外科学会は会員数が9,000名を超えたといいます.ますます発展し,世界の医学に貢献してほしいものです.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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