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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻10号

2013年10月発行

雑誌目次

手術にまつわる数字

著者: 森岡基浩

ページ範囲:P.849 - P.850

 「先生は,この手術を今まで何例されていますか」と聞かれることが最近とみに増えました.以前はこのような質問はほとんどありませんでした.患者さんにしてみれば,自分の命を預けるわけですから,手術をたくさん経験した脳神経外科医に手術をしてもらいたいと希望されるのも当然のことでしょう.しかし,患者さんが先のような質問をするのは,手術数などで病院(術者)をランキングしたり,手術の名人を大々的に放送したりする一部の浅薄なマスメディアの影響もあることは否めないと思います.

 術者としての手術数の多い脳神経外科医は,経験も豊富で上手であろうと思いますが,もし,今後このように手術数で判断するような風潮が強くなったら,これからの若手の医師はどのようにして術者としての経験を積んでゆけばよいのでしょうか.どんな名人であれ第1例目は必ずあり,経験数が少ない時に手術をさせてもらえたから今があるわけです.しかし,現在は以前と違って手術数/手術成績が問われることがあり,若手の医師たちは,経験数をどうやって増やしてゆけるのか,大なり小なり不安を感じているようです.

総説

脊髄刺激療法再考

著者: 上利崇 ,   伊達勲

ページ範囲:P.851 - P.874

Ⅰ.はじめに

 脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,難治性の慢性疼痛に対する治療として,脊髄硬膜外腔に電極を留置し,脊髄後索を中心に電気刺激を行い,疼痛の緩和を図る治療法である.1965年のMelzackとWallのgate control theoryに基づき93).1967年,Shealyらにより末期癌患者に対して,後索刺激が行われたのが最初である126).最初の10年間は,SCSの成功率は低く,その理由として十分な患者選択が行われておらず,刺激療法自体に技術的な限界があったことが挙げられる.本邦では,SCSは1998年に保険収載となり,薬物治療,一般的外科治療が困難な難治性疼痛に対して行われてきた.近年,脊髄刺激装置や硬膜外刺激電極の新しいデバイスが次々に開発され,複雑な疼痛部位に対しても,適切な電気刺激を行えるようになり,治療成績の向上および適応疾患の拡大2)が期待される.

 本稿では,SCS再考と題し,SCSの作用機序,手術適応および治療効果について最近の文献をレビューし,当科での治療経験とともにSCSの有効性と問題点,今後の展望について解説する.

研究

くも膜下出血における神経症状の決定要因

著者: 雄山博文 ,   和田健太郎 ,   鬼頭晃 ,   槇英樹 ,   野田智之

ページ範囲:P.875 - P.881

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血は予後不良となる患者を多く含む疾患である.今回われわれは,神経症状の決定要因を判定することを目的として,既往歴,CT所見,動脈瘤所見などに関して,動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者233例をretrospectiveに検討した.その結果,頭蓋内圧亢進所見,動脈瘤の部位などが決定要因として見出されたので,報告する.

症例

トルコ鞍内solitary fibrous tumorの1例

著者: 清水陽元 ,   富永篤 ,   木下康之 ,   碓井智 ,   杉山一彦 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.883 - P.889

Ⅰ.はじめに

 Solitary fibrous tumor(SFT)は,1931年に胸膜原発の症例が報告されたのが最初である.当初は胸膜起源のものと理解されていたが,その後同様の組織像をもつ腫瘍が胸膜以外にも報告されるようになった.組織像が似ていることでhemangiopericytomaとの同異が問題となることがある.WHO軟部組織腫瘍分類では同一の疾患概念として記載されているが,WHO脳腫瘍分類ではそれぞれ別の疾患に分類されており,SFTの疾患概念の確立は今後の課題であると考えられる.

 中枢神経系に発生するSFTは現在まで200例以上の報告があるが,トルコ鞍内発生SFTは,われわれが渉猟し得た範囲では4例の報告があるのみであり,極めて稀な症例である.これらは非機能性下垂体腺腫と診断されることが多いが,治療戦略上その鑑別は重要である.トルコ鞍内発生SFTの画像所見には特徴があり,典型的な症例では正確な術前診断も可能であると考える.

 今回われわれはトルコ鞍内を発生母地とし,非機能性下垂体腺腫との鑑別を要した1例を経験したので,非機能性下垂体腺腫との鑑別点を中心に文献的考察を踏まえて報告する.

Anaplastic astroblastomaの鑑別診断と治療--症例報告と文献的考察

著者: 倉敷佳孝 ,   影治照喜 ,   溝渕佳史 ,   里見淳一郎 ,   佐藤浩一 ,   廣瀬隆則 ,   永廣信治

ページ範囲:P.891 - P.899

Ⅰ.はじめに

 Astroblastomaは稀な原発性脳腫瘍の1つであり,glioma全体の約0.45~2.8%と推定されている12,30).1930年にBaileyとBucyが25例のシリーズを初めて報告し,1989年にBonninとRubinsteinがその病理所見からlow grade/well-differentiatedとhigh grade/malignant(anaplastic)に分類し,予後が異なることを報告した2,5).しかし最新のWHO 2007年版の脳腫瘍分類では,astrocytoma,oligodendroglioma,ependymomaとは異なるother neuroepithelial tumorとして分類されているものの,その予後や治療については未だ議論のある点もありWHO gradeは定められていない20).今回,われわれは著明な血管増生を認めたanaplastic astroblastomaの1成人例を経験したので,その診断と治療について文献的考察を加え報告する.

海綿静脈洞部アスペルギルス症の1例

著者: 長谷知美 ,   栗田英治 ,   松本英司 ,   黒田一 ,   橋本雅章 ,   篠田宗次

ページ範囲:P.901 - P.906

Ⅰ.はじめに

 アスペルギルス症は免疫不全患者に発症することが多く,予後不良な疾患である2,11).さらに中枢神経系においては,脳血管への侵襲により脳血管障害を合併することも多い8,13).われわれは,副鼻腔炎からの浸潤によると考えられる海綿静脈洞部アスペルギルス症を経験した.内頚動脈閉塞を伴ったが脳梗塞は起こさず,外科的にbiopsyを行い,早期の診断治療により良好な経過が得られたので,文献的考察を加えて報告する.

連載 合併症のシステマティック・レビュー―適切なInformed Consentのために

(10)未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療

著者: 大石英則 ,   山本宗孝 ,   野中宣秀 ,   新井一

ページ範囲:P.907 - P.916

Ⅰ.はじめに

 Magnetic resonance angiography(MRA)やthree-dimensional computed tomographic angiography(3D-CTA)などの低侵襲検査法が広く普及し,未破裂脳動脈瘤の発見頻度が高まっている.こうした背景において,医師は患者に対して経過観察を含めた治療法を説明する義務がある.特に,外科的介入である開頭術(クリッピング術)と血管内治療について適切なインフォームドコンセントを行うことが求められる.しかし,1人の医師が双方の治療法に精通していることは少なく,自らの経験を踏まえて合併症リスクを説明することは難しい.そこで本稿は,日常診療において血管内治療に直接関わることが少ない医師が主な読者であることを前提とし,未破裂脳動脈瘤に対する血管内治療(コイルを用いて動脈瘤のみを閉塞する手技:コイリング術)の合併症リスクをシステマティック・レビューすることで,インフォームドコンセントを行う上での一助となることを目的とした.したがって,クリッピング術とコイリング術の優越を比較するものではなく,母血管永久閉塞術を含めた検討は行っていない.

 コイリング術もクリッピング術と同様に対象とする患者や術者の力量によって治療成績は大きく異なる.このため,合併症リスクは患者および術者側の背景を鑑みて総合的に判断されるべきものであり,過去の論文データから捉えられる数値を鵜呑みにして説明できるものではないことは強調したい.

脊椎脊髄手術に必要な基本的知識

(2)画像診断法

著者: 金景成 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.919 - P.933

 近年,高齢化社会の到来に伴い,脳神経外科医が脊椎脊髄疾患を診療する機会も増えてきた.神経疾患の治療に従事する脳神経外科医にとって,脊髄の神経症状を扱うことに関しては受容しやすいものであるが,運動器である脊椎を扱うことに関しては違和感を抱くものも少なくない.

 脊椎脊髄疾患を画像で評価するためには,骨の情報(脊椎),神経の情報(脊髄),さらには動きに伴う両者への影響について知る必要がある.本稿では,脊椎脊髄疾患を評価するための各種画像診断法の基礎知識について解説する.

書評

--山浦 晶●編集 山浦 晶,小林 英一,宮田 昭宏,早川 睦●執筆--脳動脈瘤とくも膜下出血 フリーアクセス

著者: 村山雄一

ページ範囲:P.917 - P.917

●くも膜下出血と脳動脈瘤に特化した力作

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳神経外科医にとってその診断から治療,術後管理に至るまで,脳神経外科診療の基礎が詰まっている病態である.本書は脳動脈瘤手術のパイオニアである山浦晶先生を代表とした初版から四半世紀を経て,歴史的考察から現代の最新の知見までをまとめた書である.この間,くも膜下出血の治療は大きく変貌を遂げたが,その背景にはEvidence based medicineの普及,クリッピング技術の改良,脳血管内治療の発展などがあり,また社会的には医療訴訟の増加などわれわれ医師を取り巻く状況も大きく変わりつつある.

 医学書院よりタイムリーに出版された本書は脳動脈瘤によるくも膜下出血に焦点を絞り,また少数の筆者による執筆であるため,各章の統一性が高くevidenceがはっきりしている事例のみならずcontroversialな事例に関しても筆者の考え方がよく伝わっている.また豊富なmemoにより関連する知識の肉付けもなされており,教科書としてだけでなく読み物としても興味深い書である.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.847 - P.847

お知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.874 - P.874

ご案内 第11回新都心神経内視鏡症例検討会 フリーアクセス

ページ範囲:P.899 - P.899

開 催 日 2013年11月2日(土)午後3時より

テ ー マ 水頭症(髄液生理学再考)

幹  事 名古屋市立大学脳神経外科 間瀬光人

開 催 地 株式会社大塚製薬工場本社ビル9階(東京・神田)

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.941 - P.941

編集後記 フリーアクセス

著者: 新井一

ページ範囲:P.942 - P.942

 本号の「扉」には,森岡基浩先生から「手術にまつわる数字」と題する原稿をいただいた.森岡先生は,情報公開の必要性に理解を示しつつも,昨今の病院/医師ランキングが流行する風潮に疑問を呈されている.地域格差の是正,若い外科医の育成など課題が山積の中,手術件数など数字に関する患者サイドの要求が過度に高まると,様々な弊害が生じる可能性を指摘されている.マスメディアが頻繁に医療を扱うのは,国民の健康や医療に対する関心の高さの表れかもしれないが,国民はわが国の医療について正しい認識を持っているのか,あるいは国民が正しい認識を持つようにマスメディアが十分に機能しているかについては,若干心もとないように思われる.

 少し古い話なので現在もそうかは不明だが,米国オレゴン州の低所得者用医療保険「オレゴン・ヘルス・プラン」の管理部局には,“Cost, Access, Quality. Pick any two. ”という言葉が額に入れて飾られているそうである.すなわち,医療をコスト,アクセス,質の3つの要素に分けると,3要素すべてを満足させる医療システムは存在し得ない,と暗に述べているのである.翻ってわが国の医療システムをみると,国民皆保険制度により諸外国より廉価で医療を受けることができ,待ち時間などの問題はあるが特段のアクセス制限もなく,長い平均寿命,低い新生児死亡率,世界トップクラスのがん5年生存率など,かなり高いレベルで3要素をクリアしている.マスメディアは,この事実を十分に国民に伝え,さらにこの高水準を維持してきたわが国の医療システムが制度疲労に陥りつつある理由を正しく伝えているだろうか.病院/医師ランキングも,マスメディアには医療に関する情報を国民に伝える責務があるという金科玉条によるものかもしれないが,そのやり方は,興味本位的で医療全般に関する考察が乏しいとするのは言い過ぎだろうか.もちろん,各種ランキングの元となるアンケート調査に情報を提供しているわれわれ医療サイドにも責任がないわけではない.公開すべき情報を秘匿することは誤りであるが,情報の信憑性の担保も含め,国民に徒に混乱を招かないように一定のルール作りが必要な時期にきているように思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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