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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻11号

2013年11月発行

雑誌目次

文武両道のススメ

著者: 黒田敏

ページ範囲:P.945 - P.946

 前任地から富山大学に赴任して1年あまりが過ぎた.あちこちで言い回っていることではあるが,富山の酒食は絶品である.そして,周辺には豊かな山・川・海の自然が満ち溢れ,われわれに四季折々の喜びを与えてくれる.県内には文学,芸術などの文化や,さまざまな産業が地道かつ逞しく定着している.そんな富山県に,われわれの講座が「富山医科薬科大学脳神経外科学講座」として産声をあげたのは,1980年4月である.つい先日,富山市内でささやかながら開講30周年記念祝賀会を開催させていただいた.ご多忙の中,ご参集いただいた皆さまには改めて感謝の意を表したい.

 さて,現在の臨床研修制度がスタートしてから約10年が経過しようとしている.富山大学に赴任してから数多くの医学生や研修医と話す機会が増えた.彼らの多くは,若いうちからできるだけ多くの臨床経験を積むことを願って研修先を決めている.しかし,小生は彼らにいつも説いている,効率よく優れた医師を育成する上で,大学における最初の10年間の研修ほど優れたシステムはないことを.

総説

日本の遺伝子治療の夜明け

著者: 𠮷田純

ページ範囲:P.947 - P.960

Ⅰ.はじめに

 科学の進歩を振り返ると,20世紀の前半は物理科学の時代,後半は生命科学の時代だと言われてきた.生命科学の夜明けは1953年のワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の解明であり,20世紀最後の10年にはヒトゲノム・プロジェクトが遺伝子工学とコンピュータ工学の進歩によって予想以上に早く進み,ヒトの全遺伝子は2万~2万5千個と推定され,発現調節構造を含む約30億塩基対からなるヒトゲノム全構造が決定された.そして21世紀はこれらの遺伝子情報に基づいたポストゲノム医療,遺伝子解析に基づいた診断,治療への応用の時代が到来すると期待された.こうした時代背景の中で,1990年,米国において遺伝子治療の臨床研究が始まり,わが国においても,5年後の1995年から高度先端医療としての遺伝子治療の臨床研究が始まった.本稿では筆者らが名古屋大学で取り組んだ悪性脳腫瘍を対象にした新規遺伝子治療法の確立とわが国初の純国産遺伝子治療薬の開発を中心に,日本の遺伝子治療の夜明けを振り返ってみる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

術中VEPモニタリングによる視機能の温存―VEPに変化を来した手術手技の検討から

著者: 佐々木達也 ,   西嶌美知春

ページ範囲:P.961 - P.976

Ⅰ.はじめに

 視覚路に関わる脳神経外科疾患では,視機能の温存や改善が手術の重要な目的である.しかしながら,意に反して術後に視機能が悪化することも経験する.手術中に視機能の正確なモニタリングが施行できれば,視機能障害の回避が可能となり,術後の機能回復にも貢献できる.1970年代から光刺激による視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)の術中モニタリングが試みられてきた8)が,安定性に乏しく臨床的に有用とはいえなかった4).そこで,筆者らは新しい光刺激装置を作製し,網膜電図(electroretinogram:ERG)の同時記録を追加し,propofolを用いた全静脈麻酔を用いたところ,VEPの再現性は良好になり安定したモニタリングが可能となった5).本稿では,VEPに変化を来した手術手技を検討することにより,視機能の温存における術中VEPの役割や意義について述べたい.

研究

高位内頚動脈狭窄症に対する頚動脈内膜剝離術--連続22例の検討

著者: 勝野亮 ,   谷川緑野 ,   宮崎貴則 ,   上森元気 ,   川崎和凡 ,   泉直人 ,   橋本政明

ページ範囲:P.977 - P.985

Ⅰ.はじめに

 頚部内頚動脈(internal carotid artery:ICA)狭窄症に対する治療は頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)と頚動脈ステント術(carotid artery stenting:CAS)が存在する.CASはCEAが困難な症例(高位病変,高齢者,CEA後の再狭窄,放射線治療後,全身疾患の合併)で選択されていたが,近年の血管内治療技術の進歩によりそれ以外の症例でもCASが行われるようになってきた.しかし未だCASにおけるdistal embolism11)や全周性の石灰化病変17)に対する問題が完全に解決されていない.したがって,当院では高位病変でも積極的にCEAを施行してきた.十分にICA遠位部を露出し,プラークの遠位端を確実に処置することが安全なCEAを施行するにあたり不可欠であるが,高位病変に対しては困難な状況が存在する.しかし,当院では高位病変に対して浅層の構造物を広範囲に丹念に処理することで,経鼻挿管や顎関節脱臼などの特別な方法1,7)を必要としない通常の手術手技で対応してきた.その手技の成績と術後の有害事象の発生頻度を検討し,報告する.

症例

術前に塞栓術を行った頭蓋内inflammatory pseudotumorの1例

著者: 渡部彩子 ,   登坂雅彦 ,   宮田貴弘 ,   佐山節子 ,   坂本和也 ,   淀縄昌彦 ,   國峯英男 ,   藤井卓 ,   中里洋一

ページ範囲:P.987 - P.993

Ⅰ.はじめに

 Inflammatory pseudotumor(IPT)は筋線維芽細胞ないし線維芽細胞の特徴を示す紡錘形細胞の増殖と,リンパ球や形質細胞を主とする炎症細胞の著明な浸潤からなる病変である.ほとんどすべての臓器での発生が報告されているが,中枢神経系での発生の報告は稀である7,16).今回,術前に塞栓術を行い摘出した症例を経験したので,病理学的概念,診断について文献的考察を加え報告する.

中硬膜動脈を栄養血管とする髄膜腫塞栓術において眼動脈との吻合のため工夫を要した1例

著者: 目黒俊成 ,   冨田祐介 ,   田邉智之 ,   村岡賢一郎 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹

ページ範囲:P.995 - P.999

Ⅰ.はじめに

 髄膜腫開頭摘出術の前処置として行われる栄養血管塞栓術は,開頭摘出術中の出血量の軽減や手術時間の短縮,摘出中に確保困難な栄養血管の閉塞などを目的として行われることが多く,栄養血管が外頚動脈系であることが多いため脳血管内治療初心者の塞栓術トレーニングとしても行われやすい治療である.しかし,外頚動脈系血管の塞栓術では,いわゆるdangerous anastomosisや脳神経の栄養血管に注意を払わなければ思わぬ合併症を引き起こすことがあるのも事実である.

 今回われわれは,摘出術前に中硬膜動脈からの栄養血管塞栓術を施行した髄膜腫症例において,術中に中硬膜動脈と眼動脈との吻合を認めた症例を経験した.この血管吻合自体はよく知られているが,髄膜腫塞栓術に際しては常に注意が必要であると思われるため,若干の文献的考察を加えて報告する.

箸による経眼窩的頭蓋内穿通性脳損傷--症例報告と文献レビュー

著者: 山崎文之 ,   大毛宏喜 ,   津村龍 ,   渡邊陽祐 ,   野坂亮 ,   穐山雄次 ,   石風呂実 ,   江口国輝 ,   富永篤 ,   来栖薫

ページ範囲:P.1001 - P.1009

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内への穿通性外傷は頭部外傷の中で0.4%程度の頻度と比較的稀で8,22),経眼窩的あるいは経鼻的なものが多い.経眼窩的脳損傷はその診断および治療が遅れなければ予後は比較的良好とされるが,経眼窩的穿通性脳損傷の創部はときに外観上軽微であり,加えて無症状であれば脳損傷の診断は困難なことがある.今回われわれは箸による経眼窩的頭蓋内穿通性脳損傷の1例を経験したので,その画像診断の有用性や問題点を文献的に考察して報告する.また,箸による経眼窩的頭蓋内穿通性脳損傷の特徴を文献的に検討する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

下垂体腫瘍術後に急性中大脳動脈閉塞症を来した1例から学んだこと

著者: 高田能行 ,   須磨健 ,   渋谷肇 ,   吉野篤緒 ,   片山容一

ページ範囲:P.1011 - P.1015

Ⅰ.経験症例

1.症例

 70歳女性.視野障害を主訴に他院より紹介された.意識レベルは清明でGoldmann視野検査で両耳側半盲を認めた.頭部MRIを施行したところトルコ鞍内から鞍上部に進展する腫瘍性病変を認め,下垂体ホルモン値に異常はなく,非機能性下垂体腺腫が疑われた.既往には高血圧症とMRAにおいて無症候性左中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)狭窄を有していた(Fig.1).

 下垂体腫瘍に対する手術目的に当院へ入院し,全身麻酔下で内視鏡下経蝶形骨洞腫瘍摘出術を行った.術中の出血量は25ccで,術後特に異常所見は認めなかった.しかし,術翌日の午後12時30分より意識障害,右片麻痺および運動性失語症が出現した.意識レベルはJapan Coma Scale Ⅰ-3で右上下肢Manual Muscle Test(MMT)2/5の状態であった.頭部MRI,MRAを施行したところ,diffusion-weighted image(DWI)で左放線冠に淡いhigh intensity areaと,MRAで左MCAの閉塞を認めた(Fig.2).発症3時間以内であり血栓溶解療法を考慮したがrecombinant tissue-plasminogen activator(rt-PA)静注療法の禁忌項目である「3カ月以内の重篤な頭部脊髄の外傷あるいは手術」に該当するため,血管内治療を行った.

化膿性脊椎炎に対して後方固定術を施行した1例

著者: 伊師雪友 ,   青山剛 ,   矢野俊介 ,   飛騨一利 ,   笹森徹 ,   山内朋裕 ,   村田純一

ページ範囲:P.1017 - P.1021

Ⅰ.経験症例

1.症例

 74歳男性,僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁置換術(機械弁)の既往がある.1カ月前から持続する背部痛を主訴に他院を受診し,精査目的に入院となった.入院18日後に右下肢麻痺が出現し急速に対麻痺,排尿障害へ進行した.MRIで胸椎硬膜外血腫と診断され緊急転院となった.MRI(Fig.1)では,Th5,6椎体に信号変化を伴う圧潰を認めた.また,Th5,6椎体後面にT1強調像で低信号,T2強調像で高信号を呈する液体貯留を認め,脊髄に軽度の圧迫を伴っていた.以上の所見から化膿性脊椎炎および脊髄硬膜外膿瘍と診断した.

脊椎脊髄手術に必要な基本的知識

(3)頚椎前方手術

著者: 菅原卓

ページ範囲:P.1023 - P.1034

Ⅰ.はじめに

 頚椎前方手術は頚椎症,椎間板ヘルニア,後縦靱帯骨化症,頚椎頚髄腫瘍,頚髄前面血管病変などの手術として広く行われている.脱出椎間板・骨棘・後縦靱帯骨化巣などの脊髄・神経根圧迫病変は前方にあることが多く,前方アプローチにより病変そのものを処理できることが大きな利点である.また,頚椎前面は後面に比べて付着する筋肉が少量であり,手術による筋層への侵襲が少ない.しかし,多くの前方手術では椎体間固定により椎間板機能が失われること,椎体前面に到達するまでに重要な組織の近傍を通過するために,さまざまな合併症が生じ得ることが欠点である.本稿では手術適応,エビデンス,手術法の概略,合併症とその予防法,インフォームドコンセントについて解説する.

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欧文目次

ページ範囲:P.943 - P.943

お知らせ

ページ範囲:P.985 - P.985

お知らせ

ページ範囲:P.999 - P.999

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.1034 - P.1034

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.1036 - P.1036

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.1037 - P.1038

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1039 - P.1039

次号予告

ページ範囲:P.1041 - P.1041

編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.1042 - P.1042

 本誌「扉」の黒田敏先生の「文武両道のススメ」に記されていたBo K. Siesjö先生の訃報には感慨深いものがある.かつて脳虚血の研究をした多くの先生方にとって,Siesjöという名前は,やはり特別ではなかろうか.脳虚血の生化学的解析を開拓した巨人である.30年前は,その著書『Brain Energy Metabolism』を小生も持っていたが,いつの間にかなくしてしまった.ご冥福をお祈りしたい.

 𠮷田純先生の総説,「日本の遺伝子治療の夜明け」も大変興味深い.先端医療と共に歩んでこられた𠮷田先生ならではの時代の証言である.遺伝子治療研究の世界的趨勢から,2000年の悪性脳腫瘍に対するインターフェロン遺伝子治療の開始,名古屋大学における遺伝子治療と細胞・再生医療の研究開発体制の整備,そして今後の展望に至るまで,包括的に詳述されている.1980年の世界初の遺伝子治療から,様々なレギュレーションなど社会環境の整備と歩を合わせてわが国で脳腫瘍の遺伝子治療が開始されるまで,実に20年を要している.改めて先端医療開発と応用の困難さを思い知らされる.遺伝子治療にかかわらず,先端医療技術開発の本質的な難しさは,開発への時間・費用投資の物理的負担に加えて,それらの医療技術が患者の予後をよくして初めて世に残る点にあると思う.新たな医療機器も,実際に医療現場で使われてこそ初めて価値が生まれる.だからこそやりがいがあるとも言えるかもしれない.国策として医療・医療機器産業の推進が叫ばれる中,アカデミアの役割も変貌しつつある.アカデミアでの閉じられた専門知は産業としての駆動力になり得ないため,アカデミアが産業基盤の一翼を担い,企業と伴走しながら医療産業に資することが求められている.産学官連携関連のプロジェクトに巨額な予算がつぎ込まれ,日本版NIH構想も具体化しつつある.しかし医療イノベーションという観点からみれば,わが国の社会環境・教育環境・医療環境は,欧米に比してまだまだ改善すべき点があると思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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