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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

二刀流の勧め

著者: 兵頭明夫

ページ範囲:P.195 - P.196

 「二刀流」とは,Wikipediaによると「両手(右手と左手)にそれぞれ刀もしくは剣を持って,攻守を行う技術の総称.二刀剣法とも呼ばれる.また,左右両方の手それぞれが,武器を扱うことから,2つの異なる手段をもって事にあたること,あるいは同時に2つのことを行うことなどを意味するようにもなった」とある.「二刀流」の使われ方には本来の剣法での用いられ方の他に「酒と甘味の両方を好む人」「野球の左右打ち(スイッチヒッター)」などいろいろあるが,ここでは私の専門である脳血管障害の外科的治療における直達手術と血管内治療の両者,特に脳動脈瘤の治療としてのクリッピングとコイル塞栓術を行う脳神経外科医を意味することにする.

 私が脳神経外科医になった1970年代の後半には,わが国では脳動脈瘤の治療としての血管内治療の出番はほとんどなかった.私は卒後5~6年目に当時美原記念病院で脳血管障害の外科的治療を精力的に行っていた水上公宏先生にトレーニングを受ける機会を得たが,その時脳神経外科の直達手術のトレーニングとともに血管内治療を始めるきっかけがあり,1982年に筑波大学に戻ってからもバルーンカテーテルを用いた脳動静脈奇形に対するfeeder occlusionや悪性脳腫瘍に対する超選択的動注化学療法などを独自に行っていた.1988年にはマイクロカテーテルが使えるようになり,1993年にIDCコイル(GDCコイルが保険償還された1997年までの間に使われた,初期型機械式離脱型コイル)が出てからは,脳動脈瘤に対しても直達手術が困難な例に積極的に血管内治療を行った.1997年にはGDCコイル(IDCコイルに比較すると格段に安全容易に使用可能な電気的離脱型コイル)が保険償還され,2002年のISATの結果などもあり,ご存知のとおりコイル塞栓術が脳動脈瘤の根治術の1つとして認知され,その治療件数は年々増加している.

総説

症候性脳放射線壊死の診断と治療

著者: 宮武伸一

ページ範囲:P.197 - P.208

Ⅰ.はじめに

 高線量放射線治療は膠芽腫を中心とする悪性脳腫瘍の生命予後を確実に延長している3,6,9,24).また転移性脳腫瘍に対しては定位放射線治療が積極的に適応され,これも生命予後の改善につながっている21).一方でこれら高線量,高精度放射線治療の適応により,症候性脳放射線壊死が問題となっている.

 この症候性脳放射線壊死に対してはステロイドホルモンなどが経験的に投与されてはいるが,有効な治療法は確立されていない.またその診断も通常のMRIでは難しい.右後頭葉と左頭頂葉の多発性の転移性脳腫瘍(原発巣は乳癌)に定位放射線治療を行った後で生じた脳放射線壊死に対して,壊死巣除去術を行った症例の術前後のMRIをFig.1に示す.術前の画像では,gadolinium(Gd)で造影増強され,その病変を中心とした広範な脳浮腫を認めている.このMRIの所見からは腫瘍の再発との鑑別が不可能であるが,後に述べるアミノ酸トレーサを用いたpositron emission tomography(PET)により,脳放射線壊死と診断した.この浮腫により右片麻痺を生じていたが,ステロイドホルモンの投与によっても症状は改善しなかったので,壊死巣除去術を行った.この症例はわれわれに多くのことを教えてくれた.手術操作は2個の造影病変のみを摘出したが,この手術操作により,術後早期から浮腫の劇的な軽快を認めた.われわれ脳神経外科医は,造影される壊死巣本体を摘出すれば,このような浮腫の軽減につながることを経験的に認識していたが,なぜ造影病変のみを摘出すれば,浮腫の軽減につながるかは不明であった.この手術により,患者は歩行可能となったが,一方で視野狭窄は悪化した.当時はステロイドホルモン以外には手術しか浮腫の軽快は望めなかったので手術を選択したが,時には術前より症状を増悪させることもあり得る.

 以下に,われわれが壊死巣除去術を行った病理組織標本での組織学的,免疫組織学的な解析から,脳放射線壊死の病態を解説する.

研究

脳神経外科通院中のてんかん患者の気分障害とラモトリギンによる改善効果

著者: 梶田泰一 ,   吉田康太 ,   永井俊也 ,   若林俊彦

ページ範囲:P.209 - P.218

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科が対象とするてんかん症例では,頭部外傷や脳腫瘍などに伴う症候性局在関連てんかんが多数を占める.近年,てんかん患者の治療においては,てんかん発作のコントロールを含めたquality of life(QOL)の向上が求められている.一方,脳神経外科に通院中の症候性部分てんかん患者においては,てんかん発作のコントロールが主眼となるため,併発する気分障害に関する報告は少ない.今回,われわれは,2つの質問紙票を用いて,脳神経外科に通院するてんかん患者の気分を評価した.また,新規抗てんかん薬ラモトリギン(LTG)は,てんかん患者の気分障害を改善することが知られている4,6,19).このことからLTG服薬開始前後のてんかん患者の気分の変化を検討した.

グリオーマ摘出術中の運動誘発電位モニタリングの有用性と限界

著者: 福多真史 ,   大石誠 ,   高尾哲郎 ,   平石哲也 ,   小林勉 ,   青木洋 ,   小倉良介 ,   斉藤明彦 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.219 - P.227

Ⅰ.はじめに

 運動野あるいは錐体路近傍に局在するグリオーマの摘出に際しては,術中の皮質脊髄路の機能評価が重要である.近年,脳神経外科手術中に,運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)モニタリングが広く行われ,術後の運動機能との相関について多数報告されている1,3-6,8-13,15,16,20).MEPのモニタリング方法は,刺激については経頭蓋電気刺激13,17,20),運動野皮質刺激4,6,9,10),皮質下刺激12)の3種類,記録部位としては頚髄硬膜外から記録する方法1,3,5)と末梢筋から記録する方法4,6,9-11,13,15,16)の2種類があり,施設によりさまざまな方法が用いられている.

 今回われわれは,運動野および錐体路近傍のグリオーマで,術中皮質刺激によるMEPモニタリングを施行した症例において,術中MEP所見と術後の運動機能との関係をretrospectiveに解析し,特にfalse negative, false positiveの観点から症例を詳細に検討して,術中MEPモニタリングの有用性と限界について考察した.

症例

くも膜下出血で発症した内頚動脈後壁blister-like aneurysmの1例

著者: 高口素史 ,   鈴山堅志 ,   内山拓 ,   岡本浩昌 ,   高瀬幸徳 ,   河島雅到 ,   松島俊夫

ページ範囲:P.229 - P.234

Ⅰ.はじめに

 Blood blister-like aneurysm(BBA)は,一般的に動脈瘤壁が脆弱で裂けやすいため,通常のクリッピング術は難しく,その再破裂予防の標準的な治療法は確立していない1,3,9).BBAの多くは,いわゆる内頚動脈前壁動脈瘤と呼ばれるものであり,後壁に生じるものは極めて少ない9).今回われわれは,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)で発症し,その後ダイナミックな形状の変化を示し,治療に難渋した内頚動脈後壁のBBAの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

急性硬膜下血腫を来した髄膜腫の1手術例

著者: 長南雅志 ,   新妻邦泰 ,   小山新弥 ,   昆博之 ,   三戸聖也 ,   黒滝日出一 ,   緑川宏 ,   佐々木達也 ,   西嶌美知春

ページ範囲:P.235 - P.239

Ⅰ.はじめに

 髄膜腫は頭蓋内腫瘍の中では最も頻度の高い良性腫瘍である.脳内出血や腫瘍内出血を伴うことがしばしば報告されている1,3-13,15-18,20-23).一方,硬膜下血腫を合併した髄膜腫の症例はわれわれが渉猟し得た限り,これまで26例の報告があり,比較的稀である3,5,7,8,10,12,13,15-18,20-23)

 今回,われわれは急性硬膜下血腫を来した髄膜腫の1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

解離性椎骨動脈瘤により急性増悪した片側顔面痙攣の1例

著者: 髙原正樹 ,   安部洋 ,   大川将和 ,   岩朝光利 ,   上羽哲也 ,   東登志夫 ,   高野浩一 ,   井上亨

ページ範囲:P.241 - P.246

Ⅰ.はじめに

 片側顔面痙攣は発作的に不随意に顔面の表情筋が攣縮するもので,器質的病変が存在し顔面神経のroot exit zone(REZ)への圧迫により生じると考えられている.血管圧迫が最も多い原因であるが,そのほかに腫瘍,脳動静脈奇形,動脈瘤によるものが報告されている7,10,14,16).今回われわれは,解離性椎骨動脈瘤により増悪した片側顔面痙攣の1症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

Thoracocervical giant perimedullary arteriovenous fistulaの1例

著者: 山口慎也 ,   濱村威 ,   伊藤理 ,   佐山徹郎 ,   下川能史 ,   松角宏一郎 ,   森岡隆人

ページ範囲:P.247 - P.253

Ⅰ.はじめに

 脊髄perimedullary arteriovenous fistula(PMAVF)は,広義の脊髄動静脈奇形の一型であり,前脊髄動脈や後脊髄動脈が脊髄表面でnidusを介さず脊髄静脈へのシャントを来すものである1-6,8,9).発症の病態としては,静脈圧の上昇による脊髄症状4,5,8,19)やくも膜下出血5,8,19)が一般的であるが,稀に静脈瘤や異常拡張した静脈によるmass effectのために脊髄の圧迫を来す場合がある.これらはgiant perimedullary arteriovenous fistula(GPMAVF)として報告3,4,6,7,9,10,12,14-17,20-25)されている.

 今回われわれは,PMAVFの異常拡張した流出静脈が上部胸髄~頚髄を広範囲にわたって圧迫しprogressive myelopathyを来したthoracocervical GPMAVFを経験した.その臨床経過および治療に関して,文献的考察を加え報告する.

外科的摘出および定位放射線治療が有用であった転移性滑膜肉腫の1例

著者: 大谷理浩 ,   市川智継 ,   黒住和彦 ,   柳井広之 ,   国定俊之 ,   尾崎敏文 ,   伊達勲

ページ範囲:P.255 - P.262

Ⅰ.はじめに

 滑膜肉腫は若年成人の四肢近傍に好発する悪性軟部組織腫瘍であり,軟部肉腫の5~10%を占める疾患である.病理組織所見で滑膜に似た形態をとるため滑膜肉腫と命名されたが,起源は不明である.治療は広範囲切除が主軸であるが,5年生存率は36~82%と予後不良な疾患である.滑膜肉腫の約30%に転移を認めるが,頭蓋内転移は非常に稀であり,われわれの渉猟し得た限りでは過去に4例の報告がみられるのみである.

 今回われわれは,滑膜肉腫の転移性脳腫瘍の症例に対して外科的摘出および定位放射線治療を行い,良好な経過が得られたので,文献的考察を加え報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(6)頭蓋形成術後に骨融解を来した小児頭部外傷例から学んだこと,および対応策の検討

著者: 天野敏之 ,   中溝玲 ,   吉本幸司 ,   溝口昌弘 ,   森岡隆人 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.263 - P.267

Ⅰ.経験症例

1.症例

 1歳9カ月女児.約6mの高さの自宅2階から転落して頭部を打撲し,救急車で近医に搬送された.頭部CTを施行したところ,急性硬膜外血腫,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血,脳挫傷を認め,そのまま当院へ転送された.当院来院時の意識レベルはGlasgow Coma Scale(GCS)でE1VTM4であり,緊急で減圧開頭血腫除去術を施行した.

脳神経血管内治療医に必要な知識

(7)頚動脈ステント留置術の基本

著者: 片岡丈人

ページ範囲:P.269 - P.282

Ⅰ.はじめに

 本邦では,2008年4月に頚動脈用ステントとして初めて頚動脈用プリサイスと,プロテクションディバイスとしてアンジオガード(ジョンソンエンドジョンソン株式会社)が保険収載された.2010年8月には頚動脈用ウォールステントモノレールとフィルターワイヤーEZ(ボストンサイエンティフィックジャパン株式会社)が追加され,その後,中心循環系塞栓捕捉用カテーテルとしてガードワイヤ・プロテクションシステム(日本メドトロニック株式会社)も正式に保険収載された.また,2012年7月にPROTÉGÉ頚動脈ステントセットとスパイダー・プロテクション・デバイス(コヴィディエンジャパン株式会社),2013年1月には,外頚動脈と総頚動脈を同時に遮断するプロキシマールプロテクションディバイスMOMAウルトラ(メドトロニック)が保険収載され,選択肢はさらに拡大した.上記3種類のステントと4種類のプロテクションディバイス,各社から発売されているバルーン付きガイディングカテーテルの中から最適と考える組み合わせを選択して治療を行っている.これらを用いた頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)によって,安全かつ良好な結果を得るためには,ディバイスの構造や特徴,適応などを熟知している必要がある.

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欧文目次

ページ範囲:P.193 - P.193

お知らせ

ページ範囲:P.227 - P.227

お知らせ

ページ範囲:P.262 - P.262

お知らせ

ページ範囲:P.282 - P.282

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.284 - P.284

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.285 - P.286

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.287 - P.287

次号予告

ページ範囲:P.289 - P.289

編集後記

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.290 - P.290

 天気予報が当たらない.豪雪とまではいかないが,雪の多い札幌に住む私は,朝,自分の車で運転して行くか,地下鉄で行くかは,天気予報を頼りに決めている.大雪の予報であれば,地下鉄と決める.深夜に帰宅する私にとって,雪に埋まった車を掘り出すのは,難行苦行であるし,人里離れた田舎にある私の自宅周辺では,迅速な除雪は期待できず,これまでも,何度も,自宅を目の前に,図体だけが大きな愛車が雪に埋まり,身動きできなくなる悲劇に遭遇している.車は便利であるが,天気予報が雪となれば,地下鉄の選択となる.ご存知かもしれないが,当然のことながら,気象学もデータベースになり,いわゆる超高速のスーパーコンピューター(スパコン)が,沸騰するような熱を発生しながら必死に天気予報をする時代である.「京」のようなスパコンが必要な理由はこのあたりにもある.がしかし,その予報は,長期予報はともかく,その日の限られた地区の予報ですらさっぱり当たらない…と思うのは,その日の交通手段の選択決定を頼っている私1人ではないように思う.

 やや,アカデミックな話になるが,ローレンツの「バタフライ効果」で知られているように,気象は典型的な複雑系であり,初期条件のほんのわずかな違いが,大きな結果の隔たりを発生させることが知られている.天気予報の精度が100%になるには,現代科学にコペルニクス的革命が必要であることは容易に想像される.その結果,国際情勢,経済の変化,選挙結果まで,高い確度で予想される可能性はある.それは,おそらく医学にも革命的な変化をもたらすと想像される.ただ,その日は遥かに遠い.臨床医学に日常的に関わっている私たちは,医療の不確実性をいつも痛感している.天気予報よりはましかもしれないが,ベッドサイドではいつも思いがけない結果に遭遇して,狼狽することも多い.臨床医学は複雑系の科学の代表であり,様々な視点のエキスパートであるべきということは論を俟たないと思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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