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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻4号

2013年04月発行

雑誌目次

脳死判定の検証から

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.293 - P.294

 およそ半世紀も前になるが,1967年末にC. Barnardにより世界で初めて心臓の移植手術が行われた.その翌年,わが国でも和田教授によって心臓移植が行われた.その際に臓器の提供者(以下,ドナー)の脳死判定に疑問があり,しかも移植医サイドによる一方的な密室判定であったため,日本国内では医学界からも一般社会からも,脳死移植はしばらく遠ざかってしまった.現在では脳死下で臓器提供の場合に,「移植医はドナーの脳死判定には関与してはならない」という鉄則が世界中で守られている.

 その後,紆余曲折の末,わが国でも1997年になってようやく臓器移植法が成立した.そして2012年末までに,200例を超える脳死下での臓器提供が実現した.

総説

脳神経外科手術に必要な麻酔の知識,最近の動向

著者: 糟谷祐輔 ,   尾崎眞

ページ範囲:P.295 - P.304

Ⅰ.はじめに

 昨今の画像診断技術の進歩に伴って脳神経外科領域の疾患はより正確に,より早期に診断されるようになった.脳腫瘍や脳血管性の疾患のみならず,不随意運動疾患や慢性疼痛,てんかんなどの非腫瘍性,非血管性疾患に対する機能改善を目的とする術式も増えている.今や脳神経外科で扱う手術は非常に多岐にわたり,かつて第一に求められてきた救命のための手術という考え方から,神経学的および全人的な機能予後の維持・改善に重点が置かれるようになってきている.

 術中の脳神経機能モニタリングは守るべき脳神経機能の局在と保全状態を知る手段として極めて重要であり,腫瘍摘出術,脳血管手術,脊髄手術など多くの手術でスタンダードとなっている.

 聴神経腫瘍摘出術では脳神経モニタリングの精度が術後の神経予後に直結するため,精度の高い神経モニタリングを行う必要があり,それには全身麻酔の知識が必須である.なぜならば,全身麻酔薬は体性感覚,運動神経や脳神経などの神経系モニタリングに大きく干渉するからである.患者の不動,無動,無意識という全身麻酔の要素を達成しつつ,脳神経モニタリングの精度を維持するという絶妙な手術フィールドを提供するには,高度な知識と経験に裏打ちされた麻酔管理が必要である.

 また,言語機能モニタリングは全身麻酔下では施行不可能なため,言語野領域近傍の手術では覚醒下で開頭手術を行うawake craniotomyが行われる.開頭操作時には鎮静鎮痛が必要であり,気道管理が重要であるとともに,必要時に十分な覚醒が得られるように鎮静レベルをコントロールするという特殊な麻酔管理が必要である.

 本稿では,一般的な脳神経麻酔についてのポイントをいくつかと神経モニタリングについて詳しく述べ,新しい領域の手術であるawake craniotomyの麻酔とてんかん手術の麻酔法,最後に近年術後合併症として重要視されている肺血栓塞栓症の予防について,最新の知見を交えて解説する.

研究

後頭部痛・頚部痛のみで発症した椎骨動脈解離の臨床像

著者: 越後整 ,   松井宏樹 ,   岡英輝 ,   橋本洋一 ,   日野明彦 ,   塩見直人 ,   糟谷英俊

ページ範囲:P.305 - P.310

Ⅰ.はじめに

 近年MRIの普及により,日常診療において,頭痛や頚部痛のみを主訴とした椎骨動脈解離に遭遇する機会が増えている.その大部分は予後良好と考えられるが6),稀にくも膜下出血や血管閉塞に移行する症例も報告されている1,4).頭痛・頚部痛以外に神経症状のない患者が,突然重篤な状況に陥る可能性がある以上,その自然歴を明確にして,実際の治療方針に生かすことは重要と考える.これまで当院で経験した症例を後視的に検討し,その臨床的特徴について報告する.

未破裂遠位部脳底動脈瘤に対するanterior temporal approachの限界とその対応

著者: 勝野亮 ,   谷川緑野 ,   宮崎貴則 ,   太田仲郎 ,   野田公寿茂 ,   泉直人 ,   橋本政明

ページ範囲:P.311 - P.318

Ⅰ.はじめに

 一般的に脳底動脈先端部(basilar artery top:BA top)や脳底動脈上小脳動脈分岐部(basilar artery-superior cerebellar artery:BA-SCA)の遠位部脳底動脈瘤に対する外科的治療は,transsylvian approach9)とsubtemporal approach2)が選択される場合が多い.しかし脳圧排の少なさや対側の後大脳動脈(posterior cerebral artery:PCA)の確認には前者が優れ,脳底動脈瘤背側の確認には後者が優れているとされ,両者は一長一短である.したがって両者の中間からapproachするanterior temporal approach(ATA)3,7,8)は,おのおのの長所を生かし広範な術野が獲得できると考え,当院では採用している.ATAを実施する際にはapproachの限界と対応方法を理解しておく必要がある.当院における遠位部脳底動脈瘤に対するATAの実際と発展を提示し,その有用性を報告する.

症例

両側後頭葉梗塞を合併した慢性硬膜下血腫の2例

著者: 工藤香名江 ,   奈良岡征都 ,   嶋村則人 ,   大熊洋揮

ページ範囲:P.319 - P.322

Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma:CSH)は脳神経外科診療で頻繁に遭遇する疾患であり,比較的転帰良好と考えられている.しかし,われわれは入院時意識レベルがJapan Coma Scale(JCS)Ⅲ桁であり,CSHに起因する両側後頭葉梗塞を合併した2症例を経験した.CSHに脳梗塞が合併することは稀で,われわれが渉猟し得た限りでは,Pevehouseらの7例のCSHに片側後頭葉梗塞を認めたとの報告を含め14例のみであった4,7,8,10,15,18).両側後頭葉梗塞はさらに少なく,3例の報告を認めるのみである4,15).本症例の病態や脳梗塞の発生機序につき,文献的考察を交えて,報告する.

開頭術後の生体活性骨ペーストアレルギーの1例

著者: 溝脇卓 ,   三宅茂 ,   義本裕次 ,   松浦喜貴 ,   秋山創

ページ範囲:P.323 - P.327

Ⅰ.はじめに

 生体活性骨ペーストは,主にリン酸カルシウム系の粉体と水系の硬化液を混練し粘土状あるいはペースト状にして,骨欠損部や骨折部に補塡して使用する自己硬化型の骨補塡材である.形態付与性に優れるため,複雑な形状の骨欠損部に補塡できる.混練・補塡後,水和硬化反応により硬化し,体内で低結晶性の骨類似水酸アパタイトに転化するため,生体活性が高く骨と直接結合する.国内では2000年より市販され,整形外科,形成外科,脳神経外科などで広く使用されている4)

 われわれは,生体活性骨ペーストによるアレルギーが原因で,開頭手術後に創部皮膚潰瘍を繰り返した症例を経験したので報告する.

硬膜内に進展した後頭骨板間層類皮腫の1例

著者: 磯部尚幸 ,   高野元気 ,   築家秀和 ,   野坂亮 ,   江口国輝 ,   國安弘基

ページ範囲:P.329 - P.335

Ⅰ.はじめに

 類上皮腫や類皮腫はともに胎生期遺残組織の迷入が主な発生母地とされ,脳腫瘍としては比較的稀な腫瘍である.前者は上皮組織のみで囲まれ皮膚付属器を欠き,小脳橋角部や傍鞍部,頭蓋骨板間層によく認められるのに対し,後者は皮脂腺や毛髪などの皮膚付属器を有し,下垂体部や小脳虫部,脳幹,副鼻腔,眼窩などの正中線上に好発する.今回,CTおよびMRI所見より右後頭骨板間層から頭蓋内に大きく進展した類上皮腫と術前診断したものの,病理組織にて囊胞壁の一部に皮脂腺を含んでいたため類皮腫と診断された1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

後頭部痛のみで発症し,短期間に形態変化を示したためコイル塞栓術を施行した椎骨動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 井上明宏 ,   田川雅彦 ,   久門良明 ,   渡邉英昭 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.337 - P.342

Ⅰ.はじめに

 椎骨動脈解離性動脈瘤(vertebral artery dissecting aneurysm:VADA)は,後頭蓋窩の脳卒中の重要な原因の1つとして知られており,近年その報告数は増加しつつある3).一般に,VADAはくも膜下出血にて発症する出血例と脳梗塞を生じる虚血例に大別されるが,疼痛のみで発症し経過する症例も少なからず存在する.過去の報告においてもその存在は知られていたが,本病態のみに注目した報告は少なく治療方針に苦慮することも多い2,6,8,12,13).今回われわれは,疼痛にて発症したVADAに対し,経過中にくも膜下出血や脳梗塞を認めなかったものの,短期間に形態変化を繰り返したため,血管内治療を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.

報告記

第7回日独合同脳神経外科会議(2012年6月13~16日)

著者: 川島明次

ページ範囲:P.344 - P.345

 2012年6月13日から16日にドイツLeipzigにて,第7回日独合同脳神経外科会議(Joint meeting of the German Society of Neurosurgery and the Japanese Neurosurgical Society)が開催されました.会長はLeipzig大学のJürgen Meixensberger教授でした.ドイツ脳神経外科総会にあたる63rd Annual Meeting of the German Society of Neurosurgeryとの同時開催でした.Leipzigはドイツの東部に位置し,バッハゆかりの地として有名な街です.ゲーテやニーチェ,森鷗外とも関係が深く,文化と伝統が色濃く残っています.

 初日の日独合同脳神経外科会議に日本から17演題が発表されました.日独ともに各分野のexpertの発表であり,非常に興味深いものばかりでした.そして2日目以降の63rd Annual Meeting of the German Society of Neurosurgeryでは,全450演題のうち約50演題が日本人の発表でした.日本からだけでなく,私を含めドイツ留学中の数人の脳神経外科医も参加・発表しておりました.レセプションでは,日本を代表して髙倉公朋先生が日独友好に関するスピーチをされました.

連載 脳神経血管内治療医に必要な知識

(8)頚動脈ステント留置術(CAS)以外の頭蓋内外血行再建術(脳血管攣縮を含む)

著者: 津本智幸

ページ範囲:P.347 - P.358

Ⅰ.はじめに

 血管内治療における血行再建術としては,頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)が頻度の高い手技と考えるが,それ以外に,鎖骨下動脈病変,頭蓋外椎骨動脈病変,頭蓋内動脈病変,脳血管攣縮に対する血行再建術がある.今回は,これらの病変に対する診断,適応,術前・術後管理,手技について述べる.

合併症のシステマティック・レビュー─適切なInformed Consentのために

(7)髄膜腫手術・2―convexity, parasagittal, falxの髄膜腫

著者: 越智崇 ,   斉藤延人

ページ範囲:P.361 - P.369

Ⅰ.はじめに

 今回のレビューの対象とした,convexity, parasagittal, falxの各髄膜腫は,髄膜腫全体のうち,それぞれ25.6,11.6,11.3%を占め,これらで約半数を占めるという好発部位である31)

 髄膜腫は,原発性脳腫瘍のうち,近年最も頻度が高い腫瘍であり,50歳代以降によくみられる.年間発生率は6人/10万人程度と見積もられ,女性の発生率は男性の約2倍である16).また,剖検例の報告では,人口の2~3%程度に髄膜腫が発生すると考えられる22)

 上記疫学的報告より,①画像診断の普及と高齢化により発見頻度が増加したこと,②今後も増加するであろうこと,そのうち,③高齢者の無症候性髄膜腫の頻度がさらに増加するであろうこと,などが容易に予想される.

 今回のレビューでは,日常遭遇する可能性が最も高いこれらの髄膜腫の手術治療に関して,合併症の発生頻度を整理する.また前述した高齢者の無症候性髄膜腫が増加するであろうことより,経過観察や定位放射線療法などのデータにも触れ,若干の考察を加えて報告する.

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欧文目次

ページ範囲:P.291 - P.291

ご案内 第9回神経病理コアカリキュラム教育セミナー

ページ範囲:P.318 - P.318

日  時 2013年4月24日(水)9:00~16:00

会  場 タワーホール船堀(〠134-0091東京都江戸川区船堀4-1-1)

ご案内 第20回記念日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術集会/お知らせ

ページ範囲:P.327 - P.327

会  期 2013年9月6日(金)・7日(土)

会  長 佐藤公治(名古屋第二赤十字病院 整形外科・脊椎脊髄外科)

会  場 名古屋観光ホテル(〠460-8608 名古屋市中区錦一丁目19-30)

お知らせ

ページ範囲:P.358 - P.358

文献抄録 Intra-arterial bone marrow mononuclear cells in ischemic stroke:a pilot clinical trial/お知らせ

著者: 井上賢

ページ範囲:P.371 - P.371

 細胞療法は虚血性脳卒中の新しい治療法となる可能性があり,動物モデルでの脳卒中急性期における神経学的な改善の報告がある.しかし,脳卒中患者に対し行われた臨床研究はほとんどない.著者らは,単純盲検にて,中大脳動脈領域の脳梗塞に対し,自己の骨髄単核球(BM-MNC)を移植し,安全性や生物学的作用を調べるためのPhaseⅠ/Ⅱの比較臨床試験を行った.

 自己由来のBM-MNCは,脳梗塞発症の5~9日後に動脈内に注入し,フォローアップは6カ月まで行い,血液サンプルも採った.まず安全性を確認し,次に神経機能の改善の評価を行った.

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.372 - P.372

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.373 - P.374

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.375 - P.375

次号予告

ページ範囲:P.377 - P.377

編集後記

著者: 𠮷田一成

ページ範囲:P.378 - P.378

 昨年末,政権交代が確定したころから,株価の上昇,円安の是正が急速に進み,先日のG20外相会議でも,日本の政策が表立って非難されることがなかったことから,当面の日本の方向性が見通せるような状況となった.政治により,世の中がこれほども変わるのだということが実感され,恐ろしい気さえする.医療の世界でも同様である.医療は営利を目的としてはならないはずなのに,近年の病院の会議では,経営のことばかりが取り上げられる.しかし,いくら努力しても,政治が変わると経営状況は一夜にしていかようにも激変してしまう.医療従事者,特に医師は,病院経営のことを考えずに,最善の医療を提供することに専念したいものである.理想と現実のギャップはあまりに大きいということだろうが,それで済ませていいのだろうか.

 本号の「扉」で取り上げられた脳死判定の問題も,移植医療との兼ね合いで,政治に大きく左右されてきた.件数は多くはないものの,移植医療は日本でも,国民心理としてようやく定着したかと思える時代になったが,日本初の心臓移植から臓器移植法の成立まで30年近くを要したことは,国民感情に大きく影響され過ぎる,日本の政治の構造上の問題があったのではなかろうか.本号にも興味ある多くの論文が掲載され,中には椎骨動脈解離に関する2編の論文がある.同じ脳卒中であっても,椎骨動脈解離は,脳動脈瘤破裂と異なり,病態,自然経過が複雑であり,個々の症例においてどのような治療が適切であるかの判断は必ずしも容易ではない.医療,医学の発展のためには,このような症例が正確に解析され,知識として蓄積され,適時にそれらを解析していくという,地道な努力が必要である.連載されている「合併症のシステマテイックレビュー」は,執筆者には大変な労力を余儀なくさせているが,最善の医療を提供するために欠かすことのできない情報を与えてくれている.もう1つの連載の「脳神経血管内治療医に必要な知識」であるが,脳神経外科医にとって,今や血管内治療は,手術と同等の価値のある治療手段となったことを,明白に示している.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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