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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻6号

2013年06月発行

雑誌目次

メディカルスタッフと脳神経外科

著者: 周郷延雄

ページ範囲:P.471 - P.472

 2011年3月11日の東日本大震災から2年が経過したが,被災者支援や放射性廃棄物の中間処理施設用地の選定など,未だに国は混迷状態から抜け出していないようである.また,竹島や尖閣諸島の領有権をめぐる近隣国との対立がクローズアップされ,国内外情勢に国民の不安感はつのるばかりである.この中で,昨年開催されたロンドンオリンピックでは,卓球,サッカー,アーチェリー,重量挙げ,レスリング,柔道,フェンシング,水泳などの選手の活躍で,歴代最高のメダル数を獲得した.特に,団体競技の奮闘が目立ち,多くの方が寝不足になりながらも日本人としてのアイデンティティーを強く再認識し,そのチームワークのすばらしさに胸を躍らせたのではないだろうか.

 いうまでもなく病院は,医師のほか,さまざまな専門技術者が集まって社会貢献を果たす施設であり,医療技術や設備の充実に加えてそのチームワークのよさが業務の遂行能力に強く影響を及ぼす.当初,英語圏では,医師・看護師以外の医療従事者を,パラメディカルスタッフ(paramedical staff)と総称し,国内でもその名称を用いていた歴史がある.その後,医療の高度化・複雑化に伴い,以前は医師のみが行っていた業務が細分化・分業化され,専門性の高いスタッフの協力が不可欠となった.そのため,接頭辞の“para-”は「補足する」「従属する」という意味であり,医療従事者間の主従関係を示唆することから,昭和後期には「協同」を意味する接頭辞の“co-”を用いた「コ・メディカル」(co-medical)との和製英語が発案された.さらに,2012年1月に日本癌治療学会は,「コ・メディカル」の使用をやめ,「薬剤師」「看護師」「検査技師」など,正式な個別名称を積極的に使用するよう提言した.「コ・メディカル」では,職種の範囲が不明で,未だ上下関係を暗示すること,喜劇(comedy)の形容詞(comedical)と誤解する可能性を挙げている.現代においては,すべての医療従事者は対等な立場であることを前提としたチーム医療の考え方が浸透してきており,医師・看護師を含めたすべての医療従事者をまとめて「メディカルスタッフ」と称する傾向にある.

総説

脳腫瘍に伴うてんかんの治療

著者: 山本貴道

ページ範囲:P.473 - P.479

Ⅰ.はじめに

 脳腫瘍が原因となる症候性てんかんは,てんかん全体の4%と報告されており12),また脳腫瘍患者の30~50%程度は意識消失発作や痙攣発作などで初発すると考えられている18,41).てんかんの発作症候は,脳腫瘍が局在性であることを考慮すれば,基本的には部分発作であるが,多くは二次性全般化を伴うために全般強直間代発作として目撃されることが多く,しばしば薬剤抵抗性であり治療に苦慮することがある41)

 脳腫瘍に起因するてんかんの治療は,脳神経外科医にとっては手術と同様,患者のQOLを左右するだけに極めて重要な意味をもつ.抗てんかん薬の選択,その有効性,化学療法を施行中の薬物相互作用など,治療を行う上でいくつかのポイントが考えられる.また脳腫瘍と言っても原発性脳腫瘍から転移性脳腫瘍までさまざまな種類が存在する.紙幅の制約によりそれぞれへの対応を個々に取り上げることは困難であるため,本総説では脳腫瘍に起因するてんかんの治療を概説し,特に最近話題になっている新規抗てんかん薬の使用についても言及した.

脊髄・脊椎の機能血管解剖

著者: 小宮山雅樹

ページ範囲:P.481 - P.492

Ⅰ.はじめに

 脊髄・脊椎の血管解剖の研究の歴史は19世紀後半に始まった1,4).近年,脊髄の血管病変に対する血管内治療や外科的治療の進歩とともに,脊髄の血管解剖の理解が以前にもまして重要となってきた.CT angiographyやMR angiographyなどのtechnologyの進歩も目覚ましいものがあるが,今でもカテーテル血管撮影が,脊髄の血管病変診断のgold standardであることには違いはない.カテーテル血管撮影の施行や読影は簡単ではないものの,脊髄の血管構築そのものは比較的単純であるため,発生を含めた血管機能解剖の理解が,脊髄血管病変の病態理解や,より安全な治療に重要である.

症例

経静脈的塞栓術で治癒した群発頭痛様の症状を呈した海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 蔵本要二 ,   足立秀光 ,   坂井信幸 ,   上野泰 ,   坂井千秋 ,   今村博敏 ,   石川達也 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.493 - P.498

Ⅰ.はじめに

 群発頭痛は一次性頭痛であり一側頭痛と流涙・鼻漏などの自律神経症状を伴い,その痛みは高度である.今回,海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻から群発頭痛様の症状のみを呈し,血管内手術で治療後症状が改善し,疼痛に対する投薬が不要となった1例を経験したので報告する.

白血病に対する全脳脊髄照射後に頭蓋内外に進展する骨肉腫を生じたLi-Fraumeni類縁症候群の1例

著者: 吉村淳一 ,   棗田学 ,   西平靖 ,   西山健一 ,   斉藤明彦 ,   岡本浩一郎 ,   高橋均 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.499 - P.505

Ⅰ.はじめに

 Li-Fraumeni症候群は肉腫,乳がん,白血病,副腎皮質がん,脳腫瘍などを伴う常染色体優性遺伝形式の家族性がん多発症候群で,50%以上にTP53遺伝子の胚細胞変異が認められる7,17).今回われわれはTP53遺伝子の胚細胞変異を有する家族性がん患者で,白血病に対する全脳脊髄照射後16年を経て頭蓋内骨肉腫を発病した症例を経験した.Li-Fraumeni症候群および類縁疾患における頭蓋骨骨肉腫発生例の報告は1例のみであり9),放射線誘発と考えられる頭蓋骨骨肉腫としては最初の例と考えられるので報告する.

Transient pupil-sparing oculomotor nerve palsyの後,くも膜下出血を来した超高齢者未破裂内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 見陣冬馬 ,   堤圭介 ,   藤本隆史 ,   高畠英昭 ,   川原一郎 ,   小野智憲 ,   戸田啓介 ,   馬場啓至 ,   米倉正大

ページ範囲:P.507 - P.514

Ⅰ.はじめに

 未破裂内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤(internal carotid-posterior communicating artery aneurysm:IC/PC AN)の警告症状として,瞳孔異常のない動眼神経麻痺(pupil-sparing oculomotor nerve palsy:PSONP)の存在も知られている11,14).最近われわれは,2回のPSONP後にくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を発症した超高齢者未破裂IC/PC ANを経験した.後方視的には非典型的警告症状の可能性が高く,PSONPを伴うIC/PC ANの形態的特徴について文献的考察を加えて報告する.

頚部頚動脈瘤に対し血管内治療を行った1例

著者: 服部靖彦 ,   杉生憲志 ,   菱川朋人 ,   徳永浩司 ,   高橋和也 ,   伊達勲

ページ範囲:P.515 - P.523

Ⅰ.はじめに

 頚部頚動脈瘤は比較的稀な疾患であり,その発生頻度は全頭蓋外動脈瘤のうち0.4~1%と報告されている5,6,9,17,19).これまで,さまざまな外科的治療が行われてきたが,治療器具や技術の進歩,さらにその低侵襲性から,近年は血管内治療を行ったという報告が散見される3,4,7,11-14,17,22-24,26).今回,われわれは頚部頚動脈瘤に対して血管内治療を行い良好な結果を得られた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

各種スポーツ競技における頭部外傷の現状―独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校安全Web」の情報から

著者: 重森裕 ,   井上亨

ページ範囲:P.525 - P.526

 近年日本では,健康促進だけでなく生活の質の改善を目的とするさまざまなスポーツ競技の愛好家が増えている.サッカーやラグビーなどのコンタクトスポーツによる頭部外傷や脳外傷は,一般診療において目にする機会が多いが,比較的ケガが少ないと思われる水泳やマラソン,自転車といったスポーツ競技においても,それぞれのスポーツに特有なケガや疾病が生じることがある.

 スポーツ競技による死亡事故の大半は,急性硬膜下血腫が原因であり,各種スポーツ競技にあった予防対策が肝要である.予防対策を立てるためには,各種スポーツ競技で生じた事故状況を十分に検討し,受傷機転とその原因を明らかにしていくことが重要である.しかしわれわれは,各種スポーツ競技によって生じるさまざまな障害などについてすらよく知らないのが現状であり,各種スポーツ競技別の頭部外傷の報告を収集することは実際には極めて困難である.

報告記

第11回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科会議(2012年10月27,28日)

著者: 斉藤克也

ページ範囲:P.527 - P.528

 2012年10月27,28日に第11回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科会議が中国の北京にて開催されました.アジア・オセアニア頭蓋底協会は1991年に設立され,脳神経外科,耳鼻咽喉科,頭蓋顎顔面外科,形成外科,眼科,放射線科の中で頭蓋底疾患を専門とする医師たちで構成されています.第1回は,日本の東京において髙倉公朋先生のもとで第3回日本頭蓋底外科学会と兼ねて開催されたという歴史があります.今回の主催は北京大学のShengde Bao先生をpresident,Liwei Zhang先生をexecutive presidentとしてとり行われました.

 2012年10月25,26日にpre-congress training courseが学会に先立って行われ,27,28日の学術集会では,特別講演,一般口演といった120題余りの演題が発表されました.出席者は中国,台湾,韓国,日本,インド,インドネシア,トルコといったアジア諸国の他にもカナダ,米国,ドイツといった欧米各国からの参加もみられました.ちょうど本学会開催1カ月前には中国で深刻な反日キャンペーンが起こり,日中関係が悪化する事態が起きた時期でした.その影響から日本からの参加者はかなり減ってしまったという事実は非常に残念でありました.国際的な学術交流の場が政治の影響を受けてしまうことはあってはならないことであり,今後このような事態が起こらないことを願いたいです.実際には日本の事務局が中国の主催者側と緊密に連絡を取り合い,安全性がある程度担保されたおかげもあり,無事学会に参加することができました.そのご尽力に対してこの場をお借りして感謝申し上げます.

連載 合併症のシステマティック・レビュー―適切なInformed Consentのために

(8)頚動脈内膜剝離術

著者: 林健太郎 ,   永田泉

ページ範囲:P.529 - P.539

Ⅰ.はじめに

 頚動脈起始部の狭窄は脳血流の低下を来したり,プラークの破綻や血栓形成により脳塞栓症の原因となる.動脈硬化性病変は欧米に多く,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)は欧米で広く行われてきた.食生活の欧米化や高齢化に伴い,本邦においても患者数は増加してきており,疾患の重要度は増してきている.

 手術の有効性を評価するランダム化試験も欧米で行われてきた.North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)では70%以上の症候性高度狭窄例に対するCEAの有効性が示され60),European Carotid Surgery Trial(ECST)でも同様の結果が示された21).Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study(ACAS)やAsymptomatic Carotid Surgery Trial(ACST)では無症候性病変が検討され,高度狭窄例においてCEAの有効性が示された22,29).近年はcarotid artery stenting(CAS)の有効性を評価するための比較対象となる場合が多いが,CEAの成績は比較的一定している.

 脳卒中治療ガイドライン2009では症候性頚動脈高度狭窄に対してはCEAを行うことが推奨され,症候性中等度狭窄および無症候性高度狭窄においても推奨されている78).症候性軽度狭窄あるいは無症候性中等度狭窄ないし軽度狭窄においては,プラークが不安定であったり,潰瘍が認められる場合にはCEAを考慮してもよいが,科学的根拠はないとされている.

 このようにCEAの有効性は認められており69),日本脳神経外科学会のデータでは2011年に3,776件施行されている.CEAは脳卒中発作を予防するための手術であるため,合併症を低く抑える必要があり,手術リスクは症候性病変では6%,無症候性病変では3%以下の場合に有効とされている.よって,手術および周術期管理に熟達した術者と施設において行われるべきである.本稿ではCEAの手術説明の一助となることを目的に,CEAの合併症に関する論文をレビューした.

脳神経血管内治療医に必要な知識

(10)急性期再開通療法

著者: 榎本由貴子 ,   吉村紳一

ページ範囲:P.541 - P.551

Ⅰ.はじめに

 急性脳主幹動脈閉塞症に対する血管内治療(急性期再開通療法)は,以前はウロキナーゼなどを用いた経動脈的血栓溶解療法や,バルーンを用いた機械的血栓破砕療法が主流であったが,血栓量の多い近位部血管閉塞では十分な効果が得られない傾向にあった.

 しかし,新たな機械的血栓回収デバイスであるMerci®リトリーバー(Stryker, USA)が2010年に,Penumbraシステム®(Penumbra, USA)が2011年に承認され,特に近位部血管閉塞に対する有効性が期待されている.本稿では,急性期再開通療法の歴史と,現在における適応基準,遭遇し得る合併症,そして上述の新たな機械的血栓回収デバイスを紹介する.

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欧文目次

ページ範囲:P.469 - P.469

お知らせ

ページ範囲:P.479 - P.479

ご案内 第43回(2013)新潟神経学夏期セミナー

ページ範囲:P.540 - P.540

テーマ 脳と心の基礎科学から臨床まで最前線の研究者,臨床家に触れて体感しよう

期  日 7月25日 (木) ~27日 (土)

場  所 新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター (6F) セミナーホール

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.554 - P.554

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.555 - P.556

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.557 - P.557

次号予告

ページ範囲:P.559 - P.559

編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.560 - P.560

 今年の桜の開花は随分早かったが,それとともに各病院に新しい「メディカルスタッフ」が加わったことであろう.周郷延雄先生がおっしゃるように,われわれ脳神経外科医の業務はメディカルスタッフとのチーム医療で支えられていることをいつも肝に銘じるべきである.山本貴道先生からは,「脳腫瘍に伴うてんかんの治療」の総説をいただいた.最近話題の新規抗てんかん薬についても詳しく解説してあり,明日からの臨床にすぐに役立つ論文である.

 3月には4年ぶりに野球のWBCが開催され,日本は3度目の優勝を期待されたが,決勝ラウンドには進んだものの残念ながら準決勝で敗退した.それにしても2次ラウンドでの日本対台湾の試合はまさに激闘で,4時間半の熱戦に時間がたつのも忘れてテレビに釘付けになっていた方も多いと思う.試合終了後,スポーツニュースをはしごして余韻を楽しんだが,当然スポーツニュースでは全体を3分程度にまとめてあるので,得点シーンは押さえているが,得点に至る種々の重要な要素はほとんどカットされていた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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