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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科41巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

研究のすすめ

著者: 鈴木秀謙

ページ範囲:P.563 - P.564

 最近では,脳神経外科の分野でも比較的若いうちから指導医の下,術者として手術に携われる機会が多くなってきているように思います.各種off jobトレーニングも盛んに行われ,若手医師が多く集まり盛況のようです.三重大学病院でも各種シミュレーターが揃い,血管内手術の仮想トレーニングも可能になりました.また,脳神経外科専門医を取得する年代の若手は競ってラットを用いた微小血管の吻合練習をしています.これらは若手脳神経外科医のモチベーションを上げ,さらには脳神経外科に興味をもつ次世代を引き付ける目的で発展してきました.脳神経外科医を志したからには,早く術者として一人立ちしたいという気持ちは当然で,よくわかります.一方で,取り越し苦労ならよいのですが,どうも若手の関心が手術手技の獲得に偏りすぎて,病態の理解や術後管理,化学療法や放射線治療など,手術以外の重要な事項への関心が薄くなっているように思えてなりません.つまり,患者管理や治療を誰かから教えてもらった通りにルーチンワークとしてこなしているだけのように思えて仕方がないのです.関心が高い手術手技に関しても,現在の若手脳神経外科医の多くは,独創的なことにチャレンジするより,誰かが見いだした手技や治療法を習得することに腐心しているようです.確かに一口に脳神経外科と言っても,subspecialtyは多岐にわたり,あれもこれもと欲張ると,一通り習得するだけで精一杯というのもうなずけます.しかし,教科書や有力者の意見に従うだけでは医学は進歩しませんし,学習したことを反復するだけではプロとは言えません.日々の診療で問題点を見つけ,解決していく探究心が大切で,治療成績の改善を目的として,治療や患者管理に創意工夫を絶えず実践し続けてこそ,プロと言えると考えています.誰に強制されるわけでもなく,自然と勤務時間外に手術の練習をしたり,いろいろと調べ物をしたりするのはプロ意識の現われだと思うのですが,考え方が古いのでしょうか.もちろん独り善がりでは駄目で,知識に裏打ちされた独創性が必要ですし,自分で考えた工夫が妥当かどうか確認するためにも学会や論文などで発表し,批評を仰ぐ必要があります.こういった一連の過程を私は広い意味で研究と考えています.言い換えれば,脳神経外科の道を究めるということです.もちろん,真の意味で病態の解明,新しい診断法や治療法,デバイスの改良や開発などを行うためには基礎研究が必要です.

 偉そうなことを言っていますが,私自身は元々,研究志向はありませんでした.入局当時の教授の方針により,大学院へ「強制入学」させられ,研究を始めました.研究テーマは友人に誘われ,スパズムにしましたが,特別興味があったわけではなく,サルの脳で顕微鏡手術の練習ができるのが魅力的に思えたからでした.当時,実験用に使用していたニホンザルはヒトの新生児~1歳児に相当する体重で,ヒトと同じように全身麻酔下に手術をしたわけですが,指導通りに実施したにもかかわらず,屍の山を築いてしまい,指導教官に随分叱られました.原因は簡単で,われわれより以前の大学院生は片側前頭側頭開頭を行い,1側のM1周囲に血腫を留置するモデルを作成していたのですが,われわれは両側開頭・両側血腫留置モデルを恐らく世界で初めて採用したために,それまでと同じ周術期管理では対応しきれなかった,という単純なものでした.ほかにも,イヌで経口経斜台的に脳底動脈を露出したり,ラットでくも膜下出血モデルを作成しました.同級生や中国人留学生の手伝いを含めると,全部で4つの動物実験に関与しましたが,研究に託けて手術の練習をすることに気を取られ,研究本来の目的はまったく達成できていなかった気がします.基礎研究は,それこそ「世界で初めて」に価値があるわけですが,当時は自分のデータそのものを考察せず,自分のデータを当時の主流な考えや過去の報告と一致させることばかり考えていました.そんな心構えですから研究は少しも楽しくなく,学位論文ができたら,すぐ臨床に戻るつもりでした.

総説

Grade Ⅱ神経膠腫のエビデンスと治療

著者: 成田善孝

ページ範囲:P.565 - P.581

Ⅰ.はじめに

 WHO grade Ⅱ神経膠腫(World Health Organization grade Ⅱ glioma)に分類されるびまん性星細胞腫(diffuse astrocytoma:DA)・乏突起膠腫(oligodendroglioma:OL)・乏突起星細胞腫(oligoastrocytoma:OA)は,WHO grade Ⅲの退形成性星細胞腫(anaplastic astrocytoma:AA)やgrade Ⅳの膠芽腫(glioblastoma:GBM)に比べると,生存期間が長いため,“良性の”神経膠腫と説明されることがある.しかし,脳腫瘍全国集計調査報告Vol.12(1984-2000)12)によると,DAおよびOLの5年生存率は68.3%・87.8%である.全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)による共同調査によると,全がん協加盟施設の部位別の全症例(ステージⅠ~Ⅳの集計)の5年生存率は,乳がん(87.3%),結腸がん(74.6%),胃がん(71.8%),肺がん(37.8%),膵臓がん(7.8%)であり74),DAは未だ予後不良の悪性腫瘍(がん)であることが実感される.WHO grade Ⅱ神経膠腫は長い時間をかけてgrade Ⅲ,grade Ⅳ神経膠腫へ悪性転化(malignant transformation)し,患者を死にいたらしめる“悪性腫瘍”である.低悪性度神経膠腫(low grade glioma:LGG)という言葉が用いられるときには,grade Ⅱのみならずgrade Ⅰの毛様細胞性星細胞腫も含まれていることがあるので,古い臨床試験の成績の解釈においては注意が必要である.本稿では,WHO grade Ⅱ神経膠腫についてのエビデンスとその治療について述べる.

研究

脳底動脈窓形成部動脈瘤に対する血管内治療の有用性

著者: 伊丹尚多 ,   杉生憲志 ,   平松匡文 ,   徳永浩司 ,   春間純 ,   大熊佑 ,   菱川朋人 ,   西田あゆみ ,   伊達勲

ページ範囲:P.583 - P.592

Ⅰ.はじめに

 椎骨脳底動脈(VA-BA)合流部の動脈瘤は稀であり,しばしば脳底動脈の窓形成(fenestration)と関連することが知られている1,3,5,8,24,28,36,42).同部の解剖の複雑性や開頭手術の困難性5,7)から血管内治療の有用性が指摘されている6,17,22,24,28,38,42).今回,われわれが経験した脳底動脈窓形成部動脈瘤の連続10症例について,文献的考察を含めて報告する.

脊椎脊髄手術後の手術部位深部感染症(deep incisional Surgical Site Infection:dSSI)に関する検討

著者: 関俊隆 ,   木村輝夫 ,   杉村敏秀 ,   川崎和凡 ,   宮野真 ,   福田信 ,   橋本政明

ページ範囲:P.593 - P.599

Ⅰ.はじめに

 脊椎脊髄手術後の手術部位感染症(surgical site infection:SSI)は早期に診断し,適切な処置が行われなかった場合は重篤化し,治療に難渋することがある.近年の,抗生剤の使用による多剤耐性菌の出現,糖尿病,慢性腎疾患,免疫抑制剤や抗がん剤の多用,後天性免疫不全症候群(AIDS)といった易感染性宿主に対する手術や,高齢者に対する手術,さらにインストルメンテーションを使用した手術の増加などによって,今後ますますSSIの危険性は高くなってくると思われる.SSIは,患者のquality of lifeを損なうだけではなく,医療従事者に対しても多大な精神的負担を与える.また,在院日数や医療費の増加など,さまざまな問題を含んでいる3,7,16,23).今回われわれは,当院における脊椎脊髄手術後の手術部位深部感染症(deep incisional SSI:dSSI)について検討したので報告する.

症例

骨削除の必要な三叉神経血管減圧術:錐体骨の個人差についての考察

著者: 大岩美嗣 ,   廣鰭洋子 ,   奥村浩隆 ,   山家弘雄 ,   高山東春 ,   照井慶太 ,   八子理恵

ページ範囲:P.601 - P.607

Ⅰ.はじめに

 Micorvascular decompression(MVD)は,脳血管の圧迫による三叉神経痛の治療として1970年代にJannettaらにより確立された7).本邦でも近藤8)や福島4)らによってその高い治療効果が示され,MVDは今や多くの脳神経外科施設で行われる標準的な手術となっている5,6,9).その手術方法は後頭下開頭による責任血管の減圧であり,三叉神経に対して小脳と小脳テントもしくは錐体骨の間からアプローチして圧迫血管を移動させるか,神経との間にプロステーシスを挿入するものである.同じ血管圧迫症候群である半側顔面けいれんでは主に顔面神経のroot exit zoneの観察が重要であるのとは異なり,三叉神経痛では脳幹側からメッケル腔付近までくも膜を十分剝離して三叉神経を観察することがより重要である6,9,15)

 この手術アプローチで三叉神経の観察を妨げるものは,第1に錐体静脈であろう.錐体静脈は周囲のくも膜を十分に切除することにより可動性が増すため通常は切断する必要はないが,やむを得ない場合には分枝は最小限切断してもよいとされている3,6).また錐体骨の形状にも個人差があり13),稀ではあるが,内耳孔上部の骨隆起,suprameatal tubercle(SMT)が三叉神経の観察を妨げることがある12,14).しかしながらこの点については手術解説書にも記述が少なく,まとまった報告は少ない14).われわれのシリーズではSMTが三叉神経へのアプローチの妨げになったものは1例である.この経験を機に錐体骨の形状の個人差について検討を加え,一定の知見を得たので報告する.

rt-PA(alteplase)静注療法後,急性期に頚動脈ステント留置術を施行した頚部内頚動脈高度狭窄症の1例

著者: 井上明宏 ,   田川雅彦 ,   西川真弘 ,   久門良明 ,   渡邉英昭 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.609 - P.617

Ⅰ.はじめに

 Recombinant tissue plasminogen activator(rt-PA:alteplase)静注療法は,発症から4.5時間以内の虚血性脳血管障害患者に対し強く推奨される治療方法であり,適応基準を満たせばすべての脳梗塞病型に適応がある11,12,17).本治療法は,脳梗塞の病型別に検討すると,塞栓性脳梗塞については血栓溶解に伴い末梢側の脳血流の急激な改善が得られるため,極めて効果的な治療法と言えるが,頚動脈狭窄症などが原因の場合,治療後に血流改善が得られたとしても狭窄病変は残存するため,再閉塞により神経症状の再増悪を来す危険性がある12).さらに,原則として治療開始後24時間以内の抗血栓療法が禁止されているため,その間に再閉塞を来した場合の明確な治療方針が存在しておらず,その後の治療に苦慮する場合も多い3,12,16).今回われわれは,rt-PA静注療法後に血流改善が得られたものの,高度の狭窄病変が残存した頚部内頚動脈狭窄症に対し,rt-PA静注後24時間以内の超急性期に頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)を施行し良好な経過を得た症例を経験したので報告する.

Massiveな小脳出血を来したdiffuse arteriovenous shuntを伴う後頭蓋窩developmental venous anomalyの稀な1症例

著者: 藤本隆史 ,   川原一郎 ,   堤圭介 ,   松永裕希 ,   小野智憲 ,   高畠英昭 ,   戸田啓介 ,   馬場啓至

ページ範囲:P.619 - P.625

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内脳血管奇形は,毛細血管拡張症(capillary telangiectasias),海綿状血管腫(cavernous angioma:CA),脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM),静脈奇形(venous malformation)と通常4つに分類される1,10,14).Venous malformationに関しては,近年developmental venous anomaly(DVA)との呼び名が使用されることが多く,以前は比較的稀な病変であると考えられていたが,magnetic resonance imaging(MRI)施行時などに偶然発見されることも多くなり,決して稀な病変ではないと言える.臨床的にはほとんどのものが無症状であり,一般的には頭蓋内出血の危険性は極めて低いと考えられている3,4,7,9,11)

 今回われわれは,massiveな小脳出血を来したdiffuse arteriovenous(A-V)shuntを伴う後頭蓋窩DVAの症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

追悼

Ladislau Steiner先生のご逝去を悼む

著者: 佐々木富男

ページ範囲:P.626 - P.627

 Ladislau Steiner先生が,2013年2月27日に92歳でご逝去になりました.謹んでご冥福をお祈りいたします.

 私がSteiner先生に最初に出会ったのは,1985年にSteiner先生がUniversity of Virginia Medical Centerに移るかどうかを決めるためにCharlottesvilleを訪問していた時でした.それ以来,27年間親しくお付き合いいただき,薫陶を受けました.中でも,ガンマナイフが日本で最初に東京大学に導入されることが決まった時にSteiner先生が私に強く言われた「治療適応は,絶対に手術の利点,欠点を理解している脳神経外科医が決定しなくてはならない.そしてガンマナイフに関するノイエスはLars Leksell教授と自分にあるので,日本の治療担当医は治療成績を正直に発表することこそが責務である」との言葉が強く印象に残っています.東京大学でガンマナイフ治療を担当した若い先生方にはSteiner先生の言葉を伝え,それを守っていただけたと思っております.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

(8)最終的に後方椎体間固定術を要した外側型腰椎椎間板へルニアの1例

著者: 中島康博 ,   原政人 ,   牧野一重 ,   梅林大督 ,   若林俊彦

ページ範囲:P.629 - P.636

Ⅰ.経験症例

1.症例

 51歳女性.2009年初め頃より腰痛や右鼠径部痛,右大腿前面および外側の痛みが出現した.2010年8月に腰椎椎間板ヘルニアと診断され名古屋市内のクリニックにてレーザー治療(percutaneous laser disk decompression:PLDD)2)を自費診療にて受けたが,症状に改善がなく,2011年8月に同クリニックにて再度PLDDを受けた.2回目のPLDD後より,右鼠径部痛が少し軽快したが,腰痛と右大腿部痛の改善はなく,疼痛のため松葉杖での外出となっていた.

脳神経血管内治療医に必要な知識

(11)腫瘍性病変に対する脳神経血管内治療手技:腫瘍血管塞栓術・抗がん剤動注療法・海綿静脈洞サンプリングについて

著者: 中村元 ,   藤中俊之 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.637 - P.650

Ⅰ.はじめに

 脳神経血管内治療手技は,脳血管障害のみならず腫瘍性病変に対しても用いられる.その主な手技として,①流入血管塞栓術,②抗がん剤動注療法,③海綿静脈洞サンプリング,などが挙げられる.本稿では,これらの手技を行う際に必要な基礎知識と,実際の手技について解説したい.

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欧文目次

ページ範囲:P.561 - P.561

お知らせ

ページ範囲:P.625 - P.625

お知らせ

ページ範囲:P.650 - P.650

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.652 - P.652

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.653 - P.654

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.655 - P.655

次号予告

ページ範囲:P.657 - P.657

編集後記

著者: 岡田芳和

ページ範囲:P.658 - P.658

 「若い時の苦労は買ってでもやっておけ」ということは,昔からの人生訓で聞かされた言葉だと思います.本号の扉では鈴木秀謙教授より「研究のすすめ」と題して“いやだなあ…と思いながら始めたことを続けた結果,自分だけが味わえる最大の幸せの源となる人生”を熱く語っていただいています.佐々木富男先生からはSteiner先生の追悼文をいただいています.自分の信念を貫くことから偉大な業績を残されたSteiner先生の人生を一読いただきたいと思います.総説では「Grade Ⅱ神経膠腫のエビデンスと治療」と題して成田善孝先生に多方面からの研究をまとめていただきました.研究論文では,脳底動脈窓形成部動脈瘤と脊椎脊髄手術での感染症という難渋する病状について,それぞれ伊丹尚多先生と関 俊隆先生に深く検討いただいております.連載では,脳神経血管内治療医に必要な知識として腫瘍性病変に対する治療に関して中村 元先生から精力的な報告をいただいております.血管内治療医のみでなく,腫瘍性病変の治療にあたる全員に重要な,共有すべき情報と思われます.症例報告では明日からの実地臨床に直ちに役立つ情報が満載されております.

 ところで私ごとですが,今年のゴールデンウィークに岩手県宮古市を訪れる機会があり,“万里の長城”といわれる世界一の防波堤で守られていた田老地区の3.11後の状況を自分の目で確かめることができました.最も安全な地区として住民の信頼を得ていた町はまったくの更地となっていました.このような悲惨な災害に解決の糸口があるのかと思うと同時に,復興への歩みを始められた方々を応援したいと実感致しました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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