icon fsr

文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻1号

2014年01月発行

文献概要

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

柔道事故にみる繰り返し脳損傷

著者: 藤原一枝1

所属機関: 1東京都立墨東病院脳神経外科

ページ範囲:P.79 - P.85

文献購入ページに移動
Ⅰ.はじめに

 中学・高校生の学校柔道による死亡事故が29年間(1983~2011年度)に118例あり,死因に占める重症頭部外傷の割合が極めて高いという実態がある22).その主たる急性硬膜下血腫は,加速損傷によって架橋静脈に亀裂や切断が起こることで多く発症する.初心者に事故が多く,投げ技が危険であることは周知で,受傷時の技・受傷後の経過の報告は多い14,22,23)

 しかし,事故が起こるまでの詳細な経過や背景に関して言えば,脳神経外科医が個別に経験する柔道事故数は少なく,頭部外傷データバンクに登録された資料ではスポーツ事故の分析は困難であること,および個人情報保護の観点から,未着手の分野であった2).中学生の授業に武道が必修化され,重症でない外傷で脳神経外科外来を受診する人の数も増えることが予想され,脳神経外科医の日常診療の観点で,事故予防につながる注意点がないかどうかを検討した.

参考文献

1) Cantu RC:Head injuries in sport. Br J Sports Med 30:289-296, 1996
2) 藤原一枝:読者からの手紙「柔道における重症頭部外傷」の論文(39:1139-1147)について―柔道事故予防に,脳神経外科医の火急の役割.No Shinkei Geka 40:277-278, 2012
3) 福島地裁郡山支部判決(2009年3月27日)「市立中学の柔道部の練習時に男子生徒から投げられ重症を負った女子生徒とその両親による市及び県並びに加害男子生徒に対する損害賠償請求が認容された事例」.判例時報2048:79-91, 2009
4) 平川公義,橋爪敬三,淵之上徳郎,中村紀夫:スポーツによる脳外傷のパターン.脳・神経外傷3:19-26, 1971
5) 平川公義:スポーツにおける脳損傷―脳振盪と硬膜下血腫―.臨床スポーツ医学8:147-152, 1991
6) 平川公義:スポーツにおける「脳振盪」の新しい考え方.臨床スポーツ医学19:601-607, 2002
7) 川原 貴:アメリカンフットボールにおける重大事故の統計的観察.臨床スポーツ医学12:1-4, 1995
8) 川又達朗,片山容一:脳震盪を繰り返すとどうなるのか―いつ復帰できるか.臨床スポーツ医学19:637-643, 2002
9) 川又達朗,片山容一:スポーツと脳震盪:脳震盪はなぜ予防しなくてはいけないのか.脳外誌18:666-673,2009
10) 川又達朗,片山容一:総論 脳震盪とは.臨床スポーツ医学27:253-261, 2010
11) 前原健寿,門間誠仁,富永 勉,鈴木龍太,大野喜久郎,平川公義:ラグビー,アメリカンフットボールにおける急性硬膜下血腫―自験12例の検討―.臨床スポーツ医学8:1459-1462, 1991
12) 前原健寿,大野喜久郎,富永 勉,鈴木龍太,平川公義,仲川和彦,磯谷栄二,門間誠仁:スポーツによる頭蓋内出血―警戒症状としての頭痛―.臨床スポーツ医学10:311-314, 1993
13) 宮崎誠司:スポーツ現場における脳震盪の頻度と対応:柔道.臨床スポーツ医学27:303-308, 2010
14) 永廣信治,溝渕佳史,本藤秀樹,糟谷英俊,紙谷 武,新原勇三,二村雄次,戸松泰介:柔道における重症頭部外傷.No Shinkei Geka 39:1139-1147, 2011
15) 名古屋市立向陽高等学校柔道事故調査報告書,http://www.city.nagoya.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000052/52831/houkokusyo.pdf(2013年12月1日閲覧)
16) 日本臨床スポーツ医学会学術委員会脳神経外科部会:頭部外傷10か条の提言.小学館スクウェア,東京,2001
17) Saunders RL, Harbaugh RE:The second impact in catastrophic contact-sports head trauma. JAMA 252:538-539, 1984
18) 札幌地裁判決(2012年3月9日)「道立高校の生徒が柔道部の練習中に頭部を強打して重篤な後遺障害が残った場合,顧問教諭に過失があったとして,道の損害賠償責任が認められた事例」.判例時報2148:101-110, 2012
19) 谷 諭:脳振盪 スポーツに関わるスタッフに知ってもらいたい事.日臨スポーツ医会誌20:215-219, 2012
20) 東京高裁判決(2013年7月3日)「高校1年生の柔道部員が試合前のウォーミングアップ練習中に急性硬膜下血腫を発症した事故について,顧問教諭の指導上の過失が認められた事例」.判例時報2195:20-32, 2013
21) 富永 勉,前原健寿,平川公義,日野明彦,川原 貴:アメリカンフットボールによる頭蓋内血腫―調査結果より―.臨床スポーツ医学10:822-825, 1993
22) 内田 良:柔道事故.河出書房新社,東京,2013
23) 全日本柔道連盟:柔道の安全指導,第三版,2011 www.judo.or.jp/wp-content/uploads/2013/09/print-shidou.pdf(2013年12月1日閲覧)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?