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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻12号

2014年12月発行

雑誌目次

離島からのラブコール—こんな生き方もありますよ

著者: 竹井太

ページ範囲:P.1093 - P.1094

 どれほどの先生方が離島医療に従事された経験をおもちで,また関心をもたれているのかは見当がつきませんが,今日は島外出身の私が宮古島に移り住み,14年間離島医療をさせていただき,気がついたことの一部をお伝えしますのでお付き合いください.
 皆さん,離島の定義をご存知でしょうか.離島とは,本土(本州,北海道,四国,九州,沖縄本島の5島)以外のすべての島のことで,全国では6,847島あります.そのうちの421島が有人離島で,全国47都道府県のうち26県に分布されています.また,これらの離島の約70%が人口500名以下の島で,53,000人もの島民が暮らすここ宮古島は拠点離島と呼ばれ,全国の離島の約1%にしかすぎません.離島の医療と聞くと,Dr.コトーを思い浮かべられる方も多くいらっしゃると思います.しかし,離島はそのサイズ,本島からの距離,人材,インフラなどさまざまな生活環境に影響を受けており,総論的に語ることは困難です.この条件から言うと,宮古島はとても恵まれた生活環境をもつ島の1つです.

総説

髄液の産生と吸収の再考

著者: 宮嶋雅一 ,   新井一

ページ範囲:P.1095 - P.1106

Ⅰ.はじめに
 従来,髄液の大部分は脈絡叢から産生され,中脳水道を通り,Luschka孔とMagendie孔より出て,脳底槽に達する.そして頭頂部に向かって循環し,脳表くも膜下腔に至り,いわゆるくも膜顆粒(絨毛)から上矢状洞に吸収され,体循環に戻るとされてきた.また,一部の髄液は脊髄くも膜下腔を循環するとされてきた(Fig.1).この髄液循環の仮説は,多数の偉大な先人の優れた業績によるものである.しかし100年を経た現在,最近の研究結果および臨床的観察から,過去の研究方法の不備と研究結果の誤った解釈が明らかになり,この髄液循環の仮説を再考する必要性が生じて来た.本稿では髄液生理学について歴史を踏まえて再考する.

研究

変性すべり症を伴った腰部脊柱管狭窄症に対する減圧術の長期予後

著者: 佐々木修 ,   中村公彦 ,   梨本岳雄 ,   山下慎也 ,   矢島直樹 ,   鈴木健司 ,   斎藤明彦

ページ範囲:P.1109 - P.1117

Ⅰ.はじめに
 腰部脊柱管狭窄症には変性すべり症を合併することがあり,このような症例を手術するにあたっては,固定術を併用するか否かが問題となってくる.椎弓切除単独だと術後すべりが増強し,不安定性が発生,症状が悪化する可能性があるからである3,6,7,9,12,13,22,26).一方,すべり症があっても椎弓切除術単独で十分良好な成績が得られ,固定術は必要ないとする報告もあり5,8,20),意見の一致をみていない.椎弓切除術後にすべりが増強するのか,すべりが増強したとすると症候性となるのかといった疑問に明確な回答が与えられてないのが一因と言えよう.
 近年,椎弓切除の変法として,構造を極力温存したまま減圧を図るいわゆるless invasive surgeryが導入され,良好な成績が報告されるようになってきた1,2,4,27,29).このような低侵襲の減圧術を行えば固定術を併用せずともすべり症の悪化が減少し,良好な手術成績が得られる可能性が想定される.そこで今回変性すべり症を合併する腰部脊柱管狭窄症に対し,固定術を併用しない従来行ってきた椎弓切除術単独で手術した例と,less invasive surgeryを行った例の2群で,術後のすべり症と臨床症状の継時的変化をretrospectiveに比較検討した.

80歳以上の症候性内頚動脈狭窄症の画像学的,病理学的特徴および頚動脈内膜剝離術の治療成績

著者: 和田孝次郎 ,   有本裕彦 ,   大谷直樹 ,   長田秀夫 ,   富山新太 ,   戸村哲 ,   上野英雄 ,   藤井和也 ,   長谷公洋 ,   竹内誠 ,   森健太郎

ページ範囲:P.1118 - P.1124

Ⅰ.はじめに
 80歳以上の高齢者の頚動脈狭窄症の治療は内科的治療が一般的に優先されている.しかしながら,症候性の頚動脈狭窄症においては内科的治療に抵抗性のものも少なくなく,外科的治療を考慮する必要が生じる場合もある6).高齢者に対する外科的治療はSAPPHIRE14)において頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)の頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)に対する非劣性が示されたものの,最近のCASの大規模臨床試験であるCREST2)においては68歳以上ではCEAよりもCASにおいて周術期の合併症が多いとされ,特に80歳以上では,術後30日における脳卒中および死亡率が12.1%と高かったことが報告されている.一方,75歳以上の症候性内頚動脈狭窄症では,その内科的治療での再発率の高さからCEAの有用性がNASCET1)のサブ解析により報告されており10),80歳以上の超高齢患者についてもCEAを安全に行うことが可能か否かについて検討する必要がある.
 われわれの施設では,80歳以上の超高齢者においても全身麻酔に耐えられる心肺機能を有する患者に対しては基本的にCEAを行ってきた.超高齢者のCEAについての報告は少なく,当院でのCEAの成績を画像学的および病理学的検討とともにまとめて報告する.

症例

シリコンアレルギーが引き起こした好酸球性髄膜炎に伴いシャント機能不全を繰り返した1例

著者: 神原瑞樹 ,   宮嵜健史 ,   吉金努 ,   杉本圭司 ,   秋山恭彦

ページ範囲:P.1125 - P.1130

Ⅰ.はじめに
 水頭症の治療法として脳室腹腔短絡術(ventricular-peritoneal shunt:VPシャント術)は,十分に確立された,そして最も一般的に行われている治療法であるが,ときに感染やシャントシステムの不具合,閉塞などによるシャント機能不全が問題となっている.
 髄液中に好酸球が出現して炎症を来す好酸球性髄膜炎は稀な病態であるが,シャント機能不全の原因としての報告も散見され,シャント機能不全を呈する症例の30%以上において好酸球性髄膜炎を認めたとの報告もある2,4).好酸球性髄膜炎の原因として一般的に寄生虫感染が知られているが,脳室シャント留置後の好酸球性髄膜炎症例で,細菌感染,アレルギーなど,さまざまな要因も鑑別として挙げられる.
 今回われわれはくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)後の続発性正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)に対するVPシャント術後に,シャントチューブの主成分であるシリコンに対するアレルギー反応が原因と思われる好酸球性髄膜炎によるシャント機能不全を繰り返し,診断と治療に苦慮した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

小脳橋角部脂肪腫による三叉神経痛の1例

著者: 吉村知香 ,   菊池麻美 ,   高橋祐一 ,   横佐古卓 ,   新井直幸 ,   黒井康博 ,   小関宏和 ,   大渕英徳 ,   広田健吾 ,   萩原信司 ,   谷茂 ,   笹原篤 ,   藤林真理子 ,   糟谷英俊

ページ範囲:P.1131 - P.1136

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内脂肪腫の発生頻度は,剖検例でも画像上でも0.08%と報告され,極めて稀な疾患である.脂肪腫の81%はテント上に,82%は正中に発生する.脳梁に最も多く,頭蓋や脊椎の癒合不全に伴うことが多い.一方,小脳橋角部に発生する腫瘍のなかで,脂肪腫は0.14%と報告されている.脂肪腫は発育が遅く,偶然発見され,症状のない場合が多く,症状のない限り手術適応とはならない.しかし,小脳橋角部に発生する脂肪腫の場合,他の部位と比較し,顔面の知覚障害,三叉神経痛,顔面麻痺,顔面痙攣,めまい,嘔気,耳鳴,難聴などの脳神経症状が出やすいのが特徴である20,22).今回,われわれは右小脳橋角部に発生した頭蓋内脂肪腫により三叉神経痛を生じた症例を経験した.Carbamazepineによる副作用が強く手術を行った.文献的考察を加え報告する.

迷走神経刺激療法目的で紹介され開頭手術治療を行った難治性てんかん患者

著者: 森岡隆人 ,   下川能史 ,   佐山徹郎 ,   橋口公章 ,   村上信哉 ,   重藤寬史 ,   鈴木諭 ,   酒田あゆみ ,   槇原康亮 ,   飯原弘二

ページ範囲:P.1137 - P.1146

Ⅰ.はじめに
 迷走神経刺激療法(vagal nerve stimulation:VNS)は,てんかんに対する非薬剤性治療の1つであり,抗てんかん薬に抵抗する難治性てんかん発作を減少,軽減する緩和的治療である.植込型の電気刺激装置により,左頚部迷走神経を間欠的に刺激する9).欧米では1990年代から行われているが,わが国では2010年7月から保険適応となった9,18,20).しかし,VNSはあくまで補助的・緩和的治療であり,発作の完全消失は得られにくい.そのため,開頭手術による根治が期待できるのであれば開頭手術を優先する9,18).今回VNS目的で紹介されてきたが,術前検査の結果,開頭手術を行い,良好な発作転帰が得られた3例を経験したので報告する.

破裂瘤の同定に造影MRIが有用であった多発性脳動脈瘤の1例

著者: 近藤礼 ,   山木哲 ,   毛利渉 ,   佐藤慎治 ,   齋藤伸二郎 ,   長畑守雄 ,   長畑仁子 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.1147 - P.1150

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血(SAH)において多発性動脈瘤を認める場合には,どの動脈瘤(An)が破裂瘤であるかを正確に診断することは治療方針や治療結果を左右するものであり,非常に重要である4,6).従来,その診断は脳血管撮影での動脈瘤の大きさや形状5,10),頭部CTによる血腫分布など1,2)を総合して推定されてきたが,その特定は必ずしも容易ではなく,ときに誤認する場合もあった1,7,11).今回,造影剤を用いたMR vessel wall imagingが破裂瘤の同定に有用であった多発性脳動脈瘤の1例を経験したので報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

上矢状洞部硬膜動静脈瘻の1例—血管内治療戦略に関する考察と教訓

著者: 清水崇 ,   井関征祐 ,   大石英則 ,   菱井誠人

ページ範囲:P.1151 - P.1157

Ⅰ.経験症例
1.症例
 75歳,男性.主訴は急速進行性の認知症と拍動性耳鳴である.当科を受診時,意識は傾眠,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)15点の認知機能障害および失調性歩行を認めた.頭部MRIでは右横静脈洞(TS)内に血栓像を,脳血管造影では,上矢状静脈洞(SSS)の頭頂部および前頭部にそれぞれシャントポイントを有する硬膜動静脈瘻(dAVF)を認めた.また,両側TSは閉塞しており,頭蓋内静脈うっ血が著明であった.脳血管造影所見およびSSS-dAVFの血行動態のまとめをFig.1に示す.

脳卒中専門医に必要な基本的知識

(5)脳梗塞慢性期内科治療

著者: 田口芳治

ページ範囲:P.1159 - P.1171

Ⅰ.はじめに
 脳梗塞慢性期の内科的治療は,脳梗塞再発予防と後遺症対策,うつ症状や誤嚥性肺炎などの合併症治療が中心となる.脳梗塞再発予防としては,抗血栓療法と危険因子の管理が重要であるが,best medical treatmentを行うためには,正しい脳梗塞の病型と病態の診断のもとに適正な抗血栓薬の選択と詳細な危険因子の評価を行い,危険因子の厳重な管理が必要である.本稿では,脳梗塞再発予防のための抗血栓療法と危険因子管理についてエビデンスをもとに解説する.

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欧文目次

ページ範囲:P.1091 - P.1091

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.1171 - P.1171

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.1174 - P.1174

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.1175 - P.1176

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1177 - P.1177

次号予告

ページ範囲:P.1179 - P.1179

編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.1180 - P.1180

 本号の『扉』には,宮古島で診療されている竹井太先生の「離島からのラブコール」が掲載されている.宮古島での「地にまみれながら」の医療の魅力が伝わってくるし,竹井先生の座右の銘である「生きて活きて逝ききる」という言葉も含蓄がある.言わずもがなであるがどこでも高齢者が増えて,確かに「逝ききる」意味を考えるべきというのは言い得て妙だと思う.
 宮嶋雅一先生の「髄液の産生と吸収の再考」も大変読み応えのある総説になっている.髄液の産生と吸収,循環に関して歴史的報告を逐一踏まえながら,現在の考え方への変遷がわかりやすく説明されている.脳室およびくも膜下腔と脳実質間の水や物質の交通が比較的自由であり,「髄液も組織間液も両者は連続して,細胞外液を構成している」ことは,脳腫瘍治療のためのconvection-enhanced delivery(CED)を行っていると確かに実感として納得できる.脳内血腫のように血腫溶解に時間がかかり,周囲の脳組織が破壊されている状況では血腫の吸収にそれなりの日数がかかる.しかしCEDでは,周囲脳組織を破壊せず細胞外腔に“対流を起こす”ように持続陽圧で薬液や造影剤を注入するため,水溶性薬剤は思いのほか速やかに脳内からクリアランスされる.脳は実質臓器であり,細胞外腔のbulk flowを意識する機会は少ないが,細胞外液はやはり髄液や組織間液と容易に通じていると思われる.宮嶋先生のご努力に感謝したい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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