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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻2号

2014年02月発行

文献概要

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

大学病院における院内教育支援の役割とその必要性--新・院内学級設立を通して見えてきたこと

著者: 藍原康雄1 岡田芳和1

所属機関: 1東京女子医科大学脳神経外科

ページ範囲:P.171 - P.179

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Ⅰ.はじめに

 近年,医療水準の向上や入院治療の長期化により,脳腫瘍などの固形腫瘍,白血病,腎(移植)疾患,心臓(移植)疾患などで年単位での入院生活を余儀なくされる子どもが増加しています.また,子どもの病気は,治療後も継続的な長期の療養が必要であり,長期療養中の子どもは,学習の遅れや社会的自立に対する困難さを感じています.

 脳腫瘍で長期入院を余儀なくされた子どもたちは,退院後も体力回復に時間を要すことがほとんどです.そのため自宅で療養をしながら,復学へ向けて準備を行うのが通常です.また,1~3カ月という短期入院患児であっても,復学するにあたり,体力回復が不十分であったり,学校側での患児の病態把握が困難なことから,他の児童と同様の活動ができないことを理由に普通学級への復学を拒否されたり,特別支援学級への転入を勧められたりすることは少なくありません.一方で,原籍校(普通学級)に復学してもいじめの対象になる場合などもあり,適応できずに結果的には特別支援学級のほうが良好な結果を得られることもあります.また,復学に際しては,学習の遅れや社会的自立への困難感,学校側の理解不足など多くの問題があり,子どもたちの学習環境は十分とはいえない状況があります.

 これらの問題に対して,入院期間中から学習環境の整備や退院時の復学支援だけでなく,復学後にも相談が行えるような連携窓口などの整備が重要であると感じていました.また近年では,小児がん拠点病院の選定条件の1つに「院内学級設置の有無」が重要項目に示されており,長期入院患児に対する院内における教育支援環境が見直される時期にきていると思われます.しかし,院内学級の設立においては,「本校」(後述)の設定も含めて行政との連帯が不可欠であるばかりでなく,学級運営においても解決すべき課題が多く,院内学級の設置準備は後回しになっているのが現状です.

 今回われわれは,大学病院という環境を活かして,入院・通院する長期療養児に対して,学習支援のみならず社会的自立,療養生活に必要なセルフコントロール獲得の支援なども含めて,幅広く子どもの教育を支援することを目指す院内学級として,「院内教育支援室」を設立しました(Fig.1).この構想は,特に院内長期入院・療養生活を必要とする子どもたちのために,従来の院内学級,訪問学級体制をさらに改革した教育支援体制であり,院内の多職種や地域・行政と連携して設立・運営することを目的としました.しかし,設立に至るまでの道のりは険しく,設立過程において浮き彫りとなった解決すべき医学上および教育システム上の問題点について報告いたします.

参考文献

1) 文部法令研究会(編集):文部法令要覧 平成15年度版.ぎょうせい,東京,2003
2) 文部省:病気療養児の教育について(通知).1994
3) 文部省:小学校・中学校学習指導要領.1999
4) 下村哲夫(著):教育法規便覧 平成15年度版.学陽書房,東京,2003
5) 鈴木 勲(編著):逐条 学校教育法 第5次改訂版.学陽書房,東京,2002
6) 横田雅史(監):病弱教育Q & A PARTⅠ.病弱教育の道標.ジアース教育新社,東京,2000
7) 横田雅史(監):病弱教育Q & A PARTⅡ.新しい就学基準.ジアース教育新社,東京,2002
8) 横田雅史(著):いわゆる院内学級をめぐる諸問題.小児保健研究62:301-309,2003
9) 横田雅史(監):病弱教育Q & A PARTⅣ.院内学級編.ジアース教育新社,東京,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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