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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻4号

2014年04月発行

雑誌目次

脳腫瘍化学療法の夜明け

著者: 野村和弘

ページ範囲:P.297 - P.298

 ふる里に利根川が流れている.土手の小径を歩きながら悪性脳腫瘍と薬物療法の現在に至るまでの経緯について考えてみた.今回は紙幅の都合で厚生労働省のがん研究助成金を中心に振り返ってみたい.

総説

脳アミロイド血管症の病理

著者: 中里洋一

ページ範囲:P.299 - P.310

Ⅰ.はじめに

 脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy:CAA)は頭蓋内の血管にアミロイドが沈着するために発生するさまざまな脳循環障害性疾患の総称である.人口の高齢化に伴い本症の罹患率は増えており,特に非高血圧性脳出血の主な原因として本症は重要度を増している.沈着するアミロイドは数種類に及び,遺伝性のものと孤発性のものがある.アミロイドの沈着に伴い,脳血管は脆弱性と透過性を増し,あるいは内腔が狭窄してさまざまな循環障害性病態を引き起こす.主なものは脳葉型の大出血であるが,ほかにも皮質下出血,皮質微小梗塞,大脳白質病変,肉芽腫性血管炎などがある.本稿では,CAAの概要について述べ,次いでCAAの病理について解説を行う.

解剖を中心とした脳神経手術手技

ViewSiteTMを用いた脳内・脳室内深部腫瘍摘出術

著者: 岸田悠吾 ,   佐藤拓 ,   織田惠子 ,   市川優寛 ,   佐久間潤 ,   齋藤清

ページ範囲:P.311 - P.325

Ⅰ.はじめに

 脳内・脳室内の深部腫瘍に対する顕微鏡下経皮質アプローチでは,一定範囲の皮質切開と白質の牽引により,術野の最終像はしばしば腫瘍径に近い「寸胴型」または「すり鉢型」になる.また皮質切開を小さくし,顕微鏡をさまざまな方向に振りながら「洋梨型」の術野で深部腫瘍を摘出しようとすれば,深い術野の中で自身の手が視軸をふさぐ死角の多い窮屈な手術となり,脳ヘラの過剰牽引による白質の挫滅も起こりやすい.

 一方で従来の内視鏡下脳内腫瘍摘出術は,小さい皮質切開でも深部で広角の視野が得られる利点はあるものの,ほとんどは血腫除去術と同じ細径チューブレトラクタを用いて行う生検術,または吸引・減量手術であった.この方法は進入路の侵襲性は低いが十分な術野が確保できず,「軟らかく吸引可能で,出血の少ない,さほど大きくない境界明瞭な深部腫瘍」という,限られた条件を満たす症例でしか有効性を発揮できなかった.

 ViewSiteTM Brain Access System(VBAS:本稿ではViewSiteと呼称する)は,この「進入路の侵襲の軽減」と「術野の確保」の両立を目指し,米国Vycor Medical社により開発された太径透明チューブレトラクタである.本邦では2012年に販売が開始され,2013年10月までに国内で約900本が使用されるに至っている.もともとは小児例などでの顕微鏡下手術の低侵襲化を見込んで開発されたものであるが12,13),本邦では早くから内視鏡下手術で取り入れられている.これは透明チューブレトラクタによる内視鏡下血腫除去術が広く浸透していた本邦の特徴が大きく影響しているのであろう.

 当院でも,前述の細径チューブレトラクタにおける内視鏡下手術のジレンマを解決できる器具として,2012年5月から積極的にViewSiteを用いた手術を行ってきた.本手術の目的は,「小さい皮質切開,白質の可及的保護」のもと,「内視鏡の特性を生かすことで深部でも十分な視野を確保し」,「顕微鏡と同様の両手操作を行う」ことである.言い換えれば「より間口を狭くし,見る道具を顕微鏡から内視鏡に変えた中で,マイクロサージェリーテクニックを再現する」ことを目的とした手術である.

 本稿では,ViewSiteを用いた内視鏡下脳内および脳室内腫瘍摘出術について,手術症例を呈示しながらその実際の手技や注意点,アプローチルートの選択などについて述べたい.

研究

非小細胞肺癌転移性脳腫瘍に対するLinacによる定位手術的照射単独での初期治療の検討

著者: 永井睦 ,   小熊啓文 ,   新井文博 ,   渡辺英寿 ,   仲澤聖則

ページ範囲:P.327 - P.334

Ⅰ.はじめに

 癌の脳転移は,癌原発死因の50%を占める憂慮すべき病態である14).転移性脳腫瘍の原発巣では肺癌によるものが最多で,肺癌自体が本邦の癌死亡率の1位を占める最重要疾患である.脳転移を来した非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)の進行度は遠隔転移があることでstage 4となり,原発巣の浸潤具合やリンパ節転移の有無にかかわらず最も進行した癌の範疇に入り,その生命予後は最も短い.NSCLCの脳転移巣に対する治療方針についてはさまざまなrandomized control trials(RCT)がある.手術適応がある場合に手術摘出+全脳照射(whole-brain radiotherapy:WBRT)を行うことが有効であることが示された14,23)とはいえ,2年生存率は11%で生存期間中央値は7.9カ月と未だ良好とはいえない17).手術適応がない場合はさらに不良でWBRTのみでの生存期間中央値は3~4カ月である12,15)

 しかし1990年頃より転移性脳腫瘍に対して定位手術的照射(stereotactic radiosurgery:SRS)が行われはじめた.SRSは病巣の大きさと個数に施行適応の制限があるものの,転移性脳腫瘍に対して手術摘出+WBRTに匹敵する腫瘍局所制御率13)とoverall survival(OS)を示し11,16),さらに入院期間の短縮が得られるためquality of lifeを考慮しなければならないstage 4の治療方法としてふさわしいと考えられる.2008年に発表された放射線治療計画ガイドラインによると,NSCLCの脳転移への治療法としてSRS単独による初期治療法は,それにWBRTを加えた群と比較して頭蓋内再発率が高くなるという発表2)に鑑み,「転移の個数にかかわらずWBRTによる放射線治療を標準治療とし,SRS単独療法はオプションとして考慮されるもの」という捉え方で記述された.しかし薬物治療の進歩により長期生存するstage 4の症例が増えるのに伴い,2009年に発表されたWBRT追加による認知機能障害の可能性3)を回避するためにSRS単独での初期治療を行う施設が多くなってきた.実際,2012年に改訂された放射線治療計画ガイドラインでは,SRS単独とSRS+WBRTの比較においてOSに差はなかったという2つのランダム化試験の結果を踏まえ3,8)「SRSが適応される症例では初回治療でのWBRTを避け,SRS単独とMRIによる頻回の経過観察を行うという選択肢もある」と,初期治療としてのSRS単独療法が評価された形で記載内容が変更された.現在では多くの施設においてSRSの適応のある脳転移症例に対してはSRS単独で初期治療を行っている.

 われわれの施設でも2001年より,適応のある症例にはSRS単独での初期治療を行っているが,症例が蓄積され,8年以上にわたる長期生存2症例を経験するに至った.ここで当施設にて蓄積されたデータを解析し,現在も無再発状態を維持しているこれら2症例の報告とともに示す.これらの結果はNSCLC脳転移患者に対するSRS単独での初期治療の是非に対するevidenceとなり得ると考えられる.

症例

第三脳室開窓術後にSIADHによる低ナトリウム血症を呈した1例

著者: 重枝諒太 ,   遠藤英徳 ,   藤村幹 ,   小川欣一 ,   清水宏明 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.335 - P.339

Ⅰ.はじめに

 内視鏡的第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)は,閉塞性水頭症に対する外科治療法として一般化しつつある9).ETVの合併症の頻度は5~15%と報告され,主な内容は頭蓋内出血,髄膜炎,髄液漏,痙攣である2,3,8).一方,稀な合併症としてsyndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone(SIADH)が報告されているがその詳細は明らかでない1,2,6-8,12).今回,ETV後にSIADHに起因する低ナトリウム(Na)血症を合併した症例を経験したので報告する.

起立性頭痛を呈さなかった特発性低髄液圧症候群に伴う両側性慢性硬膜下血腫の1例

著者: 坂倉和樹 ,   鮎澤聡 ,   増田洋亮 ,   金暎浩 ,   松村明

ページ範囲:P.341 - P.345

Ⅰ.はじめに

 低髄液圧症候群は,腰椎穿刺や脊髄手術・外傷後などの髄液の漏出により生じる病態であり,特に,軽微な外傷や何の誘因もなく生じるものは特発性低髄液圧症候群(spontaneous intracranial hypotension:SIH)と称される12).多くの症例で起立性頭痛を呈することが臨床的特徴である5)

 SIHの10~25%に慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma:CSDH)を合併する1,3,8,11).低髄液圧や脳脊髄液の減少に伴い,脳実質が下方に牽引され二次的に架橋静脈の損傷が起きるためと考えられている1,11).若年者で両側性が多く,薄い血腫に比し高度の脳下垂を認め,意識障害が強く出現することがある4,13)

 今回,SIHに合併した両側性CSDHの1例を経験した.画像的にはSIHに伴う両側性CSDHの特徴を有したが,比較的高齢の患者で頭部打撲の既往があり,起立性頭痛を呈さなかったため,通常のCSDHとして手術治療を行ったところ,再発を繰り返し,経過中にSIHと診断された.この経験をもとに,CSDHにおいて初診時にSIHを鑑別に挙げる重要性と治療における留意点について論じる.

間接バイパス術後30年を経て出血発症したもやもや病の成人例―追加的脳血行再建術の手技と有用性について

著者: 堀聡 ,   柏崎大奈 ,   秋岡直樹 ,   浜田秀雄 ,   桑山直也 ,   黒田敏

ページ範囲:P.347 - P.353

Ⅰ.はじめに

 もやもや病は,内頚動脈終末部に進行性かつ閉塞性変化を来し,レンズ核線条体動脈などの穿通動脈が拡張して「もやもや血管」の形成を特徴とする疾患である.もやもや病は,小児・成人の両者に発生し,小児の多くは一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞で発症する一方で,成人は頭蓋内出血で発症することが多い.頭蓋内出血の原因は,血行力学的ストレスによる脆弱なもやもや血管の破綻,もしくは,側副血行路に合併する囊状脳動脈瘤の破裂である8,18).数多くの知見から,TIAや脳梗塞の再発予防に脳血行再建術が有効であることが確立されているが8),頭蓋内出血の発症予防効果に関しては明らかにされていない.

 脳血行再建術は,直接バイパス術,間接バイパス術,両者を同時に実施する複合的バイパス術に大別される.間接バイパス術はさまざまな手法が考案され10,12),特に小児に対して有効とされるが,側副血行路の形成が開頭範囲に限定される7)など,再発予防の点で効果が不十分なケースがあることも指摘されている4).そのような場合,追加的脳血行再建術が有効であることを示した報告もある11,13,17)

 本疾患に対する脳血行再建術が実施されるようになってから,それほど長期間経過していない現在,その長期予後には不明な点も少なくない.そのため,小児もやもや病に対して間接バイパス術を実施した後,長期間を経て頭蓋内出血を発症した症例の報告は極めて稀である.今回,小児もやもや病に対して両側間接バイパス術を実施した後30年を経て頭蓋内出血を発症し,追加的脳血行再建術を実施した1例を経験したので報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

異なるMRI機種間で拡散強調画像所見の乖離を認めた神経膠芽腫の1例

著者: 瀧川浩介 ,   道脇悠平 ,   秦暢宏 ,   吉浦敬 ,   鳥巣利奈 ,   吉川雄一郎 ,   久田圭 ,   吉本幸司 ,   溝口昌弘 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.355 - P.359

Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 56歳 女性

 既往歴・家族歴 特記事項なし

脊椎脊髄手術に必要な基本的知識

(8)髄内腫瘍の診断と治療

著者: 寳子丸稔

ページ範囲:P.363 - P.373

Ⅰ.概  略

 脊髄腫瘍の発生率に関しては報告がほとんどないが,米国では10万人あたり年間0.74人と稀な腫瘍であることが報告されている54).その中でも髄内腫瘍は稀で,全脊髄腫瘍の18%16),あるいは硬膜内脊髄腫瘍の30%を占めるにすぎない55).髄内腫瘍の主なものには上衣腫,星細胞腫,血管芽細胞腫があり,全髄内腫瘍の90%以上を占める29).その他,稀なものとして上衣下腫60),脂肪腫19),過誤腫1),悪性リンパ腫34),乏突起神経膠腫48),胚芽腫27),悪性黒色腫43),転移性腫瘍5)などが報告されている.髄内腫瘍の中では上衣腫が最も多く,その発生頻度は髄膜腫に匹敵し,全髄内腫瘍の35~40%を占める16,54).星細胞腫と血管芽細胞腫の発生頻度は報告によりまちまちであるが,小児期では星細胞腫が髄内腫瘍の59%を占めて最も多いが,成人期では20%まで低下し2番目に多い髄内腫瘍であると欧米では報告されている52),しかしながら,日本ではさらに少なく,全髄内腫瘍の10%以下との報告もある16).血管芽細胞腫は全髄内腫瘍の2~15%と報告されている37).海綿状血管腫は腫瘍ではなく血管奇形に分類されることが多いが55),髄内腫瘍と同様の診断と治療方針をとるので,本稿では過去の報告にならって髄内腫瘍として扱う10,39).海綿状血管腫を髄内腫瘍として扱った場合,成人では全髄内腫瘍の5%,小児では1%を占めると報告されている10)

脳神経外科手術手技に関する私見とその歴史的背景【最終回】

12.Posterior circulation:血流再建術および脳動脈瘤

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.375 - P.396

Ⅰ.はじめに

 2006年にこの連載を始めてから7年,今回で12回目になる.思えばZürich大学にProf. Krayenbühl, Prof. Yaşargilの後任として赴任し,脳神経外科職員の応援,協力を得て,無事2007年5月に任を終え定年退官したが,さらに長い年月が経った.〈Personal view and historical backgrounds〉との副題にあるように,本連載は主に経験した症例について文献と照らし合わせての記述考察である.始めがあれば終わりがあるという常に従って,最近の第9~11回ではもやもや病,PET scan43),グリオーマなどについてをテーマに選んだ.第1回がEC-IC bypassであったが,今回はposterior circulation EC-IC bypassを主題として,それに第3回で論じたanterior circulation動脈瘤のテーマを補足するためにposterior circulationの動脈瘤を付加して,「posterior circulationの血管障害」をテーマにして区切りをつけることを思い立った.私の在任時,座位での後頭蓋窩の手術がTh5より上方の脊髄脊椎手術を含めると1/3以上を占めていた38,42)事実を考え合わせると,連載を締めくくるテーマとしては適材であると考える.

報告記

7th Annual Meeting of Asia Pacific Cervical Spine Society(Sapporo)--(2013年8月22日~23日)

著者: 飛驒一利

ページ範囲:P.360 - P.361

 昨年の8月22日(木),23日(金)の両日に札幌カデル2・7にて,第7回APCSS annual meetingを総合南東北病院の水野順一先生と共同開催で行いました。

 APCSSはアジア・オセアニアの脳神経外科と整形外科の合同の会で,双方の脊椎脊髄外科学会がお互いの理解と知識経験を交換することを目的として,2007年にYonsei大学のDo-Heum Yoon先生がfounderとして発足しました。過去6回の会期,開催場所は表のとおりです.第7回となる今回は,東は日本,オーストラリアから始まり,西はトルコ,サウジアラビアまでの17カ国の脊椎脊髄外科医が200名あまり集まりました。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.295 - P.295

お知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.339 - P.339

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.403 - P.403

編集後記 フリーアクセス

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.404 - P.404

 最近は,ヒーローが一転してマスコミの罵詈雑言の標的となるスピードがあまりに速く,この編集後記が,読者の目に触れる頃には,一体どんなことになっているかわからない.とは言え,例のSTAP細胞の件で,サヨナラ逆転満塁ホームランはないだろうと思う.

 最近は,いたるところで論文の誓約書を書かされる.内容は,①捏造,②改竄,③盗用(剽窃)の3大不正行為に言及している.特に,①と②は,データに関わることである.現代科学において,「データ」は「神」である(宗教的な意味ではなく,絶対的な原点という程度の意味).この不正行為が厳しく糾弾されるのは,科学における「神」への冒涜だからである.不正行為にランキングもないかと思うが,③の「盗用(剽窃)」は,①,②に比べると,神への冒涜とまではいかない.微分積分学の確立に関しても,ニュートンとライプニッツの剽窃問題は,今も,英独間で決着がついていないが,ある意味,かわいいものである.Creditがどちらにあろうと,微分積分学が人類の福祉に貢献したことに疑問の余地はない.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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