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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻6号

2014年06月発行

雑誌目次

脳動脈瘤手術八節

著者: 五味玲

ページ範囲:P.505 - P.506

 手術は弓を引くことに似る.

 弓道の基本動作が「八節」である.「足踏み」「胴造り」「弓構え(ゆがまえ)」「打起し」「引分け」「会(かい)」「離れ」「残心」である.

 これを破裂脳動脈瘤の頚部クリッピング術にたとえてみたい.

総説

中枢神経系原発悪性リンパ腫の診断と治療―最近の動向

著者: 泉本修一

ページ範囲:P.507 - P.521

Ⅰ.はじめに

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は,脳腫瘍全体の3.1%を占め(日本脳腫瘍全国統計1984-2000)21),ここ20年の間で増加している88).その年齢分布をみると70歳以上の症例が28.1%,60歳以上になると61.8%にのぼり,平均年齢も上昇している21).95%以上は非ホジキンリンパ腫で,B細胞由来とされる.しかしPCNSLは,その多様さや稀少さから現在でも診断や最適治療に対する認識に曖昧さが多く残る.

 PCNSLの特徴の1つとして,血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)により薬剤の脳内到達に制限があり,また高齢者が多いことで,他臓器のそれに比べて生命予後が不良なことが挙げられる.1994年以降,メトトレキサート大量化学療法/全脳放射線治療(high-dose methotrexate and whole-brain radiotherapy:HD-MTX/WBRT)により生存期間が延長し(Table),現在はそれを基本とした治療が選択されることが多い.本邦で最初のHD-MTX/WBRT 28例の報告では38),全生存期間中央値(median overall survival:mOS)は39.3カ月であった.しかし長期生存者が増えるにつれ,放射線晩期障害としての神経毒性がクローズアップされるようになった.

 本稿では,最近のPCNSLの診断および治療の動向について述べ,HD-MTX/WBRTと高次脳機能障害の問題,さらに,rituximabやtemozolomide(TMZ)を用いた治療,自己血液幹細胞移植併用大量化学療法(high-dose chemotherapy and autologous stem-cell transplantation:HD-CT/ASCT)などの開発途中にある療法を踏まえ,現在のところ推奨できる治療法は何か,また,そのなかで再発時に適した治療法の模索,高齢者や免疫不全患者の治療,髄腔内化学療法の可能性などについて述べる.

研究

臨界血管内圧からみた脳動脈瘤クリップの特性―高圧灌流回路とブタ血管を用いた基礎研究

著者: 水庭宜隆 ,   田中雄一郎 ,   伊藤英道 ,   大塩恒太郎

ページ範囲:P.523 - P.529

Ⅰ.はじめに

 Dandyは1938年に止血用銀クリップを用いて初めての脳動脈瘤頚部クリッピング術を成功させた3).それ以降さまざまなクリップが誕生しては淘汰され,近年Yaşargil clip(ヤサーギルクリップ)とSugita clip(スギタクリップ)に代表される1.5重のコイルバネをもつcross-leg式ないしα型とも呼称されるクリップ形状に集約されるに至った5).現在両ブランドのクリップは世界市場をほぼ占有しており,クリップの閉鎖力に関してはクリップパッケージに個別に測定された数値が表示されている.その値は1998年の国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)の基準に従い,クリップのブレードの先端から1/3の部分でブレードの開き幅1mmで計測された閉鎖力が記される.しかし,実際クリップを動脈瘤頚部にかけた場合,その数値のみでクリップ滑脱のリスクを予見できるわけではない.

 クリップが動脈瘤頚部を閉じる能力に関しては,クリップがもつ物理的なバネの力に加えてさまざまな要因が関与しており5),クリップ側の要因と動脈瘤側の要因に分けるのが理解しやすい.クリップ側の要因としては,クリップの形状,ブレードの長さ,ブレードの幅,ブレードの開き幅,ブレード内側の滑り止めパターン,ブレードのどこで動脈瘤頚部を挟むのかなどが挙げられる.動脈瘤側の要因としては,動脈瘤頚部の径,動脈瘤頚部の壁厚,血管の弾性,動脈硬化の程度,血圧などがある.

 クリップの特性を分析する手段として,摘出血管を動脈瘤頚部に見立てて把持したクリップが滑脱する血管内圧,すなわち臨界内圧を測定する方法がある.これまでに2つの報告がある.Finkらは当時の5つのブランドのクリップ(メイフィールド,スコヴィル,バリアングル,ヤサーギル,ハイフェッツ)を分析しているがスギタクリップや10mmを超えるロングブレードのクリップは対象としておらず10),実験システムの制限で直径6mm以下の血管では実効数値が得られなかった6).Atkinsonらの実験はスギタクリップのほか4ブランドのクリップ(ヤサーギル,サント-キース,マクファーデン,ハイフェッツ)を用い300mmHg以下の血管内圧では滑脱が起きないとする結論のみにとどまった1).いずれの研究も最大測定圧が300mmHgに制限されクリップの特性を十分に解明したとはいえない.

 そこでわれわれはスギタクリップの特性をより詳細に解明するために,血管内圧を最大2,000mmHgまで測定可能な灌流回路とブタ血管を用い,最も頻用される直ブレードクリップからブレード長が異なる3種類を用意し,それらのクリップが滑脱する時の臨界血管内圧を測定した.その結果から最良のクリップ選択とクリッピング法に関して考察を加えた.

5-ALA誘導protoporphyrin Ⅸの蛍光を視認できる腫瘍細胞密度の検討―培養グリオーマ細胞と臨床例での測定

著者: 北井隆平 ,   竹内浩明 ,   三好憲雄 ,   ,   根石拡行 ,   橋本智哉 ,   菊田健一郎

ページ範囲:P.531 - P.536

Ⅰ.はじめに

 悪性神経膠腫においては,5-aminolevulinic acid(5-ALA)の投与により,その代謝産物のprotoporphyrin Ⅸが腫瘍細胞内に蓄積する.近年,protoporphyrin Ⅸの蛍光を指標とした脳腫瘍摘出術が広く普及してきている3,5,7,10,12).しかしながら,膠芽腫での陽性率は70~100%と報告され,必ずしも全例で陽性となるわけではない1,3,5,7,10,12).5-ALAによる蛍光診断の要点は手術顕微鏡を通して術者の肉眼で蛍光陽性と視認できることである.膠芽腫の組織像は多彩で,小型の腫瘍細胞が密に増殖している部分や壊死が広汎に存在する部分などさまざまである6).実際の手術でも摘出を進めているうちに,蛍光陽性の判別が困難になる事態もしばしば経験する.そこで,蛍光について最も基本的な腫瘍細胞密度に注目し,培養細胞を用いて検討した.研究手法は,培養細胞を腫瘍組織塊に近似させるため,三次元的に分布させ,蛍光の陽性度とスペクトラム測定を行った.さらに,実際の臨床例において組織中protoporphyrin Ⅸ濃度,蛍光スペクトラムを検討し,培養細胞での実験結果と対比した.

離島発症くも膜下出血患者のヘリコプター搬送のタイミングについて

著者: 川原一郎 ,   松永裕希 ,   堤圭介 ,   高畠英昭 ,   小野智憲 ,   戸田啓介 ,   馬場啓至

ページ範囲:P.537 - P.543

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)患者における脳動脈瘤の再破裂は,状態悪化とともに予後不良へと導く重篤な事態である.再破裂時期に関しては種々の報告があるが,一般的には初回発症から6時間以内が最も再破裂を来しやすいと言われており5,14,15),その間の厳重な急性期管理が要求され,現在では一定のconsensusが得られている.再破裂をいかに予防し脳卒中専門医のいる病院へ搬送するかは重要で,通常SAH患者は救急車にて搬送されてくる.一方,離島発症のSAH患者の場合,その搬送は通常ヘリコプター(ヘリ)が主体である.しかしながら,報告例2,3,7,11)が極めて少ないこともあり,SAH発症後の最も安全かつ有効なヘリ搬送のタイミングに関しては定まった見解はない.われわれも搬送中の再破裂を極力回避するため発症後間もない症例などは暗黙的に6時間経過した後に搬送する傾向があったが,これらの適否について再検証を行い,長年離島医療支援を担ってきた経験をもとに現状での問題点を踏まえ報告する.

症例

小脳出血で発症した小児髄芽腫の1例

著者: 古畑匡規 ,   藍原康雄 ,   江口盛一郎 ,   堀場綾子 ,   田中雅彦 ,   小森隆司 ,   岡田芳和

ページ範囲:P.545 - P.551

Ⅰ.はじめに

 髄芽腫(medulloblastoma)は小脳虫部を中心に発生し,第四脳室および両側小脳半球に浸潤性に進展していく悪性腫瘍である.ほとんどが15歳未満の小児に発生し,小児脳腫瘍の約20%を占めている5).発症は腫瘍の増大に伴う急性水頭症や小脳失調に伴うものが多くを占め,出血による発症はわずかである.今回われわれは,小脳出血による発症を来し診断に苦慮した8歳女児の髄芽腫の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

胃癌原発側脳室内転移性脳腫瘍の1例

著者: 大下純平 ,   大庭信二 ,   伊藤陽子 ,   米澤公器 ,   細貝昌弘

ページ範囲:P.553 - P.559

Ⅰ.はじめに

 側脳室内の脳腫瘍は全頭蓋内腫瘍の2%未満と稀であり,髄膜腫,星細胞腫,上衣腫などが代表的である1).一方,側脳室内に発生する転移性脳腫瘍も稀であり1),多くは腎細胞癌からの転移2)である.今回われわれは胃癌に対して胃全摘術を施行され,8年後に側脳室内転移を生じた1例を経験した.渉猟し得た限り胃癌から側脳室転移を生じた報告例はこれまで1例のみ5)であり,非常に稀な症例といえる.本症例について文献的考察を含めて報告する.

漏斗下垂体炎による中枢性尿崩症と後腹膜線維症を合併した,IgG4関連疾患と考えられる1例

著者: 田中潤 ,   荒井篤 ,   林成人 ,   阪上義雄 ,   荒木恒太 ,   垣内誠司 ,   野村哲彦 ,   桑村圭一 ,   甲村英二

ページ範囲:P.561 - P.566

Ⅰ.緒  言

 IgG4関連疾患とは,病理組織学的にリンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化を特徴とし,臨床的には高IgG4血症や抗核抗体などを認めるとともに,同時性あるいは異時的に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変を認める原因不明の疾患である4).この疾患の概念が確立されたのはごく最近であり,現在もその病態・治療などについて活発に議論が重ねられている.中枢神経系においても下垂体炎9),肥厚性硬膜炎2,5,6)などの報告があり,われわれ脳神経外科医にとっても無縁の疾患ではない.今回われわれは後腹膜線維症および中枢性尿崩症を伴う漏斗下垂体炎を合併した,IgG4関連疾患と考えられる1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

塞栓子(白色血栓)を予測してPenumbra System®よりMerci® Retrieval Systemに速やかに変更することで血行再建し得た頭蓋内内頚動脈閉塞症の1例

著者: 井上明宏 ,   田川雅彦 ,   久門良明 ,   尾崎沙耶 ,   西川真弘 ,   渡邉英昭 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.567 - P.574

Ⅰ.はじめに

 近年,脳主幹動脈閉塞に伴う急性期脳卒中に対する血行再建治療は目覚ましい進歩を遂げている14).現在,発症4.5時間以内の急性期脳梗塞に対してはrecombinant tissue plasminogen activator(rt-PA:alteplase)静注療法が第1選択の治療とされており,最も高いエビデンスレベルを有する治療法であるが3,9),その適応外症例やrt-PA投与後早期に血流回復が得られなかった症例に対しては,機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy)が治療戦略の中に組み込まれるようになっている11-13).本邦では,mechanical thrombectomyに対しては,Merci® Retrieval System(Concentric Medical,Mountain View,CA,USA)とPenumbra System®(Penumbra,Alameda,CA,USA)の2種類のデバイスが承認されており,各症例に応じて適切なデバイスを選択することが必要となっているが,その選択基準は未だ定まっていない10,14,15).一方で,急性期血行再建に際しては,塞栓子となる血栓の性状予測が治療効果に影響を与えるとの報告が散見されている2,4).特に,最近では塞栓子として最も多い赤色血栓についての報告が増加しており,詳細な画像検討も行われるようになっているが,赤色血栓の対極に位置する白色血栓に関する報告例は極めて少ない2,4,5).今回われわれは,術前に塞栓子の状態(白色血栓)を予測することでPenumbra System®よりMerci® Retrieval Systemに速やかにデバイスを変更し再開通を得ることができた,頭蓋内内頚動脈閉塞症の1症例を経験したので報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

遺残性原始三叉動脈に両側内頚動脈病変を伴った1例

著者: 平田浩二 ,   小松洋治 ,   木村泰 ,   松村明

ページ範囲:P.575 - P.580

Ⅰ.経験症例

 現病歴 71歳,男性.既往歴に高血圧と冠動脈バイパス術がある.右不全麻痺,失語を認め当院に救急搬送となり,頭部MRIで左前頭弁蓋部に急性期脳梗塞を認めた.MRAで左内頚動脈(左ICA)閉塞を認めたが,発症時間が不明であり保存的入院加療となった.来院時,vital signに異常なく,神経学的所見ではJapan Coma Scale Ⅰ-2,Glasgow Coma Scale 4-4-6,運動性失語あり,構音障害を認めた.右片麻痺はManual Muscle Test(MMT)4/Vであり,起立歩行は困難であった.National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)8であった.

 画像検査所見 MRIで左前頭弁蓋部に急性期脳梗塞を認め,後頭蓋窩や後頭葉の後方循環系には異常所見を認めず,DWI-ASPECTS 10(Fig.1A)であった.MRAでは左ICAが総頚動脈(CCA)分岐直後から途絶しており,頭蓋内の左ICA,左中大脳動脈(左MCA)の描出は認めなかった.しかし,左遺残性原始三叉動脈(persistent primitive trigeminal artery:PPTA)から左ICAの先端がわずかに描出されていた(Fig.1B).

脊椎脊髄手術に必要な基本的知識

(10)手根管症候群

著者: 原政人

ページ範囲:P.583 - P.591

Ⅰ.手根管症候群とは

 手根管症候群とは,手根骨と横手根靱帯からなるトンネル内(手根管内)の圧が上昇し,正中神経が横手根靱帯に押しつけられて絞扼を受ける病態である.半数以上は特発性といわれ,先天性に手根管が狭小している状態に,手関節の屈曲・伸展などによる物理的負荷が加わることにより発症すると考えられている.その他の発症の危険因子として,屈筋腱の腱鞘炎,関節リウマチによる滑膜炎,人工透析患者のアミロイド沈着,腫瘍,ガングリオン,骨折など手根管の内腔を狭める局所因子や,遺伝性圧脆弱性ニューロパチー,糖尿病性多発ニューロパチーなどの神経の脆弱性,妊娠,浮腫,甲状腺疾患,原発性アミロイドーシスなどの全身性因子などがあるとされる17).また,女性に多く,閉経(早期のもの),妊娠および出産回数に関係するとの報告16)もあり,女性ホルモンとの関連も推定されている.さらに,重要な因子として,加齢と肥満がある.これまでの報告で,加齢とともに発症率が上がること,body mass index(BMI)が30を超え24),腹囲が88cmを超える場合にも頻度が高いとの報告はよくみられる11)

報告記

第7回アジアてんかん外科学会―(2013年10月25,26日)

著者: 貴島晴彦

ページ範囲:P.581 - P.582

 2013年10月25~26日に,中国の首都・北京で第7回アジアてんかん外科学会(7th Asian Epilepsy Surgery Congress(AESC))が開催されました.本学会は,韓国,中国,日本,台湾のてんかん外科医の交流,情報交換を行う目的として始められた学会です.2007年に第1回が韓国のソウルで開催され,その後,石家荘(中国),大阪,台北,香港,釜山を経て第7回は北京での開催となりました.

 今回は,北京の北西方向の郊外にある香山公園に隣接するFragrant Hill Empark Hotelで開催されました.香山公園は800年以上の歴史を持つ公園で,特にこの時期は紅葉の名所として知られています.

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欧文目次

ページ範囲:P.503 - P.503

お知らせ

ページ範囲:P.529 - P.529

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.582 - P.582

ご案内 第44回(2014)新潟神経学夏期セミナー

ページ範囲:P.591 - P.591

テ ー マ 脳と心の基礎科学から臨床まで最前線の研究者,臨床家に触れて体感しよう

期  日 7月31日(木)~8月2日(土)

場  所 新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター(6F)セミナーホール

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.594 - P.594

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.595 - P.596

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.597 - P.597

次号予告

ページ範囲:P.599 - P.599

編集後記

著者: 宮本享

ページ範囲:P.600 - P.600

 本号も力のこもった多くの原稿をいただいた.泉本修一先生の中枢神経系原発悪性リンパ腫に関する総説は最近の診療の動向が詳述されている.水庭宣隆先生は脳動脈瘤クリップの特性についての実験を報告されている.日本では同様に脳卒中診療に従事する脳血管外科医と脳卒中内科医の違いは,前者が手術を行う技術集団であるという点に尽きる.脳神経外科医は手術に使用する機器の特性をよく知らねばならないが,無頓着なままに使用している人も少なくないと思われるので,読者に役立つと期待できる.くも膜下出血が離島において発症した際のドクターヘリ輸送に関する長崎医療センターの川原一郎先生の論文も掲載されている.背景医療圏に離島を抱える同センターならではの臨床研究である.脳動脈瘤続きになるが,扉では「脳動脈瘤手術八節」というテーマで五味玲先生が,脳動脈瘤手術におけるステップを弓道の心のあり方になぞらえて書かれている.一言でいえば,全体を俯瞰できる静かな心であろうか.昨今の煽動的ジャーナリズムに迎合するかのように,はしゃいだり騒いだりする人々のあり方を常々苦々しく思っている者として,五味先生の文に清々しさを感じた.

 さて,本誌には症例報告も多く掲載されている.症例報告は貴重な症例の経験を読者と共有するという意義のほかに,ビギナー著者にとって論文投稿の登竜門としての意味合いがある.投稿原稿を査読していると,まともな日本語になっていない論文に時々遭遇する.学会で発表しているかのような口語体と論文としての文語体が入り混じっていることがある.その程度ならまだ可愛らしいもので,論文の体をなしていない論文も少なくない.本来結果で述べるべき内容を考察の中で述べたり,同じ内容を繰り返したり,冗長すぎて論文の主旨があいまいになっていたりする.これらは論理的考察が不十分であることの反映である.査読でその瑕疵を指摘しても,再投稿されてきた論文の構成にほとんど改善が認められない場合には査読者は困惑する.査読にかけた時間を返してくれと言いたくなる.果たして指導者はきちんと指導できているのか,あるいは指導者自身が論理的考察をできないのだろうか,と案じたりする.自戒の意味も込めて,指導的立場の先生方には適切な論文執筆のご指導をお願いしたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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