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研究
臨界血管内圧からみた脳動脈瘤クリップの特性―高圧灌流回路とブタ血管を用いた基礎研究
著者: 水庭宜隆1 田中雄一郎1 伊藤英道1 大塩恒太郎1
所属機関: 1聖マリアンナ医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.523 - P.529
文献購入ページに移動Dandyは1938年に止血用銀クリップを用いて初めての脳動脈瘤頚部クリッピング術を成功させた3).それ以降さまざまなクリップが誕生しては淘汰され,近年Yaşargil clip(ヤサーギルクリップ)とSugita clip(スギタクリップ)に代表される1.5重のコイルバネをもつcross-leg式ないしα型とも呼称されるクリップ形状に集約されるに至った5).現在両ブランドのクリップは世界市場をほぼ占有しており,クリップの閉鎖力に関してはクリップパッケージに個別に測定された数値が表示されている.その値は1998年の国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)の基準に従い,クリップのブレードの先端から1/3の部分でブレードの開き幅1mmで計測された閉鎖力が記される.しかし,実際クリップを動脈瘤頚部にかけた場合,その数値のみでクリップ滑脱のリスクを予見できるわけではない.
クリップが動脈瘤頚部を閉じる能力に関しては,クリップがもつ物理的なバネの力に加えてさまざまな要因が関与しており5),クリップ側の要因と動脈瘤側の要因に分けるのが理解しやすい.クリップ側の要因としては,クリップの形状,ブレードの長さ,ブレードの幅,ブレードの開き幅,ブレード内側の滑り止めパターン,ブレードのどこで動脈瘤頚部を挟むのかなどが挙げられる.動脈瘤側の要因としては,動脈瘤頚部の径,動脈瘤頚部の壁厚,血管の弾性,動脈硬化の程度,血圧などがある.
クリップの特性を分析する手段として,摘出血管を動脈瘤頚部に見立てて把持したクリップが滑脱する血管内圧,すなわち臨界内圧を測定する方法がある.これまでに2つの報告がある.Finkらは当時の5つのブランドのクリップ(メイフィールド,スコヴィル,バリアングル,ヤサーギル,ハイフェッツ)を分析しているがスギタクリップや10mmを超えるロングブレードのクリップは対象としておらず10),実験システムの制限で直径6mm以下の血管では実効数値が得られなかった6).Atkinsonらの実験はスギタクリップのほか4ブランドのクリップ(ヤサーギル,サント-キース,マクファーデン,ハイフェッツ)を用い300mmHg以下の血管内圧では滑脱が起きないとする結論のみにとどまった1).いずれの研究も最大測定圧が300mmHgに制限されクリップの特性を十分に解明したとはいえない.
そこでわれわれはスギタクリップの特性をより詳細に解明するために,血管内圧を最大2,000mmHgまで測定可能な灌流回路とブタ血管を用い,最も頻用される直ブレードクリップからブレード長が異なる3種類を用意し,それらのクリップが滑脱する時の臨界血管内圧を測定した.その結果から最良のクリップ選択とクリッピング法に関して考察を加えた.
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