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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科42巻7号

2014年07月発行

雑誌目次

何のために働くのか

著者: 河野道宏

ページ範囲:P.603 - P.604

 最近,巻頭言やエッセイを書く機会をいただくようになってきた1,2).今回は以前から私が考えてきたことを書かせていただきたいと思う.

 何のために働くのか? こう問われて何と答えるだろうか.多分,「いやあ,今までそんなこと考えたことなかったなあ.まいったな」という答えが,私を含めて大半を占めるのではないだろうか.あるいは,「そりゃ,生活のために決まってんだろ!」であろうか.『何のために働くのか』これは,SBIホールディングス株式会社代表取締役の北尾吉孝氏の本のタイトルである(致知出版社).6年前にこの本を読み,自分ではどんな答えを出せるのかを考えてきた.北尾氏の考えは,仕事には困難や辛苦があるからこそチャレンジのしがいがあり,それをやり遂げることによって人間的に成長し,より器が大きくなれる,というものである.人間は仕事を通じて自分自身の人間性と魂を磨き,高めていくことができ,仕事の対価(見返り)は,人間的に成長できることと,人との「ご縁」であるとしている.仕事をやり遂げるうえで欠かせないものは「憤」の一字であり,負けじ魂が出てこないと本物にはなれない.「なせばなる」という前向きの考え方,「なさねばならない」という強い意志をもつことが大切であり,一分一秒たりとも無駄にすることはできないとしている.

総説

脳神経外科リハビリテーションにおけるロボティクス技術の応用

著者: 中井啓 ,   松村明

ページ範囲:P.605 - P.613

Ⅰ.リハビリテーションとロボティクス

 リハビリテーションでは,内科や外科といった各診療科を横断的に診察/治療する.疾病ではなく障害を対象としているため,その概念や手法は,通常の内科的治療,外科的治療とは異なり,また評価基準も独自のものが存在する2).神経系の病気,なかでも脳卒中は,本邦の死亡原因第3位こそ肺炎にゆずったものの,依然として罹患患者の数,また生活に支障を来す症状の割合が高いため,高齢化社会の進行,急性期,回復期リハビリテーションの広がりとともに,リハビリテーションのなかでも大きな割合を占めている.

 片麻痺に代表される脳卒中による運動麻痺などの神経症状は,一般的に急性期から維持期まで緩やかに回復し,次第に頭打ちとなり7),disabilityの程度は確定していくとされている.したがって,これまでの神経疾患に対するリハビリテーションは,利き手交換など,残存機能による代償手段の獲得が中心であった.しかし,近年,神経科学による検証が進められ,適切なリハビリテーションによって,損傷された神経回路を迂回するような新しい回路を再構成し,機能回復が可能であるという脳の可塑性が動物実験で証明されており22),これに対応した新しいリハビリテーション手法,評価方法の開発が求められている.

症例

Pushable coilで母血管閉塞術を施行したcarotid blowout syndromeの1例

著者: 福田修志 ,   林健太郎 ,   山口将 ,   堀江信貴 ,   森川実 ,   陶山一彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.615 - P.620

Ⅰ.はじめに

 Carotid blowout syndrome(CBS)は,頚部の頚動脈破裂,もしくは頚動脈の露出を意味し,頭頚部癌の致死的合併症の1つである1-4,7-12).頻度としては3~5%程度と報告されている3,7,10,11).治療は血管内治療による頚動脈閉塞やcovered stentが第一選択となる1,2,4,5,9,10).頚動脈閉塞には多数のcoilを使用するため,医療経済的には大きな負担になる.今回われわれは,食道癌術後に頚部リンパ節郭清,放射線照射を施行後に皮膚潰瘍を呈し,それに伴うCBSに対しpushable coilで母血管閉塞を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

術後過灌流が再燃して症候化したと考えられる成人もやもや病の1例

著者: 林智秀 ,   柏崎大奈 ,   秋岡直樹 ,   桑山直也 ,   黒田敏

ページ範囲:P.621 - P.627

Ⅰ.はじめに

 もやもや病は,内頚動脈終末部の狭窄や閉塞とウィリス動脈輪周囲で形成される異常な血管網を特徴とする疾患である6,8).虚血発症のもやもや病に対する外科治療は浅側頭動脈-中大脳動脈(superficial temporal artery to middle cerebral artery:STA-MCA)バイパスに代表される直接血行再建術と,encephalo-duro-myo-arterio-pericranial synangiosis(EDMAPS)などの間接血行再建術に分けられる7).間接血行再建術は,側副血行路が構築されるまでに時間を要するのに対して,直接血行再建術は,脳循環代謝をただちに改善することができる.その一方で,近年,もやもや病に対する直接血行再建術の後に過灌流現象(hyperperfusion)が発生し得ることもわかってきた.この現象は場合によっては痙攣や脳出血などの重大な合併症につながり得るため注意が必要である.過去の報告では,過灌流現象は直接血行再建術後の1週間以内に発生し,長い場合は約2週間程度継続するとされている5,9).今回,われわれは,術後2日目にいったんは改善した過灌流現象がその後に再燃し,症候化して脳出血を来した稀な1例を経験したので報告する.

下垂体前葉機能低下症に対しホルモン補充療法が奏効した男性乳癌下垂体転移の1例

著者: 福永篤志 ,   矢﨑貴仁 ,   清水克悦 ,   落合真人

ページ範囲:P.629 - P.633

Ⅰ.はじめに

 男性乳癌は比較的稀であり,さらに下垂体へ転移し尿崩症ではなく前葉機能低下症で発症することも稀である.今回,それらを合併した症例を経験し,神経内分泌学的病態と治療法についての考察を加えたので報告する.

頚部放射線照射後の頚動脈狭窄に対してproximalおよびdistal protectionを併用し頚動脈ステント留置術を施行した1例

著者: 福田修志 ,   林健太郎 ,   堀江信貴 ,   森川実 ,   山口将 ,   諸藤陽一 ,   日宇健 ,   永田泉

ページ範囲:P.635 - P.639

Ⅰ.はじめに

 頭頚部の悪性腫瘍に対する放射線照射後に高度の血管狭窄が起こることが知られている.放射線照射後の頚動脈狭窄症(radiation-induced carotid stenosis:RI-CS)は,近年癌の予後が改善し,長期生存例における脳梗塞の発症の一因として問題となっている.RI-CSは放射線照射領域に一致して数年の経過とともに狭窄病変が進行し,不安定プラークを呈することが多く,十数年後に脳梗塞を発症する危険性が高い病態である2,3,6,7,11-13).RI-CSは脳卒中治療ガイドライン(2009)では頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)危険因子とされ,頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)を行うことがGrade Bとされている.今回われわれは,放射線照射後の頚動脈狭窄症に対してproximalおよびdistal protectionを併用してCASを施行し,術後経過が良好であったので報告する.

小脳虫部髄芽腫に対する放射線療法25年後に発生した前頭葉CNS primitive neuroectodermal tumorの1例

著者: 佐藤裕之 ,   澁谷航平 ,   小泉孝幸 ,   加藤俊一 ,   遠藤深

ページ範囲:P.641 - P.650

Ⅰ.はじめに

 中枢神経系primitive neuroectodermal tumor(CNS PNET)は未分化な神経上皮性腫瘍からなり,神経細胞,グリア,上皮細胞などへの多様な潜在的分化能をもつ腫瘍である.WHO gradeⅣであり,組織学的に類似した髄芽腫とともに胎児性脳腫瘍である.発生母地としては,Rorke20)は胎生期に盛んに分裂増殖している脳室周囲細胞であるgerminal matrix cellが起源であると推定し報告している.1973年にHartとEarle11)によって,①幼少期に好発,②臨床的に悪性,③大脳に発生,④肉眼的に囊胞状,出血性で境界明瞭,⑤顕微鏡的に悪性,全体的に未分化で一部グリア細胞や神経細胞への分化傾向を認め,⑥著明な間質成分という特徴を有し,90~95%以上が未分化の細胞からなる腫瘍として提唱された.

 一方,髄芽腫治療後長期生存例が増えるにつれて,二次新生物,とりわけ二次性脳腫瘍の報告は増えてきている.

 今回われわれは,髄芽腫に対する放射線治療25年後に発症した放射線誘発性が疑われる二次性脳腫瘍としてのCNS PNET症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳内出血にて発症したisolated central nervous system relapse of diffuse large B-cell lymphomaの1例

著者: 金泰均 ,   輪島大介 ,   米澤泰司 ,   高村慶旭 ,   宮前誠亮

ページ範囲:P.651 - P.658

Ⅰ.はじめに

 Diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)は,脳以外の節外性DLBCLが比較的長期間を経て,中枢神経系だけに再発する[isolated central nervous system(CNS)relapse]ことがあることが知られているが,脳内出血発症の報告は稀である.今回,われわれはisolated CNS relapse of DLBCLに伴うと考えられる脳内出血発症例を経験したので報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

MR spectroscopyが診断に有用であった血管内リンパ腫の1例

著者: 音琴哲也 ,   秦暢宏 ,   三月田祐平 ,   藤岡寛 ,   井上大輔 ,   甲斐康稔 ,   芳賀整 ,   詠田眞治

ページ範囲:P.659 - P.664

Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 76歳 女性

 既往歴・家族歴 特記事項なし

脊椎脊髄手術に必要な基本的知識

(11)頭蓋頚椎移行部

著者: 安田宗義 ,   高安正和

ページ範囲:P.673 - P.688

Ⅰ.はじめに

 頭蓋頚椎移行部は解剖学的,生理学的,臨床的に以下のような特徴がある.

(1)解剖学的:重要器官が集中(頚・椎骨動脈,脊髄・下位脳神経,咽頭),独特な骨構造

  =立体構造理解が容易でない

(2)生理学的:重い頭部の支持と重要器官保護⇔自由な回旋運動の主軸

  =相反する機能を担うため,手術適応・術式決定が難しいことがある

(3)臨床的:脳神経外科・整形外科・耳鼻咽喉科など,複数の科にまたがる領域

  =お互いに技術・知識の壁があり,連携診療が求められる

 本稿では脳神経外科・脊髄外科の観点から,頭蓋頚椎移行部外科に関し成書からは容易に学べないところを意識して説明する.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

てんかん症例への行政支援

著者: 兼本浩祐 ,   村居巌 ,   大島智弘

ページ範囲:P.665 - P.672

Ⅰ.はじめに

 わが国では,基本的にてんかんに特化した行政支援は行われておらず,精神障害者福祉政策の1つとしてそのおおよそは捉えることができる.本稿においては,はじめにわが国における行政支援の歴史を概観し,次に実際にてんかんを診療する医師が依頼される可能性が高い代表的な診断書を3つ提示し,最後にそうした診断書を1つの拠り所として受けることができる可能性のある行政支援を総括した.

 なお,本稿は,日本てんかん協会のホームページの該当ページ(http://www.jea-net.jp/tenkan/seido.html)を原資料として参照し,医師の必要という観点から適宜整理したことをあらかじめお断りしておく.詳細が必要であればぜひ参照されたい.

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欧文目次

ページ範囲:P.601 - P.601

お知らせ

ページ範囲:P.639 - P.639

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.658 - P.658

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.690 - P.690

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.691 - P.692

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.693 - P.693

次号予告

ページ範囲:P.695 - P.695

編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.696 - P.696

 今月の「扉」には河野道宏教授から「何のために働くのか」をご寄稿いただいた.手術の名手である河野先生が,その技術をもって多くの患者を助け,そしてその技術を後輩に伝承していく姿勢がよく伝わってくる.「憤」「なにくそ」の精神を本から学びそれを実践しているとのこと,引用されている北尾氏,中村氏の著書を読者の皆様も読んでみてはいかがだろう.そのほか,今月号には,中井啓先生のリハビリテーションとロボティクスの総説をはじめ,興味深い症例報告なども多く掲載されている.

 外国から留学生にもっと来てもらおう,世界に通用する学生を育てよう,という日本政府のかけ声もあって,大学内はどこもかしこも「グローバル化」である.国際バカロレア入試の採用,管理者に対してのグローバルリーダーシップ研修,そしてグローバル人材育成特別コースの設定など,次々に「グローバル」に関連する事業が行われている.病院や大学のホームページに関しても,最初のほうのページだけでなく,ページを深く入っていっても英語での情報が得られる事例が増えている.来訪した外国人医師に病院内を案内する際,英語表記が意外なほど少ないことが判明し,これを追加した,という話もよく聞く.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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