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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科43巻12号

2015年12月発行

雑誌目次

子どもの看取りの医療

著者: 山崎麻美

ページ範囲:P.1053 - P.1054

 子どもの医療の中で終末期医療のあり方に関する議論が始まって久しい.日本小児科学会には倫理委員会小児終末期医療ガイドラインワーキンググループがあり,「重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」が既に策定されている.医療の進歩によって延命技術も進歩したが,予後不良で限られた命であるような重篤な疾患を持つ子どもの場合,どこまでもエンドレスファイティングを追求すれば,何のための延命だったのかがわからなくなる.とはいえ,子どもの場合,人生を過ごし自分の価値観・人生観・死生観をもった成人の場合とは異なり,方針決定には代諾者である親の意向が大きく反映される.親の意向は,必ずしも子どもの最善の利益でない場合がある.カナダ小児科学会倫理委員会は,「子どもの最善の利益は一定の方針による治療を行った結果,生じうる利益と危害または苦難を比較衡量したものである」としている.
 また一方で出生前診断技術の進歩により,先天性疾患の多くは出生前に診断されるようになっている.私たちの病院には3年前の4月に発足した,プレネイタルサポートチームがある.メンバーは,産科・新生児科・小児外科・小児脳神経外科の医師,外来・NICU・GCU・MFICUの看護師および助産師,理学療法士,臨床心理士,MSW,医療秘書科事務職員と多職種から構成されている.全国で初の専任の周産期コーディネーターを置き,2週間に1回の会議をもちながら,これまでに約100家族のサポートを行ってきた.まずしっかりとサポートするにあたって,正確な診断が必要である.生まれる前にわかる病気は多岐にわたるので,多くの専門家の意見が必要である.妊娠21週以前の診断であれば,悩んだ結果その出産をあきらめることもあるが,あきらめるのも苦渋の決断である.もちろん病気があってもしっかり病状を受け止め継続を決断する場合も多い.いかなる決断であっても,しっかりサポートしていく姿勢が必要である.妊娠を継続するときは,お産の時期や方法,その後の治療のタイミングなどを議論し,ご両親とチームのメンバーとで面接を行い,ときには赤ちゃんが生まれてから入るNICUの見学などを行うのもよい.

総説

地域連携と脳神経外科

著者: 中川原譲二

ページ範囲:P.1055 - P.1070

Ⅰ.はじめに
 医療における「地域連携」は「機能分化」と一体であり,脳神経外科が関わる地域連携は,国民病とも言える脳卒中(脳血管性障害)をはじめとして,多くの領域に及ぶ.また,脳神経外科は,わが国の専門医認定制度において19基本領域の1つとされ,診療の対象疾患は,脳卒中や脳神経外傷などの救急疾患,脳腫瘍に加え,てんかん・パーキンソン病・三叉神経痛・顔面けいれんなどの機能的疾患,小児疾患,脊髄・脊椎・末梢神経疾患などと幅広い.脳神経外科専門医は,これらの予防や診断,救急治療,手術および非手術的治療,あるいはリハビリテーションにおいて,総合的かつ専門的知識と診療技術をもち,必要に応じて他の専門医への転送判断も的確に行える能力を備えた医師とされている43).さらに,取り扱う対象疾患の特異性から,難病認定,身体障害認定,精神障害認定,介護認定,自立支援などを通じて,患者の在宅療養支援にも積極的に関与することが求められる.このように脳神経外科の診療は,急性期医療から在宅医療にも及ぶため,機能分化の進展に対応しながら地域連携体制を構築しなければならない.本稿では,「脳卒中地域連携」を取り上げ,今後の「地域連携」の向かうべき方向性,脳神経外科医が取り組むべき課題について考察する.

脳卒中患者に対する細胞治療開発

著者: 田口明彦

ページ範囲:P.1071 - P.1079

Ⅰ.はじめに
 脳卒中予防に関しては,降圧薬や抗血小板薬/抗凝固薬などの多くの有効な薬剤が存在し,また脳梗塞超急性期における神経細胞死の防止に関しても,血栓溶解/血栓除去療法など有効な治療法の開発が進んでいる.しかし,これらの治療法のtherapeutic time windowは脳卒中発症前あるいは脳梗塞発症数時間以内であり,脳組織壊死が生じた後に脳神経機能回復を促進する,さらにtherapeutic time windowを延長する治療法の開発が切望されている7)(Fig.1).
 偉大な脳神経解剖学者であったサンティアゴ・ラモン・イ・カハール博士(1906年ノーベル生理学・医学賞受賞)は“脳は再生しない”と断定し,脳の再生を完全に否定する彼の宣告はドグマとして後世に強い呪縛をかけ,神経機能再生に関する研究を長期間抑圧してきた.しかしマウスなどの齧歯類だけではなく,ヒト成人脳においても神経細胞の新生が日常的に起きていることが1998年に証明され3),以後神経再生およびそれに基づく再生治療の研究が急速に進んでいる.本稿では,われわれが進めている脳卒中患者に対する内因性神経再生促進を目的とする自己造血幹細胞移植の臨床試験について紹介するとともに,急性期における過剰な炎症反応の制御を目的とした間葉系細胞移植や慢性期における神経幹細胞移植の臨床試験など,脳卒中患者に対する細胞治療の国内外での臨床知見について概説する.

症例

頚動脈ステント留置術後に多発性分節性脳血管攣縮による低灌流で脳梗塞を合併した1例

著者: 白神俊祐 ,   赤井卓也 ,   高田久 ,   飯塚秀明

ページ範囲:P.1081 - P.1089

Ⅰ.はじめに
 頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)の合併症として,術中や術後にプラークより生じる血栓塞栓症による脳虚血性合併症や過灌流症候群による症状がよく知られている.また,血圧低下,徐脈,脳血管攣縮などが原因で低灌流となる遅発性脳虚血性合併症が起こることも指摘されている.これらは,入院期間中に症状の改善を認めることが多く,臨床経過のみからは過灌流症候群などと鑑別することが困難で,十分には認識されていない.今回,われわれは症候性両側頚部内頚動脈狭窄症に対し右側CASを施行したところ,術後2日に左大脳半球の著明な低灌流による意識障害,片麻痺,運動失語症状が出現した症例を経験した.脳虚血症状出現時,頭部MRAでは両側脳血管に多発性,分節状の狭窄を認めた.1週間の昇圧で症状は改善し,分節状の狭窄は4週間で消失した.この経過からCAS術後に一過性に多発性分節性脳血管攣縮による低灌流を来したと考えた.過灌流症候群と反対の病態であるが,早急に対処すべき病態と考え報告する.

脳膿瘍で発症した播種型ノカルジア症の1例

著者: 高正圭 ,   富田隆浩 ,   柏崎大奈 ,   芦澤信之 ,   山本善裕 ,   黒田敏

ページ範囲:P.1091 - P.1097

Ⅰ.はじめに
 ノカルジアは放線菌目ノカルジア科ノカルジア属に分類される好気性グラム陽性桿菌で,広く土壌中に生息する好気性の微生物である2).近年,日和見感染症として罹患率が上昇している7,16).ノカルジア感染症の病型は,肺型,皮膚型,播種型に分類され9),播種型ノカルジア症は肺病変を伴うことがほとんどで死亡率も高いため,死亡率の低減には早期の確定診断と治療が重要である15).今回,肺病変を伴わない播種型ノカルジア症を経験して根治し得たので報告する.

解離性後大脳動脈瘤に対してステント併用コイル塞栓術を施行した1例

著者: 春間純 ,   杉生憲志 ,   雪上直人 ,   佐々木達也 ,   服部靖彦 ,   小林和樹 ,   吉田秀行 ,   棟田耕二 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1099 - P.1104

Ⅰ.はじめに
 後大脳動脈瘤(posterior cerebral artery aneurysm:PCAAN)は全脳動脈瘤の0.7〜3%と稀である5).また,PCAANは前方循環系の動脈瘤と比べて解離性動脈瘤が多いとされているが,その多くはP2 segmentに発生し,P1 segmentの解離性動脈瘤の報告は少ない15).この部位は解剖学的特性から治療方法や手技に関しても議論の分かれるところである15).今回われわれは,破裂解離性PCAANに対し,亜急性期にステント併用コイル塞栓術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

腫瘍内出血にて発症したseptum pellucidum subependymomaの稀な1症例

著者: 川原一郎 ,   藤本隆史 ,   廣瀬誠 ,   鳥羽保

ページ範囲:P.1105 - P.1111

Ⅰ.はじめに
 上衣下腫(subependymoma:SE)は脳室壁近傍に発生する分化型の予後良好な神経膠腫である.発生部位としては第四脳室が最も多く,次いで側脳室に好発する1,6,10,12).無症候性あるいは剖検などで偶然発見される場合が多く,腫瘍自体の発育も比較的ゆっくりであるため症候性となるものは比較的少ない.また,本来血管性に乏しい腫瘍でもあり出血を来すことは極めて稀である.今回われわれは,透明中隔部の腫瘍内出血を来した症候性SEの極めて稀な症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

末梢静脈栄養開始後に急激な意識障害の悪化を来したウェルニッケ脳症の1例

著者: 秋山英之 ,   齋藤実 ,   大塚喜久

ページ範囲:P.1113 - P.1118

Ⅰ.はじめに
 ウェルニッケ脳症はビタミンB1の欠乏を本態とする急性脳症であり7),1881年にCarl Wernickeにより最初に報告された3,8).急速に進行する意識障害,外眼筋麻痺,運動失調を3主徴とするが,これらの症状がすべて揃うのは全体の10〜20%程度しかないため,診断は困難なことが多い1,2,10,12,15).またウェルニッケ脳症の死亡率は10〜20%であり3),生存例の約80%は不可逆的な健忘症状および作話症を呈するコルサコフ症候群を来すとされ予後不良の疾患である11).われわれは,逆流性食道炎および萎縮性胃炎による長期間の食事量低下によりウェルニッケ脳症を発症し,末梢静脈栄養開始後に急激な意識障害の悪化を来した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

連載 脳腫瘍Update

(2)脳腫瘍の病理分類,分子生物学的解析総論

著者: 廣瀬雄一

ページ範囲:P.1119 - P.1128

Ⅰ.はじめに
 発生する臓器にかかわらず腫瘍の治療方針の最終的な判断根拠はその組織学的診断(分類)であり,特に遠隔臓器や付属リンパ節への転移が稀な脳腫瘍においては,いわゆる病期分類による治療方針決定は一般的でなく,腫瘍そのものを正確に診断することが決定的な意味をもつ.その診断の基本が病理組織学であることは他臓器の腫瘍と同様であるが,近年の分子生物学的解析法の発展はさまざまな脳腫瘍における遺伝学的異常の発見に貢献してきた.特に多くの研究がなされたのは膠芽腫に関するものであったが,近年は他の神経膠腫についても多くの研究報告がなされている.
 そもそも神経膠腫は同一の診断分類に含まれていても症例間で臨床経過が大きく異なることが稀ならずあり,組織学的診断に限界があるのではないかという問題提起は古くからされてきた.すなわち腫瘍の発生起源(星細胞由来か乏突起膠細胞由来か)や悪性度の判断(特にWHO grade ⅡなのかⅢなのか)が同一の標本を観察した病理医の間でも一致しない場合があるということである1).これを解決すべく遺伝学的解析の臨床的な意義を追究しようという試みは1990年代から欧米で行われるようになり,いまや遺伝子異常の検索は学問的興味の対象から臨床的検査項目に変わり得ることが広く認められるようになっている.すなわち,神経膠腫の遺伝学的な分類が有用と考えられるようになり,従来の形態学に準じた病理組織学的分類を補うためにも,有用な分類法となる可能性が指摘されるようになった.特に最近では神経膠腫におけるイソクエン酸脱水素酵素(isocitrate dehydrogenase:IDH)の変異が予後マーカーとして重要であることが報告される32)など,遺伝学的解析の臨床的有用性は既に確立しており,近く発表されるWHOによる脳腫瘍分類においても神経膠腫の分類法の大きな変化が予想されている26)
 本稿では特に神経膠腫に関する病理分類と分子生物学的解析の関係を解説し,脳腫瘍の分子生物学的な特徴と治療法選択との関連性についての考察を提示する.

書評

—田川 皓一●著—画像からみた 脳梗塞と神経心理学 フリーアクセス

著者: 山鳥重

ページ範囲:P.1129 - P.1129

●「わかりにくい」領域を「わかりやすく」解説する目的を見事に達成した書
 本書は280ページもの大著で,それもなんと全編書き下ろしである.
 著者の田川皓一先生は誰もがご存知の脳卒中学と神経心理学の権威である.医師・研究者としての全てのエネルギーをこの分野の知見の深化と発展のために捧げてこられた.脳卒中症例に関する臨床経験の豊富さにおいて,先生の右に出る人はおそらくいないのではなかろうか.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1051 - P.1051

お知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.1097 - P.1097

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1137 - P.1137

編集後記 フリーアクセス

著者: 新井一

ページ範囲:P.1138 - P.1138

 本号の「扉」には,山崎麻美先生から「こどもの看取りの医療」と題する原稿をいただいた.自分の意思による決定が困難な小児,特に出生前に重篤な疾患を診断された新生児への対応は,倫理的あるいは法医学的にもさまざまな問題を含んでおり,極めて重い課題である.しかしながら,医学的に予後不良で生命が限られていることが明らかな場合には,患児への親の愛情を汲みながら尊厳ある最後を迎えるべく環境を整えることは,医療に携わる者として当然の責務であろう.そこにはさまざまな職種の人々の関与が不可欠であり,まさに「患者中心の医療」を「チーム医療」をもって実践することが求められている.
 中川原譲二先生による総説「地域連携と脳神経外科」は,脳卒中をテーマにしたもので,大変に読み応えがある.基本的診療科である脳神経外科を専門とするわれわれは,実際に脳卒中の急性期医療から在宅医療まで幅広く活動している.そして,この急性期・回復期・維持期に至る脳卒中診療を円滑に行うためには,地域連携が必須であり,その前提として病院の機能分化が求められている.脳卒中医療における病院の機能分化に関しては,既にさまざまな取り組みがなされているが,その進捗度に地域格差があるのも事実であり,今後はその均てん化が全国レベルで推進されるものと予測される.このような状況のなか,脳神経外科医はその専門的知識と技術を生かして自らの果たすべき役割を見極める必要がある.田口明彦先生によるもう一編の総説「脳卒中患者に対する細胞治療開発」については,中川原先生の総説との対比が興味深い.脳梗塞に対する細胞移植治療は,現時点では確立された医療とはいえないが,そこに大いなる期待があるのも事実である.今後の発展を切望するものである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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