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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科43巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

目は口ほどに物を言う

著者: 隈部俊宏

ページ範囲:P.95 - P.96

 頭を丸めてまるで僧侶のような様相であるし,以前から「鬼軍曹」と評されて来た私であるが,子供はとことん好きである.小児悪性脳腫瘍は私の中で大きなテーマであり,手術はもちろん,末梢の血管確保・中心静脈ラインの確保/維持・さまざまな検査/照射時の鎮静まですべて行ってきた.そんなことができたのは,臨床仕事に集中させてくださった吉本高志教授・冨永悌二教授のおかげである.また一緒に働かせていただいた先輩・同僚・後輩達のおかげである.
 赤ちゃんと相対すると,必ずわれわれの目の奥をのぞき込むようにしっかりと目線を合わせる.われわれの考えていることは,彼らはおそらく一瞬にして感じ取っているはずだ.それを表現する方法は少なく,泣いている,笑っている,という程度にしかわれわれには理解できない.しかし,子供が何にもわかっていないというのはまったくの嘘だ.さまざまな処置がどう行われるか,きちんとわかっているし,どこで痛みが加えられるのか,理解している.それを説明すると,しっかりと我慢するか,その瞬間だけ,泣く.どんなに苦しいことを,何回行っていても,子供達は目線を外さない.目の奥をのぞき込む.

総説

Neurosurgical Phlebology術後脳静脈還流障害(基礎と臨床)

著者: 中瀬裕之

ページ範囲:P.97 - P.107

Ⅰ.はじめに
 体動脈と体静脈はともに内膜・中膜・外膜の3層構造からなるが,体静脈は弾性線維組織を欠き中膜と内膜が薄く平滑筋や外膜も薄い.また,体静脈には弁があって逆流しない構造になっている.一方,脳皮質静脈は中膜を有せず内膜と外膜からなる極めて薄い血管で,また弁がないなどの特徴を有している.つまり脳の静脈血は逆流できる構造になっており,静脈路を閉塞しても側副血行路が機能すれば還流障害を起こさない構造になっている.脳の静脈血は最終的に橋静脈から硬膜で囲まれた硬膜静脈洞にそそぎ込むが,どこかの段階で静脈還流が障害されると脳は浮腫や静脈梗塞の危険にさらされることになる.
 近年,脳神経外科領域において,高齢者の手術の増加や頭蓋底外科の発展に伴い脳静脈の重要性が見直されてきた.手術中の脳静脈損傷が重篤な静脈梗塞を起こすことがあり,また術中に静脈洞や架橋静脈を露出する頻度が増え,これを(意図的にあるいは意図せず)損傷する危険性が増してきた.実際には脳静脈は側副血行路のおかげで還流障害を呈することは少なく臨床的に問題となることは少ない.しかし,手術中に損傷された静脈が一定領域の静脈還流に重要な血管(active venous drainage)であったり,静脈損傷後に長時間にわたる脳圧排が加わった場合や脳腫脹の強い急性期の手術などさまざまな因子が加わって重篤な合併症を起こし得る(Fig.1)8,15,21,26,27)
 本稿では,術後に起こる脳静脈還流障害の病態に関しての基礎的・臨床的検討および実際の臨床で脳静脈梗塞を防ぐための工夫について紹介する.

研究

自己血液から作製した灌流液による血管グラフトの術中灌流・保存

著者: 木村英仁 ,   細田弘吉 ,   甲村英二

ページ範囲:P.109 - P.115

Ⅰ.緒  言
 High flow bypassは標準的脳神経外科手術手技になりつつある.その際のグラフトの術中灌流・保存液としては通常ヘパリン化生理食塩水(ヘパリン生食)にアルブミンなどを添加して使用することが多いと思われる.一方で遊離血管グラフトをわれわれより日常的に使用しその使用の歴史も長いと思われる心臓血管外科では,現在グラフトの術中灌流・保存液としてアルブミン製剤は使用しておらず,自己血液(自己血)から作製した灌流保存液を使用している施設が多いようである.文献上も自己血から作製した灌流保存液の有効性が報告されていることから5,7,8,12),われわれも現在血管グラフトを使用する際の術中灌流・保存液にアルブミン製剤は使用せず,自己血をヘパリン生食で希釈したものを用いている.その方法と有効性について報告する.

日本人の髄芽腫患者における新しい分子サブグループ診断の実施とその特徴の解析

著者: 綿谷崇史 ,   濱崎豊 ,  

ページ範囲:P.117 - P.125

Ⅰ.背  景
 髄芽腫は小児悪性脳腫瘍のなかで最も多く,また小児の腫瘍死の原因として最多であり14,16),その予後は5年生存率約60%程度である.現在,手術摘出に加え化学療法および放射線療法を組み合わせることにより一部の患者の予後は改善してきてはいるが1,2,15),それでもなお標準治療として放射線治療を要するために精神発達障害,内分泌障害などの放射線晩期障害が高頻度にみられる6,7,17).そのためたとえ5年生存率が数字上改善しているようにみえても,決して患者および家族にとって満足できる治療効果を得ていないことは明らかであり,より特異的で効果的な治療法が求められている.また言うまでもなく,治療反応性の低い予後不良群に対する新規治療の開発は急務である.
 古典的には髄芽腫は小脳顆粒細胞の癌化による単一疾患と信じられてきたが,近年,大規模な遺伝子解析プロジェクト11)などから,髄芽腫は単一の疾患ととらえるべきではなく,予後や治療反応性だけではなく,起源細胞や活性化されている分子シグナルも異なる,少なくとも4種類以上のサブグループ10)に分類することができることが明らかになった(Table1).これらは,2010年秋にボストンで開かれたコンセンサス会議にて協議され,現段階ではWntグループ,Shhグループ,グループ3,グループ4の4つに分類するのが妥当であると結論された.これらは,主に発現遺伝子の解析により分類されており,分子サブグループと呼ばれる18)

両側三叉神経痛の臨床像

著者: 横佐古卓 ,   高橋祐一 ,   菊池麻美 ,   吉村知香 ,   新井直幸 ,   大渕英徳 ,   広田健吾 ,   萩原信司 ,   谷茂 ,   笹原篤 ,   糟谷英俊

ページ範囲:P.127 - P.132

Ⅰ.はじめに
 三叉神経痛は通常一側の三叉神経の1枝から3枝の領域に一致して,刺すような短い激痛が突然に,何らかの刺激を誘因として繰り返し起こる3).症状のみから診断可能であるが,両側に痛みがある場合には診断に苦慮する.三叉神経痛の頻度は欧米では10万人につき4〜5人,両側三叉神経痛は三叉神経痛全体の数%と報告されているが3,10,12),本邦では渉猟し得た限り,まとまった報告は皆無である.そのためか両側三叉神経痛はあまり知られておらず,的確な診断が行われていない.当科では,5例の両側三叉神経痛の手術例を経験したので,片側例と比較・検討を行い,若干の文献的考察,画像所見を加えて報告する.

症例

破裂脳底動脈-上小脳動脈瘤のコイル塞栓術後に数年で新生した対側遠位部上小脳動脈瘤の1例

著者: 岸田夏枝 ,   福田仁 ,   小柳正臣 ,   山形専

ページ範囲:P.133 - P.136

Ⅰ.緒  言
 破裂脳動脈瘤に対する術後,新たに他部位に発生する脳動脈瘤(新生動脈瘤:de novo aneurysm)は比較的稀な病態ではあるが,動脈瘤性くも膜下出血の再発の一因として重要である4,9,10).今回われわれは,破裂脳底動脈-上小脳動脈瘤(BA-SCA動脈瘤)コイル塞栓術後に新生した対側遠位部上小脳動脈瘤(distal SCA動脈瘤)を経験した.後頭蓋窩破裂脳動脈瘤の治療後に後頭蓋窩にde novo aneurysmをみることは極めて稀である.脳動脈瘤治療後のde novo aneurysm形成のメカニズム,くも膜下出血術後患者の最適な画像フォローアップについて考察を加える.

嫌気性菌Fusobacterium nucleatum感染による小脳膿瘍の1例

著者: 下川能史 ,   佐山徹郎 ,   芳賀整 ,   秋山智明 ,   森岡隆人

ページ範囲:P.137 - P.142

Ⅰ.はじめに
 小脳膿瘍は,脳膿瘍の中でも3.8〜12%とテント上の脳膿瘍(大脳膿瘍)と比べて頻度は少ない2,8,9,23).また,その病態は大脳膿瘍と異なり,急速に閉塞性水頭症や小脳扁桃ヘルニアを来しやすく8,9,22),致死率も10〜15%と高いといわれてている16,17).治療に関しても,穿頭による持続排膿ドレナージが行いにくいなど,大脳膿瘍に対する外科的管理と異なる点が多い24).今回,嫌気性菌であるFusobacterium nucleatum感染による硬膜下膿瘍を伴った稀な小脳膿瘍に対し,2回の開頭手術による排膿に加えて,高圧酸素療法併用下の抗生剤治療を行い,良好な転帰を得た1例を報告する.

コイル塞栓術中に急性ステント内閉塞を来した前交通動脈瘤の1例

著者: 大島共貴 ,   田島隼人 ,   山本太樹 ,   後藤俊作 ,   西澤俊久 ,   島戸真司 ,   加藤恭三

ページ範囲:P.143 - P.146

Ⅰ.緒  言
 近年の脳動脈瘤に対する脳血管内治療における技術と器具の発達は目覚ましく,その中でも,脳動脈瘤母血管形成器具(以下,動脈瘤用ステント)併用のコイル塞栓術は,これまで治療困難とされてきた症例に対しても治療適応を拡大している4).しかしながら,動脈瘤用ステント併用コイル塞栓術にも,さまざまな合併症があることもわかってきた1,3,6).今回われわれは,前交通動脈広頚動脈瘤に対して動脈瘤用ステント併用のコイル塞栓術を施行中,動脈瘤用ステントの完全閉塞を来した1症例を経験したので,その詳細と対処法を報告する.

神経線維腫症1型に合併し,側脳室内に伸展したgangliogliomaの1例

著者: 榎本年孝 ,   福島浩 ,   吉野慎一郎 ,   平川勝之 ,   福島武雄 ,   青木光希子 ,   鍋島一樹 ,   継仁 ,   井上亨

ページ範囲:P.147 - P.152

Ⅰ.はじめに
 神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF-1)は,常染色体優性遺伝を示す遺伝性疾患であるが,その半数は遺伝歴のない孤発例で,神経系の合併病変として神経線維腫,神経膠腫,悪性末梢神経鞘腫などが知られている.神経膠腫の大半は視神経膠腫で,その他,びまん性星細胞腫,膠芽腫があり,稀に上衣腫,多形黄色星細胞腫(Pleomorphic xanthoastrocytoma:PXA),髄芽腫,胚芽異形成神経上皮腫瘍(Dysembryoplastic neuroepithelial tumor:DNT),gangliogliomaなどが報告されている.Gangliogliomaでは,大脳半球,脳幹,視交叉,視神経,脊髄などの病変が報告されているが脳室内の症例は未だ見当たらない.今回,われわれは,神経系の合併腫瘍として尾状核頭部に発生し側脳室前角に進展したgangliogliomaの稀な1例を経験した.症例を呈示し,稀な合併腫瘍について考察する.

慢性硬膜下血腫術後1年を経過して発症した感染性硬膜下血腫の1例

著者: 長尾考晃 ,   宮崎親男 ,   安藤俊平 ,   羽賀大輔 ,   黒木貴夫 ,   周郷延雄 ,   長尾建樹

ページ範囲:P.153 - P.157

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血腫は脳神経外科臨床で遭遇する機会の多い疾患であるが,慢性硬膜下血腫の被膜に感染を来す感染性硬膜下血腫は稀である1,4,11,12).感染性硬膜下血腫は,遠隔の病巣からの血行性感染が特徴であり,硬膜下膿瘍における副鼻腔などからの直達感染や,慢性硬膜下血腫の術後感染とは明らかに異なる1,4,8,10,11)
 今回われわれは,慢性硬膜下血腫に対して穿頭ドレナージ術を施行し,その約1年後に尿路感染から感染性硬膜下血腫を発症した稀な1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

書評

—福武 敏夫●著—神経症状の診かた・考えかた—General Neurologyのすすめ フリーアクセス

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.152 - P.152

●神経内科プロフェッショナルの思考過程を学べる1冊
 私はこれまで,walk-inから救急車までいろいろな経路でERを受診した方の救急診療を研修医とともに行ってきました.神経疾患の比率としては脳血管障害,つまり画像で“答え合わせ”ができる疾患に非常に多く遭遇します.救急医を志した当初は,時間があるかぎり自分で診察して,病歴をとって,「この部位に病変があるのかな」と考えてから画像を撮り,神経内科医を呼んだときに,自分が行った診察と彼らがとりたい所見とがどう違うのかを見ながら勉強するように,心がけてきたつもりです.
 しかし,神経内科医によっても所見のとり方が微妙に異なっていたり,神経内科の先生に笑われないように勉強しようと思って本を買っても,まるで所見のカタログではないかと思うくらいたくさんの所見が載っていて,「神経診察を勉強するのも難しいものだなあ……」と途方に暮れ,いつしか「患者多数でER混雑」を言い訳に,ついつい「画像検査を行って,必要があれば髄液検査を行って…,(結果がどうであっても)神経内科医に相談して……」という流れ作業のような診療になってきたことに気づきます.

—福永 篤志●著 稲葉 一人●法律監修—トラブルに巻き込まれないための医事法の知識 フリーアクセス

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.170 - P.170

●医師の視点から,実例に沿って法律を解説した稀有な1冊
 メディアを見ると,医療と法の絡んだ問題が目に入らない日はないと言っても過言ではない.当然である.私たちの行う医療は,「法」によって規定されている.本来,私たち医師は必須学習事項として「法」を学ぶべきである.しかし,医学部での系統的な教育をまったく受けないまま,real worldに放り出されるのが現実である.多くの医師が,実際に医療現場に出て,突然,深刻な問題に遭遇し,ぼうぜんとするのが現状である.その意味で,すべての医師の方に,本書を推薦したい.このような本は,日本にはこの1冊しかないと確信する.
 先日,若い裁判官の勉強会で講演と情報交換をさせてもらった.その際,医療と裁判の世界の違いをあらためて痛感させられた.教育課程における履修科目もまったく異なる.生物学,数学は言うまでもなく,統計学や文学も若い法律家には必須科目ではないのである.統計学の知識は,今日の裁判で必須ではないかという確信があった私には少々ショックであった.その席で,いわゆるエビデンスとかビッグデータを用いた,コンピューターによる診断精度が医師の診断を上回る時代になりつつあることが話題になった.同様に,スーパーコンピューターなどの力を借りて,数理学的,統計学的手法を導入し,自然科学的な判断論理を,法の裁きの場に持ち込むことはできないかと若い法律家に聞いたが,ほぼ全員が無理だと答えた.法律は「文言主義」ではあるが,1例1例が複雑系のようなもので,判例を数理的に処理されたデータベースはおそらく何の役にも立たないというのが彼らの一致した意見であった.法律の世界での論理性と医療の世界での論理性は,どちらが正しいという以前に,出自の異なる論理体系をもっているのではないかと思うときがある.医師と法律家の間には,細部の違いではなく,乗り越えられない深い次元の違う溝が存在するのではというある種の絶望感が残った.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

(7)くも膜下出血—最近の動向

著者: 石原秀行 ,   杉本至健 ,   白尾敏之 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.159 - P.166

Ⅰ.はじめに
 わが国における疫学研究では,くも膜下出血の発症数は年間10万人あたり約20人である10).人種別にみると日本人では発症率が高い疾患である.
 先進国ではこの約40年間に死亡率は約60%から約30%に低下している13-15).1960年代に脳神経外科手術に手術用顕微鏡が導入されて以降も,絶え間なく続く治療と管理の進化が寄与しているものと考えられる.1990年代にはコイルを使用した血管内治療が開発され,急性期治療の幅を大きくした.また,脳血管攣縮に対する治療の改善も予後改善に貢献しているものと考えられる.本稿ではくも膜下出血に関連する最近の話題について概説する.

報告記

第9回世界脳卒中学会—(2014年10月22〜25日)

著者: 佐藤光夫

ページ範囲:P.168 - P.169

 2年ぶりとなるWorld Stroke Congress(WSC)は10月22〜25日の会期でトルコのイスタンブールで開催されました(写真1).ChairはオーストラリアのS. Davis教授で,開催国のK. Kutluk教授がCo-Chairを務め,学会場は新市街の金角湾に面したHalic Congress Centerでした.会場へはシャトルバスが運行されましたが,朝夕のラッシュ時には,タクシム広場と会場間は約30分程度の時間を要し,しかもバスはすし詰め状態で快適な学会参加とはいいがたい状況でした.
 今回90カ国から2,360人の事前登録と1,442演題の応募がありました.初日は例年通り,Teaching Courseが開催され,夕方から開会式,その後,会場内で懇親会が行われました.2日目からは通常の口演とポスター発表,さらにメーカー主催のランチョンおよびイブニングセミナーが行われました.発表の全体的な傾向としては,虚血性脳卒中の臨床が中心で,画像診断や血管内治療,血行再建術,急性期管理,リハビリテーション,抗血栓薬による2次予防など多くのセッションが組まれていました.今回は新規抗凝固薬(NOAC)の発売を受け,心房細動とNOACの発表が多くみられました.各種NOACはいずれもワルファリンと比べ,虚血性脳卒中の発症率は非劣性を示し,一方,出血発症率は有意に低く,しかも致死的な大出血が少ないという報告が多くみられました.

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

ご案内 第14回新都心神経内視鏡症例検討会 フリーアクセス

ページ範囲:P.107 - P.107

開催日 2015年4月18日(土)午後3時より
テーマ 神経内視鏡手術に於ける止血法

お知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.142 - P.142

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.177 - P.177

編集後記 フリーアクセス

著者: 吉峰俊樹

ページ範囲:P.178 - P.178

 「扉」には隈部俊宏先生から「目は口ほどに物をいう」をいただきました.目の奥をじっとのぞき込んでくる赤ちゃんの目,視線を合わさない人々,目で患者さんの容態を把握できる,などなど…2年ほど前に北里大学の脳神経外科教授に就任された隈部先生ですが,風貌に似合わず意外に優しい面があるとのご本人の談です.学生や研修医の純粋で澄んだ目に元気づけられ,目標に向かって目線を外さず努力を続けたいと述べられています.
 さて,「総説」には奈良県立医科大学の中瀬裕之教授から脳の静脈還流障害について大変立派な原稿をいただきました.中瀬先生は卒業後,市中病院で臨床研鑽に打ち込んでいるころから静脈還流に興味をもたれ,大学に帰って脳静脈還流障害の基礎研究を始め,当時の榊教授の紹介でマインツ大学のKempski教授(Neurosurgical Pathophysiology)のもとに留学され,世界がもっぱら脳虚血,すなわち動脈還流障害の研究に血道を上げていた時代から静脈還流障害の研究に没頭されていました.当時,脳静脈還流障害の適切なモデルがなかったことから「脳静脈還流障害モデル」を初めて確立し,脳静脈梗塞に伴うペナンブラ領域や脳損傷領域の経時的拡大,軽度の脳静脈還流障害に脳圧迫が加わることの危険性,脳静脈梗塞に対する薬物療法など次々に画期的成果を挙げておられます.本総説ではこれらの基礎研究と注意深い臨床観察にもとづき,脳神経外科手術における静脈還流障害(静脈梗塞)について具体的に解説されています.脳静脈還流障予防のための術前検討と手術アプローチの選択,術中の脳静脈温存法と安全な静脈切断法,脳静脈損傷時の対処法など,常に静脈還流の重要性を念頭において手術に当たってきた中瀬先生ならではの実用的で鋭い指摘がまとめられています.近年の脳神経外科では無症候性や軽症症例が増え,高齢者手術も増加し,手術の安全性や完璧性が強く要求される時代になりました.静脈還流への配慮はますます重要となっています.脳神経外科医必読の総説です.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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