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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科43巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

変化する医学教育の現場

著者: 埜中正博

ページ範囲:P.385 - P.386

 最近の医学教育は変わって来ていることをご存じでしょうか.例えばオスキー(OSCE)やCBTと言われ,すぐわかる方はどれだけおられるでしょうか.現在大学病院で勤務されている先生方はよくご存じのことと思います.しかし,私のように10年以上も一般病院に勤務している先生方の中には,いったい何のことかわからない方もおられるのではないでしょうか.私は2014年の4月から一般病院から大学病院に勤務するようになり,オスキーやCBTといった耳慣れない言葉に大変戸惑いました.
 オスキーとはObjective Structured Clinical Examinationの略称で,日本語では客観的臨床能力試験と言います.オスキーでは医療面接,胸部診察,呼吸音聴診,神経診察,救急,頭頚部診察,バイタルサインの評価などがきちんとできているのかどうかを問われます.試験では模擬患者を診察するのですが,それぞれに設定がありきちんと対応することが求められます.

総説

脳神経外科医として知っておきたい絞扼性末梢神経障害—診断から治療まで

著者: 金景成 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.387 - P.397

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科は,脳および脊髄,末梢神経疾患を治療対象としている科である.しかし,脳以外への関心が少ない医師が少なくなく,特に末梢神経疾患は日常臨床で最も遭遇する機会が多く,有病率が高いものの,脳神経外科医が一般的に治療しているとは言い難い.末梢神経障害は画像による診断が難しいと思われていることが近寄りがたい1つの原因ともなっているが,特徴的な症状を知ることで疑い病名を考えることはそれほど難しいことではない10,11,53,54)
 一方,加齢に伴い増加する末梢神経疾患が,脳疾患や脊椎疾患に併発することも稀ではない11,17,22,23,34,40).脊椎疾患に併発した末梢神経疾患に気づかず治療成績が落ちてしまったり,脳血管障害慢性期に末梢神経障害を併発することでQOLへ大きく影響していることもあり,積極的に末梢神経疾患へかかわらずとも,脳神経外科医として最低限の知識をもつことは,大切なことである10,11,17,22,23,34,40)
 本稿では,脳神経外科医として身につけてほしい末梢神経障害を起こす代表的な疾患について解説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Four hands techniqueを用いた経鼻内視鏡頭蓋底手術

著者: 戸田正博 ,   冨田俊樹

ページ範囲:P.399 - P.410

Ⅰ.はじめに
 内視鏡手術の進歩に伴い,脳神経外科においても経鼻内視鏡手術が普及しつつあり,顕微鏡下では到達困難な部位まで操作可能であることから,手術対象がトルコ鞍部の下垂体腫瘍から頭蓋底疾患へ拡大している.実際に,経鼻内視鏡頭蓋底手術(endoscopic endonasal skull base surgery:EESS)により,従来の手術法と比較して低侵襲でかつ良好な治療成績の報告例が増えている.一方,EESSは,これまでとは異なる外科解剖や新たな手術手技の習得が必要である.従来は,内視鏡を固定した経鼻手術が一般的であったが,内視鏡をフリーハンドで操作するfour hands techniqueにより操作性が向上し,さらに経鼻内視鏡手術に習熟した耳鼻科医とのチーム手術は,EESSの安全性および治療成績向上に貢献している.

研究

脳動脈瘤の患者がX線診断・治療・経過観察によって受ける放射線被ばく線量

著者: 瀬口繁信 ,   西條貴哉 ,   石川芳信 ,   小島隆生 ,   小山修司

ページ範囲:P.411 - P.418

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対しては,迅速で的確な診断と専門医による治療が必要である.その診断ならびに治療後の経過観察では,computed tomography(CT)を中心にさまざまな画像診断検査が行われる.特に脳動脈瘤検索のためのCT angiography(CTA),血管撮影(cerebral angiography:CAG)は,標準的な検査として行われている10).一方,未破裂動脈瘤の場合には,年月を経過するごとに拡大するリスクが高まることが報告されており10),半年から1年ごとの画像による経過観察を行うことが推奨されている.その場合スクリーニングとしてはmagnetic resonance angiography(MRA),手術適応などで選別し,さらなる検討にはCTAやCAGが推奨されている.これら脳動脈瘤に対する治療は,外科的手術である開頭クリッピング術あるいは脳血管内治療(interventional neuroradiology:IVNR)が選択される.IVNRは開頭クリッピング術と比べて低侵襲であることからここ数年急速に普及しつつあるが,長引く透視のため放射線被ばくによる確定的影響である皮膚障害が報告されている7)
 放射線による確定的影響は皮膚障害だけではなく,水晶体への影響も懸念されている3).International Commission on Radiological Protection(ICRP)では最近の知見6,8,9)などから水晶体混濁へのしきい線量を5Gyから0.5Gyへ引き下げるべくステートメント2)を発表している.くも膜下出血に対する診断から治療後の経過観察,とりわけ合併症が疑われた場合にはCT検査の頻度は高まる傾向にある.Sandborgら13)は,くも膜下出血の患者が,入院期間中に画像診断検査やIVNRによって受ける水晶体被ばくの71%は,CTによってもたらされると報告している.X線を使った画像診断検査による影響は,確定的影響のみならず,がん誘発や遺伝子異常などの確率的影響も考慮する必要がある.これら確率的影響の評価およびCTとCAGなど異なった検査の被ばく線量を評価するためには,ICRPによって導入された臓器線量や実効線量が必要である1)
 そこで本研究の目的は,①人体ファントムの種々の組織・臓器位置に小型のフォトダイオード線量計を埋め込んだ臓器線量計測システムを使用して,臨床における透視・撮影条件の調査に基づいたCAG,IVNR,CTAの被ばく線量を実測することで得られた,患者の入射皮膚線量,水晶体などの臓器線量,実効線量の評価,②動脈瘤患者の画像診断検査履歴を調査し,ファントム実験の線量データを掛け合わせることで得られた,3年間の蓄積された脳線量,水晶体線量および実効線量の評価である.

変性すべり症に対する減圧術単独の長期成績—不安定性例も含めて

著者: 佐々木修 ,   中村公彦 ,   梨本岳雄 ,   山下慎也 ,   矢島直樹 ,   鈴木健司 ,   斎藤明彦

ページ範囲:P.419 - P.427

Ⅰ.はじめに
 腰椎疾患の病態や治療法を考える上でinstabilityの有無は重要な因子であり,減圧術を行うにあたっては固定術の併用を示唆する所見ともされている1,3,7,8,11,15,23).また,術後のinstabilityの発生は予後不良の兆候とされている9).しかしながら,instabilityについては臨床上もX線撮影上も明確な定義はなく,その意義についても議論が多い11,16,21,24).筆者らは,変性すべり症を伴う腰部脊柱管狭窄症例に構造を極力温存するless invasive surgery(開窓術)を行った場合,固定術を併用せずとも術後すべりは悪化せず,長期的に良好な成績が維持されることを報告した20).しかし,instabilityを合併する症例にみられる問題点については未検討であった.そこで,今回はすべり症のみならずinstabilityを有する例に固定術を併用せずに減圧術単独で手術を行った場合,術後すべりやinstabilityが悪化し,臨床症状や手術成績が悪化する危険性はないのかといった点を中心にretrospectiveな検討を行った.

症例

硬膜海綿状血管腫の1例—症例報告と文献的考察

著者: 榊原陽太郎 ,   田口芳雄 ,   中村歩希 ,   松森隆史 ,   和久井大輔 ,   神野崇生 ,   相田芳夫

ページ範囲:P.429 - P.434

Ⅰ.はじめに
 Okadaら11)により初めて報告され,Perryら12)により命名された硬膜海綿状血管腫は,頭頂円蓋部硬膜下腔を好発部位とする髄外血管腫のことである.これまでに10例の報告があり,病理学的には髄内血管腫と同等だが,髄膜腫との鑑別がしばしば困難であるなど臨床的には異なる疾患であると考えられている5,7,11,12,15-17,19,20)
 われわれの経験した硬膜海綿状血管腫の1例を,文献的考察を加え報告する.

破裂巨大紡錘状前大脳動脈瘤に対しA3-A3 bypass併用下にproximal clippingを行った1例

著者: 尾崎沙耶 ,   宮崎始 ,   麓憲行 ,   尾上信二 ,   市川晴久 ,   福本真也 ,   田中英夫 ,   宇都宮裕 ,   中村寿 ,   河野兼久

ページ範囲:P.435 - P.443

Ⅰ.はじめに
 多くの血管が絡む前交通動脈近傍の巨大脳動脈瘤は,頻度は低いものの治療困難な症例が多く,個々の症例に応じて治療方針を検討しなければならない.しかし,特に破裂例に関して治療方針や術後画像所見,高次脳機能を含む予後について述べた文献は少ない.今回,われわれは左前大脳動脈から発生し,前交通動脈を巻き込んだ破裂巨大紡錘状前大脳動脈瘤に対してA3-A3 bypass併用下にproximal clippingを行った症例を経験した.その治療戦略および術後経過について文献的考察を含めて報告する.

くも膜下出血(SAH)にて発症した大孔部髄膜腫の1例

著者: 青山雄一 ,   大田信介 ,   榊三郎 ,   藤田豊久

ページ範囲:P.445 - P.450

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍が腫瘍内出血を来した場合,多くは急激な症状増悪を引き起こす.このような腫瘍内出血を来すのは悪性脳腫瘍の場合が多く,髄膜腫など良性腫瘍の場合は悪性所見の存在下,周術期,塞栓術後,放射線治療後に多く,特発性に来すことは稀とされている1,5,8).今回,画像的診断が困難なくも膜下出血(SAH)にて発症し,腰椎穿刺にてSAHを診断し得た特発性腫瘍内出血を伴う大孔部髄膜腫を経験したので文献的考察を加えて報告する.

低血糖発作で発症した多発性内分泌腫瘍症候群Ⅰ型(MEN1)の1例

著者: 坂東一彦 ,   戎谷大蔵

ページ範囲:P.451 - P.456

Ⅰ.はじめに
 われわれ脳神経外科医は,救急の現場で意識障害を呈する患者を診療することが多い.ところが意識障害の原因が脳外科的なものではなく全身的な問題,たとえば低血糖発作,Adams-Stokes syndrome,低ナトリウム血症などであることも少なくない.今回,われわれは,食後に低血糖発作により意識障害を呈し,その後の精査にて膵インスリノーマが見つかった多発性内分泌腫瘍症候群Ⅰ型(multiple endocrine neoplasia type Ⅰ:MEN1)の1例を経験したので報告する.

高ホモシステイン血症を認めた同時多発性脳出血の3例

著者: 佐藤光 ,   小原太郎 ,   福田修 ,   小山新弥 ,   遠藤俊郎 ,   黒田敏

ページ範囲:P.457 - P.463

Ⅰ.はじめに
 脳出血発症時に画像上,同時多発性出血を来す例は比較的稀である11,12,21).原因としてはアミロイドアンギオパチー,静脈洞血栓症,凝固異常,血管炎,出血性脳梗塞,多発性脳血管奇形,脳腫瘍,医原性が挙げられているが11),詳細な機序やリスクファクターについては明確となっていない.
 今回,同時多発性脳出血を来した3症例において,社会背景および生活習慣の聴取などから食生活の乱れに着目して血中総ホモシステイン濃度を確認したところ,3症例とも高ホモシステイン血症を呈していた.高ホモシステイン血症は動脈硬化による脳梗塞のリスクファクターとして知られている9).動脈硬化や脳梗塞と関連の深い高ホモシステイン血症が,これらの3例では同時多発性脳出血にも関与していたと考えられ,文献的考察を加えて報告する.

連載 脳卒中専門医に必要な基本的知識

(10)脳動静脈奇形に対する治療方針

著者: 中澤拓也 ,   横井俊浩 ,   辻篤司 ,   野崎和彦

ページ範囲:P.465 - P.473

Ⅰ.はじめに
 脳動静脈奇形はナイダスと呼ばれる動脈,静脈とはっきりと区別できず,毛細血管床をもたない異常血管の複雑に絡み合った塊で構成される.脳血管撮影では,動脈から静脈に直接短絡する血流が特徴的である.流入動脈から流出静脈に速い血流が流れることによってときに破裂を起こして,頭蓋内出血となり,これが最も重篤な脳動静脈奇形の合併症となる.脳動静脈奇形が破裂して頭蓋内出血を来しても比較的良好な経過をとることが多いが,破裂によるmorbidity, mortalityは無視できるほどのものでもない.多くは若年成人で発見され,遺伝的背景と環境因子の両方が関わるとの考えもある.また,ナイダス内に脳実質が介在するものがあり,cerebral proliferative angiopathyの概念も提唱されている25)
 治療については,その自然歴を考えると出血発症例と未破裂脳動静脈奇形でまず治療方針に違いが出てくるが,その大きさや場所などによっても変わってくる.自然歴もほとんどのデータが単一施設のcase seriesに限られており,まだまだ不明な点も多い.また,個々の症例によってリスクが異なり,その治療法も外科的摘出から血管内治療,定位放射線治療,それらの複合治療まで多岐にわたり,それぞれの特徴をもつ.これらのことを十分理解し,治療適応の決定を行う必要がある.

書評

—後藤 潤,後藤 昇:著—脳血管障害の解剖学的診断

著者: 木内博之

ページ範囲:P.473 - P.473

 臨床実習に来る学生の多くが,神経系は難しくてよくわからないと口にする.講義をさぼったわけでもないのに,よくわかっていないというのが実感らしい.かく言う私も,学生時代,医師国家試験対策の分担で,神経担当になっていなければ,神経学は難しいだけで,推理小説を読み解くような明解さをはらんでいることに気づかなかったかもしれない.神経学の難解さは,幾重にも絡み合う神経線維の回路の複雑さによるところが大きいが,一度,その解剖と機能との関係性が理解できると,数学の公式を解くように正解を出すことが可能となる.例えば,「タン」としか発語できなかった患者の剖検から発見されたBroca野(運動性言語野)が普遍的に人類に備わっているように,神経伝導路の障害により固有の神経脱落症状が生ずる.神経学において神経解剖が基本といわれるゆえんである.
 脳血管障害は,画像上見えにくい変性疾患などに比べれば,可視化しやすい病態である.しかし,脳塞栓症における出血性梗塞のように障害の程度や時間経過により劇的に変化することもある.このような中で,最適な治療を行うためにも,基本となる病態の正確な把握が必須である.本書が他の教科書と決定的に異なる点は,正確無比な病理解剖所見を提示している点にある.単なる肉眼剖検所見ではなくwhole brainの薄切切片による病変の詳細な描出にある.Kultschitzky染色や著者らの独特な方法により染色を施された脳全体の薄切切片は髄鞘を芸術的ともいえる美しさで青く染め上げており,破壊病変の程度と周囲組織との関係,さらには遠隔部位との相互関係も手に取るように理解できる.加えて,図の要所要所に日本語,英語,ラテン語で名前が付記されており,必要に応じてイラストでの説明もなされている.さすがは解剖学者の筆によるものと感服せざるを得ない.

—Sarah T. Pendlebury, Matthew F. Giles, Peter M. Rothwell:原著 水澤 英洋:監訳—TIAと脳卒中

著者: 山口武典

ページ範囲:P.480 - P.480

●脳卒中の臨床試験による経験と信念が如実に表れた書
 Sarah T. PendleburyとPeter M. Rothwell夫妻,それに臨床疫学者のMatthew F. Gilesら3人による『TIAと脳卒中』の日本語版が,このたび東京医科歯科大学神経内科グループ(水澤英洋教授監訳)によって出版された.著者の1人であるRothwell教授は,さまざまなメタ解析で有名なエディンバラのCharles Warlow教授の下で研究を続け,その後オックスフォードに移ってOxford Vascular Study(OXVASC)を立ち上げた.その後の活躍は目覚ましく,極めて多数の脳卒中の臨床および臨床疫学に関する研究成果を報告している.中でも最近注目されているのが,「TIA(一過性脳虚血発作)を早期に治療することによって,3カ月後の転帰が著しく好転する」というOXVASCの臨床成績である.TIAが脳梗塞の警告症状であることはかなり以前(1950年代)から言われてきたにもかかわらず,一般臨床家の間ではあまり重要視されてこなかった.本書の表題にTIAという言葉を付けていることは,この点を意識しての命名であろう.
 TIAと脳梗塞は一連の病態であるので,その定義あるいは診断基準を定めることは極めて難しい.最初に米国で定められた定義は「24時間以内に症状が消失し,脳に器質的病変を残さないもの」とされているが,最近の画像診断の発達によって症状持続時間と画像上の変化による定義づけは困難との考えから,米国心臓協会(AHA)/脳卒中協会(ASA)では「持続が短時間で画像所見を残さない」というあいまいなものとなっている.しかし,本書では最も古典的な「24時間」という定義を採択しているため,われわれにとっては親しみやすい.ちなみに厚生労働科学研究費による研究班(班長:国立循環器病研究センター峰松一夫副院長)でも,現在のところ24時間という定義を用いることを提言している.

海外留学記

Rothschild Fondation Hospital, Paris, FRANCE

著者: 西堂創

ページ範囲:P.475 - P.477

 海外の脳血管内治療の現場に触れるため,1年数カ月と短い期間ではありますがフランスのパリ市19区にあるRothschild Fondation Hospitalに行って参りました.Rothschildは,日本では「ロスチャイルド」と呼ばれていますが,フランスでは「ホートシルト」と発音します.この病院は頭頚部領域診療に特化された特色があり,具体的には眼科,神経科,神経外科,神経放射線科,耳鼻科の専門診療と麻酔科,蘇生科,一般放射線科で構成されています.現地の人に聞いても,首より上の病気にかかった場合はこの病院,と認識されているようです.ほとんどの患者はパリ市内もしくは周辺からの紹介になります.また,ときどきフランス領の遠く離れた島国などからも飛行機で患者が訪れたり,搬送されたりすることもあります.ちなみにパリ市内にもう1カ所同名の病院がありますが,そちらでは首から下の病気を扱っているようです.
 神経放射線科(Neuro-Radiologie Interventionelle)が私の留学先でした.科長のDr. Michel Piotin(ミシェル・ピオタン)以下4〜5人のスタッフとインターンで構成されており,海外から常に多くの留学者や見学者を受け入れています.私がいた頃はイタリア,アルジェリア,ベルギー,アルゼンチン,ブラジルなどの地域から医師が来ていました.この病院のなかでは日本人は当時私だけでしたが,過去には私の師匠である飯島明先生(JCHO東京新宿メディカルセンター)を含め何人もの先輩方が日本各地から留学されています.また,同病院の脳神経外科はてんかん外科の世界で有名なようです.神経放射線科の治療症例は年間約400件で,内訳は動脈瘤が50%,AVM/dAVFが25%,血栓回収・その他が25%ほどです.日本で多く行われている頚動脈ステントは皆無でした.また診断アンギオ件数は治療件数の2倍ほどあります.珍しいところでは小児の網膜芽腫に対する動注化学療法,皮膚の血管腫に対する経皮的な硬化療法などもありました.今後は椎体形成術も始める可能性があります.週のスケジュールは月〜木曜日まで朝のカンファレンス後,2〜3件の治療と数件の診断,金曜日だけは診断のみが4〜5件予定されています.その隙間に,週に数回はくも膜下出血や脳梗塞の治療が入りこんでくる感じです.アンギオ装置はシングルプレーンとバイプレーンのものが1台ずつあり,2つのセッションが同時に進行します.基本的には症例数は十分にありますので,日中にもてあます時間は少なめです.

報告記

第12回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科会議(2015年1月9〜11日)

著者: 柴尾俊輔

ページ範囲:P.478 - P.479

 アジア・オセアニア頭蓋底協会は1991年に設立され,その第1回コングレスは髙倉公朋先生をpresidentとして開催された,日本の貢献度の高い頭蓋底外科の国際組織である.今回(第12回)は,Atul Goel先生をorganizing chairmanとして,インドのムンバイで開催された.
 インドは,衛生状態が悪く食品にあたりやすい,入国が大変などの前情報もあり,出国前から学会以外の部分での不安を感じていた.実際,ビザの取得にも一苦労であった.また,空港からホテルに向かう際に見た街の光景は貧富の差がまだ激しく,発展途上の国である印象を受けた.

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欧文目次

ページ範囲:P.383 - P.383

お知らせ

ページ範囲:P.397 - P.397

ご案内 第22回日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術集会

ページ範囲:P.410 - P.410

会 期 2015年9月18日(金)・19日(土)
会 長 山崎隆志(武蔵野赤十字病院整形外科)
会 場 京王プラザホテル(東京都新宿区)

お知らせ

ページ範囲:P.427 - P.427

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.477 - P.477

投稿ならびに執筆規定

ページ範囲:P.482 - P.482

投稿および著作財産権譲渡承諾書

ページ範囲:P.483 - P.484

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.485 - P.485

次号予告

ページ範囲:P.487 - P.487

編集後記

著者: 𠮷田一成

ページ範囲:P.488 - P.488

 2015年年明け早々,「イスラム国」により日本人人質2人が惨殺されるという衝撃的なニュースが飛び込んできた.3月には,チュニジアで,観光客を標的にした無差別テロが発生し,日本人3人の命が失われた.現内閣は,憲法解釈を変更し,集団的自衛権の行使を拡大しようとしている.戦争を知らない世代がすでに定年を迎えた日本が,今なお,近隣諸国から,戦争責任を問われている.日本は戦後の平和的な高度経済成長の中,何か,見失っていたものがあるのかもしれない.ITの進歩により,大量の情報が瞬時に世界中を駆け巡る時代,また,技術革新により,さまざまなmodalityが身近になった今,大量の情報をいかに解釈し,進むべき方向を正確に判断するかが,極めて大切になったように思う.
 本号では,「扉」で,OSCE,CBTなど,新しい医学教育が解説されている.また,脳神経外科医に必要な基礎知識から,最新の内視鏡下頭蓋底手術の紹介,多数の興味ある症例報告は,脳神経外科医の明日の診療に役立つものである.中でも,患者の被ばく線量に関する研究は,医師が常に心にとめておかなければならない重要な問題を提起してくれている.近年,Big Dataという言葉が,表舞台に出ることが多くなり,その解析によって,見えてくる病態,治療成績というものも極めて重要である.一方,本号に掲載されているような,詳細な記載,個々の症例を綿密に解析する研究は,医学のもう1つの柱である.個別化医療という言葉があるが,一人ひとりの患者にとって,最善の医療を提供するという意味でも,極めて価値が高いと思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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