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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科43巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

病院運営と医療経営士

著者: 池田幸穂

ページ範囲:P.773 - P.774

 経営にはヒト・モノ・カネといわれる「ヒューマンリソース」,「サプライチェーン」,「ファイナンス」の視点をバランスよくマネジメントすることが肝要であり,病院経営においてもこの方向性を視野に入れることの重要性が指摘されています(多摩大学医療・介護ソリューション研究所:石井富美先生).
 昨年10月より病院長に就任し,医療安全および感染対策や保険診療の課題に加えて病院経営・運営に関わることになりました.従来から大学およびその附属病院の役割は診療・教育・研究の3本の柱が基本であると理解してきましたが,昨今の医療事情を勘案すると,さらに医療経営・経済に関する知識の重要性が高まっているのが現状ではないでしょうか.消費税率の引き上げや診療報酬の改定に左右される病院経営ですが,毎月の診療会議をはじめとする多くの院内会議の重要項目の1つが,医療収入・収支状況の報告になっているのも事実です.今まで,距離感をもっていた医療経営に視点が向くようになったのは,副院長に指名された時からでした.あまりにも知識がなく,毎月のいろいろな委員会に出席しても議事内容についていくことができない辛さをしばしば感じていました.その時期にたまたま書店の一角で目にしたのが,川渕孝一教授(東京医科歯科大学大学院)が監修される『医療経営士テキスト』でした.そして「医療経営士認定制度」の存在を知りました.『医療経営士テキスト』は,初級・中級・上級に分かれていますが,それに対応するように医療経営士は3級・2級・1級の3段階にランク分けされています.初級テキストには,医療経営に関する基礎的事項(医療経営史,医療行政,医療関連法規,医療関連サービス,病院の仕組み,各種団体・学会の成り立ち,診療科目の歴史,医療技術の進歩,患者サービス,生命倫理・医療倫理など)が幅広く記載されており,現場に役立つ内容でした.そこで,この資格を取得しようと考え,テキストを購入し,年3回施行される3級の試験準備をすることにしました.当初は,副院長業務と診療科長業務が重なり大変でしたが,何とか3級の資格試験に合格し,3級の資格を取得しました.中級テキストでは医療経営に関する理念,ビジョン,戦略,医療IT,診療報酬制度,広報,ブランディング,部門別管理,イノベーションとリーダーシップなどが解説されています.さらに上級テキストでは,病院経営実践に関するBSC(バランスト・スコアカード),SWOT分析,クリニカルパス,医工連携,医療ガバナンス,医療の質マネジメント,医療事故とクライシスマネジメント,DPC,保険外診療などが論じられています.その後,全国的に次第に医療経営士の資格が認知されるようになり,いろいろな病院の事務部門,税理士,公認会計士さらに医師,看護師の中にも取得される方が増えてきているのが現状です.また,「全国医療経営士実践研究大会」も立ち上がり,医療経営士間の情報共有化も進みつつあるようです.医療経営士の知識が,すぐ各病院の立ち位置・実情に対応できるわけではないでしょうし,収支改善に反映されるわけではありませんが,激動する医療の流れに少しでもスピード感と緊張感をもって対峙する意味で有益ではないかと考えます.詳細は,一般社団法人日本医療経営実践協会(http://www.jmmpa.jp)に連絡をとればいろいろな情報を入手できます.健全で安定化した病院経営・運営の担保が,ひいては診療・教育・研究の活性化にも影響する時代といっても過言ではないかもしれません.

総説

フローダイバージョンステント,パイプラインを用いた脳動脈瘤治療

著者: 立嶋智

ページ範囲:P.775 - P.785

Ⅰ.はじめに
 紡錘状動脈瘤や囊状巨大動脈瘤に対して,脳血管内治療が果たす役割は限られてきた2,6).親動脈の変性や損傷が円周方向の広範囲に及ぶそれらの動脈瘤を瘤内塞栓だけで根治させることは理論的に不可能であり,動脈瘤とともに親動脈を閉塞する治療戦略を選択しなければならなかった2,6,16).近年,従来の瘤内塞栓術を中心とした治療法に加え,表面被覆率が高く柔軟なflow diversion stent(Fig.1)と呼ばれる新しいデバイスを用いた脳動脈瘤治療が選択肢の1つとなった1,2,8,10,11,13).Flow diversion stentを用いることで,たとえ親動脈の変性が全周性および広範囲にわたっている症例であっても,動脈瘤の完全閉塞と同時に親動脈の再建が可能となる1,10).Flow diversion stent留置による治療機序には2つの柱がある.1つはステントメッシュによる血流阻害効果で瘤内血流をうっ滞させ血栓化を惹起すること,もう1つは緻密なステントメッシュが新生内膜の骨組みとなり,大きく欠損した親動脈壁が修復されやすくなることである.
 一般的に脳動脈瘤の発生には内弾性板の破断や消失,中膜の変性菲薄化などの現象を伴う.適切に留置されたflow diversion stentが新生内膜により被われ血管壁内に埋没すると,変性した親動脈を強固に補強する人工内弾性板のような組織像を見ることができる7).理論的には紡錘状動脈瘤や囊状巨大動脈瘤に対して最適な治療法と言える(Fig.2).
 当初は動脈瘤の直径10mm以上の傍前床突起部と海綿静脈洞部の未破裂内頚動脈瘤のみがflow diversion stent治療適応であったが,その臨床成績の高さから治療の適応範囲が拡大しつつある4).筆者の施設経験および過去の報告を見る限り,flow diversion stentを用いて脳動脈瘤が完全に消失した症例において同一部位に動脈瘤が再発することはなく,その根治性は極めて高い.しかし,比較的高い頻度で起こる重篤な有害事象や,flow diversion stent留置後に起こる動脈瘤破裂など,さらなる病態理解が必要な治療法とも言える8)
 2015年,日本でもflow diversion stentの代名詞となっているPipelineTM Embolizaiton Device(Medtronic, US.以下,パイプライン)が薬事承認された.日本に導入される予定のパイプラインは第三世代のPipelineTM Flexであり,2015年8月現在,米国内でも一部の施設で限定導入されている最新のデバイスである.自験例および米国内のパイプラインプロクター医としての経験をもとにした印象では,前世代のパイプラインに比較して留置性能が格段に向上し,治療の安全性も高まっている.しかし,ステントの留置という単なる技術的な側面だけではなく,症例選択や他の治療との組み合わせ,抗血小板薬の使用方法なども含めた包括的な治療戦略を立てられるか否かでこの治療の成否が決まる.本稿では重要な欧米の臨床試験と当院のパイプラインによる治療成績を中心に解説し,その利点と欠点の両方を明確にする.

脳機能とfiber tract—神経路の可視化について

著者: 松澤等 ,   中田力 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.787 - P.801

Ⅰ.はじめに
 新しいMRI技術の脳神経外科領域への臨床応用は目を見張るものがある.特に,最新のfunctional MRI(fMRI)とdiffusion MRI(dMRI)の結果を,それぞれ「脳機能(脳皮質機能)」,「神経路」として可視化した画像は見る者に大きなインパクトを与える.
 Fig.1は,当施設の3テスラMRI装置で撮像した,言語タスクによるfMRIの賦活領域(青が運動性言語野,緑が感覚性言語野)と,dMRIを用いてその間をつなぐ「神経路」をオレンジ色で可視化したものである.これが“脳機能と神経路”であると言ってしまうのは簡単であるが,この“絵”をどこまで信じてよいのであろうか? 特に,この画像のend-userとしての臨床医にとって,その可視化の機序をできる限り理解しておくことは大変重要であり,真に臨床に役立つ画像になるよう臨床の現場から逆にfeedbackをかけるのが臨床医の役割と考えている.そこで,本稿では特に,「神経路の可視化」の方法についてその理論を紹介し,理解の一助となることを目指す.
 理解のために,数多ある「神経路(fiber tract)の可視化」の方法を系統的に分類できればよいのであるが,例えば,deterministicな方法論とprobabilisticな方法論に分けるとか,streamlineを描画する手法とpath probabilityのマッピングに分けるとか,数学的モデルに強く依存(dependent)しているかいないか(independent)で分けるなどの分類は,いずれの軸も互いに独立していれば大変わかりやすい整理分類ができるのであるが,残念ながらいずれの項目も互いに入り組んだ関係にあり,話は複雑である.
 そこで本稿では,われわれ臨床医が可視化の機序を理解するために論文を読み進めるにあたり重要と思われるいくつかのキーワードを挙げた.
・歴史的概略
・Pipelineについて
・2階テンソルによる拡散現象の記述とその限界
・球面調和関数の導入
・Bayes統計の導入
・「一意に決める」のか,「確率密度関数」で表現するのか
・拡散の等方成分と不等方成分の取り扱い
 これらについて逐次説明を加え,結果として少しでもこの領域の見通しがよくなり,方法論についての原著論文を理解するための手助けになることを目的とする.なお,本稿ではdMRIで描出される「fiber tract」は「神経路」を反映しているものとして解説する.

症例

前脊髄動脈動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて発症した頚髄硬膜動静脈瘻の1例

著者: 黒川泰玄 ,   井川房夫 ,   浜崎理 ,   日高敏和 ,   米澤潮 ,   小宮山雅樹

ページ範囲:P.803 - P.811

Ⅰ.はじめに
 一般に,脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural arteriovenous fistula:spinal dural AVF)は稀な疾患で,脊髄症状で発症することが多い2).しかし,頭蓋頚椎移行部のspinal dural AVFはくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)で発症する割合が34〜50%11,18)と多い.今回われわれは,SAHで発症し,頚髄spinal dural AVFを認め,前脊髄動脈動脈瘤から出血した稀な症例を経験した.また,本症例のspinal dural AVFは前脊髄動脈からの血流を受け,流出静脈は硬膜外にのみ存在した.本症例を文献的考察を加え報告する.

脳底動脈先端部未破裂動脈瘤に対してHydrogel coilを用いた塞栓術後に遅発性水頭症を生じた1例

著者: 下川能史 ,   伊藤理 ,   山口慎也 ,   佐山徹郎 ,   芳賀整 ,   秋山智明 ,   森岡隆人

ページ範囲:P.813 - P.818

Ⅰ.はじめに
 未破裂動脈瘤に対するコイル塞栓術においては,現在bare platinum coilが多く用いられるが,ワイドネックな動脈瘤や巨大動脈瘤に対して使用した際には,コイルコンパクションを起こすことがあり,14〜21%の頻度で動脈瘤再発が生じるといわれている3).Hydrogel coilはこのような再発を減少させるために開発されたもので,コーティングされているhydrogelの膨潤によって,血管内腔を機械的に閉塞させるという特徴をもつ15).しかし,欧米においては,このhydrogel coilを用いた塞栓術後に遅発性水頭症の発生が稀ではあるが報告されている1-3,5,6,9,12).近年本邦においてもhydrogel coilの使用頻度が増えているが,hydrogel coil使用後の水頭症発生の報告はなく,広く認知する必要がある.
 われわれも脳底動脈先端部の未破裂動脈瘤再発に対して,hydrogel coilを用いた塞栓術後に遅発性水頭症を生じた症例を経験したので,その発生メカニズムについて文献的考察を加えて報告する.

乳癌の馬尾軟膜転移による対麻痺に放射線治療が奏効した1例

著者: 藤本秀太郎 ,   岩﨑素之 ,   伊東雅基 ,   新谷好正 ,   井戸坂弘之 ,   馬渕正二 ,   西岡健 ,   越前谷勇人 ,   笠井潔

ページ範囲:P.819 - P.823

Ⅰ.はじめに
 転移性軟膜腫瘍は頻度の少ない疾患であり,原発巣を乳癌に限定すればさらにその数は少なく,診断に苦慮することも少なくない10,14).また治療法についてもさまざまな検討がなされているところである10).今回われわれは,乳癌の馬尾軟膜転移が疑われた症例に対し,馬尾神経・軟膜の生検を施行後,放射線治療を行い,神経症状の改善がみられた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Pilomyxoid-spectrum astrocytoma 2例の臨床病理学的検討—BRAF遺伝子異常の検討も加えて

著者: 伊東民雄 ,   佐藤憲市 ,   及川光照 ,   杉尾啓徳 ,   浅野目卓 ,   尾崎義丸 ,   中村博彦 ,   田中伸哉 ,   津田真寿美 ,   長嶋和郎

ページ範囲:P.825 - P.833

Ⅰ.はじめに
 Pilomyxoid astrocytoma(PMA)はbiphasic patternをとるpilocytic astrocytoma(PA)とは異なり,背景はmonophasicなmyxoid patternをとる腫瘍として1999年にTihanらにより提唱された19).2007年のWHO脳腫瘍分類では,PMAはPAと比べて乳幼児に発生し予後も悪いことからGrade Ⅱとして分類されている17).しかしながらPMAは再発時にPAにmatureしたという報告が散見され1,12),2010年にJohnsonらは両者は一連のspectrum上にあるとして“intermediate pilomyxoid tumors(IPTs)”の概念を提唱している12)
 一方,PAではBRAF遺伝子異常(KIAA1549-BRAF fusion)が約70%にみられるが3,4,7,8,11,15),PMAでの報告は少ない.今回われわれはPMAおよびIPT,すなわちpilomyxoid-spectrum astrocytoma(PMSA)と考えられた2例を経験したので,その臨床病理像をBRAF遺伝子異常の検討も加え報告する.

大型脳底動脈瘤に対して,ハイドロゲルコイルを用いた瘤内塞栓術後に発生した脳幹出血の1例

著者: 古市眞 ,   下田健太郎 ,   加納利和 ,   佐藤祥史 ,   吉野篤緒

ページ範囲:P.835 - P.842

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤治療において,コイル塞栓術はクリッピング術に匹敵するほどの効果を有し,広く用いられるようになってきている16,21).しかしながら,コイル塞栓術は,クリッピング術よりも脳動脈瘤の再開通率が高く,その頻度は約20〜40%である19,23).そこで,再開通率を低下させるために,ハイドロゲルコイルが開発された.このコイルは高分子吸水性ポリマーであるハイドロジェルでコーティングされている.血液に触れることによって最外層の保護コーティングが溶解し,ハイドロジェルが水分を吸収し膨張を開始するという特徴をもつ.その後,20〜30分で最大容積に達し,高い体積塞栓率を示すことによって再開通率を低下させる3).一方で,ハイドロゲルコイルは頭痛,水頭症,髄膜炎といった合併症の問題が指摘されている1,6,9,10,15).今回,われわれはハイドロゲルコイル使用後約1カ月で脳幹出血を認め死亡した大型の脳底動脈-上小脳動脈分岐部動脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

中脳水道狭窄による水頭症を呈した小脳虫部AVMの1例

著者: 小野健一郎 ,   大石英則 ,   菅康郎 ,   山本宗孝 ,   野中宣秀 ,   中島円 ,   宮嶋雅一 ,   新井一

ページ範囲:P.843 - P.848

Ⅰ.はじめに
 血管奇形が原因となった中脳水道狭窄は,小児期のvein of Galen malformationを別にしてもvenous angiomaが比較的多くの割合を占める4,7,21,23).非出血性arteriovenous malformation(AVM)が中脳水道を圧迫し水頭症を呈した症例は極めて稀であり,文献上渉猟し得た限り6例にすぎない2,3,9,11,14).今回われわれは小脳虫部AVMの拡張したdrainerにより中脳水道が圧迫され,症候性水頭症を来した症例を経験し,複数回の塞栓術および第三脳室底開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)にて治療したので文献的考察を加え報告する.

書評

—荒木 信夫,高木 誠,厚東 篤生●著—脳卒中ビジュアルテキスト 第4版

著者: 鈴木則宏

ページ範囲:P.811 - P.811

●座右に置いておきたい珠玉の脳卒中テキスト
 脳卒中学のバイブル『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂された.本書が故・海老原進一郎慶應義塾大学客員教授,高木康行前・東京都済生会中央病院院長補佐,そして厚東篤生よみうりランド慶友病院院長(初版発刊当時慶應義塾大学神経内科専任講師)の三方により,慶應義塾大学神経内科の脳卒中診療の実践を根幹として著された名著であることは,脳卒中診療に携わる医療関係者万人の知るところであろう.1989年3月の初版出版後,版を重ね,その都度,脳卒中学および神経内科学の進歩を取り入れ,改訂第3版が出版されたのが2008年であった.改訂第3版からは脳血管障害の臨床と神経病理学の大家である厚東博士を大黒柱として著者が若返った.脳卒中臨床の泰斗である埼玉医科大学神経内科教授の荒木信夫博士と東京都済生会中央病院院長の高木誠博士が新たな著者として加わっている.脳卒中の診療と治療および再発予防の進歩は日進月歩であり,脳梗塞急性期治療におけるt-PAの適応時間の延長や脳血管内治療技術の進歩などここ数年新たな動きがみられ,久しく改訂版の登場がまたれていたが,ついに2015年,内容も装丁も一新されここに改訂第4版が登場した.
 一読して瞬時に気が付くのは,本書の最大の特色である「イラスト」がかなりの割合で斬新で美しく,しかも「わかりやすい」ものに差し替えられ,あるいは新たに挿入されていることである.初版のイラストと比較して眺めると,医学教科書にも各時代にマッチした流れとセンスがあることが一目瞭然である.本書は,常に進歩しつつある脳卒中学の「今」の知識と情報を,state of artsのイラストとともに,われわれ読者に惜しげもなく披露してくれているのである.ぜひまず書店で本書を手に取り,数ページを繰っていただきたいと思う.思わず座右に置いておきたいと思わせる魔法のような抗し難い魅力に圧倒されることと思う.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

コイルによる親動脈閉塞で治療した末梢性後大脳動脈巨大破裂動脈瘤

著者: 内田浩喜 ,   吉田昌弘 ,   三野正樹 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.849 - P.854

Ⅰ.経験症例
 〈患 者〉 64歳 女性
 主 訴 突然の頭痛,意識消失

報告記

29th Annual Scientific Congress of the Turkish Neurosurgical Societyに参加して(2015年4月17〜21日)

著者: 北井隆平

ページ範囲:P.855 - P.855

 4月17〜21日に開催されたトルコ脳神経外科コングレスに参加した.イスラム国の台頭で,家族や医局員からは相当心配されたが,福井医科大学で机を並べていた旧友のCengiz Çokluk教授(Ondokuz Mayis大学)が本学会の理事に就任されたこともあり,奮って参加した.日本からは私と福井医療短期大学学長,古林秀則先生の2名の参加であった.開催場所はアンタルヤという地中海に面したリゾート地であり,毎年この場所で開かれている.首都のイスタンブールは会場費用が高騰しており,アンタルヤには有名なゴルフコースがあるため会員も喜んで参加するとのことであった.
 私に与えられたテーマは術中画像支援で,術中CTについて概説した.トルコにも術中MRIが2台,さらにサムスン社製の移動式CTがあり,会場ではBrain LabがO-Armを積極的に宣伝していた.学会ではトルコ語で発表されているが,英語の同時通訳で内容は理解できる.日本と異なるのは,手術の技術披瀝はほとんどなく,治療成績の概説,脊髄,深部脳刺激に関する演題が多い.医療制度や保険支払いに関する演題も組まれており,私立病院か国立大学病院かによって政府から診療報酬が支払われる疾患が異なっており,医師には不満が強く,学会で対処していく方針のようだった.

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欧文目次

ページ範囲:P.771 - P.771

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.861 - P.861

次号予告

ページ範囲:P.863 - P.863

編集後記

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.864 - P.864

 諸事が重なり忙しい時期に,将棋の竜王戦の準々決勝,羽生善治名人と永瀬拓矢6段の熱闘を実況ネットで観戦する羽目になった.勝負は,最近の勝率が8割以上という驚異の強さを見せる22歳の新鋭,永瀬6段が,羽生名人の終盤の逆転を許さず,最善手を連発して優勢を守りきって勝った.数年後に将棋界の潮目を分ける一戦として語られる一戦であったかもしれない.
 人間は完成された存在であり,その知的能力に根本的な疑念を持たないとすれば,「自由」が最良の選択である.フランス革命に代表される近代政治哲学は,人間の完全性を信じた「自由」が「善」であり,「正義」であると主張してきた.その人間の知的能力は,機械学習の驚異的進歩により異次元に突入した人工知能に脅かされている.将棋の世界でも,電王戦という人工知能とプロ棋士の対戦がある.以前は,人間の圧勝であったが,近年は人工知能が勝つようになった.その中で,最近,先ほどの永瀬6段が,「角成らず」という驚愕の一手で,最強の人工知能を破って話題になっている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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