icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科44巻1号

2016年01月発行

雑誌目次

脳神経外科医を減らさない方策

著者: 中田光俊

ページ範囲:P.3 - P.4

 現職に就任後1年が経過しました.就任前までは自身の担当する患者さんの治療に向き合い,研究に打ち込み,大学院生や留学生の学位研究の指導をしながら後輩と楽しく論文を作成する日常でした.就任後は一転して俯瞰的に脳神経外科医療や教室のことを考え,教室員を正しい方向に導くにはどのようにしたらよいのかを考える毎日にシフトしました.また医学部が医学部であるために,大学病院が大学病院であるために必要な事務的手続きや書類作成の波に呑まれつつも,教室がより発展する基盤を整えるべく奔走しています.現時点では日本で最も若輩の脳神経外科教授職の任を拝し,周囲の協力を得ながら学ぶことが多い日々です.
 仕事上でさまざまな大学の教授やスタッフの先生方とお話をさせていただく機会が増えました.まず真っ先に話題に上がるのは最近の入局者の状況です.各大学が苦心され知恵を絞って新入医局員の勧誘にさまざまに工夫をされています.

総説

脳波からみた意識障害

著者: 久保田有一 ,   中本英俊 ,   大城信行 ,   菊田敬央 ,   野村俊介 ,   宮尾暁 ,   松岡剛 ,   石井暁 ,   川俣貴一

ページ範囲:P.5 - P.18

Ⅰ.はじめに
 意識は,脳神経外科医のみならず,すべての人類の関心事項である.しかし多くの脳神経外科医は,日々臨床において意識や意識障害を扱っていながらも,その実体をなかなか捉えていないことも事実である.一般に意識を構成するものとして,覚醒と認識があることが知られている.覚醒,すなわち起き続けていることは,中脳橋被蓋から視床までに存在する上行性脳幹網様体賦活系(ascending reticular activating system:ARAS)で睡眠・覚醒リズムが調整されていると考えられている15).認識とは,周囲への認識や外部刺激への注意であり,特に優位脳半球を中心とした広汎な大脳皮質が関与している.意識障害とは,それらの部位が脳卒中,外傷,また脳腫瘍などにより障害を受けることで出現する.また薬物やアルコール,低血糖,低血圧,呼吸障害といった全身疾患の二次的な結果でも意識障害を呈することがある.また一括りに意識障害といっても,軽度の意識障害,すなわち見当識障害から,Japan Coma Scale(JCS)Ⅲ桁の昏睡まで含まれる.意識の状態を厳格に定量化することはなかなか難しい.CTやMRIといった画像検査や採血結果との乖離がある場合もあり,それらのみでは一概に説明できない.脳波は,従来てんかんの診断で有用であると考えられていたが,近年デジタル脳波計の普及とともに意識障害の評価として見直されている.今後,脳波は,意識状態を経時的に評価できる脳モニタリングとして脳神経領域でますます利用されるものと思われる.
 本稿では意識障害でみられるさまざまな脳波パターンについて解説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脊髄髄内腫瘍手術における脊髄前方の微小外科解剖と手術の実際

著者: 三井公彦 ,   清水曉 ,   三島大徳

ページ範囲:P.19 - P.28

Ⅰ.はじめに
 脊髄髄内腫瘍の摘出では,腫瘍の栄養血管が流入し,温存すべき脊髄中心動脈・静脈が隣接する腫瘍腹側の処理が最も困難である.これらの処理を適切に行うには,脊髄前方の軟膜と血管の解剖を理解することが大切である.本稿では脊髄髄内腫瘍摘出の観点から,脊髄前方の微小外科解剖と手術の実際について述べる.

書評

—荒木 信夫,高木 誠,厚東 篤生●著—脳卒中ビジュアルテキスト 第4版

著者: 片山泰朗

ページ範囲:P.30 - P.30

●脳卒中全般を理解するために最適なテキスト
 脳卒中はわが国では死因別死亡率において第4位の座にあり,年間12万人を超す死亡がみられている.超高齢社会を迎え年間約30万人が新たに脳卒中となり,脳卒中患者総数は300万人を超える数に達していると推定され,今後さらに増加することが予想される.このような状況下で脳卒中の予防,脳卒中急性期の治療および脳卒中後遺症の治療の重要性はますます増大するものと思われる.
 そんな中,『脳卒中ビジュアルテキスト』が7年ぶりに改訂され発刊された.この間,脳卒中治療は目覚ましい進歩がみられ,大きく変貌している.わが国では2005年10月に血栓溶解薬,組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator:t-PA)が発症3時間以内の脳梗塞に適用となったが,これが契機となって全国の脳卒中救急診療体制が整備され,また主要機関病院では脳卒中を集中的かつ専門的に診療するストロークケアユニット(Stroke Care Unit:SCU)も設置されるようになった.

研究

頚動脈狭窄症に対する包括的治療戦略—「越中八策」の初期成績

著者: 秋岡直樹 ,   柏崎大奈 ,   高正圭 ,   桑山直也 ,   田中耕太郎 ,   黒田敏

ページ範囲:P.31 - P.38

Ⅰ.緒  言
 近年の頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)および頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)の技術・周術期管理の向上は,頚動脈狭窄症を有する患者の予後の改善に大きく寄与している.近年もInternational Carotid Stenting Study(ICSS)やCarotid Revascularization Endarterectomy versus Stenting Trial(CREST)など,多数のランダム化臨床試験に基づいたエビデンスが提供されている2,3).しかし,欧米で実施された臨床試験の知見をわが国の臨床現場に画一的に外挿するのは危険で,術者・施設の経験や技量,各症例の臨床データ,数多くの相反するエビデンスを総合的に考慮して治療方針を決定すべきである.われわれは富山大学における現状を踏まえた上で,頚動脈狭窄症治療の原則を「越中八策」として成文化した.今回,この「越中八策」に則って実施した頚動脈狭窄症の治療の初期成績を報告する.

症例

全身血管病に起因する頚部内頚動脈解離性動脈瘤に対してstent-assisted coil embolizationが有効であった1例

著者: 高宮宗一朗 ,   長内俊也 ,   牛越聡 ,   栗栖宏多 ,   下田祐介 ,   伊藤康裕 ,   伊師雪友 ,   穂刈正昭 ,   中山若樹 ,   数又研 ,   鐙谷武雄 ,   七戸秀夫 ,   寳金清博

ページ範囲:P.39 - P.45

Ⅰ.はじめに
 特発性頚部内頚動脈解離性動脈瘤の原因として,線維筋性異形成,Ehlers-Danlos症候群,Marfan症候群,Behçet病などの全身血管病の関与が知られている.これらの疾患は,血管脆弱性が背景にあることが多いため,解離性病変に対しては侵襲的な治療よりも,原疾患に対する保存的な治療が選択されることが多い.しかし,病変の形状や大きさが進行性に変化する場合や出血リスクが高いと判断される場合には,手術治療や血管内治療などの侵襲的治療も選択肢となり得る.ただし,どちらの治療法がよりよいかというコンセンサスは未だ得られていない.
 今回われわれは,頚部内頚動脈解離性動脈瘤を生じた血管Behçet病疑診の症例に対してstent-assisted coil embolizationを施行したので,文献的考察を交えて,その有効性を報告する.

IgG4関連眼窩内腫瘤性病変に対する内視鏡下経鼻経篩骨洞的生検術の1例

著者: 高橋利英 ,   阿久津博義 ,   山本哲哉 ,   田中秀峰 ,   石川栄一 ,   松田真秀 ,   増田洋亮 ,   高野晋吾 ,   松村明

ページ範囲:P.47 - P.52

Ⅰ.はじめに
 IgG4関連疾患は2001年にHamanoらが提唱した疾患概念である4).全身の諸臓器にCD4ないしCD8陽性Tリンパ球とIgG4陽性形質細胞が浸潤する全身性疾患と考えられているが,提唱から日が浅いため病態については不明な点が多く疾患概念の確立には至っていない.疾患の周知も不十分なため診断に至らない例も多いが,10万人に0.28〜1.08人の頻度での発症と考えられている10).眼窩内腫瘤を契機に診断に至る例も報告が散見され8),難治性副鼻腔炎を合併することも知られている10).一方,眼窩内病変に対する摘出術・生検術は,経眼窩的あるいは経頭蓋的な方法が主流であった.しかし,近年の経鼻内視鏡手術の進歩により病変が眼窩内側から下方であれば経篩骨洞的もしくは経上顎洞的に安全に低侵襲に到達できるようになった5).さらに,副鼻腔炎を合併したIgG4関連疾患においては同時に副鼻腔炎の治療もできるというメリットもある.
 今回われわれは,IgG4関連眼窩内腫瘤に対し内視鏡下経鼻経篩骨洞的生検術を行い,同時に難治性副鼻腔炎に対する汎副鼻腔根本術も施行した症例を経験したので報告する.

コイル塞栓術を行った遠位上小脳動脈解離性動脈瘤破裂の1例

著者: 西尾雅実 ,   矢野喜寛 ,   寺田栄作

ページ範囲:P.53 - P.58

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血のうち原因が解離性動脈瘤破裂によるものは3%程度と報告されている17).その多くは椎骨動脈,中大脳動脈,内頚動脈などの主幹動脈に発生し,遠位部末梢での報告は少なく,特に上小脳動脈(superior cerebellar artery:SCA)遠位部は稀である.治療法としては,直達手術によるトラッピング,バイパスを併用したトラッピング,体部クリッピングなどが報告されており,血管内治療としては,親血管閉塞,膨隆部塞栓が報告されているが,治療法の選択について確立したものはない.
 今回,くも膜下出血で発症したSCA末梢遠位部の解離性動脈瘤破裂に対して親血管閉塞を含んだコイル塞栓術を行い,良好な転帰を得た症例を経験したので,報告する.

胃切除後の低ガンマグロブリン血症に生じた黒色真菌Cladophialophora bantianaによる脳膿瘍の1例

著者: 下川能史 ,   佐山徹郎 ,   芳賀整 ,   秋山智明 ,   槇原康亮 ,   森岡隆人

ページ範囲:P.59 - P.66

Ⅰ.はじめに
 黒色真菌は細胞壁内にメラニン様色素を有するために黒色調を呈する真菌の総称で,これまでに,Fonsecaea pedrosoiExophiala jeanselmeiE. dermatitidisPhialophora verrucosaCladophialophora bantianaなどの24種が報告されている7-9,11).さまざまな部位に感染して黒色真菌症(phaeohyphomycosis)を引き起こすが,そのほとんどは皮膚への感染である5).本邦における報告でも,土壌,木,腐食食物に生息する黒色真菌が,外表皮膚に受けた軽微な外傷から進入することで,皮膚感染症を引き起こすことがほとんどである5,7-9).稀に中枢神経系への感染を起こすこと(cerebral phaeohyphomycosis)があるが,その多くは重篤な免疫不全状態に生じており,予後は極めて不良であるとされている4,7-9).われわれは20年前に受けた胃亜全摘出術で生じたと考えられる低ガンマグロブリン血症に関連して,黒色真菌による脳膿瘍を生じた稀な1例を経験したので,報告する.

報告記

15th Interim Meeting of the World Federation of Neurosurgical Societies(2015年9月8〜12日)

著者: 亦野文宏

ページ範囲:P.68 - P.69

 2015年9月8〜12日にイタリアのローマで15th Interim Meeting of the World Federation of Neurosurgical SocietiesがFrancesco Tomasello先生をorganizing chairmanとして開催されました.同学会に参加致しましたので,ご報告させていただきます.
 WFNS(世界脳神経外科学会連盟)は,1931年より開催されていたInternational Neurosurgical Congress(国際脳神経外科会議)を前身とし,1955年に設立され,現在は全世界で脳神経外科医3万人を超える会員数を誇る歴史ある学会です.学術集会が4年に1度世界各国で開催されており,前回の第15回学術集会は韓国のソウルで行われ,今回は中間の年に開催される中間会議(Interim Meeting)が開催されました.

連載 脳腫瘍Update

(3)Astrocytic tumors(星細胞腫系腫瘍)

著者: 永根基雄

ページ範囲:P.71 - P.89

Ⅰ.はじめに
 星細胞腫系腫瘍は神経膠腫の78%を占め(脳腫瘍全国集計調査報告第13版,2001-2004)30),細胞形態からWHO分類に基づく組織診断名と,それぞれ対応する悪性度がgrade ⅠからⅣまで規定されている.しかし近年の腫瘍分子遺伝学の飛躍的な進歩により,各組織型は必ずしも連続するスペクトラムの中の悪性区分ではなく,一部はその発生過程から別個な腫瘍として成り立つことも明らかにされてきた.本稿では,これら星細胞腫系腫瘍に関する最近の基礎および臨床的知見のトピックスを概説する.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.1 - P.1

お知らせ

ページ範囲:P.30 - P.30

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.89 - P.89

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.95 - P.95

次号予告

ページ範囲:P.97 - P.97

編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.98 - P.98

 本号の扉では,中田教授が「脳神経外科医を減らさない方策」を書かれている.確かに脳神経外科医が生き生きと輝いている姿を見せなければ,学生や研修医は脳神経外科を志望しない.脳神経外科医が生き生きと働いている姿を見て,若手が入って組織が活性化し,さらに生き生きと仕事をしていける正のスパイラルが理想ではある.しかし脳神経外科医の熱心な勧誘にも抗する要因は,学生気質や価値観の今昔の違い,厳しい医療環境など多々あるものの,基本診療科であることが広く知られていないこともあるかもしれない.そこで学生に接する際には必ず,脳神経外科が基本診療科であり,診療のすべてが手術に特化している訳ではないこと,基本診療科であるからこそ,神経に関連する多くの基礎臨床分野のゲートウェイにもなり得ることを伝えるようにしているが…….
 総説の「脳波からみた意識障害」も興味深い.Nonconvulsive status epilepticusを過小評価しているとの指摘は傾聴に値する.日本脳神経外科学会の創立年である昭和23年,第48回日本外科学会総会での桂重次教授の宿題報告は「脳外科と脳波」であり,当時から実験的にも臨床的にも脳波が研究されてきた.このような歴史の古いモダリティを用いての病態の再評価は,周辺のさまざまな医療技術・検査が進歩した現在,また新たな知見を生むかもしれないとの期待を抱かせる.今後の発展を祈念したい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?