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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科44巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

医学の進歩と終末期医療のあり方

著者: 阿部竜也

ページ範囲:P.101 - P.102

 2014年11月,米国オレゴン州ポートランドで,悪性脳腫瘍を患っていたブリタニー・メイナードが,尊厳死を選択し29歳の生涯を閉じた.彼女の尊厳死から1年経った2015年10月5日,サクラメントにあるカリフォルニア州議会では知事が「End of Life Option Act」(終末期選択法)という尊厳死法案に署名し,同州は米国で尊厳死を認めた5番目の州となった.州民は2人の医師が余命半年以下の不治の病と診断すれば,致死量のセコバルビタールの処方を受けることができるようになったのである.彼女は2013年末にMRIで大きな脳腫瘍がみつかり,2014年1月に開頭手術を受けたが,腫瘍は30%ほどしか摘出できなかった.その手術から2カ月後に余命半年の宣告を受け,尊厳死を認めていたオレゴン州に移住し,放射線化学療法を受けることなく尊厳死した.その後,彼女の夫が遺志を引き継ぎ,カリフォルニア州での尊厳死の立法化の活動に参加した.このような尊厳死法案は,同州で何度も取り上げられてきたが,反対意見の多い法案でもあった.実際の彼女の病態はわからないが,米国脳神経外科医の中にも年齢が若いことからIDH遺伝子などの解析を含めた,きちんとした診断に基づく余命宣告であったのか疑問に思う声も上がっているようだ.
 尊厳死賛成派は,尊厳死は治療のオプションの1つであるから尊厳死を選ばない自由もあるとしているが,それに対して,反対派は経済的理由から医療保険に加入できない貧困層,高齢者,障害者などの社会的弱者が,高額な緩和ケアを受けられずに尊厳死を受け入れざるを得なくなると訴えている.また,余命半年と宣告され尊厳死を選択したがん患者が,その後の治療が功を奏し10年単位で生存している例もあることから,医師の推測にすぎない余命の不確かさも問題点として挙げられている.

研究

Supracallosal portionに発生した遠位部前大脳動脈瘤とaccessory anterior cerebral arteryとの関係

著者: 乾登史孝 ,   奥野修三 ,   中瀬裕之 ,   浦西龍之介 ,   橋本宏之 ,   藤本憲太

ページ範囲:P.103 - P.108

Ⅰ.はじめに
 遠位部前大脳動脈瘤(distal anterior cerebral artery aneurysm:DACA An)は全脳動脈瘤のおよそ5%と比較的稀であり3,14-16,19),その存在部位は,解剖学的特徴を基にinfracallosal portion,genu portion,supracallosal portionに分類されるのが一般的である.その多くは,genu portionに発生し,その他の部位に発生するDACA Anは,非常に稀である.一方,median artery of the corpus callosum(MACC)は,前大脳動脈(anterior cerebral artery:ACA)の一種であり,発生学的には本来左右のACAに共存し,その発達程度によりさまざまな破格が存在するが,このMACCが大脳半球に皮質枝を分枝する場合,accessory anterior cerebral artery(accessory ACA)と呼ばれる1,7,8).今回,過去にわれわれの施設で経験したDACA Anの全手術症例を後ろ向きに検討分析したが,supracallosal portionに発生した動脈瘤において全例でaccessory ACAを合併していた.両者のこのような関係について,過去にまとまった検討を加えた報告はないため,文献的考察を加え,同部位動脈瘤の特徴を述べる.

書評

—IDATENセミナーテキスト編集委員会●編—市中感染症診療の考え方と進め方 第2集—IDATEN感染症セミナー実況中継

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.110 - P.110

●コンパクトにまとめられた臨床感染症の優れた入門書
 大野博司先生(洛和会音羽病院感染症科)は,研修医時代に筆者が指導医として実際に接した勤勉なる先生である.2年次の2002年に抗菌薬の適正使用をめざし,自ら講師になり感染症の院内勉強会を自分で計画立案した.さらには院外でも夏と冬にその勉強会を自主開催し,それが後にIDATEN感染症セミナーとなり,現在も続いている.彼がその準備のために深夜まで資料作りに励んでいたことを間近で見ていたが,その企画力とバイタリティーには深く感銘を受けた(研修医ですよ!).筆者はこの感染症の勉強会資料を「贈り物」として受け取っていたが,その内容はさらに発展し2006年,医学書院より『感染症入門レクチャーノーツ』として上梓された.
 その彼の発案でIDATEN感染症セミナーを2007年1月に飯塚病院で行いたい旨の連絡があった.二つ返事で了承し,筆者は幹事として全国80名の医師と学生さんのお世話をさせていただき,今でもIDATENの活動を陰ながら見続けている.その当時の参加者リストは今でも持っているが,現在色々な分野で活躍をされているのに気付き,この活動がもたらした効果を今さらながらに驚いている.この飯塚開催のスライドも手元にあるが,IDATENが伝えてきた教育のコンテンツのレベルは,2005年メイヨー・クリニック感染症科に留学時のモーニングレクチャーとさほど遜色がないことに気付いていた.この教育内容を活字化した前書が2009年に上梓され,筆者は当然のように購読したが,セミナーを受講できない人に対する重要なテキストになっているという感想を持っていた.

テクニカル・ノート

伸縮式ストラップを用いた開頭術中の吸引管落下防止

著者: 清水曉 ,   望月崇弘 ,   大澤成之 ,   関口朋子 ,   小泉寛之 ,   隈部俊宏

ページ範囲:P.111 - P.113

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科手術における吸引管の使用頻度は高く,本器具の清潔野からの不意の落下は手術進行を妨げ,術者にストレスを与える.この落下は,器具の持ち替えのため頻回に収納容器に出し入れする開閉頭時に好発し,背景には非利き手で扱うため注意が疎かになりやすいこと(特に長時間手術・深夜における術者の疲労時),非使用時も器械出し看護師に返却せずに術者側の管理となること,ホースの自重により容器内で吸引管が傾き抜け落ちてしまうことなどがある.この看過されてきた術中トラブルへの対策として,伸縮式ストラップによる吸引管の懸吊を考案・試行した.

症例

経眼窩穿通性脳外傷に対して硬性再建なしで多層修復のみを行った症例

著者: 伊佐治泰己 ,   安田宗義 ,   山田隆壽 ,   高安正和

ページ範囲:P.115 - P.119

Ⅰ.はじめに
 穿通性頭部外傷は頭部外傷全体の0.4%を占め,主な穿通経路として頭蓋骨円蓋部,眼窩,鼻腔,口腔などが挙げられる5,9,16).大半のケースではCT,X線撮影により容易に診断できる.脳内異物の確認にはMRIのほうが有用なこともあるが,磁性体迷入の有無に注意を要する.続発性感染症予防の見地から診断後は速やかなデブリードマン・異物除去,硬膜・頭蓋骨修復再建をすべきである1,7,8,14).今回,われわれは経眼窩穿通性脳外傷の1例を経験し,早期手術を行うことで続発症なく良好な回復を得ることができたので報告する.

出血発症成人片側もやもや病に多発性未破裂脳動脈瘤を伴った1例

著者: 尾崎沙耶 ,   井上明宏 ,   宮﨑始 ,   尾上信二 ,   市川晴久 ,   福本真也 ,   岩田真治 ,   河野兼久

ページ範囲:P.121 - P.128

Ⅰ.はじめに
 片側もやもや病に脳動脈瘤を伴う場合,発症形式によって病態は大きく異なるため,その治療方針には一定の見解がないのが現状である.今回われわれは,10年以上前から未破裂前交通動脈(anterior communicating artery:Acom A)動脈瘤と片側もやもや病を指摘され,脳出血で発症した症例に対して慢性期に血行再建術と動脈瘤頚部クリッピング術を一期的に行った.その治療適応および治療法,治療時期に関して文献的考察を含めて報告する.

腰椎-腹腔シャントの腹腔カテーテルが横隔膜下に迷入し難治性吃逆を来した1例

著者: 吉田優也 ,   中島良夫 ,   得田和彦 ,   木谷隆一

ページ範囲:P.129 - P.133

Ⅰ.はじめに
 脳室-腹腔(ventriculoperitoneal:VP)シャントや腰椎-腹腔(lumboperitoneal:LP)シャントによるさまざまな腹部の合併症が過去に報告されている1-8,10,13,15-22).われわれはLPシャントの腹腔カテーテルが横隔膜下に迷入し難治性吃逆を来したため,腹腔カテーテルを横隔膜下から引き抜き難治性吃逆の消失が得られた稀な1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

外傷性椎骨動静脈瘻に対してinternal trappingで治療した1例

著者: 西廣真吾 ,   杉生憲志 ,   菱川朋人 ,   平松匡文 ,   春間純 ,   新治有径 ,   高杉祐二 ,   伊達勲

ページ範囲:P.135 - P.141

Ⅰ.はじめに
 外傷性椎骨動静脈瘻(traumatic vertebral arteriovenous fistula:TVAVF)は稀な疾患であり,外傷に起因して椎骨動脈(vertebral artery:VA)と周囲静脈叢との間にfistulaを形成する疾患である12).TVAVFは穿通性頚部外傷,頚椎骨折,スクリューによる頚椎固定手術に伴う合併症などで起こると報告されている4).約30%は無症候性であり1),頚部の雑音などで発見されることが多い.今回,頚椎骨折に伴うTVAVFに対して血管内治療によるinternal trappingが有効であった症例を経験したので報告する.

一過性脳虚血発作を呈した2年後に頭蓋内出血を生じたaplastic or twig-like middle cerebral arteryの1例

著者: 内山拓 ,   岡本浩昌 ,   高口素史 ,   田島裕 ,   鈴山堅志

ページ範囲:P.143 - P.148

Ⅰ.はじめに
 Aplastic or twig-like middle cerebral artery(Ap/T-MCA)は稀な中大脳動脈(MCA)のanomalyであるが,これまでに頭蓋内出血や脳梗塞に関連するとの報告が散見される2,3,5).今回われわれは一過性脳虚血発作を呈した2年後に,頭蓋内出血を発症したAp/T-MCAの1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

定位的開頭術を応用した海綿状血管腫の1例

著者: 太田雄一郎 ,   荒木攻 ,   沖修一 ,   鮄川哲二 ,   江本克也 ,   渋川正顕 ,   山崎弘幸 ,   加納由香利 ,   谷到

ページ範囲:P.149 - P.154

Ⅰ.はじめに
 脳内占拠性病変を摘出する際に,いかに後遺症なく正確に摘出するかは大きな問題である.現在では術中エコー,術中モニタリング,手術ナビゲーション,手術シミュレーションなどの方法が主として用いられている.今回われわれは左側頭葉深部に発生し,出血を来した海綿状血管腫に対して駒井式定位脳手術装置を使用した定位的開頭術を行い,良好な結果を得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

非特異的腰痛に対して上殿皮神経の神経剝離術が有効であった1症例

著者: 森本大二郎 ,   井須豊彦 ,   金景成 ,   山崎和義 ,   岩本直高 ,   磯部正則 ,   森田明夫

ページ範囲:P.155 - P.160

Ⅰ.はじめに
 腰痛の原因は多岐にわたり,神経症状を有し画像などの検査で原因が同定できる特異的腰痛と,神経症状を伴わず原因が同定できない非特異的腰痛に大別される.非特異的腰痛は,腰痛の実に70〜90%を占め,日常診療においてときに保存的治療に抵抗し慢性化しやすい7,14,15).その背景に精神医学的問題や心理社会的問題が関与していたり,またさまざまな疾患が併存していることにより診断が困難な場合がある.正確な診断が得られない場合には,投薬,理学療法においても一般的な腰痛治療を行うにとどまり,疾患特異的な治療や原因を改善する方法をとることができず,その結果,治療効果が乏しい結果にもつながるため,腰痛診療における原因疾患の同定は,他疾患と同様に重要である.
 今回われわれは,急性腰痛を繰り返し,治療困難な非特異的腰痛として扱われていた上殿皮神経(superior cluneal nerve:SCN)の絞扼性障害(SCN entrapment neuropathy:SCNE)に対し,神経剝離術を行い良好な臨床経過をたどった1例を経験したので報告する.

連載 脳腫瘍Update

(4)Oligodendroglial tumors(乏突起膠細胞系腫瘍)

著者: 宇塚岳夫 ,   大谷亮平 ,   植木敬介

ページ範囲:P.161 - P.170

Ⅰ.乏突起膠細胞系腫瘍(oligodendroglial tumors)とは?—その歴史と現在—
 乏突起膠腫(oligodendroglioma)という名称は,BaileyとCushingが1926年に初めて用いたもので,主に成人の大脳半球に発生するグリオーマのうち,組織形態をみた時に腫瘍細胞の形態が乏突起膠細胞(oligodendrocyte)に似ている腫瘍の一群が存在することが認識され,この名が付けられた.彼らの命名法は,細胞の形態的な特徴から腫瘍が発生する母体細胞を推定し,それを腫瘍の名称に用いるというものである.このような,細胞形態による仮想の母体細胞(presumed origin)による分類は,Bailey/Cushingの分類全体を貫いたprincipleであり,もっと遡ればおそらくVirchowの細胞病理学に起源がある.この分類は臨床経過との相関が比較的良好であったために,広く受け容れられ,今日に至っている.しかし,乏突起膠腫は,確かに細胞の形態は乏突起膠細胞に似ているものの,例えば乏突起膠細胞がもつ髄鞘形成作用が証明されたことはなく,母体細胞が何であるのか本当は明らかではない.
 現在用いられているWHO 2007分類においてもBailey/Cushingのこの基本的な定義と概念は踏襲されているが,組織形態上は,1つの腫瘍の中に乏突起膠細胞に似た細胞だけでなく星状膠細胞(astrocyte)に似た腫瘍細胞がさまざまな程度やパターンで混在していることも多く,それらは2つの系統の腫瘍(乏突起膠腫と星細胞腫(astrocytoma))が混在した腫瘍と考えられてきた.その結果,乏突起膠細胞系腫瘍(oligodendroglial tumors)の中に乏突起膠腫(oligodendroglioma:OD,Grade Ⅱ),退形成性乏突起膠腫(anaplastic oligodendroglioma:AOD, Grade Ⅲ),乏突起星細胞腫(oligoastrocytoma:OA, Grade Ⅱ),退形成性乏突起星細胞腫(anaplastic oligoastrocytoma:AOA, Grade Ⅲ)の4つの腫瘍名が列記されている.それぞれの定義は組織形態によって記載されている10)

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欧文目次

ページ範囲:P.99 - P.99

お知らせ

ページ範囲:P.110 - P.110

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.133 - P.133

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.177 - P.177

次号予告

ページ範囲:P.179 - P.179

編集後記

著者: 高安正和

ページ範囲:P.180 - P.180

 この編集後記の執筆はここ数年,年末・年始の時期に回ってくるため,先の1年を振り返り新しい年を迎えることにもなる.昨年の最大の衝撃的な出来事は,何と言っても11月13日にパリで発生した同時多発テロであろう.エジプトのアスワンで行われた学会から帰途につく朝に,このニュースを知って衝撃を受けた.思い返せば2001年の9.11米国同時多発テロもオーストラリアのホテルに到着直後であり,海外の学会参加中であった.実は,昨年9月に久しぶりにパリを経由してフランスのディジョンを訪れた際には,のどかなフランスの小都市を満喫したのだが,それからわずか2カ月足らずの出来事であった.このような許し難い暴挙に世界がどのように立ち向かって行くのか,今年は問われる年となるであろう.
 本号の「扉」では,阿部竜也先生が「医学の進歩と終末期医療のあり方」というタイトルでご寄稿くださった.昨年10月にカリフォルニア州で可決された尊厳死法案は,2014年11月に29歳で衝撃的な尊厳死をとげた悪性脳腫瘍患者のブリタニー・メイナードさんがきっかけとなっていたことを指摘している.改めて脳神経外科診療と尊厳死,終末期医療のあり方について考えさせられた.乾登史孝先生らによる研究論文では,稀なsupracallosal portionの前大脳動脈瘤が全例accessory anterior cerebral arteryを伴っていたという興味深い結果を報告している.また,清水曉先生らのテクニカルノートでは,術中の吸引管落下防止のための伸縮式ストラップを用いたおもしろいアイデアが紹介されている.連載の「脳腫瘍Update」では,第4回として宇塚岳夫先生らから「乏突起膠細胞系腫瘍」の最新知見について,遺伝子解析を含めわかりやすい解説をいただいた.そのほかに,症例報告も7編掲載され,外傷,脳血管障害,血管内治療,シャント迷入による難治性吃逆への対応,海綿状血管腫に対する定位的開頭術,非特異的腰痛に対する上殿皮神経剝離術など,テーマが多岐にわたり,いずれもたいへん興味深い内容である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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