icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科44巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

新専門医研修制度を前に思うこと

著者: 吉野篤緒

ページ範囲:P.183 - P.184

 今,新制度である「専門研修プログラム」の申請準備をしている.そんな時に思いつくままに本稿を書かせていただいている.
 かなり以前の話であり,覚えている方がどれほどいるであろうか.小泉政権が「構造改革」の名の下に医療政策を方向づけ,2002年,2004年と診療報酬のマイナス改定が行われ,さらに2006年には3.16%のマイナス改定が決定された.気がつくと9年も前のことである.当時勤務していた大学附属病院では,経営刷新委員会なるものに属していたが,この年の病院の医療収益が,ものの見事に前年度に比べマイナス3%となった.官のやることは恐ろしいと思った.3%とは数億円である.企業や個人病院であれば,数年続けば倒産である.さらに2006年度の診療報酬改定において,看護師の配置基準に「7対1」入院基本料が創設されたことも重なり,大変な時期であった.この時に,われわれの責務には,診療・教育・研究の3本柱に“経営(経済)”が加わったと自覚した.

総説

神経膠腫の分子診断と個別化治療

著者: 佐々木光 ,   𠮷田一成

ページ範囲:P.185 - P.201

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍の分子生物学的分類に関する最近の進歩は著しく,近く改訂されるWHO分類でも分子診断が重視されたものとなる予定である.特に神経膠腫(グリオーマ)では,分子診断が患者の予後予測や治療法選択に影響を与えることが報告され,日常臨床でも不可欠なものとなりつつある.本稿では,成人グリオーマ(grade Ⅱ〜Ⅳ)を対象とし,分子生物学的分類・分子診断についての主な知見,予後因子・予測因子,標準治療,また分子診断に基づくわれわれの治療戦略について解説する.なお本稿では,例えば星細胞腫と記載した場合,2007年のWHO分類に基づき,従来の形態病理診断上の星細胞腫という意味で用いる23).小児神経膠腫,上衣腫については他著を参照されたい.

脊椎内視鏡手術の発展と現状

著者: 水野順一 ,   平野仁崇 ,   西村泰彦

ページ範囲:P.203 - P.209

Ⅰ.はじめに
 腰椎椎間板ヘルニアに対しては低侵襲手術が年々普及し,患者からのニーズも急速に高まってきている.南東北ヘルスケアグループ内の施設では2009年6月から経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術(percutaneous endoscopic lumbar discectomy:PELD)を導入し,積極的に治療を行っている5-8)
 PELDの原型は1970年代に導入されたpercutaneous posterolateral nucleotomy4,10,12)で,当初は椎間板の中心部に対して減圧操作を加えるものであった.以後約40年間に手術手技が進歩し,現在はtargeted fragmentectomy3)と称し,健常な椎間板には侵襲を加えず脱出した椎間板ヘルニア塊そのものの摘出を狙う方法となっている.ここ数年,脊椎脊髄外科領域においてPELDが認知されるようになってきている一方,未だにpercutaneous posterolateral nucleotomyと混同されることがしばしばあるが,現代のPELDでは健常な中心部分の椎間板組織はなるべく残し,将来の椎間板高減少や不安定性を予防し,術後に腰痛を併発するリスクを低減させることを企図している3).PELDにはtransforaminal approach9,14-18),extraforaminal approach2,9),interlaminar approach1,9,14,15)の3つのアプローチが主に用いられており(Fig.1),通常の顕微鏡下手術と同等の良好な成績が報告されている1-3,5-9,11,14-18).中でもtransforaminal approachはPELDの代表的な手技であり,脊柱管に後側方からアプローチし椎間孔内のsafety triangleから椎間板に進入できることが利点として特徴的である.
 PELD導入当初はどの時点で手術を終了してよいかの判断が難しく,特に手術のend pointの判断について十分な理解に達することができず,通常の顕微鏡下手術と比較するあまり本法に対して懐疑的な印象をもつことも少なからずあったが,学習や経験を重ねるにつれ,どのような症例に本法が適するのか,徐々に理解できるようになった.筆者がPELDを初めて実施してから6年が過ぎた現在では,腰椎椎間板ヘルニアに対する標準的な外科的治療の1つとして選択肢に含まれるようになっている.本稿ではこれまでの自験例に照らし,現在抱えている問題点と今後の方向性について検討する.

書評

—兼本 浩祐,丸 栄一,小国 弘量,池田 昭夫,川合 謙介●編—臨床てんかん学

著者: 田中達也

ページ範囲:P.201 - P.201

●専門医も高度な知識をリフレッシュできる一冊
 てんかんは,2000年以上の前から難治の病として知られており,根本的な治療法の模索が現代までも続いている極めて特殊な病態でもある.世界の人口は約72億7,000万人と報告されている(「世界人口白書2014」より).人口の約0.8%がてんかんに罹患していることから,全世界には,約5,810万人以上のてんかん患者がいることになる.てんかんは治療費の面からも,各国の行政上の政策としても,非常に重要な課題と考えられている.
 日本の現在の人口は1億2,000万人強となり,約100万人の患者が推定されているが,80%以上の症例では,きちんとした治療により発作はコントロールされており,通常の社会生活が十分に可能である.しかし,てんかんの大きな問題点は,偏見である.このため,学校生活,雇用,人間関係にさまざまな問題があり,社会的な弱者に対しての,法制度の整備も十分とは言えない状況にある.2011年と2012年に起きた,てんかん患者による悲惨な交通事故は,てんかん治療の社会的な問題の複雑さ,てんかん治療の重要性を再認識させられた.しかし,一面では,法制度整備の盲点を浮き上がらせたとも考えられる.

研究

がん治療に関連したposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)—神経学的救急医療のピットフォール

著者: 三矢幸一 ,   中洲庸子 ,   林央周 ,   安井博史 ,   池田宇次 ,   久慈志保 ,   小野澤祐輔 ,   遠藤正浩

ページ範囲:P.211 - P.219

Ⅰ.はじめに
 がん患者が,多種の有効な治療の恩恵で長期生存する時代になり,救急医療の現場にoncological emergencyとして搬入されるケースが増加している.このうち,脳転移,脳卒中と並んで,posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)が神経外科/内科的に重要さを増している.
 ほぼ同義として用いられるreversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)は,1996年にHincheyら5)によって提唱された疾患概念であり,後部大脳白質の可逆性変化が主体とされる.しかし実際は,大脳白質のみならず,皮質も障害されていることが少なくないことから,最近では皮質と白質の両方を含む“encephalopathy”を用いたposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)が用いられることが多い1).頭痛,痙攣,視覚異常,意識障害を臨床的主症状とし,画像上,脳浮腫と思われるFLAIR高信号病変が認められ,しかも,原因の是正により,臨床的・画像的異常が可逆的に消失するという病態である.
 抗がん剤に関連するPRESは今までも報告があったが,血管新生阻害薬(bevacizumab, sunitinibなど)の出現から,最近報告が増加してきており,一般の脳神経外科医,神経内科医が,診療する機会が増加してきている7,10,19)
 この病態は,時代のトピックスとして,2つの重要な課題を抱えている.
 それは,①診断,治療選択や経過について,まだ一般的な知識となっていないこと,②その発症因子・リスクは,がん治療の革新とともに変化していることである.
 今回われわれは,当院で最近診療したがん治療に関連した5例のPRESについて診断と治療経過を提示し,発症要因,鑑別診断,治療の課題について考察を加える.

テクニカル・ノート

転移性脳腫瘍の「最小限摘出」と「安全域付き切除」—浸潤境界を基にした摘出術の使い分け

著者: 中洲庸子 ,   三矢幸一 ,   林央周 ,   伊藤以知郎

ページ範囲:P.221 - P.226

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍は癌患者の10〜26%に発生するとされる1,3).その集学的治療の目的は,癌の合併症の1つに対するコントロールである.外科的摘出は他の治療法(放射線治療,薬物治療)に比して侵襲的であるが,標的の確実な除去によりperformance status(PS)を速やかに改善するとともに,組織診断が可能な唯一の手段である.
 転移性脳腫瘍は原発巣と組織型によって多様な病態を示すことから,手術適応の判断や方法の選択が複雑であり,摘出の手技については成書にも記述が少ない.他臓器の悪性腫瘍に対する外科治療は,病巣周囲に十分な安全域を設ける切除が常識であるが,転移性脳腫瘍に対しては,神経学的機能を犠牲にする手術は通常あり得ないため,正常組織の温存に特別な配慮が必要である.したがって,non-eloquent areaとeloquent areaとでは手技の選択が異なる.一方,治療後の再発病巣では境界面が傷害されており,さらに悪性黒色腫などは播種傾向が強いので,摘出には安全域が必要になる.本稿では2つの手技,すなわち腫瘍表面を剝離する最小限摘出術(ギリギリ法)と,安全域付き切除術(ザックリ法)とを解説し,治療戦略を整理する.

症例

ステント併用コイル塞栓術で治療した後大脳動脈P2部紡錘状動脈瘤の1例

著者: 瀬川莉恵子 ,   柏崎大奈 ,   秋岡直樹 ,   高正圭 ,   桑山直也 ,   黒田敏

ページ範囲:P.227 - P.231

Ⅰ.はじめに
 後大脳動脈瘤は脳動脈瘤全体の1%程度の発生頻度であり,比較的稀である2,3,7,8).その根治治療は,解剖学的理由から開頭手術の難度が高く,血管内治療が選択される場合が多い.しかし,動脈解離,感染など病態は多彩であり紡錘状の形態をとることが多いため1-3,7,8),頚部クリッピングや瘤内塞栓術が困難で,治療に難渋する症例が散見される.そのような症例に対しては,母血管閉塞で治療を行うことが選択肢の1つであったが,虚血性合併症の可能性があるため2,7),慎重な治療選択が必要であった.
 一方,ステント併用コイル塞栓術の登場により,従来は治療が困難であった動脈瘤や母血管閉塞で治療を行っていた動脈瘤も血流を温存しながら治療をすることが可能になった.われわれは,後大脳動脈P2部に発生した紡錘状動脈瘤に対して,ステント併用コイル塞栓術にて安全かつ確実に治療できた1例を経験したので,治療の背景と問題点を考察して報告する.

くも膜下出血と脳梗塞を同時期に発症した前交通動脈に限局した解離と思われた1例

著者: 小笠原靖 ,   久保慶高 ,   幸治孝裕 ,   佐藤由衣子 ,   藤原俊朗 ,   小笠原邦昭

ページ範囲:P.233 - P.238

Ⅰ.はじめに
 近年,画像診断技術の向上により頭蓋内/外の動脈解離が日常診療において発見される機会が多くなり,その結果として動脈解離の自然歴や臨床的特徴についての報告が多くなってきた.日本の多施設全国調査であるSpontaneous Cervicocephalic Arterial Dissection Study-Japan(SCADS-Japan)では,頻度として頭蓋内椎骨動脈が最も多く,前大脳動脈がそれに続く.しかし,前交通動脈の解離はSCADS-Japanを含めて報告がない.
 一方,SCADS-Japanでは初診時の病態が脳卒中であったのは86%であり,その28%が出血性,53%が虚血性の単発発症であった7).出血性と虚血性の脳卒中を同時に認めた症例は5%と少ない7)
 今回,われわれはくも膜下出血と脳梗塞を同時に発症し,画像の経時的変化と術中所見から前交通動脈に限局した動脈解離と考えられた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

アピキサバン内服中に発症した円蓋部くも膜下出血

著者: 清水陽元 ,   勇木清 ,   貞友隆 ,   原健司 ,   大庭秀雄 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.239 - P.244

Ⅰ.はじめに
 新規抗凝固薬による頭蓋内出血の合併は少ないとされ,これまでに脳出血,硬膜下血腫,くも膜下出血が報告されている.その中でくも膜下出血の合併は特に稀である1-4).一般に合併症としてのくも膜下出血の原因の多くが外傷であり特発性の場合は少なく,さらに新規抗凝固薬の中でアピキサバンによるくも膜下出血の合併の報告はこれまでにない1,2)
 脳アミロイドアンギオパチーは高齢者に多く,皮質下出血を繰り返すことが知られている.稀ではあるがくも膜下出血で発症することもあり,その場合,円蓋部に出血が限局することが多く,円蓋部くも膜下出血として注目を浴びている7,8)
 今回われわれはアピキサバン内服中に発症した円蓋部くも膜下出血の症例を経験したので報告する.

連載 脳腫瘍Update

(5)神経細胞・混合神経膠細胞系腫瘍

著者: 園田順彦 ,   鈴木博義

ページ範囲:P.245 - P.254

Ⅰ.はじめに
 神経細胞・混合神経膠細胞系腫瘍(neuronal and mixed neuronal-glial tumors)は,稀少疾患であり,脳腫瘍全国集計調査報告第13版(2001-2004)38)によれば,原発性脳腫瘍の1%程度を占めるにすぎない.ただし小児期のてんかんで発症することが多いため,脳腫瘍外科医のみならず,てんかん外科医により治療される機会も多い疾患である.その病理組織は多岐にわたっており,正確な診断はしばしば困難な疾患群である.本稿ではneuronal and mixed neuronal-glial tumorsの各分類,最新の知見を紹介する.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.181 - P.181

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.238 - P.238

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.261 - P.261

次号予告

ページ範囲:P.263 - P.263

編集後記

著者: 𠮷峰俊樹

ページ範囲:P.264 - P.264

 本号の「扉」は,日本大学脳神経外科学教室の吉野篤緒先生からいただいた.主任教授として脳神経外科の研修や診療に関わる最近の思いを綴られている.そのなかで,最近の大学では診療,教育,研究の3本柱に加えて病院経営(経済)にも大きな労力を割かねばならなくなったことを述べられている.そもそも,医業と経営,医療と経済は切っても切れない関係にあるものの,医学を学び,治療に専心しようとする多くの医師にとって,病院経営に加わることは負担が大きい.不得手,不向きの場合も多い.かといってこれを医師が放棄し,他に委ねてしまうことにも問題がある.当面,経営を含めたマルチタスクをこなす人材が何名か望まれる.また,吉野先生は,初期研修制度や専門医研修プログラムによる教育にも思いを寄せ,最近は教える側の指導医よりも教えられる側の研修医のほうが,一見,「何が必要なのか」,「何が必要でないのか」をよく理解しているようにみえるとし,しかし,それは研修医は規定された到達目標を重視しているのであり,資格取得を目指した浅い知識や技術の習得が研修の目的となることを危惧されている.実際のところ,到達目標を達成した専門医が増えてそれなりに医療水準が向上するとしても,それだけでは限界がある.基礎となる医学が不発達であるからである.その医学を進歩させるには研究が欠かせない.にもかかわらず,「今の若い先生は,研究マインドが乏しく,博士号よりも専門医を重視しすぎるようになったのではないか」と吉野先生は嘆いておられる.診療,教育,研究,経営(経済)について今一度,考えさせられる「扉」である.
 さて,本号では「神経膠腫の分子診断と個別化治療」,「脊椎内視鏡手術」に関する総説,最近知られるようになってきた「可逆性後頭葉白質脳症(PRES)」に関する研究,古くから一般的な手術である「転移性脳腫瘍摘出術」に新しい切り口で迫ったテクニカル・ノート,連載の「脳腫瘍Update」,そして興味ある症例報告など,貴重な原稿をいただいた.著者の先生方の旺盛なリサーチマインドに感服しつつ,厚くお礼申し上げます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?