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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科44巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

50・50(フィフティ・フィフティ)

著者: 上山博康

ページ範囲:P.355 - P.357

 さだまさしさんの「無縁坂」という歌に,「運がいいとか悪いとか…」という歌詞があります.不幸な転帰をとる患者さんたちを診ていると,「そういうことって確かにある」と感じることがあります.最近私は,運と実力って,半々ではないかと思うようになりました.本人の努力や実力で達成できることは,全体の50%程度で,残りの50%は自分以外の要素・要因で決まってしまうのではないかと思うのです.代表例として,王選手や長嶋選手のデビュー時の話が有名です.30打席以上ヒットが打てない状況でも,王や長嶋の才能を見抜いていた三原監督や水原監督は,彼らを打席に送り続けたのです.バッター・ボックスに入ったら,打てるかどうかは打者の責任です.しかし,打席に送り出すのは監督です.手術でも同様だと思うのです.手術をさせてもらえるかどうかは,教授や部長の胸先三寸です.常日頃から,手術ビデオを編集したり,バイパスの練習をするなど,自分のできる範囲での研鑽をいくら積んでも,手術をさせてもらえなければ,発揮する場所もなく意欲もなくなってしまいます.その外的要因は“運”と言えると思います.確かに人には相性もあって,すべての人間と良好な関係を保つことは容易ではありませんが….

総説

急性期脳梗塞に対する血管内治療のエビデンス確立—ホノルルショックからナッシュビルホープへ

著者: 吉村紳一

ページ範囲:P.359 - P.369

Ⅰ.はじめに
 急性期脳梗塞に対する血管内治療は,マイクロカテーテルを用いたウロキナーゼ動注療法(局所線溶療法)から始まり,中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)閉塞症において一部有効性が示されたが6,17),より質の高いエビデンス28)を有する遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue-plasminogen activator:rt-PA)静注療法の承認によって一時行われなくなった.しかし,2010年に血栓回収機器であるメルシーリトリーバー24)が承認され,rt-PA静注療法の無効例・非適応例に用いられるようになった.翌年には血栓を局所で吸引するペナンブラシステム18)も承認されたが,2013年にホノルルで開催された国際脳卒中会議(International Stroke Conference:ISC)において,3つのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)2,4,11)でその有効性が否定され,“ホノルルショック”と呼ばれた31).しかしその後,ステント型血栓回収デバイス(以下,ステントリトリーバー.Solitaire FR, Trevo ProVue)が承認され,2014年末にオランダのRCTであるMR CLEANにおいて初めてその有効性が示された1).これを受け,当時進行中であった多くのRCTが登録を中止して解析を行い,2015年2月に米国ナッシュビルで開催されたISC 2015にて,さらに3つのRCTで有効性が示された3,7,21).われわれはこの結果を,本治療の普及への期待を込めて“ナッシュビルホープ”と呼んでいる.その後,さらにもう1つのRCTでその有効性が証明され10),2015年末までに合計5つのRCTが発表されたこととなる.
 本稿では血栓回収デバイスを用いた治療に焦点を絞り,そのエビデンスの詳細と実施における工夫,さらには今後の展開について考察する.

研究

乳がんからの下垂体転移—合併する髄膜播種に関する考察

著者: 林央周 ,   三矢幸一 ,   原田英幸 ,   渡邉純一郎 ,   西村哲夫 ,   中洲庸子

ページ範囲:P.371 - P.376

Ⅰ.はじめに
 転移性下垂体腫瘍の頻度は全頭蓋内転移患者の約1%,全下垂体腫瘍の約1%と稀であり,原発は乳がんおよび肺がんで頻度が高いことが知られている2).乳がん患者における下垂体転移の発生頻度は,他の部位のがん患者の約7倍と報告されている6)
 下垂体転移の画像による鑑別診断は必ずしも容易ではなく,また,下垂体機能異常に伴う多彩な内分泌症状を呈するため,診断・治療には関連する診療科による集学的取り組みが必須である.特に乳がん患者では長期生存例も増加しており,下垂体転移の的確な診断,合併する内分泌症状に対する全身的管理は重要な臨床課題となる.今回われわれは,がん専門病院で経験した乳がんからの下垂体転移症例について,臨床的特徴,照射方法および治療成績に関して検討した.

症例

脳動脈瘤コイル塞栓術後に造影剤による意識障害および左片麻痺が遷延した大型右中大脳動脈瘤の1例

著者: 中島伸彦 ,   小柳正臣 ,   小林環 ,   江夏怜 ,   織田雅 ,   齊木雅章

ページ範囲:P.377 - P.382

Ⅰ.はじめに
 近年,脳動脈瘤に対する脳血管内治療が増加傾向にあり13),脳動脈瘤に対する治療の第一選択としてコイル塞栓術を選ぶ施設もみられるようになった2).脳動脈瘤コイル塞栓術の合併症には術中の動脈瘤破裂や脳梗塞の出現があるが5,9),造影剤の毒性によると思われる神経学的異常の出現の報告も散見される8,10,12,14).しかし多くの場合,後方循環系の動脈瘤に対するコイル塞栓術を行った際に認めており,前方循環系の脳動脈瘤に対するコイル塞栓術を行った際に生じる造影剤によると思われる神経学的異常の出現は極めて少数である8,14).今回われわれは,前方循環系の脳動脈瘤コイル塞栓術後に遷延する意識障害および左片麻痺を生じた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

椎骨動脈狭窄によるprogressing strokeに対してバルーン血管形成術が有効であった1例

著者: 林健太郎 ,   松尾義孝 ,   豊田啓介 ,   林之茂 ,   白川靖 ,   上之郷眞木雄

ページ範囲:P.383 - P.389

Ⅰ.はじめに
 急性期脳梗塞に対する血管内治療はデバイスの改良もあり,急速に発展してきている.頭蓋内主幹動脈の動脈硬化性の病変に対してはバルーン血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)やステント留置術が行われるようになったが,その適応などを含めて課題も多い.今回われわれは,progressing strokeを呈した椎骨動脈狭窄に対してPTAを施行した.症例を報告し,ステント留置術の適応などについて考察する.

術中所見が髄膜腫と類似した頚静脈結節部primary dural lymphomaの1例

著者: 木原一徳 ,   佐藤幹 ,   荷堂謙 ,   福田和正 ,   中村孝雄 ,   山上岩男 ,   岩立康男

ページ範囲:P.391 - P.396

Ⅰ.はじめに
 Primary dural lymphoma(PDL)は稀なprimary central nervous system lymphoma(PCNSL)の1種で,病理学的には硬膜由来のextranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue type(MALTリンパ腫)であることが多い.その疫学的特徴や画像所見は髄膜腫に酷似しているため鑑別が困難である1,6,8).われわれは,片麻痺と眼球運動障害を主訴に入院し画像検査で頚静脈結節部の髄膜腫と診断されていたが,術後の病理診断でPDLと診断された症例を経験した.PDLに関する過去の報告を渉猟し,その臨床像と治療予後について文献的考察を行った.

前頭頭頂骨内に発生した神経鞘腫の1例

著者: 河井伸一 ,   継仁 ,   平田陽子 ,   安部洋 ,   井上亨 ,   鍋島一樹 ,   高野浩一

ページ範囲:P.397 - P.402

Ⅰ.はじめに
 骨内発生の神経鞘腫(schwannoma)は稀で,Unniら14)の統計によると下顎骨,脊椎発生が多く,これまでの文献報告でも下顎骨発生例が非常に多い.一方,頭蓋冠骨内発生例は極めて稀である.今回われわれは,24歳女性の前頭頭頂骨の板間層に発生した神経鞘腫を経験したので,その臨床像,放射線学的所見を検討し,文献的考察を加えて報告する.

IT自由自在

脳神経外科手術中におけるタブレット端末の有用性

著者: 富田隆浩 ,   田邊望 ,   山本修輔 ,   白石啓太朗 ,   加茂徹大 ,   高正圭 ,   柏崎大奈 ,   秋岡直樹 ,   永井正一 ,   桑山直也 ,   黒田敏

ページ範囲:P.403 - P.408

Ⅰ.はじめに
 近年,スマートフォンやタブレットなどのinformation and communication technology(ICT)端末の普及が目覚ましい.その理由の1つとして,いかなる環境においても必要な情報を迅速に引き出せる点が挙げられる.その有用性は医療現場においても同様で,医療スタッフ間や患者との情報共有のツールとしても注目されている4,11,18)
 今回,われわれはICT機器の利便性に着目して,脳神経外科手術中に滅菌操作が可能なタブレット端末を活用して,その有用性を検証したので報告する.

臨床留学のすすめ

ナポリ臨床留学体験記—Università degli Studi di Napoli Federico Ⅱ

著者: 森良介

ページ範囲:P.409 - P.413

1.はじめに
 筆者は2012年9月から2013年8月まで,イタリア・ナポリにあるUniversità degli Studi di Napoli Federico Ⅱにclinical fellowとして臨床留学する機会をいただいた.脳神経外科専門医を取得後,脳腫瘍,内視鏡下経蝶形骨洞手術に従事する日々を送りながらも,東京慈恵会医科大学の手術に新しい風が必要だと感じるようになった.そんな時,幸いにも日本神経内視鏡学会でのPaolo Cappabianca教授の招待講演を聴くことができ,ナポリで後日開催されるhands-on workshopに参加させていただくことになった.その後,再度メールで連絡をとり,さらなる臨床経験を同大学で積むための1年間の臨床留学を受け入れていただいた.

連載 脳腫瘍Update

(7)髄膜腫Update—分子病態から薬物療法へ

著者: 川原信隆

ページ範囲:P.415 - P.430

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫の診断・治療は,過去20年の間に大きく進歩してきた.その多くはMRIの活用による正確な画像診断,頭蓋底外科の発展による安全確実な外科的切除率の向上,および定位放射線治療の出現による非手術的治療の確立などによるところが大きい.これらの領域では,数多くのreviewや論文が発表されている.その一方で,これらの治療に抵抗性で,WHO grade Ⅰでも再発を繰り返す例やgrade Ⅱ,Ⅲの予後不良の症例が存在することも事実である.このような症例は比較的稀なためあまり注目されてこなかったが,最近のgenome研究の進展により過去数年間で研究が大きく進歩し,神経膠腫では分子診断が導入される時代となりつつあり,髄膜腫の領域においても確実にその分子病態の理解が進んでいる.本稿では,これらの領域に注目して文献をreviewし,治療抵抗性髄膜腫の薬物療法の現状を概説したい.

追悼

Albert L. Rhoton, Jr.先生のご逝去を悼む

著者: 小林茂昭

ページ範囲:P.431 - P.435

 ロートン先生(Professor Albert L. Rhoton, Jr.)は2016年2月21日に83歳で逝去された.本稿では,私が参加した先生の葬儀のご報告と,日本の脳神経外科との関係を中心に紹介し,追悼の記とする.

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欧文目次

ページ範囲:P.353 - P.353

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.389 - P.389

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.441 - P.441

次号予告

ページ範囲:P.443 - P.443

編集後記

著者: 𠮷田一成

ページ範囲:P.444 - P.444

 桜の花のほころび始めたころ,本号の原稿が届いた.「扉」を読んで,世代の離れた2人の偉大な脳神経外科医の火花が飛び散りそうなぶつかり合いと,その背景にある信頼関係を感じ,熱い思いを覚えた.北海道の桜は,葉が出てから花が咲くそうである.所変われば品変わるというが,脳神経外科領域でもそうであろう.標準治療,ガイドラインに沿った治療が尊重される時代だが,患者が求めるのは,平均的な治療ではなく,エキスパートの治療である.標準治療までは与えられたレールをそれなければ到達できるのであろうが,エキスパートとなるには,道なき道を歩まなければならず,多くの脳神経外科医は道半ばにして現役を終えている.エキスパートと認められている脳神経外科医も,本人は“完成している”とは思っていないのかもしれない.
 総説では,急性期脳梗塞に対する血管内治療についてご執筆いただいた.血管内治療の進歩は目覚ましく,明らかに脳神経外科治療を取り巻く情景は変化している.次々と開発される新しいdeviceの登場により,新たな観血的治療の道が開けてくる.革命的な治療は,必ずしも開発当初から優れた治療成績を収めるとは限らず,見直し,改良を積み重ね,従来の治療成績を上回るように進化することも多々あるのではないかと思われる.また,血管内治療と外科手術は,決して対立するものではなく,共存すべき治療手段である.両刀使いが常識である日本は,正しい方向へ進んでいると思われる.また,本号にも多くの症例報告が掲載されているが,いくら年齢を重ねても,患者から学ぶことは尽きない.脳神経外科領域の疾患も,まだまだ解決の見通しすら立たないものも多々ある.連載「脳腫瘍Update」で取り上げられている髄膜腫は,最も頻度の高い脳腫瘍であり,良性腫瘍が多く,全摘出ができれば根治可能であるが,浸潤性で全摘出不能な例,悪性度の高い組織型もあり,それらに対する補助療法の有効性は確立されていない.外科医としての技術を習得することと,不治の病をいつの日にか克服してやろうという気概もって,日々,研鑽を積まなければと思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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