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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科44巻6号

2016年06月発行

雑誌目次

「頑張る」ということ

著者: 松尾孝之

ページ範囲:P.447 - P.448

 ふと気づくと,日々後悔することの繰り返し.本来怠け者の私にとって「頑張る」とはどういうことだろう,とこの文章を書きながら考える.
 私は,冬を除いて現実逃避のために海に行き,海の中で自分の呼吸の音だけの世界で時を過ごす.海には毎回違う何かがある.レジャーとして始めたダイビングであったが,長年回数を繰り返していくと,多くの経験をする.海に入るには,自分自身の命,一緒に潜るバディの命を守るための多くのルールが存在する.たかだか1時間に満たない時間であるが,本来人が生活できる場所ではないところで過ごす非日常を楽しむのだから,危険に遭遇するのは当然である.しかし,回数を重ね,その不自然な状況にも慣れてくると,そのルールさえ疎かになることがある.技術に自信がつき,誰もが海に入ることを躊躇するような条件の中でも,海に入ることを楽しむようになっていく.ダイビングを始めて12年目の夏,それは訪れた.

総説

陽子線・重粒子線の現状と展望

著者: 嘉山孝正 ,   根本建二

ページ範囲:P.449 - P.454

Ⅰ.はじめに
 放射線は,電離作用(原子・分子から電子をはぎ取る作用)をもった,電磁波または粒子(原子の構成成分や原子核そのもの)と定義される.すなわち,どちらも高エネルギーであり(中性子は例外),電磁波の場合は波長が短く,粒子の場合には速度の早い状態である.
 放射線の分類をFig.1に示す.電子は本来粒子であるが,独立して扱われる場合が多い.重粒子は以前は電子より重い粒子をすべて重粒子と呼んでいたが,現在では原子番号2のヘリウム原子核よりも重い粒子を指すことが多く,用語の混乱がみられる.実際の放射線治療で最も一般的に用いられている重粒子は炭素イオンで,わが国で重粒子線といった場合には,炭素イオン線とほぼ同義語になっている.
 放射線の生体への作用で最も重要なものはDNAの切断である.このプロセスは水分子の電離により生じた活性酸素を介して,あるいは放射線が直接DNA分子に作用して発生する.DNAの切断が起きると,細胞内のさまざまな分子機構により,その修復が試みられるが,破壊の程度が大きい場合には,細胞の増殖が不能になり最終的に死に至る.DNAは正常細胞にもがん細胞にも存在しており,放射線により同様にダメージを受ける.そのため,放射線治療の成功の鍵は,いかにしてがんに選択的に放射線を集中させるかということになる.本稿では,がんに放射線を集中させる手段として最近注目を集めている荷電粒子線(陽子線,重粒子線)について,その特徴,現状,将来について概説する.

研究

急性・亜急性硬膜下血腫に対する内視鏡下血腫除去術の治療成績

著者: 三木浩一 ,   吉岡努 ,   平田陽子 ,   榎本年孝 ,   髙木友博 ,   継仁 ,   井上亨

ページ範囲:P.455 - P.462

Ⅰ.はじめに
 近年,内視鏡を用いた低侵襲手術が広く普及し,頭部外傷領域においても応用されつつある1,4,5,9,16,17).急性硬膜下血腫(acute subdural hematoma:ASDH)や亜急性硬膜下血腫(subacute subdural hematoma:SASDH)は,意識障害や神経症状を呈する症例では積極的な手術治療の対象となり,これまで大開頭術や外減圧術が選択されてきた.しかし,高齢者においては手術侵襲が全身状態に与える影響を考慮する必要がある.今回われわれは,高齢者のASDHやSASDHに対して内視鏡下の小開頭血腫除去術を施行した12症例について,臨床的特徴,手術効果,転帰などについて検討を行った.

症例

脳内出血にて発症したtwig-like middle cerebral arteryに対してECA-MCA double anastomosesを施行した1例

著者: 井上明宏 ,   河野兼久 ,   福本真也 ,   市川晴久 ,   尾上信二 ,   宮﨑始 ,   尾崎沙耶 ,   岩田真治

ページ範囲:P.463 - P.471

Ⅰ.はじめに
 以前より,もやもや病の診断基準は満たさないが,もやもや様の異常血管網を伴う中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)閉塞症の存在が報告されており,本病態は“spontaneous MCA occlusion with moyamoya phenomenon”,“aplastic MCA”,“twig-like MCA”などと記されてきた.しかし,その病態は未だ定かではなく,治療方針に関しても統一されたものは存在していない1-4,7,12-15).今回われわれは,脳内出血で発症したtwig-like MCAの1症例を経験し,脳内血腫除去術後に時期をおいて浅側頭動脈(superficial temporal artery:STA)-,後頭動脈(occipital artery:OA)-MCA double anastomosesを施行し良好な経過を得ることができたので,文献的考察を加えて報告する.

磁場式ナビゲーション下に全摘し得た海綿静脈洞進展ACTH産生下垂体腺腫の1例

著者: 冨田祐介 ,   黒住和彦 ,   寺坂友博 ,   稲垣兼一 ,   大塚文男 ,   伊達勲

ページ範囲:P.473 - P.479

Ⅰ.はじめに
 下垂体腺腫の外科的治療において,再発予防の観点からは全摘出が最も望ましいが,海綿静脈洞進展がある場合,それが困難となるケースがしばしばある4,20).下垂体腺腫手術における術中支援として,ナビゲーションシステムは病変の位置,正常解剖を理解するために必要な手術支援モダリティーである2).現在,脳神経外科領域で使用されているナビゲーションは,光学式と磁場式の2つの種類がある.磁場式は磁場フィールド内に存在するセンサー位置を持続的にトラッキングするため,光学式と比べ,自由な器具操作が求められる脳神経外科手術においてその有用性が報告されている8)
 今回,われわれは右動眼神経麻痺で発症した海綿静脈洞進展adrenocorticotropic hormone(ACTH)産生下垂体腺腫に対して,磁場式ナビゲーション下に全摘出し得た1例を経験したので文献的考察を踏まえ報告する.

著明な多形性を伴った松果体実質性腫瘍—悪性度との相関はいかに

著者: 伊東民雄 ,   佐藤憲市 ,   尾崎義丸 ,   浅野目卓 ,   中村博彦 ,   田中伸哉 ,   木村太一 ,   菅野宏美

ページ範囲:P.481 - P.487

Ⅰ.はじめに
 松果体実質性腫瘍(pineal parenchymal tumors:PPTs)のうち,pineocytoma(PC)やpineal parenchymal tumor of intermediate differentiation(PPTID)では,ときに多形性を伴うことがあるが,本所見と悪性度との相関については議論のあるところである2,8,10)
 今回われわれは著明な多形性を伴ったPPTの1例を経験したので,自験PPTs 12例(PC:3,PPTID:6,pineoblastoma(PB):3)の病理所見との比較より4,7),本症例の病理診断および多形性と悪性度との相関について文献的考察を行ったので報告する.

頚動脈浮遊血栓に対し頚動脈エコーガイド下に血管内治療を行った1例

著者: 大多和賢登 ,   錦古里武志 ,   渡辺賢一 ,   安藤遼 ,   丹原正夫 ,   有馬徹

ページ範囲:P.489 - P.494

Ⅰ.はじめに
 頚動脈エコーにて観察される可動性のプラークや血栓は脳塞栓症の高危険因子とされ,緊急手術も考慮され得る病態である2,3,6).今回われわれは脳塞栓症の精査にて発見された頚動脈浮遊血栓(carotid free-floating thrombus:carotid FFT)に対して,頚動脈エコーガイド下に血管内治療を行い良好な結果を得た1例を経験したので報告する.

Dumbbell型を呈した孤発性胸髄脂肪腫の1例

著者: 高宮宗一朗 ,   飛騨一利 ,   矢野俊介 ,   笹森徹 ,   関俊隆 ,   斎藤久寿

ページ範囲:P.495 - P.499

Ⅰ.はじめに
 脊髄脂肪腫は,全脊髄腫瘍の1%未満と比較的稀な腫瘍である3).その多くは脊椎癒合不全に合併するが,脊椎癒合不全を伴わない孤発例も存在する.孤発性脊髄脂肪腫は,軟膜下脂肪腫が多く,硬膜内外に及ぶいわゆるdumbbell型となることは極めて稀である.今回われわれは,dumbbell型を呈した孤発性胸髄脂肪腫の1例を経験したので,その手術法を含め報告する.

Trousseau症候群に伴い繰り返し生じた両側中大脳動脈閉塞症に対して血栓回収療法が有用であった1例

著者: 井上悟志 ,   藤田敦史 ,   溝脇卓 ,   内橋義人 ,   黒田竜一 ,   潤井誠司郎 ,   栗原英治 ,   甲村英二

ページ範囲:P.501 - P.506

Ⅰ.緒  言
 Trousseau症候群は悪性腫瘍に伴う血液凝固異常により脳卒中を生ずる病態であるが,頭蓋内の主幹動脈閉塞を来すことは稀といわれ,これに対して血栓回収療法を行った症例の報告は見あたらない.今回われわれは,悪性腫瘍の精査入院中に,初回は右側,次いで左側の中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)M1部の急性閉塞を短期間に相次ぎ発症し,いずれも脳血管内治療により再開通し得た症例を経験したので報告する.

くも膜下出血後水頭症に対するシャント術後に発症した片側posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)の1例

著者: 佐藤裕之 ,   小泉孝幸 ,   佐藤大輔 ,   遠藤深 ,   加藤俊一

ページ範囲:P.507 - P.515

Ⅰ.はじめに
 Posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)は,臨床的に痙攣,意識障害,視覚異常などを主症候とし,画像上脳浮腫と考えられる変化が主に両側後部白質を中心に出現し,臨床症候や画像所見が可逆性という特徴をもった臨床的・神経放射線学的症候群である.誘因・発症機序については,高血圧,子癇などに伴い血管性浮腫(vasogenic edema)を生ずることで発症するとされている.
 PRESは通常両側性であり片側発症例は極めて稀であり,さらにシャント術が誘因と考えられる例の報告は渉猟し得た限り報告がない.今回われわれは,くも膜下出血後の水頭症に対するシャント術後に発症した片側PRESの1例を経験したため報告する.

半球間裂から後頭蓋窩へ連続する急性硬膜下血腫を主要画像所見として発症した,破裂内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 大塚寛朗 ,   福田雄高 ,   吉村正太 ,   杣川知香 ,   日宇健 ,   小野智憲 ,   牛島隆二郎 ,   戸田啓介 ,   堤圭介

ページ範囲:P.517 - P.524

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂に伴う急性硬膜下血腫(aneurysmal acute subdural hematoma:aneurysmal ASDH)の頻度は比較的低く,clinical seriesでは0.5〜10%と記載されている10).くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を伴わない純粋なASDH(pure ASDH)の報告も散見され,外傷歴が明らかではない救急患者の初期診療における留意点として,強調されてきた13)
 最近,同側の大脳半球間裂から両側後頭蓋窩に及ぶASDHを主要画像所見として発症した,破裂内頚動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤(internal carotid-posterior communicating artery aneurysm:IC/PC AN)の1例を経験した.非典型的な血腫分布を呈する極めて稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する.

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欧文目次

ページ範囲:P.445 - P.445

お知らせ

ページ範囲:P.487 - P.487

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.506 - P.506

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.529 - P.529

次号予告

ページ範囲:P.531 - P.531

編集後記

著者: 村山雄一

ページ範囲:P.532 - P.532

 熊本地震から間もないゴールデンウィークの最中,2016年6月号の編集後記を執筆しています.個人的にも熊本の皆さまとは公私ともつながりがあり,日夜救済活動に御尽力されている脳神経外科会員の皆さまに心より敬意を表し,1日も早い復旧を願うばかりです.
 本号の「扉」では長崎大学の松尾孝之教授が「『頑張る』ということ」と題して寄稿されています.頑張ることの意義,人生に対する価値観などへの思いを綴られています.人それぞれ目標や考え方が異なって当然でありますが,ひとたび震災のような自然災害が起こると,いかに人間が無力であるかを痛感させられます.一方で被災地に続々と集まるボランティアの方々の報道を見ると,人間のもつ無限の力の強さも感じます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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