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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科45巻10号

2017年10月発行

雑誌目次

地域医療で脳神経外科医に求められるもの

著者: 高里良男

ページ範囲:P.857 - P.858

 私はこの22年間,東京都立川市にある国立病院機構災害医療センターで勤務し,2017年3月31日にて病院長を最後に退任しました.脳神経外科医・病院管理者として,脳神経領域を中心とした地域医療に関与して考えたことを,これからの脳神経外科医に箇条書きにして伝えたいと思います.

研究

頚動脈ステント留置術後の過灌流症候群予測における両側rSO2モニタリングの有用性

著者: 新美淳 ,   石原正一郎 ,   塚越瑛介 ,   根木宏明 ,   掛樋善明 ,   上宮奈穂子 ,   溝上康治 ,   石原秀章 ,   神山信也 ,   山根文孝

ページ範囲:P.859 - P.867

Ⅰ.緒  言
 頚動脈狭窄症に対するステント留置術(carotid artery stenting:CAS)は,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)とともに,現在では確立した治療法である3,6,26).その周術期管理においては,虚血性合併症のみならず過灌流症候群(cerebral hyperperfusion syndrome:CHS)に十分注意する必要がある.CEA術後の過灌流症候群は1981年にSundtら23)によって報告され,その発症率は0.2〜18.9%と報告されている25).CAS術後の過灌流症候群は,1990年代後半から報告され始め2,15,17),0.4〜11.7%に発症し,頭蓋内出血を来す例は0〜11.7%と報告されており,ひとたび頭蓋内出血を来すと致死的となり得る1,4,9,11)
 CASおよびCEA術後の過灌流症候群の予測および早期発見のために,positron emission tomography(PET),single photon emission computed tomography(SPECT),transcranial Doppler(TCD),transcranial color-coded real-time sonography,computed tomography perfusion(CTP)などの有用性が報告されている4,10,11,13,21,24,25).近年は,近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いた局所混合血酸素飽和度(regional saturation of oxygen:rSO2)モニタリングの有用性に関する報告が散見されるようになってきた8,14,19,21).rSO2モニタリングは非常に簡便かつ低侵襲,低コストである.また,術中から術後まで持続的にモニタリングが可能であり,リアルタイムに頭蓋内血流動態の変化を捉えることができる7,8,21).これまでのrSO2モニタリングの報告は,患側値のみの変化に注目しているものが多いが8,14,19,21),rSO2はそのベースラインの個人差が大きく,さらに周術期においては酸素投与や血圧変動などにより計測値が変動しやすいため7,12,16,22),その値の解釈には注意を要する.

ガイディングカテーテルの誘導,保持にGoose Neck Snareを使用し血管内治療を行った5例—使用時の工夫と文献レビュー

著者: 前田一史 ,   吉田正太 ,   尾辻亮介 ,   連乃駿 ,   長岡慎太郎 ,   亀田勝治 ,   伊飼美明 ,   宇野淳二 ,   魏秀復 ,   上原卓実 ,   新垣辰也

ページ範囲:P.869 - P.877

Ⅰ.はじめに
 血管内治療では,ガイディングカテーテル(guiding catheter:GC)やガイディングシース(guiding sheath:GS)を親動脈に安定して留置する必要がある.しかしながら,アクセスルートの蛇行が強い症例では,GC/GSを目的の位置にうまく留置できずに,その後の手技が困難になることをしばしば経験する.今回われわれは,脳動脈瘤に対するコイル塞栓術,放射線治療後の総頚動脈狭窄,頚髄シャント疾患に対してAmplatz Goose Neck Snare(GNS)を用いて,GC/GSを誘導後,これを保持することで治療し得た5症例を経験した.同手技は,脳血管内治療医によく知られてはいるが,使用する機会は多くないと思われ,文献報告は少ない.GNSの有用性について,自験5例および若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の臨床像

著者: 中村道夫 ,   宮崎格 ,   篠崎夏樹 ,   和泉允基 ,   板橋孝

ページ範囲:P.879 - P.888

Ⅰ.はじめに
 頭蓋頚椎移行部動静脈瘻(craniocervical junction arteriovenous fistula:CCJ-AVF)は極めて稀な疾患で,代表疾患であるdural AVF(DAVF)においても,頭蓋内および脊髄硬膜動静脈瘻全体の約3.3%と報告されている27).発症様式はくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)と脊髄症状が約1:1とされるが14,21),病変部位が頭蓋内と脊髄の境界領域であり,その希少さも相まってどちらの発症様式をとっても診断に苦慮する可能性がある2,3,7,32,33).今回われわれは,当院で経験したCCJ-AVF症例の臨床像から特に診断困難の要因について検討し,文献的な考察を加えて報告する.

症例

脳静脈洞血栓症を認めた21カ月後に新たに発生した硬膜動静脈瘻の1例

著者: 石井元規 ,   山之内高志 ,   大島良介 ,   佐藤雅基 ,   野田智之 ,   槇英樹 ,   鬼頭晃

ページ範囲:P.889 - P.895

Ⅰ.はじめに
 成人に発生する硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の多くは,静脈性高血圧によって後天的に引き起こされると考えられているが2,13),実際に静脈の閉塞性変化が先行してdAVFの発生を認めることは多くない.今回われわれは,脳静脈洞血栓症(cerebral venous sinus thrombosis:CVST)による脳出血の後に経過観察を行っていたところ,新たに発生したdAVFによる脳出血を発症した症例を経験したので報告する.

Azygos anterior cerebral artery脳梁下部(A2)のinfundibular dilatationに新生した多発性(破裂/未破裂)微小脳動脈瘤の1例

著者: 吉村正太 ,   杣川知香 ,   佐藤慧 ,   福田雄高 ,   日宇健 ,   小野智憲 ,   牛島隆二郎 ,   戸田啓介 ,   堤圭介

ページ範囲:P.897 - P.904

Ⅰ.はじめに
 Azygos anterior cerebral artery(AACA)に発生する脳動脈瘤の多くは遠位端分岐部にみられ,近位端や脳梁下部(A2)の報告は少ない14,56).Infundibular dilatation(ID)は一般に正常の解剖学的破格とされるが,稀にそれ自体からのくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)7)や脳動脈瘤の発生12)も報告されている.今回われわれは,AACAのA2部に起始するcallosomarginal artery(CMA)のIDから,短期間に2個の微小脳動脈瘤が互いに逆方向へ新生し,一方の破裂によりSAHを発症したと考えられる極めて稀な症例を経験した.文献的考察を加えて報告する.

肝細胞癌から慢性硬膜下血腫被膜への転移を生じた1例

著者: 大下純平 ,   大庭信二 ,   伊藤陽子 ,   米澤公器 ,   細貝昌弘

ページ範囲:P.905 - P.911

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍は前頭葉,小脳半球,頭頂葉,後頭葉などの脳実質に多く発生するが4),硬膜転移を来すものも約10%存在する8).硬膜転移は慢性硬膜下血腫を生じる原因となるが16),外傷により生じた慢性硬膜下血腫の被膜に転移を来した報告例は存在しない.今回われわれは,肝細胞癌治療中に生じた外傷性慢性硬膜下血腫に対して穿頭洗浄術を行った4カ月後に,慢性硬膜下血腫の被膜に肝細胞癌の転移を確認した1例を経験した.稀な病態と考えられたため,若干の文献的考察を含めて報告する.

妊娠初期に静脈洞血栓症を発症した先天性プロテインC欠損症の1例

著者: 前田悠作 ,   佐藤浩一 ,   羽星辰哉 ,   花岡真実 ,   島田健司 ,   松﨑和仁 ,   三宅一 ,   仁木均

ページ範囲:P.913 - P.918

Ⅰ.はじめに
 今回われわれは,妊娠初期に上矢状静脈洞血栓症を発症した症例を経験した.その後の血液検査で先天性プロテインC欠損症が確認され,家族歴も明らかとなった.妊娠中の先天性プロテインC欠損症に併発した脳静脈洞血栓症の報告は2例目と考えられ1),若干の文献的考察を加えて報告する.

嗅溝部から発生した巨大神経鞘腫の1手術例

著者: 藤井隆司 ,   大谷直樹 ,   土井一真 ,   美山真崇 ,   大塚陽平 ,   松本崇 ,   吉浦徹 ,   竹内誠 ,   戸村哲 ,   富山新太 ,   豊岡輝繁 ,   和田孝次郎 ,   森健太郎

ページ範囲:P.919 - P.928

Ⅰ.はじめに
 神経鞘腫は末梢神経のSchwann細胞から発生する良性腫瘍で,三叉神経や前庭神経から多く発生することが知られている.一方,嗅神経はSchwann細胞が存在しないため,通常は神経鞘腫が発生しないと言われており,嗅溝部から発生する神経鞘腫は極めて稀である.今回われわれは,嗅溝部から発生した巨大神経鞘腫に対して開頭腫瘍摘出術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

「長期観察により乏突起神経膠腫の合併を診断できた皮質下出血の1 例」の論文(45(3):233-238,2017)を拝読して

著者: 野田伸司 ,   木戸口正宗

ページ範囲:P.930 - P.931

 標記論文を拝読しました.私も,同じような経験があります.
 自験例:70歳女性,左側頭葉皮質下出血の症例.脳血管撮影では異常血管なし.開頭血腫除去術中に微小血管からの出血を認め,高血圧性脳出血と診断.半年後の頭部MRでは血腫摘出腔を認めるもその他に異常なし.さらに半年後,運動性失語を発症.血腫除去部に出現した悪性腫瘍と画像診断し,腫瘍摘出術を施行.病理検査でIDH wild,悪性神経膠腫と診断(2016年脳神経外科学会総会にてポスター発表).

連載 脳神経外科診療に役立つPETによる診断法

(3)PETの難治てんかんへの応用

著者: 白石秀明

ページ範囲:P.933 - P.942

Ⅰ.緒  言
 難治てんかん(薬剤抵抗性てんかん)とは,適切な薬物療法にもかかわらず,発作抑制が1年以上行われていない症例を指す(てんかん治療ガイドライン2010).もっとも,「難治」とは相対的な用語で,治療にあたる医療者の技術に依存するので,医学用語としては適切ではない.難治症例を治療する究極的な方法が,てんかん外科手術である.近年の神経画像技術の進歩により,上記の「難治」症例は減少しつつある.
 てんかん診断・治療において,脳波などの生理学的検査と,神経画像検査,さらに神経心理学的検査が重要な役割を担っている.てんかん診断における神経画像検査としては,magnetic resonance imaging(MRI),functional MRI(fMRI),computed tomography(CT),magnetic resonance spectroscopy(MRS),single photon emission CT(SPECT),positron emission tomography(PET),near-infrared spectroscopy(NIRS),magnetoencephalography(MEG)が挙げられる.これらの神経画像検査は,画像分解能において,それぞれ特性があると考えられる.画像分解能には,空間分解能と時間分解能があり,各種神経画像検査における空間分解能と時間分解能の相関をFig.1に示す.この相関図の中で,てんかん原性焦点を指し示す空間分解能は,MRIのほうがPETに優る.その一方で,PETは機能的な評価,MRIは解剖学的な評価に有用であり,お互いが相補的に関与し合っている.

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欧文目次

ページ範囲:P.855 - P.855

お知らせ

ページ範囲:P.895 - P.895

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.947 - P.947

次号予告

ページ範囲:P.949 - P.949

編集後記

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.950 - P.950

 本号の「扉」では高里良男先生から貴重なご意見をいただいた.医療は医学に根差したものであり,医学は世界と広くつながっていることは疑う余地がない.しかし,こうした医学のグローバル性の一方で,医療は地場産業であり,向こう三軒両隣の中で生きて・評価されるものでなければならない.その当たり前のことが「地域医療」という言葉で表現される.
 地域社会のインフラを構成する要素として,「医療」と「教育」は,最も重要なものである.もちろん,「治安」「上下水道」「電力」「交通」など空気のような必需要素もあるが,「医療」と「教育」は,その地域の住民の生存にとって,同様に必須である.しかし,これが最初に削減の対象になることも事実である.筆者の勤務する病院は,最近,日本で唯一の財政再建団体となった夕張市と連携することになったが,夕張市では,財政破綻に伴って公立病院が閉鎖され,3つあった高校は1つに統合された.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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