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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科45巻11号

2017年11月発行

雑誌目次

明るい高齢社会を!

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.953 - P.954

 本誌の読者諸氏のなかで,全国の労災病院を所管してきた独立行政法人労働者健康福祉機構(その前は,労働福祉事業団でした)について名前を聞いたことがある方は極々少数と思われますが,昨年4月よりその労働者健康福祉機構は労働安全研究所などと合併して,新たに独立行政法人労働者健康安全機構(以下,当機構)となりました.そして,先の労働者健康福祉機構は平成26年(2014年)以来,各都道府県に1カ所ずつの産業保健総合支援センター(産業医活動の支援などを行う)と小規模事業場の支援を行う地域窓口(地域産業保健センター,概ね労働基準監督署の管轄地域に一致している)も傘下においていました.これらの歴史からも明らかなように,当機構の使命は,わが国の産業,経済にとって礎となる「勤労者医療の充実,勤労者の安全向上,産業保健の強化」です.これらのことは国総体としてなら総労働力の維持ですし,国民の1人ひとりにとっての価値となれば,まずは健康に働くこと,そして高齢となっても,また病にあっても,1人ひとりのキャリアパスの充実に資することです.ここでは,当機構の仕事ぶりが,表題にいかに与るかについて論考したく思います.
 さて,各地域における「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(平成26年(2014年)6月)に伴う検討の中でも,特に地域医療構想において自らの病院が高度急性期,急性期,回復期,慢性期のどれに該当するかなどの議論が盛り上がっているようです.筆者は東京都救急医療対策協議会に組織された「地域包括ケアシステムにおける迅速・適切な救急医療に関する検討委員会」の委員長として,例えば,救急搬送となった高齢者については,生活圏内の“地域密着型病院”に収容し,その瞬間から地域に戻る準備を開始すべきなどと論じています.

研究

脳内血腫を伴ったくも膜下出血に対するコイル塞栓術の治療成績

著者: 丸山史晃 ,   入江是明 ,   結城一郎 ,   武井淳 ,   波多野敬介 ,   田中俊英 ,   長谷川譲 ,   村山雄一

ページ範囲:P.955 - P.963

Ⅰ.はじめに
 破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血に対する治療成績は,ISAT13,14)やBRAT10,16)など大規模臨床試験の結果が相次いで発表されており,長期成績において開頭クリッピング術に対するコイル塞栓術の非劣性が示されている.その一方で,脳内血腫を伴ったくも膜下出血に限定した大規模試験はこれまで報告がなく,実臨床において治療に難渋する症例は多い.脳内血腫を伴ったくも膜下出血は,くも膜下出血全体の約1/3に認められ17),一般的に発症時のWFNS gradeは悪く重症例が多い5,6).その結果,予後不良群が多く,死亡例は21〜85%にも及ぶと報告されている15).脳内血腫を伴ったくも膜下出血は,血腫を伴わない場合と比較すると動脈瘤の再破裂率が3倍であるという報告4)もあり,破裂脳動脈瘤に対してより早期に治療介入をすることが,生命予後改善に寄与する.
 治療法については一定の見解が得られておらず,従来より開頭手術による動脈瘤頚部クリッピング術と血腫除去術を一期的に行うことが一般的である4).しかしながら,術中の破裂が12.5%に生じたり7),動脈瘤処理に伴い周囲の脳血管や脳実質の損傷を来した場合は生命予後が必ずしも良好とは言えない.血腫が50mL以上で,中大脳動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血は,脳動脈瘤に対するアクセスが比較的容易であることや,脳ヘルニアを来すことが多いため,開頭クリッピング術と血腫除去術が推奨されている1).一方で,重症例や高齢者の破裂脳動脈瘤の治療は脳血管内治療が推奨されており1),脳内血腫を伴ったくも膜下出血における治療としてコイル塞栓術を優先し,引き続いて開頭血腫除去術を施行した結果,良好な治療成績が得られた報告も散見されるものの2,15),血腫除去術を行わなかった例はこれまで報告がない.
 今回われわれは,破裂脳動脈瘤による脳内血腫を伴ったくも膜下出血に対して,血腫除去術を行わず脳動脈瘤に対するコイル塞栓術のみで生命予後を改善する可能性について検討した.当科において破裂脳動脈瘤に対してコイル塞栓術を優先する方針としていた過去3年3カ月の期間に,脳内血腫を伴った破裂脳動脈瘤症例に対してコイル塞栓術で治療した治療成績をまとめたので報告する.

抗血小板薬内服中の非外傷性脳内出血症例に対する血小板輸血の有効性

著者: 杉本至健 ,   石原秀行 ,   篠山瑞也 ,   貞廣浩和 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.965 - P.970

Ⅰ.はじめに
 わが国における脳卒中死亡率は低下しているが,その原因は脳出血による死亡率の低下とされている.しかしながら,脳卒中データバンク20154)においては,脳内出血における高血圧性脳出血の割合は2000年以前〜2004年の59.7%から,2009〜2013年3月には67.6%まで段階的に増加していると報告された.その原因として人口の高齢化を挙げる報告がある一方,抗血栓療法の増加も考えられる.同データバンクでは脳出血発症前に抗血栓薬を内服していた症例は18.5%とされ,抗血栓療法中の患者群は入院時重症であり,退院時の予後も不良かつ死亡例が増加していると報告された.
 脳卒中治療ガイドライン2015の「抗血栓療法に伴う脳出血」の項では,抗凝固療法に伴う出血については,血液製剤の投与がワルファリン内服中の場合はグレードB,非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulant:NOAC)に関してはグレードC1に位置付けられている.その一方で,抗血小板療法に伴う出血に対する記載は「血小板や血液凝固系の異常を合併し出血傾向を認める症例では血小板,プロトロンビン複合体,新鮮凍結血漿などの血液製剤の投与を考慮してよい(グレードC1)」にとどまる9)
 抗血小板療法中の非外傷性脳内出血に対する濃厚血小板(platelet concentrate:PC)輸血の有効性について,これまで少数の報告がなされてきた5,8,10).2016年に報告されたランダム化比較試験(RCT)のPATCH trialでも,その有効性は否定された1).しかしながら同試験は開頭血腫除去術などの手術施行可能性のある症例については対象外となっている.当科では2014年より抗血小板薬内服中の緊急手術施行例では,全例術直前にPC投与10〜20単位,抗血小板薬内服患者の保存的加療例についてもPC投与10単位を施行している.
 そこで今回われわれは,抗血小板薬内服中の非外傷性脳内出血症例に対するPC投与の有効性について,手術症例も含めて後方視的に検討したので報告する.

症例

遅発性ジストニアに対して両側淡蒼球内節凝固術が奏効した1例

著者: 小原亘太郎 ,   平孝臣 ,   堀澤士朗 ,   花田朋子 ,   川俣貴一

ページ範囲:P.971 - P.976

Ⅰ.はじめに
 ジストニアは「持続的なまたは間欠的な筋収縮により,異常な反復運動,姿勢,またはその両方を特徴とする運動疾患」と定義され,全身のあらゆる箇所で生じ得る8).発症様式により,パーキンソン病や脳性麻痺など原疾患を伴う場合は二次性ジストニア,原因不明例は一次性ジストニアに分類される.
 遅発性ジストニアは,抗精神病薬の慢性的な使用の後に,錐体外路系の副作用として「遅発性」に発症するものであり,統合失調症患者への抗精神病薬投与後に発症することが多い二次性ジストニアの1つである.ボツリヌス毒素や抗コリン薬など一次性ジストニアと同様な治療が試みられるが,多くは治療効果に乏しく難治性とされる6).難治性の遅発性ジストニアに対して,淡蒼球内節(globus pallidus internus:GPi)への脳深部刺激術(deep brain stimulation:DBS)が顕著に奏効することが報告されており5,13-15),二次性ジストニアの中でも遅発性ジストニアはDBSへの反応性がよい疾患とされる.淡蒼球内節への凝固術(pallidotomy)は,DBSと同様にジストニアに対する治療効果が高いことが報告されているが2),遅発性ジストニアに対するpallidotomyに関する報告はほとんど行われていない.
 今回われわれは,遅発性ジストニアに対して両側pallidotomyにより術後早期から劇的な症状改善を呈した症例を経験したので報告する.

抗凝固療法中に脳出血を合併した脳静脈血栓症に対しⅩa阻害薬投与が奏効した1例

著者: 北川雄大 ,   北原哲博

ページ範囲:P.977 - P.983

Ⅰ.はじめに
 脳静脈血栓症(cerebral venous thrombosis:CVT)は多彩な神経症状で発症する.しばしば進行性に増悪し,時に重篤となり治療に難渋することも少なくない11).しかし,症状の進行を認める脳静脈血栓症の予後改善には,閉塞脳静脈の早期再開通が求められ,迅速な対応が必要とされる.今回われわれは,未分画ヘパリン増量中に症状の増悪を認め,脳内出血を合併した脳静脈血栓症に対し,Ⅹa阻害薬であるアピキサバンの投与により,脳内出血の拡大を認めることなく閉塞脳静脈の早期再開通が得られ,良好な転帰を得た症例を経験したため,ここに報告する.

AIDS発症に関連した頭蓋内悪性リンパ腫の1手術例

著者: 井中康史 ,   大谷直樹 ,   西田翔 ,   藤井和也 ,   上野英明 ,   戸村哲 ,   富山新太 ,   長田秀夫 ,   和田孝次郎 ,   前田卓哉 ,   森健太郎

ページ範囲:P.985 - P.990

Ⅰ.はじめに
 本邦では,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染者数は増加していると報告されており,今後,HIV感染者に対して手術を行う機会も増加すると考えられる.頭蓋内悪性リンパ腫は,HIV感染による後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)における合併症の中でも特に予後不良で治療は困難を極め,2年死亡率は84%を超えるとの報告もある1,11).今回われわれは,AIDSに関連した原発性中枢神経系悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)の手術症例を経験したので,医療従事者側の感染を防ぐための術中予防対策を含めて報告する.

くも膜下出血を繰り返した多発性動脈硬化性紡錘状脳動脈瘤の1例

著者: 大塩恒太郎 ,   池田哲也 ,   松森隆史 ,   和久井大輔 ,   伊藤英道 ,   高砂浩史 ,   田中雄一郎

ページ範囲:P.991 - P.996

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤は外観の形態により囊状と紡錘状に分けられるが,後者の頻度は3〜13%と推定されている1).瘤破裂は囊状動脈瘤が大多数で,紡錘状動脈瘤の破裂もあるが多くは解離性動脈瘤であり,非解離性紡錘状動脈瘤の疫学は必ずしも明確ではない.紡錘状脳動脈瘤,特に動脈硬化性動脈瘤はその自然歴や治療適用に不明な点が多い.今回われわれは,初回治療の9年後に再破裂した非解離性紡錘状動脈瘤に対し,母血管閉塞に血行再建術を併用した症例を経験したので報告する.

連載 教訓的症例に学ぶシリーズ

初回治療で右椎骨動静脈瘻を来し,左椎骨動脈経由でステント併用コイル塞栓術を行った破裂脳底動脈-前下小脳動脈瘤の1例

著者: 佐藤慎祐 ,   足立秀光 ,   今村博敏 ,   坂井信幸 ,   谷正一 ,   鳴海治 ,   坂井千秋 ,   有村公一 ,   森本貴昭 ,   柴田帝式 ,   阿河祐二 ,   清水寛平 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.997 - P.1002

Ⅰ.経験症例
 〈患 者〉 73歳 女性
 主 訴 意識障害

Thin-slab MIP法による術前診断が有用であった後下小脳動脈末梢部に発生した多発性脳動脈瘤の1例

著者: 出口誠 ,   西崎隆文 ,   池田典生 ,   中野茂樹 ,   岡村知實 ,   田中康恵 ,   藤井奈津美 ,   大野真知子 ,   島袋太一

ページ範囲:P.1003 - P.1009

Ⅰ.経験症例
 〈患 者〉 81歳 女性
 主 訴 頭痛

穿頭術前にCreutzfeldt-Jakob病の合併が判明した慢性硬膜下血腫患者の1例

著者: 藤岡裕士 ,   副島慶輝 ,   泉原昭文 ,   山下勝弘

ページ範囲:P.1011 - P.1014

Ⅰ.経験症例
 慢性硬膜下血腫の診断にて入院した患者が,穿頭術前にCreutzfeldt-Jakob病(以下,CJD)を合併していることが判明した症例を経験した.脳神経外科診療における教訓的な症例と考えられたため報告する.
 〈患 者〉 80歳 女性

脳神経外科診療に役立つPETによる診断法

(4)PETの脳腫瘍への応用

著者: 山口秀

ページ範囲:P.1015 - P.1024

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍の診断や治療において,magnetic resonance imaging(MRI)を中心とした形態学的画像が重要であることは言うまでもないが,近年positron emission tomography(PET)検査を中心とした代謝情報の有用性も認識されている.しかしながら,腫瘍に対するPET検査が依然として18F-fluorodeoxyglucose(FDG)のみしか保険で認められていないため,FDGが生理的に集積してしまう脳実質内に存在する脳腫瘍に対しては,一般的な検査としては認識されていないことも事実である.本稿では,FDGのみではなく,現在臨床の現場で実際に使用されているPET核種を紹介するとともに,その有用性に関して,特に11C-methionine(MET)を中心に述べる.

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欧文目次

ページ範囲:P.951 - P.951

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.963 - P.963

お知らせ

ページ範囲:P.970 - P.970

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1031 - P.1031

次号予告

ページ範囲:P.1033 - P.1033

編集後記

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.1034 - P.1034

 今月の「扉」には有賀 徹先生から「明るい高齢社会を!」をいただいた.有賀先生は全国の労災病院などを所管している労働者健康安全機構の理事長として,増加の一途をたどる高齢患者に対する「水平連携に準じた垂直連携」を,急性期医療の大きなテーマに採りあげられている.在宅患者の日常的な治療上の連携が「水平連携」,急変時の救急搬送が「垂直連携」であるが,高齢者の繰り返す肺炎などの場合,地域密着型病院に救急搬送していくことが「水平連携に準じた垂直連携」に相当し,超高齢社会における救急医療の主体になっていくべきであると説いていらっしゃる.地域医療構想の中で,各病院は,高度急性期,急性期,回復期,慢性期のベッドの割り振りについて,将来を見越した検討に余念がないと思われるが,高齢者に対する救急体制についても地域ごとに水平連携・垂直連携の運用を十分検討することが必要だとの認識を共有していきたい.
 今月号には研究2論文,症例報告4論文,教訓的症例に学ぶシリーズ3論文,および連載,と興味深い論文が並んでいる.秋の夜長に精読いただければ幸いである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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