icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科45巻2号

2017年02月発行

雑誌目次

たまにはスポーツ医学もいかがですか?

著者: 谷諭

ページ範囲:P.101 - P.102

 私が卒業後すぐに入局した東京慈恵会医科大学の脳神経外科学教室には,当時,中村紀夫教授,関野宏明助教授,そして坂井春男先生がおられ,サルの外傷実験が盛んに行われていました.新人である私たちは,実験で頭を揺さぶられた直後のサルのバイタルを必死にとることが仕事であった記憶があります.卒業したての新人にとっては,「頭部外傷って,被ってしまったら終わりだなー」と,インプリンティングされた感がありました.その後はというと,私自身は卒後3年目に派遣された都立神経病院での経験が,慈恵の伝統芸とは異なる脊椎脊髄外科への道を歩むきっかけとなった感があります.それ以来,マイノリティーではありますが,もう33年も地道にその道を歩んでいます.
 そのような中で,東京ドームの隣にある後楽園ホールで行われるプロボクシングの試合のリングサイドドクターとして医局の行事さながらに派遣され,砂かぶりのようなリングの脇に座る仕事も多くありました.選手の汗と鼻血を浴び,そして,リングサイドの喧騒の中で,「なぜ,ボクサーはパンチでノックダウンするのだろう?パンチを受けた瞬間の頭の中はどうなっているんだろう?」という極めて原始的な疑問がふつふつと湧いてきました.そんな疑問を少しでも解決したいと思い,また,その一部がわかれば,予防医学の観点からもスポーツ現場での悲惨な事故を減らせるのでは?そして,そのほうが外傷の治療学の進歩より早く社会的に結果が出るのでは?と厚かましくも思いました.

総説

発生・解剖・遺伝からみた脳血管病変

著者: 小宮山雅樹

ページ範囲:P.103 - P.115

Ⅰ.はじめに
 脳血管病変は,頚部血管を含めた脳血管の異常であり,種々の原因による正常な脳血管の解剖学的構築や生理的な状態からの逸脱と考えられる.脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)を代表とする先天性疾患では,「生下時に病変がある=生まれつき」,つまり,病変の形成は出生前であると考えがちである.この発想の裏には,「出生までにすべての血管の発生過程は終了し,その異常は出生時のまま成人まで維持される」という考えがある.しかし,原因遺伝子の変異に起因することが判明している疾患であっても,出生後に病変が形成されることも多く,出生を境に先天性疾患と後天性疾患を区別することは正しくなく,病因の理解を困難にする17)
 本稿では,発生・解剖・遺伝学的視点から,受精,出生,成熟,老化という時系列の中で種々の脳血管病変を概観することを試みた.このような視点は,血管病変の病因・病態を考える上で重要であり,多くの示唆を与えてくれる.脳血管の発生や個々の疾患の記載は誌面の関係で十分ではなく,参考文献を参照してほしい.

研究

第Ⅷ神経血管圧迫症の診断に寄せて—臨床的特徴のスコア評価

著者: 岡村知實 ,   西崎隆文 ,   池田典生 ,   中野茂樹 ,   坂倉孝紀 ,   藤井奈津美 ,   奥田剛

ページ範囲:P.117 - P.125

Ⅰ.はじめに
 めまい,耳鳴を主訴とする第Ⅷ神経血管圧迫症(cochleovestibular neurovascular compression syndrome:CNVC)は,日常診療において稀な疾患ではない.めまいを主訴とする例については,Jannettaら6)によりdisabling positional vertigo(無力性頭位性めまい)という疾患単位として報告されている.その後,複数の手術療法の断片的報告1,3,4,7,10,12-18,23)があるが,その診断基準は確立していない.神経血管圧迫に由来するという意味では,三叉神経痛や片側顔面痙攣は,このCNVCの近縁疾患とも言える.それらの根治的治療法として,神経血管減圧術が普及しているが,CNVCに対する神経血管減圧術は普及していない.松島ら11)は,CNVCに対する神経血管減圧術が普及していない理由として,手術の適応基準が不明瞭で,診断基準が確立していないことを挙げている.今回われわれは,50例(53側)のCNVC,めまいや耳鳴を呈したCNVCの近縁疾患の11例(12側)の後ろ向き検討により,CNVCの診断基準をまとめたので報告し,その妥当性を含めて考察する.

透析患者の頚部内頚動脈狭窄症に対する内頚動脈内膜剝離術(CEA)の治療戦略と治療成績

著者: 村橋威夫 ,   上山憲司 ,   大里俊明 ,   渡部寿一 ,   荻野達也 ,   杉尾啓徳 ,   遠藤英樹 ,   高平一樹 ,   進藤孝一郎 ,   高橋州平 ,   中村博彦

ページ範囲:P.127 - P.132

Ⅰ.はじめに
 現在,わが国の慢性透析患者数は30万人を超えている.長期に透析療法を受けている患者は,高血圧症,2型糖尿病などの基礎疾患を有することが多く,動脈閉塞性病変を合併しやすい10,11).また,透析患者は,非透析患者に比べ動脈硬化性病変を合併することが多いとされている14).脳梗塞の原因となる頚部内頚動脈狭窄症の合併も稀ではない.しかしその治療に関しては,易出血性,組織脆弱性,不均衡症候群,透析中の創部出血など,術中,周術期のリスクが高いと言われている.透析患者に対する頚部内頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)の報告は少ない.今回われわれは,当院における透析患者の頚部内頚動脈狭窄症に対するCEAの治療戦略ならびに治療成績について,文献的考察を加え報告する.

症例

バクロフェン耐性に対するFLEX modeを用いたボーラス投与(bolus infusion mode)の有用性

著者: 田中寿知

ページ範囲:P.133 - P.137

Ⅰ.はじめに
 バクロフェン髄腔内投与療法(intrathecal baclofen therapy:ITB療法)は痙縮に対する有効な治療法の1つである7)
 その利点は,①スクリーニング検査が可能,②システム抜去またはポンプ停止で元の状態に戻せる可逆性,③全身性の抗痙縮効果,④投薬量の調節性,⑤抗痙縮効果の持続性,⑥投薬方法,カテーテル留置位置,他の抗痙縮治療とのコンビネーションなどの発展性である.
 成人の場合,スクリーニングで0.005%のバクロフェン50μgを髄腔内にボーラス投与し,抗痙縮効果があれば0.05%バクロフェン50μg/dayを均等に投薬する単純連続モード(simple continuous mode:SC)でITB療法を開始するのが一般的である.
 しかし,ITB維持療法中に効果が減弱し,急激な投薬量増量が必要になる症例を経験することがある.一般に,同等の抗痙縮効果を得るために投薬量が1年間で100μg/day以上の増量を認めたものが,バクロフェン耐性と定義されている5,11).耐性を示す場合には,バクロフェンのボーラス投与を用いたpulsatile bolus infusionが有効であると報告されている5,6,12)
 今回当院でITB療法を行う中でバクロフェン耐性と診断し,その対処としてFLEX mode(bolus infusion mode)を用いてpulsatile bolus infusionを行った4例(Table1)を経験したので,その経過と効果について報告する.

脳梗塞を発症して短期間に脳内出血とくも膜下出血を続発した成人もやもや病の1例

著者: 吉田純 ,   久保慶高 ,   吉田研二 ,   千田光平 ,   小林正和 ,   小笠原邦昭

ページ範囲:P.139 - P.146

Ⅰ.はじめに
 もやもや病の病態は両側内頚動脈終末部に生じる慢性進行性の狭窄であり,側副路として脳底部に異常血管網(もやもや血管)が形成され,その進行の過程で脳梗塞や頭蓋内出血を発症することはよく知られている.特に脳梗塞と頭蓋内出血を短期間に併発する症例に遭遇した場合,病態の解釈や治療の選択に苦慮する.成人もやもや病において,頭蓋内出血を発症してから短期間に脳梗塞を併発した症例は少なからず報告されている3,10,12,14,15).その病態としては,すでに脳血流が低灌流状態で脳血管予備能が低くなっているところに,出血による頭蓋内圧の変化,脱水,低血圧,血管攣縮,低炭酸ガス血症などが生じ,もやもや血管の側副血行路の流量低下を来すと考えられている15).一方,脳梗塞発症後に頭蓋内出血を来した成人もやもや病の症例は稀と考えられ,われわれが渉猟し得た範囲では1報告のみである1).今回われわれは,脳梗塞発症後に脳内出血とくも膜下出血を短期間に続発した成人もやもや病の1例を経験したので,若干の考察とともに報告する.

乳児atypical teratoid/rhabdoid tumorに対する放射線治療および分子生物学的分類と予後との関連について

著者: 大谷理浩 ,   市川智継 ,   黒住和彦 ,   安原隆雄 ,   鷲尾佳奈 ,   嶋田明 ,   片山敬久 ,   勝井邦彰 ,   柳井広之 ,   伊達勲

ページ範囲:P.147 - P.154

Ⅰ.はじめに
 Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)は,1995年にRorkeらにより提唱され,WHO2000に新しい腫瘍概念として採用された胎児性腫瘍である12).希少な腫瘍のため定まった治療方針はなく,手術や化学療法を行った場合でも3年生存率は約10%と非常に予後不良な疾患である17).これまで3歳未満の患児では放射線治療は行っていない報告が主であったが,生命予後が極めて不良であったため,近年では3歳未満でも放射線治療を行った報告が散見される.今回われわれは,当院で治療を行った乳児AT/RTの4例について,放射線治療の有無および近年報告されている分子生物学的所見に基づく分類について,予後との関連を検討した.

救命救急センター初療室における緊急減圧開頭術が奏功した重症急性硬膜下血腫の2例

著者: 塩見直人 ,   越後整 ,   岡英輝 ,   野澤正寛 ,   岡田美知子 ,   平泉志保 ,   加藤文崇 ,   小関宏和 ,   橋本洋一 ,   日野明彦

ページ範囲:P.155 - P.160

Ⅰ.はじめに
 重症頭部外傷の中で急性硬膜下血腫(acute subdural hematoma:ASDH)の転帰はいまだ不良であり,特にGlasgow Coma Scale(GCS)3,4の治療成績は非常に悪いのが現状である5,7,10,21).手術は大開頭による血腫除去が推奨されているが15),手術室の準備までに時間を要する場合などは,開頭術に先行して救命救急センター初療室(以下,初療室)で穿頭を行うこともある3,14,18).手術時期は可及的速やかに行うことが勧められており15),受傷から手術までの時間が転帰に影響を及ぼすという報告がある12,17)
 われわれはこれまで,重症の頭蓋内病変は早期の減圧が救命および転帰向上の鍵を握ると考え,初療室における緊急減圧術の有効性について報告してきた19,20).今回,初療室において緊急減圧開頭術(開頭血腫除去術および外減圧術)を施行し,良好な転帰を得た2例のASDHを経験した.いずれも受傷から約100分で手術が開始できており,初療室における緊急減圧開頭術が有効であったと考えられるため,若干の考察を加え報告する.

妊娠後期にmass effectで発症したリンパ球性下垂体前葉炎の1例

著者: 矢尾板亮 ,   伊藤美以子 ,   松田憲一朗 ,   小久保安昭 ,   佐藤慎哉 ,   園田順彦

ページ範囲:P.161 - P.165

Ⅰ.はじめに
 リンパ球性下垂体炎は1962年にGoudieらによって初めて報告された疾患で4),自己免疫による発症機序が考えられている.初期からadrenocorticotropic hormone(ACTH)分泌不全症状を呈するのが典型的であるが5,6),今回,妊娠中に視力視野障害で発症したリンパ球性下垂体前葉炎の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

びまん性上衣下転移を来した肺small cell carcinomaの極めて稀な1症例

著者: 川原一郎 ,   藤本隆史 ,   大園恵介 ,   広瀬誠 ,   豊田啓介 ,   北川直毅 ,   池田徹 ,   内橋和芳

ページ範囲:P.167 - P.174

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍の原発巣は肺癌が最も多く,発生部位としては前頭葉,小脳,頭頂葉など,一般的には脳実質内がほとんどであり脳室内への転移は比較的稀である1).脳室内転移における原疾患としては癌腫,悪性リンパ腫,メラノーマなどの報告があるが,最も多いのは腎細胞癌からの転移であると言われている2-5,7,9,11,12)
 今回われわれは,びまん性に全脳室壁に転移を来した肺small cell carcinomaの極めて稀な症例を経験したので,文献的な考察を加え報告する.

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

(4)錐体斜台部腫瘍に対する経錐体到達法

著者: 後藤剛夫

ページ範囲:P.175 - P.186

Ⅰ.はじめに
 錐体斜台部腫瘍は脳幹腹側に存在し,脳神経,脳血管と近接しているため,最も手術切除が困難な腫瘍の1つである.しかし近年では,頭蓋底外科手術手技の進歩,特に経錐体到達法の普及により,安全かつ可及的な切除が可能となっている.また,3Dシミュレーション画像作成および術前腫瘍塞栓術などの発展により,さらに安全な腫瘍切除が可能となっている.本稿では,われわれが行っている術前画像評価および術前腫瘍塞栓術などを含めた総合的手術戦略について,症例を提示しながら解説する.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.99 - P.99

お知らせ

ページ範囲:P.132 - P.132

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.174 - P.174

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.191 - P.191

次号予告

ページ範囲:P.193 - P.193

編集後記

著者: 冨永悌二

ページ範囲:P.194 - P.194

 本号の「扉」には,東京慈恵会医科大学の谷諭教授から,スポーツ医学について寄稿いただきました.スポーツにおける頭部外傷に関して,昨今「脳振盪」が大きくクローズアップされておりましたが,現在ではさらに慢性外傷性脳症の病態解明と予防が最重要課題であるとのこと.東京オリンピックを迎えるにあたり,もっと脳神経外科医がスポーツ外傷に関心をもって,社会的発信を行ってもよいのでは,と提言されています.総説には,大阪市立総合医療センターの小宮山雅樹先生の「発生・解剖・遺伝からみた脳血管病変」が掲載されています.まず脳血管の部位別発生を概観し,血管病変を構築と構成要素の観点から記述し,さらに発生・遺伝に関連する各脳血管疾患の概略が述べられています.大変教育的で,発生に関しては専門的な内容ですが,これらを理解しない限り血管奇形や血管性腫瘍の本質的理解には至らないものと再認識させられます.連載の「脳腫瘍の手術のための術前・術中支援」では,大阪市立大学の後藤剛夫先生が,脳幹部海綿状血管腫と斜台部髄膜腫に対する経錐体到達法について,きれいなシミュレーション画像と術中写真を付して,症例を提示しながら簡潔にまとめられています.また,臨床研究が2編,「第Ⅷ神経血管圧迫症の診断に寄せて—臨床的特徴のスコア評価—」と「透析患者の頚部内頚動脈狭窄症に対する内頚動脈内膜剝離術(CEA)の治療戦略と治療成績」が掲載されています.いずれも日頃の診療で遭遇する疾患や手術であり,実臨床に役立つ内容です.特に第Ⅷ神経血管圧迫症に対する微小血管減圧術は,未だ一般的に普及しているわけではありませんが,その原因が診断の難しさにあることからスコア評価を試みた報告です.実際術後にめまい,耳鳴,難聴が改善する患者も多く,脳神経外科手術の“販路”拡大のためにも,今後さらなる研究の進捗を期待します.そのほかに6編の症例報告も掲載されています.
 旧年は,英国のEU離脱,トランプ米国大統領の選出など,何かと話題の多い1年でした.本年の社会情勢がどのようになるのか不透明です.ご多忙の中,本号にご寄稿いただいた先生方に深謝申し上げますとともに,ご発展を祈念いたします.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?