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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科45巻6号

2017年06月発行

雑誌目次

小さな薬を巡って

著者: 糟谷英俊

ページ範囲:P.477 - P.478

 私が3年間の北米留学から戻ったのは1993年,36歳の時であった.当時,東京女子医科大学の日本心臓血圧研究所の地下の実験室では,氏家弘先生が中心となって,製薬会社と協力してpapaverineの徐放製剤の研究を行っていた.イヌ脳血管攣縮モデルで,腰椎から髄腔内に薬剤を挿入していた.私は留学中にサルの開頭モデルに携わってきたこともあり,薬剤がより到達しやすい開頭モデルで行うことを提案した.そして,手術用顕微鏡をみつけ,microsurgeryの道具をかき集め,研究を始めることとなった.髙倉公朋教授の理解を得て,研究はとんとん拍子に進んだ.しかし,有効な量を人に換算すると現実的ではない.そこでほかの薬剤を試した.鉄のキレート剤であるdeferoxamineは,イヌがけいれん発作を起こしていたたまれなかった.実際にヒトでも使われていたnicardipineに着目し,2つのイヌ脳血管攣縮モデルで有効性を証明することに成功した.
 この結果を得意になって学会で発表していたが,このことが薬剤の製品化の命取りとなることが後で判明する.1997年にシドニーで行われた第6回国際スパズム会議にも出席し実験結果を報告した.その学会のディナーで私の隣にたまたま座ったのが,その後長い付き合いとなるThomé先生(現インスブルック大学教授)であった.

解剖を中心とした脳神経手術手技

内視鏡によるkeyhole transcranial approachのバリエーション

著者: 渡邉督

ページ範囲:P.479 - P.491

Ⅰ.はじめに
 内視鏡手術技術,器具の発達に伴い,脳神経外科領域においては経鼻手術をはじめさまざまな術式が開発され普及しつつある.その最大の特徴は,小さな入り口から入り,広い視野を観察できる点である.一方,顕微鏡下の低侵襲keyhole手術のコンセプトが導入され,supraorbital approachをはじめ,必要最小限の皮膚切開,開頭からアプローチする方法が普及した8).この考えに内視鏡の要素を合わせると,限られた入り口からより広い範囲の手術野を得られることになる.斜視鏡の使用で顕微鏡では見えない領域の操作が可能になり,こうした取り組みも報告されている1-4,9).自在に正確な固定ができるホルダーの使用と,近年登場したexoscopeを応用し,endoscopeと組み合わせることにより顕微鏡手術,内視鏡手術両方の要素をもった手術がシームレスに可能になる.また,われわれはこのアプローチを内視鏡下経鼻手術と同時に行う取り組みも行っている6)
 本稿では,脳実質内腫瘍,脳室内腫瘍を除く,頭蓋内脳実質外腫瘍に対する内視鏡単独手術を中心に,さまざまな内視鏡下keyholeアプローチについてまとめた.

研究

腰椎変性疾患における下部尿路機能障害の評価方法としての残尿量測定再現性の検討

著者: 大竹安史 ,   花北順哉 ,   高橋敏行 ,   南学 ,   渡邊水樹 ,   倉石慶太 ,   中村博彦 ,   上野学 ,   河岡大悟

ページ範囲:P.493 - P.501

Ⅰ.はじめに
 われわれは過去に,腰椎変性疾患・頚椎変性疾患における下部尿路症状に関して,国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)の有用性を報告してきた26,27).しかし,泌尿器科領域では自覚症状である下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)と,客観的パラメーターで評価可能である下部尿路機能障害(lower urinary tract disorder:LUTD)を分けて考えるのが一般的で,この両者は必ずしも一致しないとされている17)
 当センターでは,2010年1月より手術適応の脊椎変性疾患患者に対し,LUTDの評価として経腹部エコーによる排尿直後の残尿量測定を術前後に行い,知見を蓄積してきている.この評価方法の利点は非侵襲的であることに加え,特殊な器具や技能を用いないため,多くの施設で施行可能な点にある.しかし,検査精度1)や再現性の問題2,17),さらには異常残尿量の定義が各種ガイドライン15-17)によって異なるなど問題点も多く,解釈には注意を要する検査でもある.
 本研究は,腰椎疾患領域で残尿量測定を用いた際の再現性を検証し,単回測定での信頼性,残尿量測定の妥当性に関して検討した.

症例

椎骨動脈の転位が有用であった舌咽神経痛と顔面痙攣との併発例

著者: 藤井隆司 ,   大谷直樹 ,   大塚陽平 ,   松本崇 ,   田之上俊介 ,   上野英明 ,   戸村哲 ,   富山新太 ,   豊岡輝繁 ,   和田孝次郎 ,   森健太郎

ページ範囲:P.503 - P.508

Ⅰ.はじめに
 舌咽神経痛は比較的稀な疾患であり,三叉神経痛との合併例はいくつか報告されているが9,11,22),顔面痙攣との併発例は極めて稀である.今回われわれは症状や画像所見,またリドカインテストの結果から椎骨動脈(vertebral artery:VA)を責任血管とする舌咽神経痛と診断し,VAのtranspositionによる微小血管減圧術(microvascular decompression:MVD)を施行後,速やかに症状の消失が得られた1手術例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

ベバシズマブ投与後に局在の異なるDWI高信号病変を呈した悪性神経膠腫の1例

著者: 大城真也 ,   湧田尚樹 ,   河井伸一 ,   三木浩一 ,   重森裕

ページ範囲:P.509 - P.517

Ⅰ.はじめに
 悪性神経膠腫においては,テモゾロミドを併用した標準的な放射線化学療法に加えて,ベバシズマブやカルムスチンといった新しい薬剤が使用される機会が増えてきている8,9,14).このような抗腫瘍治療の進歩に伴い,治療後の画像変化も複雑化してきており,治療効果を含めた画像変化の特徴やその臨床的意義を詳細に判断しなければならない診療体制へと変わりつつある5,6).今回われわれは,悪性神経膠腫に対するベバシズマブ投与3カ月後から,前頭葉と側頭葉の浸潤領域内で,拡散強調画像(diffusion-weighted imaging:DWI)にて局在の異なる孤立性の高信号病変が出現したが,同じ病巣内にもかかわらず前頭葉と側頭葉病変では異なる臨床転帰を示した.経過中に出現したDWI高信号病変の臨床的意義を中心に報告する.

開頭血腫術後,開頭部位から離れた箇所に発生した前頭蓋窩部硬膜動静脈瘻の1症例

著者: 川原一郎 ,   藤本隆史 ,   広瀬誠 ,   豊田啓介 ,   北川直毅

ページ範囲:P.519 - P.526

Ⅰ.はじめに
 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)は比較的稀な病態であり,その成因に関しては不明な点も多い.先天性と後天性の2つに分類されるが,その多くは後天性と考えられており,静脈洞血栓症,外傷,感染症,術後など二次性に続発するものが報告されている10,12,16,21)
 今回われわれは,脳内出血に対する開頭血腫術後に開頭部位とは離れた箇所に発生した無症候性のdAVFの症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

両側外傷性内頚動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 寺島華江 ,   比嘉隆 ,   加藤宏一 ,   富永禎弼 ,   中川将徳 ,   門山茂 ,   氏家弘 ,   寺本明

ページ範囲:P.527 - P.532

Ⅰ.はじめに
 外傷性内頚動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)は,鈍的あるいは穿通性の頭部外傷により内頚動脈が海綿静脈洞部で破綻することにより生ずる.外傷性CCFは,硬膜動静脈瘻とは異なり,硬膜を介することなく直接動静脈シャントを形成するためシャント血流量は多く,動静脈シャントによる静脈圧上昇と頭蓋内虚血による種々の症状を呈し,外傷直後に発症することが多く自然治癒は稀である4,11).今回われわれは,外傷5カ月後に脳内出血で発症した外傷性CCFを,血管内治療と開頭術によって治療した症例を経験したので報告する.

もやもや病を合併したSAPHO(Synovitis-Acne-Pustulosis-Hyperostosis-Osteomyelitis)症候群の1例

著者: 堀江信貴 ,   馬場麻悠子 ,   河田賢 ,   松永裕希 ,   定方英作 ,   諸藤陽一 ,   出雲剛 ,   森川実 ,   案田岳夫 ,   松尾孝之

ページ範囲:P.533 - P.539

Ⅰ.はじめに
 SAPHO(Synovitis-Acne-Pustulosis-Hyperostosis-Osteomyelitis)症候群は1987年にフランスのChamotらにより提唱された無菌性の骨関節症状に掌蹠膿胞症などの皮膚症状を伴う原因不明の疾患群であり,Synovitis(滑膜炎),Acne(挫瘡),Pustulosis(膿疱症),Hyperostosis(骨化過剰症),Osteitis(骨炎)を呈する5).本症候群はクローン病,潰瘍性大腸炎,ベーチェット病といった炎症性腸疾患,自己免疫疾患との合併報告が多く,自己抗体の関連についても研究が進められている9).今回われわれは,SAPHO症候群に合併したもやもや病の1例を経験したので,発症メカニズムについて文献的考察を加えて報告する.

多発性に脳出血を繰り返した転移性脳腫瘍の1例

著者: 林健太郎 ,   林之茂 ,   松尾義孝 ,   白川靖 ,   上之郷眞木雄

ページ範囲:P.541 - P.547

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍は稀に脳出血で発症することがある2,3).今回われわれは,多発性に脳出血を繰り返して緩徐に血腫が増大した症例を経験した.開頭術を施行し,転移性脳腫瘍の病理診断をもとに放射線治療を施行した.症例を提示し,転移性脳腫瘍からの多発性の出血や血腫の増大について文献的考察を加える.

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

(8)大脳深部髄内腫瘍に対する開頭術,内視鏡手術

著者: 荒川芳輝

ページ範囲:P.549 - P.562

Ⅰ.はじめに
 大脳深部髄内腫瘍は,手術到達が容易でないこと,重要構造物に近接することから,手術リスクの高い領域である.正確な病変切除と合併症回避の目的を達成するには,各種診断画像と脳機能画像などの術前検査,病変の3次元的理解と手術プランニング,電気生理学的モニタリング,ナビゲーション,術中診断画像などの術中支援が必要となる.内視鏡手術は,病変に接近して広い視野角と深い観察深度を有し,筒状アプローチ経路であることから,大脳深部髄内腫瘍において有用な手技である.現時点では,脳腫瘍に対する内視鏡手術は,①内視鏡下経蝶形骨洞手術(endoscopic transsphenoidal surgery),②内視鏡下頭蓋底手術(endoscopic skull base surgery),③内視鏡下ポート手術(endoscopic port surgery)として発展している.大脳深部髄内腫瘍に対する内視鏡下ポート手術は,機器と技術が発展途上であり課題もあるが,成熟が見込まれる手術法である.そこで,本稿では,大脳深部髄内腫瘍に対する開頭術と内視鏡手術について,術前検査から手術プランニング,術中支援,基本的な手技を要説し,代表的な症例を提示して実際の手術手技について解説する.

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欧文目次

ページ範囲:P.475 - P.475

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.526 - P.526

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.567 - P.567

次号予告

ページ範囲:P.569 - P.569

編集後記

著者: 村山雄一

ページ範囲:P.570 - P.570

 本号の「扉」では,東京女子医科大学の糟谷英俊先生から「小さな薬を巡って」というテーマで,ご自身の創薬の道のりを紹介いただきました.脳血管攣縮という,未だ完全にはメカニズムが解明されておらず,治療法が確立されたとは言えない,くも膜下出血後の重要な合併症に対するご自身の挑戦の歴史です.その道のりにおいては,知的財産戦略の失敗や当時の行政や企業の壁を経験され,おそらくは絶望感との闘いであったと拝察いたします.最近では国,行政のデバイスラグ・ドラックラグの改善や医療機器開発に向けた取り組みも活発化し,PMDAも以前とは比べ物にならないほど研究者,企業とも協力して国産医療機器の開発や創薬を推進する体制が整いつつあります.それでも研究の多くは動物実験で有効性が証明され,臨床のパイロットstudyで良好な結果が得られても,randomized studyでは期待された結果が得られないことがほとんどです.そうした挫折を繰り返しても,信念を持ってチャレンジをし続けることでしか,成功の女神は微笑まないのでしょう.しかし,チャレンジできる研究者は幸せだと思います.多くの人がチャレンジする研究対象自体がなかったり,チャレンジする前に諦めるのですから.信念を持って真摯に取り組んでいる姿勢は世界で誰かがみていること,諦めないことの大切さを教えていただきました.
 また,本号では,研究論文として「腰椎変性疾患における下部尿路機能障害の評価方法としての残尿量測定再現性の検討」と題した大竹安史先生の論文をはじめ,臨床に役立つ症例報告が多く掲載されています.連載の「解剖を中心とした脳神経手術手技」では「内視鏡によるkeyhole transcranial approachのバリエーション」と題して渡邉督先生に,「脳腫瘍の手術のための術前・術中支援」では「大脳深部髄内腫瘍に対する開頭術,内視鏡手術」と題して荒川芳輝先生にご寄稿いただきました.ぜひご一読ください.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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