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連載 教訓的症例に学ぶシリーズ
真の出血源を確定する重要性—出血源と疑った左椎骨動脈-後下小脳動脈瘤の開頭クリッピング術中に,異なる出血源が判明したくも膜下出血の1例
著者: 酒井優1 大宅宗一1 松居徹1
所属機関: 1埼玉医科大学総合医療センター脳神経外科
ページ範囲:P.637 - P.640
文献購入ページに移動特記すべき既往のない45歳女性.買い物中に突然の頭痛と嘔吐を発症し,当院へ救急搬送された.来院時の意識レベルはJCS Ⅰ-1,GCS E4V4M6,そのほかの神経学的脱落症状は認められなかった.頭部CTにて左小脳延髄槽(cerebellomedullary cistern)に限局した高吸収域を認め(Fig.1A-C),Hunt & Kosnik Grade 2,WFNS Grade 2のくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)と診断された.血管造影検査にて,血腫の分布と一致した左椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部(vertebral artery-posterior inferior cerebellar artery:VA-PICA)に径2mmの動脈瘤を認めた(Fig.1D).CT上の血腫の分布が動脈瘤周囲に限局されていることから,本VA-PICA動脈瘤が出血源であると考え,発症2日目に左後頭下開頭transcondylar fossa approachにて動脈瘤頚部クリッピング術を施行した.術中所見では,左VA-PICA動脈瘤は確かに厚い血腫内に存在していたが,血腫は動脈瘤壁と癒着しておらず,また動脈瘤全周にわたり瘤壁が破綻した所見もみられず,未破裂脳動脈瘤であった(Fig.1E).そこで同動脈瘤をクリップにて閉鎖した後,後頭蓋窩の血腫を徹底的に除去しながらそのほかの出血源がないかを検索したところ,Meckel腔下方の錐体骨硬膜に壁の薄い小さな静脈瘤(Fig.1F)を認め,血腫との癒着が認められた.静脈瘤からは拡張した硬膜内の静脈が海綿静脈洞方向へと流出していた.Indocyanine green(ICG)血管造影を行うと,この静脈瘤は通常の静脈相よりも早期に描出され(Fig.1G),硬膜内にarteriovenous(AV)shuntとdraining veinを有する硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)を疑う所見であり,亢進した硬膜内静脈圧の影響で硬膜表面に静脈瘤を生じ,これが出血してcerebellomedullary cisternに限局したSAHを呈したと考えられた.術中に静脈瘤と近傍の硬膜を広く凝固し(Fig.1H),ICGでAV shuntの消失を確認した.
術後にもう一度術前の血管造影検査を見直したが,やはり明らかなAV shuntそのものを錐体骨部に指摘することはできなかった.しかし左上眼静脈の拡張が認められた(Fig.2A).術後はこの上眼静脈拡張の消失が確認されたため(Fig.2B),petrous dAVFからの海綿静脈洞への逆流と静脈圧の亢進が生じていたものと推察された.またVA-PICA動脈瘤も消失した.術後経過は良好であり,神経学的異常もなく発症13日目に独歩にて自宅退院となった.
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