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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科45巻9号

2017年09月発行

雑誌目次

寧静致遠

著者: 黒﨑雅道

ページ範囲:P.757 - P.758

 昨年7月1日に教授を拝命し,もうそろそろ1年になるが,この1年間で当初の計画をどのくらい達成することができたのだろうか,と反省の毎日である.教授就任祝いにと,広島東洋カープの九里亜蓮(くり・あれん)投手の伯父(大学の同級生)からチケットを2枚もらい,昨年の8月6日にマツダスタジアムで広島対巨人戦を観戦した.私のルーツはどうも広島県(父親は竹原市,母親は三原市の出身)にあるようだが,子どもの頃から大の巨人ファンである.私が小学5年生の時に,カープが赤ヘル旋風を巻き起こし,球団創設以来,初めての優勝を飾った(ちなみに,この年,ジャイアンツは長嶋茂雄監督就任1年目で球団創設以来初の最下位であった).普段,何も買ってくれなかった父親からプレゼントされた赤いキャップを被って遊んでいたことは,私の人生における消し去りたい過去の1つである.
 試合前には,巨人ファンに育てた小学4年生の息子と平和記念公園を訪れ,2カ月前にオバマ前大統領が献花した原爆死没者慰霊碑に手を合わせた.試合のほうはと言うと,3塁側の席でありながら,赤い装いをした人々に囲まれて,とても肩身の狭い思いをしながらの観戦ではあったが,幸いわが読売巨人軍は勝利した.当日は,ピースナイターと銘打って,いくつかのセレモニーも催され,白熱した試合展開のなかにも厳かな雰囲気を味わうことができた.近隣諸国の危機にさらされながらも,平和な時代に生きていることに感謝したひと時であった.

総説

腰椎固定術の変遷と進化—腰椎手術を始める「あなた」に知っておいてもらいたいこと

著者: 水野正喜 ,   倉石慶太 ,   鈴木秀謙

ページ範囲:P.759 - P.769

Ⅰ.はじめに
 人類の背骨(脊椎)の中で,腰椎は前後屈,側屈,回旋などの動きに関与する運動器であるとともに,起立,歩行などの姿勢を安定化させる支持組織として重要な役割を担っている.常に負荷を受ける状態におかれ,経時的に変性が生じる部位であるため,平均寿命が延びている現代では,腰椎変性疾患の有病率は増加している.
 そのため,腰痛や下肢痛,歩行障害などの神経症状を有する症例に対して,有効で確実な治療方法を選択して対応する能力を身につけることは,脳神経外科医として必須と考える.特に腰椎の不安定性や高度変形を要する患者に対する外科治療は,多数の選択肢から各症例に最適な手技を選択することが重要となる.ここでは,腰椎手術手技のうち,腰椎固定術について,その歴史や手技の発展,今後の展望について解説する.

研究

亜急性期の血腫増大により手術を要した軽症急性硬膜下血腫の特徴

著者: 赤松洋祐 ,   佐々木徹 ,   金森政之 ,   鈴木晋介 ,   上之原広司 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.771 - P.779

Ⅰ.はじめに
 軽症頭部外傷例では,頭蓋内出血を伴っていても多くは外科治療を必要とせず,良好な予後が期待できるが,約4%の症例でdelayed neurological deterioration(DND)を来すことが知られており,その発症時期のほとんどは24時間以内であると報告されている2,6).しかし,当初手術介入を要さなかった急性硬膜下血腫症例において,DNDが発症する急性期ではなく遅発性に血腫が増大し,血腫除去術を要した症例を当院にて稀ならず経験する.そこで本研究では,当初内科的治療が行われた軽症頭部外傷の急性硬膜下血腫症例において,遅発性血腫増大に伴って手術介入を要した症例群と,内科的治療のみで悪化なく治療し得た症例群について,臨床像と放射線画像所見を比較検討した.加えて,軽症頭部外傷による急性硬膜下血腫症例において,遅発性血腫増大に伴って手術介入を要する危険因子について検討した.

シベリア地区における脊髄硬膜内髄外腫瘍摘出術の手術成績:97例の検討

著者: ,   ,   ,   ,   ,   常俊顕三 ,   北井隆平 ,   菊田健一郎

ページ範囲:P.781 - P.787

Ⅰ.はじめに
 脊髄硬膜内髄外腫瘍は,神経根への圧迫による根性痛や腰痛,脊髄症状による歩行障害などを来す1,17,18).画像診断が普及していないロシアのシベリア地区では,患者は保存的治療を受け,症状が改善しない場合に限りMRIなどの画像診断がなされる.すなわち相当の期間,経過観察されることになる.筆者らの所属している施設には,シベリア地区の患者が集積する.症状を有する脊髄硬膜内髄外腫瘍の治療の目的は,神経組織の減圧と腫瘍の根治であることは言うまでもない1,14,17,18).本研究では,シベリア地区における脊髄硬膜内髄外腫瘍摘出術の手術成績について,腫瘍の局在,病理所見,術前後の神経症状,手術のタイミング,手術方法について後方視的に検討した.

症例

食道癌放射線治療後に生じたcarotid blowout syndromeに対する血管内治療:症例報告

著者: 高橋重文 ,   川口奉洋 ,   新妻邦泰 ,   中川敦寛 ,   藤村幹 ,   小川武則 ,   香取幸夫 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.791 - P.798

Ⅰ.はじめに
 食道癌は,40〜60代の男性に好発する予後不良の悪性腫瘍である.術後追加治療や再発時の治療選択として放射線治療が選択されることが多く,局所制御率の高さや機能温存の点で優れている10,21,23,24).近年,治療成績が向上する一方で,放射線治療後の晩期合併症が無視できなくなってきた.Carotid blowout syndromeは頭頚部腫瘍に対する放射線治療から数年経過した後に発症し,頭蓋外内頚動脈破裂を引き起こす重篤な合併症である3,13).ほとんどの場合が破裂もしくは切迫破裂として発症するため,治療選択に時間的猶予がなく,生命予後,機能予後ともに極めて不良(罹患率60%,死亡率40%)な病態である8,12,14,17-20)
 Carotid blowout syndromeは稀な病態であり,症例報告が散見されるのみである.治療選択に関するまとまった報告はほとんどなく,経験的に多くの症例に対して血管内治療が選択されている5,6,11).血管内治療においては,虚血耐性を評価した後に,順行性血流を温存するカバー付きステント留置や,コイルによる親動脈閉塞術が選択されるが,いずれの場合も再出血または脳梗塞の危険性が高いことが解決すべき課題である.
 今回われわれは,食道癌に対する複数回の放射線治療後に発症したcarotid blowout syndrome症例を経験した.血管内治療による親動脈閉塞術を施行し,外頚動脈を温存することで出血制御と側副血行温存が両立され,良好な転帰が得られた.Carotid blowout syndromeに対する血管内治療の問題点および留意すべき点について,文献的考察を加えて報告する.

クロスボウの矢による経口的穿通性頭部外傷の1例

著者: 中村直人 ,   藤田祐一 ,   中溝聡 ,   阪上義雄 ,   岡崎健 ,   貴田紘太

ページ範囲:P.799 - P.804

Ⅰ.はじめに
 本邦では銃社会である欧米諸国と比べて,穿通性頭部外傷は稀である.異物の性状や侵入経路・速度によって病態は多種多様であり,治療方法は統一されていないため,症例ごとに治療方法を検討する必要がある.今回われわれは,クロスボウの矢が経口的に頭蓋内へ刺入した,穿通性頭部外傷の1例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.

潜在性Basedow病に合併した脳静脈洞血栓症の1症例

著者: 川原一郎 ,   豊田啓介 ,   広瀬誠 ,   北川直毅

ページ範囲:P.805 - P.810

Ⅰ.はじめに
 脳静脈洞血栓症は比較的稀な脳卒中であり,危険因子として感染,経口避妊薬,妊娠,心疾患,悪性腫瘍,血液凝固異常,術後,外傷などが一般的に知られている7,9).また近年では,甲状腺機能亢進に伴い凝固・線溶系の異常を来すことで脳静脈洞血栓症を発症することが報告されている1-6,8,10,11)
 今回われわれは,潜在性バセドウ病に伴う脳静脈洞血栓症を呈した比較的稀な1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

硬膜外に著明な進展を認めた孤立性形質細胞腫の1例

著者: 中野紘 ,   加藤宏一 ,   野村俊介 ,   中川将徳 ,   比嘉隆 ,   門山茂 ,   川俣貴一 ,   氏家弘 ,   寺本明

ページ範囲:P.811 - P.817

Ⅰ.はじめに
 形質細胞腫は形質細胞がモノクローナルに増殖する腫瘍で,ほとんどは多発性骨髄腫として生じるが,稀に孤立性のものがみられる.孤立性の場合も大部分は骨髄内から発生する髄内性だが,骨髄外から発生する髄外性の場合は咽頭や扁桃腺,副鼻腔などから発生する腫瘍が多く,硬膜からの発生は報告が少ない2,11).今回われわれは,硬膜から発生し硬膜外に進展する孤立性形質細胞腫の1例を経験したので報告する.

報告記

The Spetzler Symposium(2017年4月20〜21日)

著者: 中川原譲二

ページ範囲:P.818 - P.819

 2017年4月22〜26日にLos Angeles Convention Centerで開催された2017 AANS annual scientific meetingは,同会場で4月20日から2日間にわたって開催された“The Spetzler Symposium”で始まった.本symposiumは,Spetzler教授の退任を記念して企画され,米国はもとより,世界各国から大勢の脳神経外科のsuper starsが参画した.企画担当者は,2017 AANS Scientific Program CommitteeのChairであり,Spetzler教授の後継者でもあるJacques J. Morcos教授である.本symposiumのテーマには,Spetzler教授が深く関わってきた,cerebrovascular surgery, skull base surgery, complex/deep brain tumors surgery, craniovertebral junction surgeryが取りあげられた.
 Spetzler教授は,世界の脳神経外科のリーダーとして,若い頃から各国を飛び回り,現在の日本の脳神経外科の多くのリーダーたちとも深く交流し,日本の脳神経外科の発展に強く影響を与えた人物の1人である.若い世代の脳神経外科医にとっては,すでに伝説的な存在となっているかもしれないが,私たちの世代の脳神経外科医にとっては,依然としてsuper starであり,その仕事ぶりには,目を見張るものがあった.AVM手術に伴うnormal pressure perfusion breakthrough(NPPB)理論は,彼がカリフォルニア大学サンフランシスコ校(当時の主任教授はCharles B. Wilson教授)のレジデントの時代に執筆している.彼が発案したAVMのgrading scaleは実用的で,世界中で使われている.複合的な脳血管病変に対する低体温,バルビタール,心停止下での外科治療を進展させたのも彼である.また,彼は頭蓋底外科のための革新的な外科アプローチ法をいくつも開発した.

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

(11)海綿静脈洞から発生する頭蓋底腫瘍に対する顕微鏡下開頭術・内視鏡下経鼻手術

著者: 辛正廣

ページ範囲:P.821 - P.829

Ⅰ.はじめに
 海綿静脈洞は,トルコ鞍の両側に位置し,大脳や眼窩からの静脈灌流が集束する静脈槽である.この近傍には,内頚動脈やさまざまな脳神経が存在し,内部を外転神経が,外側面には動眼神経,滑車神経,三叉神経が走行しており,下垂体や視神経とも接して存在している.そのため,この部位に発生する腫瘍性病変では,こうした脳神経の圧迫によるさまざまな症状を呈するとともに,アプローチの際に,これらの機能を最大限に温存することが求められる3,4).また,術中に内頚動脈を損傷すると,致命的ともなり得るような出血を合併する可能性があり1),腫瘍切除の際に細心の注意を払うとともに,万が一の動脈損傷の際の対処についても十分に検討しておく必要がある.
 近年,海綿静脈洞から発生する腫瘍に対しては,ガンマナイフをはじめとする定位放射線治療が重要な役割を占めており,髄膜腫などさまざまな疾患で,脳神経機能の温存と腫瘍制御の両方が安全に達成されるようになりつつある2,5).こうしたことから,この部位に発生する頭蓋底腫瘍に対する切除術の目的は,①病理診断を確定し,治療方針を決定する,②腫瘍の体積を減らし,周辺の脳神経,特に視神経を腫瘍から隔離することで,定位放射線治療をはじめとした追加治療が安全かつ有効に施行できるようにする,③腫瘍による脳神経の圧迫を解除し,症状を改善させること,などが中心となる.さらに,最新の放射線治療を駆使しても,海綿静脈洞腫瘍の長期的な制御率は80〜90%程度であることから,集学的治療の後に再発した症例では,腫瘍の切除を最優先にした徹底した手術治療が適応となる.
 本稿では,海綿静脈洞に発生した頭蓋底腫瘍に対する手術を安全かつ確実に行い,上記の目的を十分に果たすために重要となる,画像診断,手術シミュレーションと術中支援について,腫瘍の進展部位と病理組織診断,それらに対する術式に応じて解説を行う.

脳神経外科診療に役立つPETによる診断法

(2)15OガスPETによる脳血管障害の病態診断の進展

著者: 中川原譲二

ページ範囲:P.831 - P.846

Ⅰ.はじめに
 1970年代後半に登場した15OガスPETによって,脳血管障害の領域では,脳虚血の病態が精力的に研究され,1980年代前半には脳虚血に対する血行再建治療の基盤となるさまざまな概念が確立した.すなわち,15OガスPETによる脳血流量(cerebral blood flow:CBF)と脳酸素代謝量(cerebral metabolic rate of oxygen:CMRO2),脳酸素摂取率(oxygen extraction fraction:OEF)および脳血液量(cerebral blood volume:CBV)の各指標の計測によって,脳虚血超急性期にみられる虚血性ペナンブラ(ischemic penumbra)2,10),脳梗塞急性期の再灌流に伴う贅沢灌流(luxury perfusion)1,14),慢性期にみられる貧困灌流(misery perfusion)4)などの概念がCBFとOEFを中心に整理され,脳虚血・脳梗塞の病態診断の基礎ができ上がった.そして,これらの概念は,1990年代の脳血流SPECT機器の普及によって,研究施設から一般診療施設へと受け継がれ,脳虚血の病態診断の中核的概念として普遍的に活用されるようになった.しかしながら,脳虚血に対する血流再開療法が進展しつつある現状においては,脳虚血に対する代償能の発動と治療介入の適切な時期の視点から,これらの概念を再考する必要がある.
 一方,これまでの15OガスPETでは,CBFやCMRO2の画像再構成においてCBV画像による補正が必要であり,nidusや拡張した静脈などの血液プールを伴う脳血管奇形の病態診断では,血液プールがCBV画像で高集積となり,他の画像のartifactの原因となった.このため脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)に伴う盗血現象(arterial steal phenomenon)7)や硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)に伴うvenous engorgement31)などの病態解明は,必ずしも成功していない.しかし,最近になって,CBV画像による補正を必要としない15OガスPETの画像再構成法が登場し,巨大な血液プールを伴う脳血管奇形においても精度の高い病態診断が可能となりつつある.
 そこで本稿では,最近の15OガスPETの測定法の進展を踏まえて,脳虚血の病態診断を再考するとともに,脳血管奇形の最新の病態診断について解説する.

書評

—木内博之,斉藤延人:監修 木内博之:編—プライム脳神経外科 1 脳動脈瘤

著者: 嘉山孝正

ページ範囲:P.788 - P.788

 プライム脳神経外科第1巻脳動脈瘤が出版されました.読んでみて,最初に感じたのは監修者,編集者の教育への情熱です.その情熱の結果か従来の教科書と比較して大変プラグマティック(実用的)な教科書になっています.現代の多忙な脳神経外科医にとってはプラグマティックな教科書が待たれていました.しかし,本書はプラグマティックなだけではなく,原理,原則をも包含している待ちに待った教科書と言えます.
 医学の進歩は従来から日進月歩ですが,最近はその速度が加速度的に増量化しており,新たに生まれる医学,医療に関する情報は膨大です.したがって,日常業務に多忙な脳神経外科医にとっては,時間の無駄なく適切な医学,医療の情報を整理整頓し頭に入れることが,重要な能力の1つになっています.

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欧文目次

ページ範囲:P.755 - P.755

お知らせ

ページ範囲:P.769 - P.769

「読者からの手紙」募集

ページ範囲:P.804 - P.804

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.851 - P.851

次号予告

ページ範囲:P.853 - P.853

編集後記

著者: 前原健寿

ページ範囲:P.854 - P.854

 今年の夏も,昨年同様暑い日が続いています.しかも雨が降ったら降ったで,日本列島のさまざまな場所が観測史上最大の局地的豪雨に襲われています.当大学のある東京湯島地区でも先日,雹が降りました.地球温暖化の影響でしょうか? 日本の気候もここ数年で大きく変わってしまった気がします.
 さて,9月号の扉では,鳥取大学の黒﨑教授が諸葛孔明の「寧静致遠」を引き合いに,誠実で地道な努力の積み重ねが遠大な事業の達成に重要であることを述べられています.先生が示された,臨床とりわけ手術においては丁寧に真心をもって望むべきという考えは,脳神経外科医にとって必須のことと思います.先生の診療,教育,研究に対する情熱は,(当大学近隣の)東京ドームを本拠地としている巨人軍にも必ずや届くことでしょう.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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