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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科46巻8号

2018年08月発行

雑誌目次

医学生と英語

著者: 河島雅到

ページ範囲:P.655 - P.656

 2017年4月に千葉県成田市に国際医療福祉大学医学部が開設された.私は縁があって九州より同校に赴任することとなった.医学部は京成本線「公津の杜」駅前にあり,今春入学した新入生を含め,1,2年生が勉学に励んでいる.現在,成田空港の隣に附属病院を建設中であり,東京オリンピックが開催される2020年4月に開院予定である.各科の教授はすでに決定しているが,臨床の場が当地にないため,グループ内の病院に分散して臨床を行っている.私は現在東京都港区にある三田病院で脳神経外科診療に従事し,授業の際は成田市へ出かけている.皆さんご存知の通り,医学部新設は40年ぶりのことである.私自身わからないことが多く苦労しているが,一方でこの不思議な状況を少しずつだが楽しむようになってきている.
 これまでいくつかの大学医局に在籍した.その間,臨床・研究・教育という三本柱のバランスをとるのには常に苦心した.私の第一の主眼は臨床におかれていた.手術の腕前はまだまだ未熟だが,脳神経外科医として手術を安全・確実に行えることが私のfirst priorityであった.次に重視したのが論文作成である.基礎研究は苦手であったが,臨床ネタを地道に拾いながら英文論文を書いてきた.そして,最後に来るのはいつも学生教育である.これは自分の学生時代の経験が多分に影響していると思う.お恥ずかしながら「学生は放っておいても国試くらい通るだろ!」「学生はできるだけ遊んで人生経験を広げなさい」などとうそぶいてきた.本校に赴任してからはこの考えが180度変わった.

総説

てんかん重積の診断と治療

著者: 岩崎真樹 ,   池谷直樹 ,   木村唯子 ,   飯島圭哉 ,   金子裕

ページ範囲:P.657 - P.662

Ⅰ.けいれん重積とてんかん重積
 「けいれん重積」という言葉が慣用的にしばしば用いられるが,正しくは「てんかん重積」である.けいれん(convulsion)は,四肢に反復する不随意な筋収縮による症状を表現する言葉であり,けいれんを伴わないてんかん発作およびてんかん重積がある.てんかん重積は,けいれん症状の有無によって大きくけいれん性てんかん重積(convulsive status epilepticus)と,非けいれん性てんかん重積(non-convulsive status epilepticus:NCSE)に分けられる.

研究

頚椎損傷に伴う椎骨動脈損傷の臨床像と治療戦略

著者: 藤田祐一 ,   相原英夫 ,   長嶋宏明 ,   森下暁二 ,   青木謙二 ,   高山博行 ,   原田俊彦 ,   当麻美樹 ,   原淑恵 ,   甲村英二

ページ範囲:P.663 - P.671

Ⅰ.背景および目的
 鈍的外傷における椎骨動脈損傷(vertebral artery injury:VAI)の頻度は0.075〜0.53%2,4)と報告されているが,頚椎損傷に限ると19〜39%4,9,14,18)と稀ではなく,常に念頭に置くべき合併症である.VAIによる脳梗塞合併率は9〜54%8,19),死亡率は4〜8%4,8,18)とされ,さらに頚椎脱臼整復治療後の塞栓性脳梗塞は致命的7,21,23)であり,椎骨脳底動脈閉塞を来した場合の死亡率は75〜86%1)と極めて高率との報告もある.したがって,VAIのスクリーニングおよび早期診断と予防的治療は重要であるが,症例ごとに病態が異なるVAIの性質上,エビデンスのある治療指針の作成は難しい.抗凝固薬/抗血小板薬による保存的治療4,6,17)や血管内治療の有効性11-13,15)を示唆する報告がある一方,無症候性であれば特別な治療は不要22)という報告もあり,現時点でコンセンサスの得られた治療指針はない.また,頚椎損傷に対する治療や合併損傷がさらに治療を複雑かつ困難にしている4,17).当施設(兵庫県立加古川医療センター)での頚椎損傷に伴うVAIの治療経験から,至適治療方針と問題点について検討した.

症例

くも膜下出血で発症した前下小脳動脈内耳道内動脈瘤の2例

著者: 田村有希恵 ,   白井和歌子 ,   徳光直樹

ページ範囲:P.673 - P.681

Ⅰ.はじめに
 前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery:AICA)に発生する脳動脈瘤は,全頭蓋内動脈瘤の1%未満で,さらにその遠位部(distal)に発生する頻度は0.1〜0.5%と非常に稀である6).くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)で発症することが多く,その際,顔面神経麻痺や聴神経障害を伴うことが多い.今回われわれは,SAHで発症したdistal AICA内耳道内動脈瘤の2例を経験したため,症例を提示するとともに,その特徴と治療について若干の文献的考察を加え報告する.

術後24年目に脳転移を来した男性乳癌の1例

著者: 渕之上裕 ,   野手康宏 ,   桝田博之 ,   近藤康介 ,   原田直幸 ,   根本匡章 ,   周郷延雄

ページ範囲:P.683 - P.689

Ⅰ.はじめに
 男性乳癌は全乳癌の1%未満と少なく,乳癌の脳転移が10〜16%であることを踏まえると,男性乳癌の脳転移例は極めて稀である10,11,16).われわれが渉猟し得た限りでは,症例報告が散見されるのみであり,その臨床的特徴や治療方針,予後に関しては未だ一定の見解を得ていない.今回われわれは,発症から20年以上の長期間を経て脳転移を来した男性乳癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

精密血管評価に基づく巨大下垂体腺腫摘出—術中出血制御と術後下垂体卒中抑制を目的として

著者: 油川大輝 ,   小川欣一 ,   佐藤健一 ,   新妻邦泰 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.691 - P.697

Ⅰ.はじめに
 下垂体腺腫の大多数は圧排性かつ緩徐に増大し,内分泌症状や視神経障害に代表される神経脱落徴候を呈し,手術適応が生ずる.海綿静脈洞浸潤,主幹動脈の巻き込み,頭蓋底の破壊などが摘出難易度に大きく影響するが2,3,9-11),これらの特徴をすべてもつものとして巨大下垂体腺腫が挙げられる3,10,11).手術法としては,内視鏡下経蝶形骨洞手術と同時に開頭手術を用いた複合手術や12,14),水頭症を伴う巨大下垂体腺腫に対しては内視鏡下経蝶形骨洞手術に加え経脳室的内視鏡手術が提案されている19).一方,術前評価が可能なこれらの因子とは対照的に,術後に発生する主幹動脈損傷を除いた術後急性変化は,現状では予測・予防が困難である.
 この術後急性変化に関する報告では,vasospasm,cerebral ischemia,びまん性くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH),術後下垂体卒中などが挙げられており,巨大下垂体腺腫手術において1〜3%の発症率とされているが2,5,6,9,10),諸報告に共通するのは,いったん発生してしまった場合は死亡率が極めて高いことである.Kurwaleらの後方視的検討では,下垂体腺腫手術を行った1,256例のうち13例で術後下垂体卒中が発生し,このうち12例が死亡の転帰をたどっている10).また別の下垂体腺腫術後のpostoperative vasospasmに関するreviewでは,19例で発症し,そのうち死亡例が5例と報告されている2).これらの術後急性変化の機序として推定されるのは,腫瘍内でのprimary hemorrhage,secondary hemorrhageによる虚血や壊死,浮腫と腫瘍内圧上昇の結果としてのhemorrhageが挙げられているが,いずれもくも膜下腔を走行する主幹動脈やその穿通枝の損傷ではなく,腫瘍内を走行する血管の閉塞や,その結果としての血行動態変化に伴う機序であることがわかる.
 今回われわれは,術中出血制御および術後下垂体卒中抑制の観点で,巨大下垂体腺腫の栄養血管に着目してその微細構築の評価を試み,安全な摘出が得られた症例を経験したので報告する.

骨髄転移を来したIDH変異・1p/19q共欠失乏突起膠腫の1例

著者: 喜古一成 ,   陶山謙一郎 ,   山本邦厚 ,   持田英俊 ,   大屋滋 ,   唐澤秀治 ,   渡辺三郎 ,   鈴木良夫

ページ範囲:P.699 - P.706

Ⅰ.はじめに
 2016年のWHO脳腫瘍分類第4版改訂版では,従来の形式学的分類のみでなく,分子情報を合わせた診断名が用いられることとなった.とりわけ神経膠腫については,分子遺伝学的知見を重視するという方向性がHaarlemコンセンサスガイドライン(2014年)16)において打ち出された.乏突起膠細胞系腫瘍はその考え方が最も色濃く反映された腫瘍型の1つとなり,乏突起膠細胞系腫瘍の診断にはIDH変異の有無と1p/19q共欠失の有無についての検討が必要となった.
 乏突起膠腫は成人に発生するびまん性,浸潤性に進展する腫瘍で,近傍の軟膜直下にもしばしば浸潤が及ぶとされるが,頭蓋外転移の報告は極めて少ない.今回われわれは,術後約半年で多発骨髄転移を来した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Occipital sinusに直接流入する後頭蓋窩静脈を伴った退形成性上衣腫の1手術例

著者: 水戸部祐太 ,   矢尾板亮 ,   板垣寛 ,   松田憲一朗 ,   園田順彦

ページ範囲:P.707 - P.711

Ⅰ.はじめに
 後頭蓋窩の静脈解剖を理解しておくことは実際に手術を行う上で重要となるが,このバリエーションは複雑であり,記された文献も未だ少ない.Huangら3-5)は,後頭蓋窩の静脈還流を①superior or galenic draining group,②anterior or petrosal draining group,③posterior or tentorial draining groupの3つのグループに分類している.①は小脳半球上面や虫部上部,中脳を還流し,主にGalen大静脈に流入する静脈群であり,②は脳幹部(橋,延髄)や小脳半球前面または外側部を還流し,③は小脳虫部下部,小脳半球の後下面を上行し,confluence of sinuses,straight sinus,transverse sinusなどに流入することが知られている.第四脳室周囲の静脈群はanterior or petrosal draining groupに分類され,バリエーションは多様であり,上方ではpetrosal veinに流入し,下方ではsigmoid sinusに流入するものが多いが,marginal sinusに流入する場合もある.
 今回われわれは,延髄背側,第四脳室からの静脈が架橋静脈を介して直接occipital sinus(OS)に流入した1例を経験したので報告する.

破格側副血管起始部(A1)の破裂脳動脈瘤で初発し,twig-like network内に新生した微小脳動脈瘤の破裂により再発した中大脳動脈M1低形成の1例

著者: 酒井洸典 ,   日宇健 ,   福田雄高 ,   大園恵介 ,   本田和也 ,   川原一郎 ,   小野智憲 ,   牛島隆二郎 ,   戸田啓介 ,   堤圭介

ページ範囲:P.713 - P.722

Ⅰ.はじめに
 Twig-like networks(TLN)を伴う中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)M1形成不全(aplastic or twig-like MCA10):Ap/T-MCA)は頭蓋内出血での発症が多く,出血源の1つとして脳動脈瘤の破裂がある1,5,10).今回われわれは,破格側副血管起始部(A1)の破裂脳動脈瘤で初発した4年後,TLN内の新生微小脳動脈瘤破裂で再発した稀な症例を経験したため,臨床上の留意点について考察する.

海外留学記

Department of Neurosurgery, Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School

著者: 藤井謙太郎

ページ範囲:P.723 - P.726

Brigham and Women's Hospital(BWH)脳神経外科概要(2018年5月時点)
[住所]75 Francis Street, Boston, Massachusetts, United States
[規模(臨床)]clinical neurosurgeons 22名,residents 18名,clinical fellowships 5名
手術件数:年間1,000件以上
[規模(基礎)]100 staff members in 15 different laboratories

連載 機能的脳神経外科最新の動向

(8)精神科疾患に対する脳深部刺激療法

著者: 杉山憲嗣

ページ範囲:P.727 - P.737

Ⅰ.はじめに
 1947年にSpiegelとWycisが世界で最初に定位脳手術装置を開発した際,彼らがその装置を使用して治療を目指していた疾患は,精神科疾患であったとされている6).このように精神科疾患は,機能的脳神経外科の開発当初から,深い結びつきをもった領域であった.
 脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)は,脊髄刺激などの電気刺激療法の一法として,まず難治性疼痛に対して開発され,1990年代からは不随意運動の治療法として応用された.霊長類のパーキンソン病モデルに対する研究から,パーキンソン病では,脳内のループ回路に障害が起こっていることが指摘され,その詳細な機序解明の過程で,視床下核に対するDBSなどが開発されていった.そして,脳内ループ回路障害の概念が提唱された当初から,異常を来していると考えられるループ回路には,運動に関連するものばかりでなく,前頭葉背外側部を通るループや,帯状回を通るループも存在することが指摘されていた(Fig.1)1).さて,周知のとおり,DBSは非常に強力にパーキンソン病の運動症状を改善することができ,脳内ループ回路障害の治療法として捉えられるようになった.それならば,認知活動や精神活動と関係がありそうな,前頭葉背外側部や帯状回のループも改善できるのではないか,と考えられたのは,当然な科学的洞察と思われる.こうして,不随意運動疾患,疼痛疾患のみならず,原因の明らかでない精神科疾患を含めた神経科疾患の中から,脳内ループ回路障害を探索する試みが世界規模で開始され,そしてそれらの疾患に対して,脳内ループ回路障害の治療法としてDBSが試みられていった.
 以下に述べる,Tourette症候群,難治性うつ病,強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)以外にも,双極性障害,摂食障害などに対してもDBSが行われているが,これらはいずれもまだ初期の研究段階であり,本稿では割愛する.

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編集後記 フリーアクセス

著者: 飯原弘二

ページ範囲:P.746 - P.746

 本号の扉には,河島雅到教授から英語を用いた医学教育に関する興味深い寄稿をいただきました.2023年から,米国のECFMGの受験資格は,国際基準による医学教育分野別評価の認証を受けた医学部,医科大学の卒業生に限定されることになりました.国際基準で認証を受けていない大学の卒業生は,ECFMGへの申請ができないということで大きな問題になり,日本医学教育評価機構(JACME)が発足して,国際基準に対応した医学教育認証制度の確立に向けた議論が進んでいます.一方,医学・医療の発展は凄まじく,大学の教育現場ではすべてを教えきれないことを背景に,学生時代に「学び方を学ぶ=能動学習」を身につける必要があります.医学教育は,医学部入学から始まり,卒前,卒後の教育のシームレス化の実現に向けて,卒前教育の質の保証が求められています.そして,脳神経外科医の「卒後教育」という視点では,専攻医教育と専門医教育(生涯教育)のシームレス化という問題に行き着くことになるでしょう.
 一方,医療という観点では,医療の質の保証と医療体制の変革が世界的に注目されています.日本脳神経外科学会の専門医制度は,最も歴史のある専門医制度の1つであり,近年,脳神経外科専門医を「外科医の眼と技を持った神経系総合医」と位置づけ,Japan Neurosurgical Database(JND)を開始しました.本年の4月から,専攻医が将来の専門医受験申請に使用できる経験症例は,手術症例,非手術症例ともにJNDに登録した症例のみとなりました(最新情報は学会のホームページをご参照ください).JNDは,日本の脳神経外科の「教育と医療」をシームレスに可視化する,先進的な学会事業であると言えます.また,日本脳卒中学会でも,脳卒中センターの整備事業や登録事業の整備が開始されています.将来的には,専門医数などの構造指標に基づいた,研修教育施設や脳卒中センターの認証が行われる見込みです.また,手前みそで恐縮ですが,脳卒中医療の向上に関しては,米国のGet With The Guidelines-Strokeの日本版である,Close The Gap-StrokeをAMED事業で開始しています.国際基準でのプロセス指標を用いた医療の質を評価する活動が日本で開始されることになりますが,いずれも,「ヒト,モノ,カネ」が必要であり,基本診療科として脳神経外科がより広い関連学会をまとめて,社会に向けて継続的な医療の質の向上のリーダーシップをとっていく必要があると思う毎日です.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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