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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科47巻10号

2019年10月発行

雑誌目次

東京の医療について

著者: 山口武兼

ページ範囲:P.1019 - P.1020

 私は,平成29年12月22日の東京都保健医療公社臨時理事会において,理事長に就任することになった.前任者が11月に病気で倒れ,理事長職を続けることが困難になったためである.それまで理事長職には,東京都職員の局長級の職員が退任後就任することになっていた.東京都の局長クラスの人材は極めて優秀で,状況判断に優れ決断力がある.そういう彼らが理事長としてくるのだから,組織としては機能するが,いかんせん在任期間が1〜2年ということでは,長期的な見通しの下に判断することは困難だった.小池百合子東京都知事は,平成28年の都知事選に当選後に東京都職員のいわゆる天下りを批判し,外郭団体の長については適材適所とすることを打ち出した.つまり,適任の人材がいれば,内部からの昇格を含め,外部からの起用を示唆した.これを受けて,私に役が回ってきた.
 東京には平成28年10月1日現在,651病院がある.東京の病院の特徴は,民間の病院の占める割合は90%で,200床未満の病院が70%を占めている.同時に,12大学の附属病院があり,国立研究開発法人,国立病院機構,日本赤十字社,済生会など大病院がひしめいている.都立病院は8病院,5,113床であり,東京都保健医療公社は6病院,2,227床で,合わせて東京都全体の病床数約13万床の5.7%を占める.

総説

大脳半球切除術と離断術の歴史と進歩

著者: 川合謙介

ページ範囲:P.1021 - P.1036

Ⅰ.はじめに
 大脳半球切除術(hemispherectomy)や大脳半球離断術(hemispherotomy)は,片側大脳半球に広汎なてんかん焦点を有する難治性てんかんに対して用いられる手術手技である.一側広汎なてんかん焦点に起因するてんかん発作に対する強力な抑制効果だけでなく28),精神運動発達や行動障害も改善することが50年以上の長い歴史を経て示されてきた42).特に,小児の重症てんかんに対する劇的な効果が認知されてからは,世界の多くのてんかんセンターで施行されるようになり,小児てんかん外科症例の増加の一翼を担っている.
 大脳半球の切除という極めて侵襲的な手術であり,有効性と安全性を高めるために,さまざまな工夫が提唱されてきたのも本手術の特徴である.大脳半球のほぼ完全な解剖学的摘出から始まり,重篤な合併症であるhemosiderosisに対処するためのmodification,そして,機能的な大脳半球切除術(functional hemispherectomy)から白質離断を主体とした大脳半球離断術へと進展し,さらに最近では,低侵襲な内視鏡下大脳半球離断術までもが行われるようになった.2013年の『Neurology』誌の巻頭言で,Wiebeら46)は,“Big epilepsy surgery for little people”とのタイトルで大脳半球切除の良好な長期転帰を報告した論文27)を取り上げたが,今日ではもはや“big surgery”ではなくなりつつあるとも言える.
 本手術に関する総説3,11,17,19,23,40)は既に多く発表されている.歴史についての総説42)も本誌に発表されているが,ちょうど10年が経過したので,ここでまた,術式の進歩や解剖学的理解についてまとめておく.てんかん外科や機能外科には長い歴史を有する手術が多いが,大脳半球切除術の歴史は特に興味深く,示唆に富んでいる.これを機会に,これまで紹介されてこなかった逸話や本邦での歴史なども紹介しておこうと思う.

研究

脳深部刺激手術における術後デバイス関連感染の検討

著者: 小座野いづみ ,   川崎隆 ,   濱田幸一 ,   木村活生 ,   岸田日帯 ,   岡村泰 ,   樋口優理子 ,   浦丸浩一 ,   坂田勝巳 ,   山本哲哉

ページ範囲:P.1037 - P.1043

Ⅰ.緒  言
 脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)はパーキンソン病,本態性振戦,ジストニア等の運動異常症に対する治療法として確立している.その一方で,手術による合併症は機能外科という性格上,ひとたび発生すると重大な問題となることが多い.特に感染は,異物を埋め込むためしばしば難治性となり,埋め込んだデバイスを除去せざるを得なくなることもある.今回,当施設でのDBS症例について,術後の感染例を検討した.

ニューロナビゲーションを用いた側臥位局所麻酔下定位脳生検術の有用性の検証

著者: 吉識賢志 ,   木下雅史 ,   田中慎吾 ,   南部育 ,   宮下勝吉 ,   中田光俊

ページ範囲:P.1045 - P.1051

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍を含む頭蓋内病変に対する定位的生検術(stereotactic biopsy)は,局所麻酔下で行うことが可能であり,患者への負担は小さく,比較的安全で簡便な手技であると考えられている.従来,定位的生検術は,レクセル型や駒井式CT定位脳手術装置9)を用いたCT誘導下定位的生検術が主流であったが,術前のMRI画像を利用して手術計画を行うニューロナビゲーションシステムの登場により,手術時間の短縮が可能となった10)
 また,このナビゲーションシステムを用いたフレームレス針生検術は,従来の定位脳手術装置と比較して診断率に違いはない3).主な合併症として脳内出血,脳浮腫,感染,生検の穿刺ルートに沿った腫瘍の播種などが挙げられるが,それらのリスクは低いと報告されている1,6,7,13).しかし,局所麻酔下であるため,仰臥位で定位脳生検術を施行した際に鎮静後の舌根沈下に起因する呼吸障害に伴う体動を認めたことによって穿刺に難渋する症例を経験する.また,仰臥位の場合,後頭葉病変や脳梁膨大部病変を目標とした際,ターゲットに到達するまでの穿刺距離が長い場合や,アプローチが困難な場合がある.
 当科では,仰臥位と並行して側臥位での定位脳生検術を施行している.本研究では,側臥位での定位脳生検術の有用性について,仰臥位施行例との体位間における差異および安全性について検討したので報告する.

テクニカル・ノート

三角部腫瘍に対するHigh parietal paramedian approach—Technical nuances and Case review

著者: 松岡剛 ,   田村学 ,   川俣貴一

ページ範囲:P.1053 - P.1058

Ⅰ.はじめに
 側脳室三角部腫瘍に対するHigh parietal approachは一般的なアプローチであるが,適応疾患が限られるため,頻用されるものではない.われわれは,術前画像の情報を活用し,脳皮質切開部の決定と三角部までの侵入経路の確保の方法,腫瘍摘出の順序・摘出中の注意などの点に配慮して摘出に臨んでいる.本稿では,われわれの摘出方法と9例の治療結果について紹介し,アプローチの妥当性を検討する.

症例

腎細胞癌術後10年以上経過して脳転移が認められた3手術例

著者: 土井一真 ,   大谷直樹 ,   遠藤あるむ ,   田邉宜昭 ,   竹内誠 ,   豊岡輝繁 ,   和田孝次郎 ,   森健太郎

ページ範囲:P.1059 - P.1064

Ⅰ.はじめに
 腎細胞癌は3.9〜24%に脳転移を来すと報告されているが,その多くは腎癌摘出術後数年以内に発見されることが多い4).しかし,腎癌術後から10年以上経過して初めて脳転移巣が発見される例も稀ながら報告されている1-11,13-18).今回われわれは,腎癌術後10年以上経過して発見された転移性脳腫瘍に対して開頭腫瘍摘出術および後療法を施行した3例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.

両側鎖骨下動脈高度狭窄によってマスクされた高血圧症に伴い発症した内頚動脈海綿静脈洞瘻

著者: 下里倫 ,   林基高 ,   日高幸宏 ,   武澤秀理 ,   飯島明

ページ範囲:P.1065 - P.1072

Ⅰ.はじめに
 内頚動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)は,海綿静脈洞部における動静脈の異常な短絡であり,direct CCFとindirect CCFに分類される4).また,etiologyによる分類では,外傷により生じたもの(traumatic),自然発生したもの(spontaneous)に分類される9).Direct CCFの中でspontaneousな病態から生じるケースはBarrow type A2,6)に分類され,多くは内頚動脈海綿静脈洞部に生じた動脈瘤の破裂が原因であり,Ehlers-Danlos syndromeのような全身性結合織疾患や全身性高血圧も誘因として知られている.破裂動脈瘤が画像上確認できず7,8),発症の原因を特定できない症例も多い.今回われわれは,両側鎖骨下動脈血流障害によってマスクされた高血圧症の下で発症したdirect CCFに対し,血管内治療を行った.瘻孔を含む内頚動脈母血管閉塞によりCCFの症状の消失,両側の鎖骨下動脈血管形成術を行うことにより上肢血圧の正常化を得た症例を経験したので報告する.

皮質性くも膜下出血に近接する急性期微小皮質梗塞を認めた可逆性脳血管攣縮症候群の1例

著者: 江端由穂 ,   福田雄高 ,   中村光流 ,   近松元気 ,   塩崎絵理 ,   森塚倫也 ,   日宇健 ,   川原一郎 ,   小野智憲 ,   原口渉 ,   牛島隆二郎 ,   堤圭介

ページ範囲:P.1073 - P.1079

Ⅰ.はじめに
 可逆性脳血管攣縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome:RCVS)に合併する皮質性くも膜下出血(cortical subarachnoid hemorrhage:cSAH)は発症早期に約1/3の症例で認められるが,その出血機序については明らかではない3,7).今回われわれは,雷鳴様頭痛(thunderclap headache:TH)発症後2日目の画像検査でcSAHを認め,血腫が最も厚い脳溝部に近接して急性期微小皮質梗塞を合併したと考えられるRCVSの1例を経験した.稀な症例であり,RCVSに伴うcSAHの臨床像やその発生機序について,文献的考察を加えて報告する.

Dermoid cystを伴う先天性皮膚洞に脳膿瘍を合併した1例

著者: 前田雄洋 ,   富永篤 ,   近藤浩 ,   迫口哲彦 ,   籬拓郎 ,   岐浦禎展 ,   竹下真一郎 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.1081 - P.1088

Ⅰ.はじめに
 先天性皮膚洞は比較的稀な神経管閉鎖不全症の一病態であり,出生時2,500人に対して1人の頻度と報告されている13).その機序は胎生期における神経外胚葉成分と皮膚外胚葉成分の遊走異常によるものと報告されている3).先天性皮膚洞では髄膜炎や硬膜下膿瘍などの中枢神経系の感染症を合併することも多いが,今回われわれはdermoid cystを伴う先天性皮膚洞に硬膜下膿瘍だけでなく脳膿瘍を合併した稀な1例を経験したので,文献的考察を踏まえここに報告する.

中大脳動脈クリッピング時に中大脳動脈M2癒合による窓形成が明らかとなった1例

著者: 井手宏二 ,   諸藤陽一 ,   出雲剛 ,   定方英作 ,   堀江信貴 ,   案田岳夫 ,   森川実 ,   松尾孝之

ページ範囲:P.1089 - P.1092

Ⅰ.はじめに
 脳血管における窓形成の頻度は,前交通動脈,椎骨脳底動脈に多く認められ,中大脳動脈では非常に稀である1).また中大脳動脈窓形成の多くはM1近位に存在するとされている7).今回,中大脳動脈瘤の手術の際にM2癒合による窓形成を認めた症例を経験したため報告する.

脳塞栓症発症5日目に経皮的血栓回収術を行った発作性心房細動の1例

著者: 佐藤直樹 ,   石川敏仁 ,   海老原研一 ,   遠藤勝洋 ,   遠藤雄司 ,   太田守

ページ範囲:P.1093 - P.1100

Ⅰ.緒  言
 脳塞栓症のうち,特に心原性脳塞栓症は,突発完成型の発症様式をとることが通常であるが1),なかには,劇的な改善を認めたり9),進行性であったり,動揺性であったりと,突発完成型の発症様式を呈さない症例が稀に存在する2).最近は,血管病変の評価として,magnetic resonance angiography(MRA)やcomputed tomography angiography(CTA)での評価が通常であるが,特にMRAの画像は,脳血流が低下している時は,狭窄病変が過大に評価され5),アテローム硬化による狭窄病変との判別が困難な場合もある.
 今回,われわれは,入院時の心電図で心房細動を認めず,発症経過や急性期のcomputed tomography(CT), magnetic resonance imaging(MRI)の画像所見から,入院当初,アテローム血栓性脳梗塞が疑われた脳塞栓症と考えられたが,亜急性期に心房細動を認め神経症状が増悪し経皮的血栓回収術を施行した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

教訓的症例に学ぶシリーズ

神経内視鏡手術を行った症候性松果体嚢胞の1例

著者: 齋藤紀彦 ,   平井希 ,   青木和哉 ,   高萩周作 ,   八木橋彰憲 ,   佐藤詳 ,   鈴木遼 ,   平元侑 ,   林盛人 ,   櫻井貴敏 ,   岩渕聡

ページ範囲:P.1101 - P.1105

Ⅰ.経験症例
 〈患 者〉 39歳 女性
 主 訴 頭痛

特別寄稿

AI時代における脳と心③

著者: 浅野孝雄

ページ範囲:P.1106 - P.1114

第Ⅰ部 フリーマン理論とは何か(続き)
2.行動—知覚サイクルを構成するループ
4) 認知ループ
①エナクティブ・アプローチ
 ヴァレーラやトンプソンらは,認知とは世界の表象ではなく,むしろ世界と心を行為から産出することであるとし,そのような考え方を「エナクティブ・アプローチ(enactive approach)」と呼んでいる5,9).エナクティブ・アプローチの発展にかかわる多くの研究者を分野ごとに区分けした彼らの図は,読者の参考に資するところが多いと思われるので転載する(図)9).そこでは,3つのアプローチ・リングに,各分野における主要な貢献者が配置されており,フリーマンの名も神経科学における創発論者として記されている.この図を眺めることにより,現代における心脳問題の全貌を大まかに把握することができるであろう.

追悼

高倉公朋先生のご逝去を悼む

著者: 寺本明

ページ範囲:P.1116 - P.1117

 高倉公朋先生は,令和元年5月2日に,約1年間のご闘病の後,お亡くなりになりました.享年86歳でした.
 高倉先生のご略歴は別表の通りですが,私は15歳年下ですので,先生のお若い頃のことは存じ上げません.直接お話しするようになったのは,昭和53年4月に先生が国立がんセンターから東京大学の助教授として戻られた頃からなので,かれこれ40年間ご指導をいただいたことになります(施設名や職名は当時).

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目次

ページ範囲:P. - P.

欧文目次

ページ範囲:P.1017 - P.1017

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1121 - P.1121

次号予告

ページ範囲:P.1123 - P.1123

編集後記

著者: 寳金清博

ページ範囲:P.1124 - P.1124

 私の北海道大学の研究室は,既に,観光地化するほど有名になった美しい銀杏並木に面している.毎日,大した仕事もせずに並木のドラマを見つめている.銀杏の黄葉・落葉は,ある意味,桜の開花以上に劇的である.紅(黄)葉のメカニズムは,実に巧妙・正確で,複雑系のようにみえて,実は,単純な原理で成り立っている.まるで,一枚一枚の落ちるタイミングまでが決定されているような見事な予定調和的ドラマが,1週間程度の短い期間で上演される.
 今回も多くの素晴らしい原著・報告が並んだ.浅野先生の渾身のお仕事は,単著などでも拝読してきた.難解であるが,あらためて,「脳」あるいは「心」の科学の深さと驚くべき発展を垣間見ることができた.そして,この複雑にみえる「脳」も,紅葉のメカニズムのように,畢竟,単純なMother's Law(母なる原理)に支配されている.そして,一方で,「揺らぎ」の中で創発される驚くべき奇跡の可能性も秘めている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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