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総説
医療事故調査制度と脳神経外科
著者: 佐藤慎哉1
所属機関: 1山形大学医学部総合医学教育センター
ページ範囲:P.1129 - P.1141
文献購入ページに移動Ⅰ.はじめに
2015年10月に医療事故調査制度が始まったが,その発端は,1999年に起きた横浜市立大学医学部附属病院の患者取り違えや都立広尾病院の点滴薬取り違えを契機として,医師や看護師が起訴されるといった事例が相次いだこととされている.その後も増加の一途をたどる医療現場への警察の介入に,多くの学会・医療関係者が批判の声を上げた.厚生労働省はこのような現場の混乱を受け,2007年に「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」3)を立ち上げ,医療事故調査制度に関する議論が開始された.その後,医療安全と責任追及が連動している制度設計への批判や政権交代の影響を受けながら,紆余曲折を経て現行の制度となった.本稿では,医療事故調査制度設立までの経緯を振り返るとともに,本制度と日本脳神経外科学会や脳神経外科医とのかかわりについて概説する.
2005年にWorld Health Organization(WHO)は,診療関連死を含む医療事故報告とそれを学習する仕組みを確立し,患者の安全を確保する目的で医療安全に関する勧告を出した.それが『WHOドラフトガイドライン』16)である.『WHOドラフトガイドライン』は,医療に関する有害事象の報告システムには,「医療安全のための学習を目的としたシステム」と「説明責任を目的としたシステム」があり,両者は両立しないとしている.再発防止を目的とするのであれば,「学習を目的としたシステム」であるべきである.
本ガイドラインは,医療事故の報告制度がもつべき7つの特性に言及している.その特性とは,①非懲罰性:報告者は,報告したために自分自身が報復されたり,他の人々が懲罰を受けたりすることを恐れなくてよい,②秘匿性:患者と報告者,施設が決して特定されない,③独立性:報告システムは,報告者や医療機関を処罰する権力を有する,いずれの官庁からも独立している,④専門家による分析:報告は,臨床現場をよく理解し,その背後にあるシステム要因を見極める訓練を受けた専門家によって吟味される,⑤適時性:報告は,速やかに分析され,勧告の内容はそれを知っておくべき人たちに速やかに周知される,⑥システム指向性:勧告は,個々人の能力を対象とするよりもむしろ,システムやプロセスあるいは製品を変えることに焦点を絞っている,⑦反応性:報告を受ける機関は,勧告内容を周知する能力を有している.報告する医療機関などは,勧告の内容を責任をもって実施する——である.本稿では,報告システムがもつべき7つの特性を念頭に置いて読んでいただければ幸いである.
2015年10月に医療事故調査制度が始まったが,その発端は,1999年に起きた横浜市立大学医学部附属病院の患者取り違えや都立広尾病院の点滴薬取り違えを契機として,医師や看護師が起訴されるといった事例が相次いだこととされている.その後も増加の一途をたどる医療現場への警察の介入に,多くの学会・医療関係者が批判の声を上げた.厚生労働省はこのような現場の混乱を受け,2007年に「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」3)を立ち上げ,医療事故調査制度に関する議論が開始された.その後,医療安全と責任追及が連動している制度設計への批判や政権交代の影響を受けながら,紆余曲折を経て現行の制度となった.本稿では,医療事故調査制度設立までの経緯を振り返るとともに,本制度と日本脳神経外科学会や脳神経外科医とのかかわりについて概説する.
2005年にWorld Health Organization(WHO)は,診療関連死を含む医療事故報告とそれを学習する仕組みを確立し,患者の安全を確保する目的で医療安全に関する勧告を出した.それが『WHOドラフトガイドライン』16)である.『WHOドラフトガイドライン』は,医療に関する有害事象の報告システムには,「医療安全のための学習を目的としたシステム」と「説明責任を目的としたシステム」があり,両者は両立しないとしている.再発防止を目的とするのであれば,「学習を目的としたシステム」であるべきである.
本ガイドラインは,医療事故の報告制度がもつべき7つの特性に言及している.その特性とは,①非懲罰性:報告者は,報告したために自分自身が報復されたり,他の人々が懲罰を受けたりすることを恐れなくてよい,②秘匿性:患者と報告者,施設が決して特定されない,③独立性:報告システムは,報告者や医療機関を処罰する権力を有する,いずれの官庁からも独立している,④専門家による分析:報告は,臨床現場をよく理解し,その背後にあるシステム要因を見極める訓練を受けた専門家によって吟味される,⑤適時性:報告は,速やかに分析され,勧告の内容はそれを知っておくべき人たちに速やかに周知される,⑥システム指向性:勧告は,個々人の能力を対象とするよりもむしろ,システムやプロセスあるいは製品を変えることに焦点を絞っている,⑦反応性:報告を受ける機関は,勧告内容を周知する能力を有している.報告する医療機関などは,勧告の内容を責任をもって実施する——である.本稿では,報告システムがもつべき7つの特性を念頭に置いて読んでいただければ幸いである.
参考文献
1) 厚生労働省:診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」について,2005 https://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/08/h0810-1.html#betsu(2019年3月29日access)
2) 厚生労働省:診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性,2007 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/2a.pdf(2019年3月29日access)
3) 厚生労働省:診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 議事録,2007-2008 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/index.html(2019年3月29日access)
4) 厚生労働省:診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案—第二次試案—,2007 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/2e.pdf(2019年3月29日access)
5) 厚生労働省:医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案—第三次試案—,2008 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/2f. pdf(2019年3月29日access)
6) 厚生労働省:医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案/医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案—第三次試案—,2008 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/080613_an.pdf http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/kentou/dl/080613_daisanji_sian.pdf (2019年3月29日access)
7) 厚生労働省:診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会(第16回議事録・資料),2008 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1110-4e_0001.pdf https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1110-4e_0002.pdf https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/11/dl/s1110-4e_0003.pdf (2019年3月29日access)
8) 厚生労働省:医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会 議事録,2012 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002pfog.html(2019年3月29日access)
9) 厚生労働省:「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」について,2013 http://www.mhlw.go.jp/stf.shingi/2r985200000339xk-att/2r98520000033a1k.pdf(2019年3月29日access)
10) 厚生労働省:医療事故調査制度の施行に係る検討について,2015 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000078773.pdf(2019年3月29日access)
11) 厚生労働省:医療事故調査制度に関するQ & A(Q1),2015 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061209.html(2019年3月29日access)
12) 日本医療安全調査機構:医療事故調査制度の概要,2017(last update) https://www.medsafe.or.jp/modules/about/index.php?content_id=2(2019年3月29日access)
13) 日本医療安全調査機構:医療事故調査・支援センター2018年—年報,2019 https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/nenpou-h30-all.pdf(2019年3月29日access)
14) 日本医療機能評価機構:医療事故情報収集事業 事例検索 http://www.med-safe.jp/mpsearch/SearchReport. action(2019年3月29日access)
15) 日本医師会医事法関係検討委員会:医師法第21条の規定の見直しについて,2016 http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20160224_1.pdf(2019年3月29日access)
16) 日本救急医学会 診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会,中島和江(監訳):患者安全のための世界同盟—有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン—情報分析から実のある行動へ.へるす出版,東京,2011
17) 全国医学部長病院長会議:医療と刑事司法の関わり方について,2019 https://www.ajmc.jp/pdf/20190221_01.pdf(2019年3月29日access)
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