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「死の谷」を越える
著者: 髙橋淳1
所属機関: 1京都大学iPS細胞研究所
ページ範囲:P.259 - P.260
文献購入ページに移動20年間脳神経外科医として働いたのち,京都大学再生医科学研究所,さらにはiPS細胞研究所に移り,iPS細胞を用いたパーキンソン病治療を目指すことになった.iPS細胞発見の鍵となった「体細胞からES細胞をつくる」という戦略の根拠は,体細胞にも遺伝子はすべて残っているというJohn Gurdon卿の発見であった.周知の通り,下等生物は再生能力が高く,自律的な自己組織再生が可能である.ヒトでは皮膚や腸など一部の細胞に新陳代謝がみられるものの,自己組織再生能力は極めて低い.しかし,体細胞にもすべての遺伝子があるという事実は,自己再生能力の名残であり可能性でもある.治癒とはそもそも自己組織修復であり,「神経再生」とは神経回路の再構築と定義され得る.iPS細胞では体細胞に残されたすべての遺伝子が解き放たれ,細胞レベルでは自己再生能力を再獲得したのだ.
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