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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科47巻5号

2019年05月発行

文献概要

社会的共通資本としての地域医療・私論

著者: 寺岡暉1

所属機関: 1寺岡記念病院

ページ範囲:P.501 - P.502

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 今更言うまでもなく,時代は大きな転換期を迎え,先の見通しは立てにくい.その中にあって,「現代社会の種々の矛盾に満ちた現象は,高度成長をなお追求しつづける慣性の力線と,安定移行期に軟着陸しようとする力線との,拮抗するダイナミズムの種々層として統一的に把握することができる」という社会学的記述4)は,説得力がある.超高齢化と人口減少という人口激変期の高台に立って,「新地域医療」について私論を述べたい.
 「社会的共通資本」は,宇沢弘文7)によれば“自然資本”と“社会的インフラストラクチャー”と“制度資本”の3つのカテゴリーに分類される.このうち制度資本は,教育,医療,金融,司法,行政などで,いかなる所有形態であってもその維持,管理はコモンズによって行われる必要がある.コモンズとはもともと牧草地などの共有地,あるいは日本の場合「入会」という意味で,その地域社会の人たちが利用しているので,フリーアクセスではなく,顔と顔との関係等々が出来上がっている人々が管理している.すなわち信託されたものとして適切に管理される.つまり,「コモンズの悲劇」(ギャレット・ハーディン,Science, 1968)というのは,コモンズという共有地の上に,人間のコモンズが形成されていなかったときに生じる悲劇であって実際には起きない1).神野直彦の論述を借りると,医療というのは医者がサービスの供給者,患者がサービスの需要者ではなく,それは市場の取引関係に基づいて提供されるというのではない.医者と患者が共同体をつくって悲しみや痛みを分かち合う,これが医療行為である.つまり健康を取り戻すという共同作業を,医者と患者が「癒しの共同体」をつくって行うこと,これが社会的共通資本の考え方である.

参考文献

1) 神野直彦:社会的共通資本としての医療・再論.日本医師会講演,2015
2) JST社会技術研究開発センター,秋山弘子(編著):高齢社会のアクションリサーチ—新たなコミュニティ創りをめざして.東京大学出版会,東京,2015
3) 松田晋哉:社会医療法人社団陽正会 寺岡記念病院—コモンズ創設の試みとスローメディシンの実践.病院75:295-300, 2016
4) 見田宗介:現代社会はどこに向かうか—高原の見晴らしを切り開くこと.岩波新書,東京,2018
5) 寺岡 暉:地方における病院医療の課題.病院73:48-46, 2014
6) 寺岡 暉:寺岡記念病院の「コモンズ」の試み—医療・介護・福祉を包括するトータル&シームレスな地域ケアづくり.病院75:514-517, 2016
7) 宇沢弘文,茂木愛一郎(編):社会的共通資本—コモンズと都市.東京大学出版会,東京,1994

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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