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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科47巻7号

2019年07月発行

文献概要

書評

—坂井建雄,河田光博:監訳—プロメテウス解剖学アトラス—頭頚部/神経解剖 第3版

著者: 篠田晃1

所属機関: 1山口大学神経解剖学

ページ範囲:P.793 - P.793

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●プロメテウスが贈る人体を理解する灯火
 『プロメテウス解剖学アトラス 頭頚部/神経解剖』(第3巻)に,待望の日本語第3版(原著ドイツ語第4版)が世に出ることとなった.清楚で美しい図譜が定評の「プロメテウス」は,生理機能や病態・臨床的意義の理解までも目指した詳細な解剖学アトラスである.今回の最新版では,特に神経解剖と歯科口腔領域で目を見張る拡充と改訂がなされている.通常,解剖学シリーズの神経解剖領域は,その構造と機能の複雑さがゆえに中途半端感が残り,他の神経解剖学アトラスや専門書に道を譲ることになる.今回の改訂では最新の情報が加わり,全体の構成が再編された.特に序論が充実し,全体が見わたせるようになり,複雑な中枢神経系の構造の学習への心構えができる.中枢神経系の用語集と要約の大幅な増ページも嬉しい.初学者・学生諸君のみならず教師や研究者にとっても知識の整理として大変助かる.第3巻の神経解剖の章自体で神経解剖学の専門書・専門図譜のレベルに達している.また,医学にとって盲点となりがちな口腔領域の充実した増ページも見逃せない.歯の発生と歯科診療の項が新たに追加され,X線写真と局所麻酔刺入点の写真も加わった.歯科医を目指す学生はもちろん,医学生や若手医師にとっても臨床的理解が助けられ,口腔領域の解剖がいっそう魅力的なものとなったであろう.神経解剖が対象とするのは中枢神経だけではない.脳を理解しようと思えば,末梢神経や感覚器や効果器,そして,それらとの関係について学ばなければならない.頭頚部は,特に顕在意識化された脳の高次機能の入出力の要である.こころを構成する認知や情動や能動について深い理解を目指すならば,この領域の詳細な有機的関係の理解が鍵を握っている.これらが一体化した第3巻は,21世紀の脳科学・神経科学の礎を担っていると言っても過言ではない.
 現実に出会う自然現象には,無数の情報が含まれ,本来複雑である.見えていても見えないものばかりである.科学的解析プロセスはその描写から始まるが,そのままでは真実の不完全な鋳型である.描写から説明文のついた図譜,シェーマ(図式)への過程で整理がなされ理解に至る.しかし,同時に大切な真実が削ぎ落とされていることを忘れてはならない.そういう意味で,われわれは常に御遺体や体そのものに立ち返る必要がある.図譜というものは,真の人体の描写とシェーマを結びつける位置づけにある.描写に近い図譜もあれば,シェーマに近い図譜もある.「プロメテウス」の美しさは,描写の側面とシェーマの側面をもちあわせ,両者を上手くつなぐ整合美にあると言える.特にこの巻の神経解剖は,精緻な図譜とシェーマの絶妙な組み合わせにより,構造と機能が一体のものであるとわかる.これが解剖学図譜を芸術の域に高め,読者を惹きつけて止まぬ所以である.翻訳版はともすると,その過程で原著のエッセンスを失う危惧がある.英訳を介するとなおさらである.今回はドイツ語原著から直接の翻訳であり,訳者に神経解剖学や歯科解剖学の錚々たる面々が参加している.日本語の説明文は,損なうどころか,さらに理解を助ける言葉が散りばめられている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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