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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科47巻9号

2019年09月発行

雑誌目次

術中モニタリングの一考察

著者: 佐々木達也

ページ範囲:P.925 - P.926

 脳神経外科手術に術中モニタリングが用いられるようになって久しい.これまでの努力が患者に還元され,手術成績を向上させていることを信じたい.先日,レビューの依頼があり,2018年にpublishされた英語論文を80編くらいチェックする機会があった.時間のかかる作業ではあったが,読んでみるといろいろと思うことも多かった.そこであらためて,脳神経外科手術における術中モニタリングの現状について考えてみることとした.
 現在の術中モニタリングは多様性に富み,脳神経外科ばかりではなく,整形外科における脊髄・脊椎手術時のモニタリング,大血管手術時のモニタリング,さらには麻酔科など,多くの診療科にまたがっている.今後は,耳鼻咽喉科,眼科,形成外科などでも術中モニタリングが導入され,発展していくと感じている.脳神経外科のモニタリングに限ってみても,世界中の多くの国で施行され論文が発表されている.その中で最も論文が多いのが日本である.米国では脳神経外科医がモニタリングすることはなく,脳神経内科医が担当したり,モニタリング専門の業者が施行したりしている.本邦では脳神経外科医主導でモニタリングがなされており,実際には臨床検査技師や臨床工学技士が担当することが多く,このような体制が論文の量産につながっていると思われる.韓国や中国でもモニタリングが施行され,北米,ヨーロッパ,中近東からの報告も多く,全世界に拡大していくことは間違いないことと思われる.

総説

病態から考える頭蓋内硬膜動静脈瘻の診断と治療

著者: 秋山武紀

ページ範囲:P.927 - P.941

Ⅰ.はじめに
 硬膜動静脈瘻は,硬膜上の病的な動静脈短絡により静脈高血圧を生じ,短絡そのものおよび静脈高血圧によりさまざまな臨床症状を呈する疾患である.疾患の稀少性に加え,完全には解明されていない発生のメカニズム,多様な臨床病態,複数の治療の選択肢,治療法の変遷などにより,疾患の理解と適切な治療の選択・遂行が広く,脳神経外科医の間で浸透しているとは必ずしも言えない.
 本稿では頭蓋内硬膜動静脈瘻の病態に関する知見を整理し,最近の治療法の考え方と選択について総括する.

研究

血管内治療と開頭クリッピング術を要する多発未破裂脳動脈瘤における治療戦略

著者: 福田竜丸 ,   今村博敏 ,   谷正一 ,   足立秀光 ,   福光龍 ,   春原匡 ,   大村佳大 ,   舟越勇介 ,   佐々木夏一 ,   松井雄一 ,   秋山亮 ,   堀内一史 ,   梶浦晋司 ,   重安将志 ,   坂井信幸

ページ範囲:P.943 - P.947

Ⅰ.はじめに
 同時に発見された多発未破裂脳動脈瘤に対して,開頭クリッピング術と血管内治療の両方が必要と判断された場合には,抗血小板薬使用の観点から開頭クリッピング術を先行させ,数カ月後に血管内治療を施すのが一般的と考えられる.しかしながら,その治療方針に対する明確な指針は示されていない.
 今回,当施設で多発未破裂脳動脈瘤に対して開頭クリッピング術後に血管内治療を施行した症例を抽出し,その治療成績を検討したので報告する.

一般救急病院において外科的治療を行った小児頭部外傷のうち,高次脳機能障害を残遺した例の検討

著者: 後藤正幸 ,   伊藤嘉朗 ,   塚田和明 ,   中村和弘 ,   上村和也 ,   石川栄一 ,   松村明

ページ範囲:P.949 - P.956

Ⅰ.はじめに
 小児の死亡原因の第1位は交通事故などの不慮の事故であり,頭部外傷が多く含まれている15).頭部外傷の急性期治療については多くの報告があり,急性期管理の進歩に伴って救命率も向上してきている20).しかしながら,救命し得たとしても,重症例では精神発達遅滞や高次脳機能障害(cognitive dysfunction:CD)を呈し,機能予後不良となることも多い3).これまで,小児頭部外傷におけるCDの実態は十分明らかになっていない.急性期診療に携わっている脳神経外科医にとっては,小児頭部外傷では救命目的で外科治療を行うが,救命し得た症例のCDについて認識しておくことは極めて重要である.
 当院では小児重症頭部外傷で外科治療を行い,回復期リハビリテーション病院への転院を経て,自宅退院した後もリハビリテーションで定期的にフォローを行っている.本研究では,外科治療を要した小児重症頭部外傷におけるCDについて検討した.

テクニカル・ノート

皮質・白質刺激強度相対値を用いた皮質下刺激運動誘発電位による錐体路マッピング

著者: 蛭田亮 ,   藤井正純 ,   古川佑哉 ,   市川剛 ,   鈴木恭一 ,   渡部洋一 ,   根本未緒 ,   佐藤拓 ,   佐久間潤 ,   齋藤清

ページ範囲:P.957 - P.960

Ⅰ.はじめに
 錐体路(cortico spinal tract:CST)近傍腫瘍の手術において,白質(皮質下)電気刺激により運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が得られる刺激閾値を測定し,刺激部位からCSTまでの距離を推定する手法が報告されている1,6).これらの報告では刺激強度の絶対値が用いられているが,MEPは麻酔薬や麻痺,刺激条件などさまざまな影響を受けるため4),距離の推定は必ずしも正確でない可能性があり注意を要する.皮質刺激強度(電流値)と白質直接刺激強度の相対値を用いる方法5)は,刺激電流の絶対値に比べてこれらの影響を軽減できる可能性があり,自験例を交えて報告する.

症例

脳動静脈奇形に合併した慢性被膜化脳内血腫が塞栓術で縮小し臨床症状改善を認めた1例

著者: 園田章太 ,   長島弘泰 ,   山本洋平 ,   青木建 ,   角藤律 ,   三宅美佐代 ,   村山雄一

ページ範囲:P.961 - P.968

Ⅰ.はじめに
 慢性被膜化脳内血腫(chronic encapsulated intracerebral hematoma:CEIH)は,血腫辺縁に被膜を形成する稀な脳内血腫である.その臨床経過は,徐々に血腫が増大し,神経症状が増悪することを特徴とし,何らかの外科的治療介入を要したとの報告が多い2,4-7,9,10,12-17,19,20).この経過は慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma:CSDH)に類似し,また,CEIHの血腫被膜とCSDHの血腫外膜の病理所見には共通点が多くみられることより,病態の類似性が指摘されている13,14).しかし治療に関し,難治性のCSDHに対する中硬膜動脈塞栓術の有効性を示した報告は近年散見される一方,CEIHに対する塞栓術の有効性に言及した報告はない.
 今回われわれは,arteriovenous malformation(AVM)に合併したCEIHの症例を経験した.AVM摘出術のために塞栓術を行ったところCEIHが縮小する経過をたどったので,文献的考察を加え報告する.

術前画像検査で骨肉腫が疑われたintraosseous meningiomaの1例

著者: 丹羽章浩 ,   小林智範 ,   茂木陽介 ,   寺島華江 ,   大村佳大 ,   松本光司 ,   小野由子 ,   川俣貴一

ページ範囲:P.969 - P.975

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫は原発性脳腫瘍の33.8%を占め15),多くが硬膜に沿って発生するが,ごく稀に硬膜とは無関係に骨原発に発生し,intraosseous meningioma(IM)として今までに複数の報告がある.原発性硬膜外髄膜腫の68%が頭蓋冠を含んでおり,IMに多いとされる部位は前頭頭頂部および眼窩部とされ3),術前の画像診断では,骨肉腫や線維性異形成,類骨骨腫との鑑別が問題となる.今回,術前画像検査で骨肉腫が疑われた頭蓋骨腫瘍が,病理診断でIMであった症例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

Optic pathway/hypothalamic gliomaに対するビンブラスチン治療—2症例報告

著者: 山崎文之 ,   髙野元気 ,   米澤潮 ,   田口慧 ,   高安武志 ,   杉山一彦 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.977 - P.984

Ⅰ.はじめに
 Optic pathway glioma(OPG),そしてOPGにhypothalamic gliomaを併せたoptic pathway/hypothalamic glioma(OPHG)などの,完全切除が不能な部位に発生した小児低悪性度神経膠腫の治療・管理における化学療法の役割は,過去20年間で劇的に変化した12).当初,化学療法は手術や放射線療法後の再発に対する救済療法としての選択肢であったが,放射線療法は晩期障害のリスクが高く,一方で,有効な化学療法レジメンが開発された結果,現在では,放射線学的または症候性に進行する切除不能なOPHGを含む小児低悪性度神経膠腫の第一選択治療は,化学療法と考えられている12)
 ビンブラスチン単剤を毎週注射投与する治療法(weekly vinblastine[以下,ビンブラスチンの毎週投与])は,OPHGを含む小児低悪性度神経膠腫における有効な治療法として海外で報告された3,9,12).最初は,カルボプラチンのアレルギーにて治療継続が困難になった患者への治療法として報告され9),続いて,再発・進行性の低悪性度神経膠腫に対するphase Ⅱ studyで有効性が報告された3).さらに,低悪性度神経膠腫に対するファーストラインの化学療法としての有効性も示されたが12),本邦での治療報告論文は,われわれが渉猟し得た限りでは認められない.本稿では保険適用外薬として,1例ごとに院内institutional review board(IRB)で審査を受けて承認後に使用した,OPHGに対するビンブラスチンの毎週投与の治療経験を報告する.

ガンマナイフ治療10年後に微小血管減圧術を行った三叉神経痛の1例

著者: 森木章人 ,   森本雅徳 ,   福岡正晃 ,   山口佳昭 ,   有光誠人 ,   三宅博久 ,   目代俊彦 ,   内田泰史

ページ範囲:P.985 - P.990

Ⅰ.はじめに
 ガンマナイフは1968年,Sweden Karolinska大学のLeksell教授によって開発された定位的放射線治療装置である.日本では既に脳腫瘍や脳動脈奇形での使用が保険適用となっていたが,2015年7月1日より三叉神経痛にも保険が適用されるようになった.しかしながら,ガンマナイフ治療を施行した患者において,長期間経った後に三叉神経にどのような変化が起こっているのか,詳細が知られていないのが現状である.今回われわれは,ガンマナイフ治療10年後に痛みの再燃を来し,微小血管減圧術を行った症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

後下小脳動脈延髄前部の窓形成に発生した紡錘状未破裂脳動脈瘤の稀な1例

著者: 中村光流 ,   江端由穂 ,   日宇健 ,   近松元気 ,   塩崎絵理 ,   森塚倫也 ,   川原一郎 ,   小野智憲 ,   原口渉 ,   牛島隆二郎 ,   堤圭介

ページ範囲:P.991 - P.997

Ⅰ.はじめに
 後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)における窓形成の報告は極めて少ない10,12,15,17).今回われわれは,PICA延髄前部(anterior medullary segment:AMS)の窓形成から発生した紡錘状未破裂脳動脈瘤の稀な1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

特別寄稿

AI時代における脳と心②

著者: 浅野孝雄

ページ範囲:P.998 - P.1006

第Ⅰ部 フリーマン理論とは何か(続き)
2.行動—知覚サイクルを構成するループ
 フリーマン理論6)の骨子は,図1に示す「行動—知覚サイクル(action-perception cycle:APC)」に集約されている.APCは,perception(知覚),space-time(時空),motor(運動),proprioceptive(身体感覚),control(制御)という5つのループによって構成されている.そのそれぞれについて,以下に簡略に説明する.

書評

—坂井建雄:著—図説 医学の歴史

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.1008 - P.1008

●「医学の歴史」教科書の決定版
 650点を超す図版を収載した656ページに及ぶ大冊である.「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史」との表紙帯が付けられている.私からみれば,わが国の明治の近代医学の導入(1868年)以来,150年の年月を経て,わが国の人々が手に入れることができた「医学の歴史」教科書の決定版である.医師・歯科医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師などの医療関係者だけでなく,一般の方々にも広く読んでいただきたい.豊富な図版は,専門知識の有無を問わず本書を読める内容としている.
 教科書としてお読みいただく以上,「飛ばし読みは禁」である.まずは,573ページの「あとがき」からお読みいただきたい.坂井建雄先生の解剖学者・医史学者としての歩みの中から,本書誕生の歴史をたどることができる.坂井先生のこれまでの多数の学会発表,論文,書籍などから,幅広く資料収集に努めていられることは推察していたが,「ここまで!」との絶句が,本書を拝見しての私の第一印象である.

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目次

ページ範囲:P. - P.

欧文目次

ページ範囲:P.923 - P.923

略語および度量衡単位について

ページ範囲:P.1013 - P.1013

次号予告

ページ範囲:P.1015 - P.1015

編集後記

著者: 前原健寿

ページ範囲:P.1016 - P.1016

 今年も猛暑の夏となりました.いくつかの地域で最高気温40度超えが記録されています.ここ数年の夏は,本当に日本なのかというくらい過酷な夏になってしまい,この変化についていくことは容易なことではありません.しかしダーウィンによると,「生き残る種とは,最も強いものでもなく知的なものでもなく,変化に最もよく適応したものである」とされています.日々,過酷な状況に遭遇している脳神経外科医にとっては,この暑さも克服すべき課題の1つかもしれません.
 猛暑のため,落ち着いて論文を読む時間はますます減少しているとは思いますが,今回も『脳神経外科』には,研究論文2編,症例報告5編,テクニカルノート1編の優れた論文が掲載されています.また,今月号の扉は佐々木達也先生の「術中モニタリングの一考察」です.先生のライフワークの1つである術中モニタリングの論文数は日本が最も多いこと,さらに,今後も日本が世界をリードしていくであろうことなど,われわれを大いに勇気づけてくれる一言です.総説では,秋山武紀先生に頭蓋内硬膜動静脈瘻の診断と治療について,病態から詳しく解説していただきました.硬膜動静脈瘻の病態理解のためには,病理組織像および分子レベルでの特徴と,臨床症状に関する流出静脈の形態・静脈高血圧に関する側面を並行して考える必要があるということをわかりやすく提示していただきました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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