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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科48巻6号

2020年06月発行

雑誌目次

脳神経外科医が頭痛診療に取り組むべき10の理由

著者: 柴田靖

ページ範囲:P.477 - P.479

 頭痛は,脳神経内科ではサブスペシャリティーの1つとして取り組んでいる医師が多いが,脳神経外科医で頭痛に関心がある人は少ない.日本頭痛学会の会員も大多数は脳神経内科医であり,脳神経外科医の参加は少ない.私は,脳神経外科医こそが頭痛診療に取り組むべきと考え,その10の理由を説明する.

総説

内視鏡を用いた新たな手術アプローチへの挑戦—髄膜腫に対する内視鏡下鍵穴手術,高齢者での「脳を空気に触れさせない」手術

著者: 岸田悠吾 ,   渡邉督 ,   永谷哲也 ,   関行雄 ,   齋藤清

ページ範囲:P.481 - P.494

Ⅰ.はじめに
 手技の精密さやアプローチの多彩さにおいて開頭顕微鏡手術の完成度は非常に高いものの,あくまで頭蓋外に置いた光源と視点によって観察しているために,深部での視認性にはおのずと限界がある.
 内視鏡手術は,「頭蓋内(=病変の近傍)に視点を置く」という発想の転換によって,小さい入口部からでも深部で明るい広角視野を得ることを可能とした.また,視軸の自由度が高いことによる体位制限の少なさや水中手術などの特性も,多くの脳腫瘍の手術にブレイクスルーと言える違いをもたらすものである.
 内視鏡下の腫瘍摘出術にはさまざまな手法があるが,本稿では髄膜腫に対する小開頭での内視鏡下摘出術について,そのコンセプトや手法を解説していく.また,それを応用して高齢者に対し行っている「脳を空気に触れさせない手術」を紹介する.小開頭は顕微鏡手術では忌避されがちだが,内視鏡手術とは非常に相性がよく,患者の利益に寄与するところの大きい手法である.本稿が普及の一助となれば幸いである.

研究

抗血栓薬内服中の高齢者頭部外傷に対する中和療法の効果に関する検討

著者: 土師康平 ,   末廣栄一 ,   清平美和 ,   藤山雄一 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.497 - P.504

Ⅰ.はじめに
 わが国の高齢化率は上昇傾向にあり,総務省の国勢調査11)によると,2019年現在は26.1%と国民の4人に1人となっている.高齢化率の上昇に伴い高齢者頭部外傷も増加しており,日本頭部外傷データバンク(Japan Neurotrauma Data Bank:JNTDB)10)においても重症頭部外傷の年齢別発生頻度は,20歳台と60歳台の二峰性のピークから,高齢者のみの一峰性のピークに変化している.
 高齢者では抗血栓薬内服患者の割合が比較的高く,JNTDB Project 2015(2015〜2017年登録)13)では,65歳以上の高齢者頭部外傷患者の約30%は抗血栓薬を内服していると報告されている.また同報告によると,抗血栓薬内服患者では非内服患者と比べ,talk and deteriorateが有意に起こりやすいとされており,一般的にも頭部外傷では,抗凝固薬や抗血小板薬の内服は転帰不良の原因とされている8).高齢化率の上昇とともに今後増加してくると推測される抗血栓薬内服中の高齢者頭部外傷において,血腫拡大を防ぎ,良好な転帰を得るために,適切な抗血栓薬の中和に関する検討が必要となる.
 そこで今回,当院へ搬送された65歳以上の頭部外傷患者を対象に,当院での中和プロトコールに基づいて中和を施行した抗血栓薬内服患者に関して,中和の効果を後方視的に検討した.

症例

大型脳室内腫瘍に対する対側神経内視鏡支援による片側開頭顕微鏡下摘出

著者: 佐瀬泰玄 ,   神野崇生 ,   内田将司 ,   吉田泰之 ,   高砂浩史 ,   田中雄一郎

ページ範囲:P.505 - P.508

Ⅰ.はじめに
 近年,神経内視鏡は技術向上や機器改良に伴い,その有用性が増している.内視鏡の役割は,観察から生検や治療に至るまで多岐にわたり,今後もその使用機会の増加が見込まれる.脳腫瘍摘出における内視鏡の役割は,観察や生検鉗子や吸引による摘出に加えて,顕微鏡下摘出の死角となる部位の腫瘍の摘出支援がある.大型鞍上部腫瘍に対する経蝶形骨洞および経頭蓋手術併用や,経脳室内視鏡手術と顕微鏡下経蝶形骨洞手術の同時併用の有効性が報告されている1,4,5).これらの報告は,腫瘍の上下方向からの手術アプローチ併用であった.
 今回われわれは,アプローチ方向をパラレルにした併用術の有効性を経験した.両側脳室正中の腫瘍を摘出する際に,片側側脳室経由の顕微鏡術野で死角となる部分を,内視鏡による対側脳室経由でよりスムーズに摘出できた.治療戦略とその結果を報告し,考察を加える.

優位側椎骨動脈浸潤を伴った頭蓋頚椎移行部硬膜内髄外腫瘍に対し,椎骨動脈塞栓術を行い全摘出し得た1例

著者: 舘澤諒大 ,   岩﨑素之 ,   飛騨一利 ,   長内俊也 ,   川堀真人 ,   守田玲菜 ,   山内朋裕 ,   新谷好正 ,   古川浩司 ,   鐙谷武雄 ,   馬渕正二

ページ範囲:P.509 - P.514

Ⅰ.はじめに
 頭蓋頚椎移行部(craniovertebral junction:CVJ)の腫瘍は,脳神経や延髄,椎骨動脈(vertebral artery:VA)など周囲に重要な構造物が多く,一般的に摘出は困難である.また,VA浸潤を伴った場合,摘出時のVA損傷リスクが高く,安全を期して部分摘出にとどめる例や,長時間に及ぶ手術となることもある.今回,VA浸潤を伴うCVJの硬膜内髄外腫瘍の症例に対し,血管内治療でVA塞栓を先行した上で摘出術を行い,安全に腫瘍の全摘出をし得た症例を経験したため報告する.

Duplicate origin of the middle cerebral arteryに発生した未破裂脳動脈瘤の1例

著者: 岩田牧子 ,   川口正二郎 ,   間中浩

ページ範囲:P.515 - P.520

Ⅰ.はじめに
 中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)の破格には,副中大脳動脈(accessory MCA),重複中大脳動脈(duplicated MCA:DMCA),窓形成(fenestration of the MCA),twig-like MCAがある6).また,fenestration of the MCAとして報告されてきたもののうち,内頚動脈より分岐しMCA水平部に合流するものをduplicate origin of the MCAとして区別するべきとする報告がある5)
 今回われわれは,duplicate origin of the MCAに合併した未破裂脳動脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を交えて報告する.

スノーボード滑走中の繰り返しの転倒により,びまん性脳腫脹を認めた重症頭部外傷の2症例

著者: 大志田創太郎 ,   小守林靖一 ,   大間々真一 ,   眞瀬智彦 ,   井上義博 ,   小笠原邦昭

ページ範囲:P.521 - P.526

Ⅰ.はじめに
 セカンドインパクト症候群は,脳振盪あるいはそれに準ずる軽症の頭部外傷を負い,十分に回復していない数時間〜数週後に2度目の頭部外傷を負うことによって,致死的な脳腫脹を来す病態とされている16,17).この2度目の外傷自体も,単独では致死的な脳損傷を来すほどではない軽症なことが多く,受傷後数時間以内に急激な意識障害を呈する16).発生機序としては,脳血管の自動調節能障害による急性脳腫脹が考えられてきた9,16).その後,多くの症例で急性硬膜下血腫を伴うことが報告され,硬膜下血腫が真の病態ではないかとする意見もある1).その病態は末だ不明ではあるが,重要な点は,軽微な受傷機転でびまん性脳腫脹を伴う重症頭部外傷を発症し得ることである.
 今回われわれは,スノーボードの初心者で緩斜面を滑走中に複数回転倒して急激に意識障害を来し,びまん性脳腫脹を認めた重傷頭部外傷の2症例を経験した.さらに,救命し得た1例のMRI磁化率強調画像において,軸索損傷を示唆する多発微小出血の所見を認めたので報告する.

血管内再開通療法が奏効した鈍的頚動脈損傷による急性期脳梗塞の1例

著者: 齋藤祥二 ,   長谷川仁 ,   佐藤大輔 ,   安藤和弘 ,   本橋邦夫 ,   棗田学 ,   菊池文平 ,   大石誠 ,   藤井幸彦

ページ範囲:P.527 - P.532

Ⅰ.緒  言
 近年,心原性塞栓による脳前方循環主幹動脈急性閉塞に対する血管内再開通療法の有効性が証明された4).一方,鈍的頚動脈損傷に伴い虚血性脳卒中を高率に合併することが報告されているが1),急性期血管内治療を含め,有効な対処法は明らかにされていない.今回われわれは,血管内再開通療法が奏効した鈍的頚動脈損傷による急性期脳梗塞の症例を経験したので報告する.

RNF213遺伝子変異を有するaplastic or twig-like middle cerebral artery末梢の破裂動脈瘤の1例

著者: 福山龍太郎 ,   山村浩司 ,   村田英俊 ,   宮武聡子 ,   松本直通 ,   安部裕之

ページ範囲:P.533 - P.540

Ⅰ.はじめに
 Aplastic or twig-like middle cerebral artery(Ap/T-MCA)は中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)の先天奇形であり,Ap/T-MCAに関連した動脈瘤破裂によるくも膜下出血の報告は散見される2,11,14,16).一方で,ring finger protein 213(RNF213)遺伝子は近年,もやもや病の関連遺伝子とされているが,もやもや病以外の頭蓋内動脈狭窄病変との関連も示唆されている9)
 今回,Ap/T-MCA末梢の破裂動脈瘤の患者でRNF213遺伝子変異を保因していた症例を経験したので報告する.

大量出血で発症した右後頭葉放射線壊死の1例—病理組織学的検討

著者: 髙木友博 ,   継仁 ,   平田陽子 ,   吉岡努 ,   土持廣仁 ,   井上亨

ページ範囲:P.541 - P.546

Ⅰ.はじめに
 放射線治療は,頭蓋内腫瘍や転移性脳腫瘍,脳血管奇形に対して行われる標準治療法の1つである.放射線治療後の遅発性合併症として,髄膜腫や海綿状血管腫などの放射線誘発腫瘍の発生や遅発性放射線壊死が知られている.放射線治療後の脳出血の原因は,一般に海綿状血管腫からの出血報告が多いと言われている3)
 今回われわれは,放射線治療後18年経過して大量出血で発症した症候性遅発性放射線壊死を経験した.遅発性放射線壊死を伴う出血例は珍しく,病理学的検討を加え報告する.

Arterial spin-labeling imagingが診断に有用であったてんかん発症の前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の1例

著者: 田村充 ,   齋藤清貴 ,   入佐剛 ,   大田元 ,   横上聖貴 ,   酒井克也 ,   竹島秀雄

ページ範囲:P.547 - P.552

Ⅰ.はじめに
 前頭蓋窩硬膜動静脈瘻(anterior cranial fossa dural arteriovenous fistula:ACF-DAVF)は全DAVF中6%程度の頻度の稀な疾患であるが,そのうち61〜91%は脳出血を契機に発見されると報告されており1,5,9),てんかん発作で発見される症例はさらに稀である.一般的に,DAVFは発生部位・症状が多様であり,神経学的症候のみで積極的にこの疾患を疑うことが困難な場合もあり,診断に苦慮することも珍しくはない.画像診断のgold standardは脳血管造影(digital subtraction angiography:DSA)検査であるが,侵襲度が高い検査であり,強く疑われる症例にのみ適応されるべきと考えられる.Arterial spin-labeling imaging(ASL画像)は,造影剤を用いずに脳組織灌流状態を撮像できるMRI検査法の1つであり,脳血管障害や脳腫瘍などの血流評価に臨床応用されている.
 今回,特徴的なASL画像所見に基づき診断に至った,てんかん発症のACF-DAVFの症例を経験したので報告する.

脳神経外科診療に役立つ薬物療法の知識

抗てんかん薬の使い方

著者: 十河正弥 ,   松本理器

ページ範囲:P.553 - P.559

Ⅰ.はじめに
 てんかんは,有病率約0.4〜0.8%と頻度の高い神経疾患である.また,近年では高齢発症例や脳卒中後てんかんも増加傾向にある.脳神経外科領域においては,脳腫瘍や手術後に症候性てんかんを合併することも多い.抗てんかん薬による薬物療法はてんかん治療の中心であり,一般的には抗てんかん薬により約70%の患者は寛解状態となる.近年は新規抗てんかん薬の出現により,治療の選択肢もさらに増加しており,成人てんかん患者の薬物療法についての理解は,脳神経外科領域においても重要事項の1つである.
 本稿ではまず総論として,2018年に日本神経学会から出版された『てんかん診療ガイドライン2018』10)の内容を中心に,成人てんかんの薬物療法について述べる.その次に,脳神経外科領域にかかわる話題として,てんかん重積の最近のトピック,脳腫瘍関連てんかん,脳卒中後てんかんについて述べる.

連載 脳神経外科と数理学

(6)脳神経外科領域におけるゲノムワイド関連解析(GWAS)

著者: 白井雄也 ,   岡田随象

ページ範囲:P.561 - P.570

Ⅰ.はじめに
 ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)は,バリアントと形質の関連をゲノム全体で網羅的に調べる解析法であり,多くの疾患に関連するバリアントが報告されている.近年では,国際コンソーシアムやバイオバンクの台頭に伴い,100万人以上のGWASが施行されており,主要な結果は公共の財産としてデータベース化されている(GWAS catalog)12).また,GWAS結果を活用した解析法により,疾患にかかわる細胞・組織の同定,疾患同士の関連の評価,疾患に影響するバイオマーカーの探索,他疾患からの「ドラッグ・リポジショニング」などの幅広い応用が可能となっている.
 本稿では,遺伝統計学の基礎となるGWASについて基本的な手法の説明を行い,次に脳神経外科領域での解析例,そして最後に,複数のGWAS結果を統合した解析手法について紹介する.

書評

—森島祐子,仁木久恵,Flaminia Miyamasu:著—医療英会話キーワード辞典—そのまま使える16000例文

著者: 川名正敏

ページ範囲:P.495 - P.495

●病歴聴取や説明,治療同意で使える英語をバラエティー豊かな例文で学べる
 最近の外国人旅行者の増加,そして今後の外国人労働者の受け入れ拡大が議論される中,医療現場における外国人への対応は喫緊の課題になっています.
 筑波大学の森島祐子先生らが2006年に発刊された本書の兄貴(姉貴)分である『そのまま使える病院英語表現5000』は,外来・救急現場・病棟などさまざまな場所で大活躍しており,私もこの本の大ファンの1人です.外国人の患者さんに対して最初のコンタクトを取る際に,受付・外来診察室・手術室など,それぞれの関連ページを開いてそこに記載されている文章を読み上げれば(場合によってはお見せすれば)よいということで,多職種の人たちがあまり躊躇せずに外国人の患者さんとのコミュニケーションを取れるようになってきました.

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目次

ページ範囲:P. - P.

欧文目次

ページ範囲:P.475 - P.475

次号予告

ページ範囲:P.573 - P.573

編集後記

著者: 前原健寿

ページ範囲:P.574 - P.574

 本年4月7日に出された新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言は,連休が終了した後も5月末までの延長が決定しました.5月末に緊急事態宣言は解除されたものの,第二波・第三波に対するより一層の注意が必要です.本学では,脳神経外科予定手術がすべて中止になりましたが,多くの施設でも予定手術の制限・縮小により,脳神経外科通常業務に多くの支障が生じています.脳神経外科専門医試験受験生にとっては,7月末に予定されていた専門医試験が11,12月に延期になったことで,心理的な負担が増えたのではないかと心配しています.
 不要不急の外出を避けていると,自然と本と向き合う時間が増えるのではないでしょうか.逆に,この時期だからこそ『脳神経外科』をじっくり読む機会ができたと前向きに考えることもできます.本号の扉では,柴田靖先生が「脳神経外科医が頭痛診療に取り組むべき10の理由」を簡潔かつ明瞭に解説してくださいました.「脳神経外科医こそ頭痛診療に取り組むべきだ」という先生の熱いメッセージをひしひしと感じることができます.総説では,岸田悠吾先生らが内視鏡を用いた新たな手術アプローチ法として,髄膜腫に対する内視鏡鍵穴手術——特に高齢者手術において脳を空気に触れさせないこと——の重要性を丁寧に解説してくださっています.若手脳神経外科医にとって,内視鏡手術はぜひ習得すべき技術であり,本手術の今後の発展が期待できる総説です.さらに,「脳神経外科診療に役立つ薬物療法の知識」では十河正弥先生・松本理器先生が抗てんかん薬の使い方について,また,連載「脳神経外科と数理学」では白井雄也先生・岡田随象先生が脳神経外科領域におけるゲノムワイド関連解析を紹介しています.脳神経外科の臨床・研究において,非常に役立つ連載です.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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