icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科49巻1号

2021年01月発行

雑誌目次

特集 脳動脈瘤—Q & Aで学ぶ開頭術,血管内治療のコツと使い分け

Editorial

著者: 吉村紳一

ページ範囲:P.7 - P.7

 脳動脈瘤に対する治療は,血管内治療の進歩により大きな変貌を遂げようとしています.破裂脳動脈瘤においては,ランダム化比較試験ISATでコイル塞栓術の外科的治療に対する優位性が示されてから広く普及しました.一方,未破裂脳動脈瘤においては,ステント併用コイル塞栓術やフローダイバーター留置術が施行可能となったことで適応が一気に拡大し,治療数が急速に増加しています.
 しかしながら,現在も脳動脈瘤治療の半数近くを開頭術が占めており,最新デバイスを用いた血管内治療をもってしても開頭術に優位性がある症例が相当数あることに留意すべきです.特に,動脈瘤自体から重要な分枝のある症例などは血管内治療がさらに発展しても,外科的治療のよい適応として残ることが予想されます.したがって,血管内治療だけでなく外科的治療の技術を磨くことは,脳動脈瘤治療を安全に行うために重要です.

Ⅰ脳動脈瘤治療に必須な基礎知識

脳動脈瘤の自然歴とエビデンスを患者にどう説明すればよいか?

著者: 森田明夫

ページ範囲:P.8 - P.14

Point
・未破裂脳動脈瘤は頻度の高い病態であり,患者は過大に不安になる傾向があるが,まず重要なことは生活習慣の改善である.
・破裂のリスクや予測スコア,各種臨床試験,施設の治療成績といったデータを患者に提示し,意見交換を行った上で治療すべきかを決定する.
・脳動脈瘤発見後の経過観察では,初回は比較的早めに一度画像評価をしておくとよい.

脳動脈瘤治療に必要な検査とその撮影法はどのようなものか?

著者: 小泉聡 ,   中冨浩文

ページ範囲:P.16 - P.23

Point
・造影CTおよびMRIを用いた血管評価も発展しているが,動脈瘤術前検査のスタンダートは脳血管撮影である.
・破裂脳動脈瘤においては,CT angiographyと脳血管撮影をもとに開頭術と血管内治療のいずれが適切かを急性期に判断する.
・未破裂脳動脈瘤においては,造影CT,MRI,脳血管撮影を総合的に評価することが安全な治療に寄与する.

Ⅱ脳動脈瘤に対する外科的手術のコツ

脳動脈瘤手術の体位と頭部固定における重要なポイントは?

著者: 榊原史啓

ページ範囲:P.24 - P.30

Point
・スカルピン刺入部位は,前頭洞・側頭骨などの骨菲薄部や,頭皮の動脈や静脈洞の直上を避ける.
・頭部の回旋(rotation),頚部の屈曲・伸展(vertex up or down),側屈(tilt)の3要素を意識して頭位を決定する.
・頭部固定では,頭部を挙上し頭蓋内圧を下げ,頚部過屈曲による静脈還流障害を避ける.

術後の整容を考慮した皮膚切開と開頭はどう設定したらよいか?

著者: 嶋村則人 ,   大熊洋揮

ページ範囲:P.31 - P.40

Point
・側頭部では毛流と交差する皮膚切開(皮切)を置き,前頭部ではスカルペルを顔面側に約50°倒して皮毛角と平行にする.
・側頭筋は尾側から頭側へ凝固せずに剝離すると血流と支配神経が温存され,筋萎縮を回避できる.
・骨切り線は自家骨粉などの骨に置換される材料で補塡し,人工物とともに骨膜付き帽状腱膜下疎性結合織にて覆う.
・帽状腱膜のみを短い縫い代で密に縫合し,表皮は接触させる程度にskin staplerや細いナイロン糸にて縫合する.

シルビウス裂と大脳半球間裂を無血で開けるコツは?

著者: 松川東俊 ,   吉村紳一

ページ範囲:P.41 - P.50

Point
・経シルビウス裂アプローチや経大脳半球間裂アプローチは基本的アプローチである.
・いずれのアプローチも無血で行うためにはいくつかのコツがある.
・開頭およびアプローチ,いずれにおいても適切な止血が重要である.
・アプローチ中は弱すぎず,強すぎない牽引を常に意識する.
・手術顕微鏡の拡大倍率(弱拡・強拡)を必要に応じて使い分ける.

動脈瘤周囲の剝離と安全確実なクリップのかけ方は?

著者: 水谷徹

ページ範囲:P.52 - P.71

Point
・安全確実なマイクロサージャリー,クリッピングを行うためには,安定したハサミ操作のもとに無血の術野を目指すことが大切である.
・ふるえのない安定した操作を行うために,体位どり,セッティング,術者の姿勢,ポジションや手を置く位置とそれに基づいたハサミや道具の動きがすべて連動していることを認識する.
・クリッピングはクリップ鉗子と吸引管を両手で連動させ,最後まで先端が視認できるような操作(blading technique)を目指す.
・クリッピングの際は癒着血管の剝離が必要かどうかを判断し,剝離を必要としない安全なデザインをまず考えて,どうしても必要な場合にのみ剝離する.

動脈瘤手術に併用するバイパス—どう選び,実践すればよいか?

著者: 太田仲郎 ,   野田公寿茂 ,   谷川緑野

ページ範囲:P.73 - P.80

Point
・脳動脈瘤を治療する上で行われるバイパスの目的を理解する.
・ハイフローバイパス(high flow bypass)とローフローバイパス(low flow bypass)の違い,その選択方法を理解する.
・各動脈瘤部位に応じたバイパスの選択肢について理解する.

術中破裂をどう回避し,破裂時にはどう対応するか?

著者: 石川達哉

ページ範囲:P.81 - P.88

Point
・破裂は動脈瘤の剝離の段階で起こることが多い.破裂の際にとるべき吸引管をはじめとした手術器具の配置や操作について学んでおく.
・破裂時には直感的な方法で,自動的に対処ができるようになるのが望ましく,それにはある程度の経験や学習が必要である.
・虚血性合併症の発生を防ぐため,破裂時や破裂予防のための母血管の一時遮断の功罪や遮断時間の目安についてよく理解しておくことが望ましい.

術中モニタリングを自分で行うポイントは?

著者: 佐々木達也

ページ範囲:P.89 - P.92

Point
・術中モニタリングの種類の選択:運動誘発電位は皮質刺激か経頭蓋刺激か? 上肢か下肢か? 視覚誘発電位は? 体性感覚誘発電位は?
・反応波形が悪化・消失したときの対処法:クリッピング後であれば,クリップを抜去する.血流一時遮断中であれば,可及的早期の遮断解除を目指す.手術操作後の悪化消失時には,手術操作を休止して波形の回復を待つ.
・ピットフォールと対処法:麻酔法.経頭蓋刺激運動誘発電位の刺激閾値の変化.脳牽引解除後の波形の悪化・消失.

Ⅲ脳動脈瘤に対する血管内治療

カテーテルの選択と誘導における重要ポイントは?

著者: 金城典人

ページ範囲:P.93 - P.104

Point
・コイル塞栓術に使用されるカテーテルの種類やそれぞれの特徴を学び,コイル塞栓術に必要なデバイスを知る.
・各カテーテルの誘導方法,誘導時の組み合わせやそのコツを学び,安全なコイル塞栓術を行う手順を知る.
・カテーテル誘導の際の注意点や手技が上達するためのポイントを知る.

コイルの選択と挿入法および離脱困難時の対応は?

著者: 松丸祐司 ,   鯨岡裕司

ページ範囲:P.105 - P.110

Point
・虎の門病院における未破裂脳動脈瘤症例の後方視的な研究より,1stコイルが留置コイルの体積の1/3以上を占めると,再発・再治療が少なくなることが明らかとなった.
・コイルを留置しながらカテーテルの位置を調整するためには,機器の把持の仕方を工夫する必要がある(Fig. 1).
・離脱不良とその対応には機器の添付文書を参照する.離脱位置の確認や電源部(パワーサプライ)の交換などでも離脱できない場合,推奨されないが,ワイヤーの回転によるねじ切りやワニグチクリップによる電気回路の再建などの手段もある.

脳動脈瘤用バルーンとステントの選択と使用のコツは?

著者: 白川学

ページ範囲:P.111 - P.118

Point
・バルーンおよびステントを用いてneck remodelingを行う際は,各デバイスの特徴を理解して症例ごとに選択すべきである.
・ステントアシストテクニックは,バルーンアシストテクニックと比較して合併症率は高くないが,抗血小板薬の長期内服が必要となる.
・Semi-jailingテクニックにopen-cell stentを用いるとマイクロカテーテルの可動性を高め,塞栓率も上昇する.

フローダイバーターの適応と留置のコツは?—Pipeline FlexとFREDの違い

著者: 石井暁

ページ範囲:P.119 - P.127

Point
・PipelineTM FlexとFREDTMで適応血管が異なる.脳底動脈,前大脳動脈および中大脳動脈近位部はFREDTMのみ適応となる.動脈瘤最大径はいずれも5 mm以上である.
・両端フレアエンドを有するFREDTMは展開操作が容易であるが,全長展開後の修正はPipelineTM Flexと比較するとやや難しい.
・硬膜内動脈瘤でのコイル併用は勧められるが,完全に遅発性破裂を予防できるわけではない.

術中破裂を避ける工夫と破裂時の対応は?

著者: 松本康史 ,   鹿毛淳史 ,   面高俊介 ,   佐藤健一 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.128 - P.134

Point
・破裂時にしてはいけないこと:穿孔したカテーテルやコイルを慌てて抜去してしまう.
・破裂時にすべきこと:血圧を下げる,ヘパリンをリバースする,バルーンで動脈瘤への血流を遮断する.

血栓症を避ける工夫と術中の対応は?

著者: 榎本由貴子

ページ範囲:P.136 - P.145

Point
・脳血管内治療は,抗凝固薬,抗血小板薬いずれも必須な環境下での治療であり,周術期抗血栓療法が必須である.
・術中血栓症には抗血小板薬の追加投与が基本であるため,投与ルートや投与薬剤を準備しておくことが肝要である.
・抗血小板薬の効き具合には個人差があるため,周術期は虚血性合併症を回避するための不応症検出に,慢性期は出血合併症を回避するための過剰発現の検出に,血小板機能検査を用いたモニタリングが有効である.

新たな分岐部脳動脈瘤用デバイス(PulseRider,W-EB)の適応と使用法は?

著者: 今村博敏 ,   坂井信幸

ページ範囲:P.146 - P.155

Point
・分岐部wide neck型脳動脈瘤に対する新たなデバイス(PulseRider,W-EB)が2020年から使用可能になった.
・PulseRiderは2本の分岐血管をカバーするように展開され,動脈瘤へ挿入するコイルの親動脈への逸脱を防ぐデバイスである.
・W-EBは動脈瘤内に留置することで,瘤内への血流を遮断し,血栓化を促進し動脈瘤を閉塞させるデバイスである.

Ⅳ脳動脈瘤治療の使い分け—現状と未来

脳動脈瘤治療の使い分けのキーポイントは?

著者: 吉村紳一

ページ範囲:P.156 - P.163

Point
・破裂・未破裂脳動脈瘤に分けて治療選択を考える必要がある.
・使い分けのキーポイントは動脈瘤の解剖学的構造と患者の全身性疾患を考慮して,安全な方法を選択することである.
・血管内治療の新規デバイスが導入されることによって徐々に適応が拡大しているが,既存の治療との優劣が証明されていないことを念頭に置いて選択することが重要である.

脳動脈瘤治療の未来

著者: 金子直樹 ,   立嶋智

ページ範囲:P.164 - P.169

Point
・現在,脳動脈瘤の薬物治療は確立されていないが,破裂には炎症が強くかかわっていることが示唆され,スタチンやアスピリンに注目が向けられている.
・近年登場した新規デバイス(フローダイバーター,W-EB,PulseRider)により,血管内治療の適応はさらに拡大しつつある.
・ロボット支援技術が血管内治療で応用され始めている.放射線被曝の低減だけでなく,将来的には自動化による安全性向上,遠隔治療などの可能性も秘めている.

総説

パーキンソン病に伴う脊椎変性疾患の治療

著者: 岩室宏一 ,   尾原裕康 ,   梅村淳 ,   服部信孝 ,   新井一

ページ範囲:P.171 - P.184

Ⅰ はじめに
 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は,かつて「発症後10年で寝たきりになる」と言われ,実際,L-ドパが使われる以前には発症後の平均生存期間は9.4年であり,死亡率も非PD群の約3倍であると報告された1).しかし,1970年代に治療薬としてL-ドパが普及し,その後,PD治療はめざましく進歩した.1986年以降の信憑性の高い発端コホート研究2)に限れば,PDの死亡率は非PD群の約1.5倍という報告が多数である.
 発症後の生命予後が延長した一方で,PDの長期罹患に伴う合併症にどう対処するか,つまり,機能予後をいかに改善するかが新たな課題になっており,その1つが脊椎変性である.その背景には,PDの有無にかかわらず加齢性疾患を発症するということだけではなく,PD症状としての傍脊柱筋の筋緊張異常や姿勢保持障害によって,PDでは非PDとは異なる生体力学的・生理学的作用が脊椎に働いていることがあると考えられる.
 本稿では,PD患者の脊椎変性の特徴を概説し,脊椎外科の観点からみた治療の可能性と限界を考える.

症例

トルコ鞍内から鞍上部に存在した上衣腫の1例

著者: 橋野洸平 ,   佐藤拓 ,   岸田悠吾 ,   黒見洋介 ,   喜古雄一郎 ,   山田昌幸 ,   丹原正夫 ,   佐久間潤 ,   齋藤清

ページ範囲:P.185 - P.191

Ⅰ.はじめに
 上衣腫は小児,若年者に発症することが多く,脳室壁を形成する上衣細胞から発生する腫瘍である.トルコ鞍から鞍上部に上衣腫を認める症例は非常に稀である.今回,高齢者においてトルコ鞍から鞍上部に上衣腫を認め,経鼻内視鏡手術により予後良好であった1例を報告する.

未破裂前交通動脈瘤クリッピング術後,麻酔覚醒中に発症した致死性急性脳腫脹の1例

著者: 四方志昂 ,   磯﨑誠 ,   菊田健一郎

ページ範囲:P.193 - P.197

Ⅰ.緒 言
 これまで,未破裂脳動脈瘤の開頭クリッピング術において,急性脳腫脹を来したという報告はない.今回われわれは術中に致死性急性脳腫脹を生じた未破裂前交通動脈瘤の症例を経験したため報告する.

下位脳神経麻痺で指摘された頚静脈孔部動静脈瘻の1例

著者: 佐瀬泰玄 ,   小野寺英孝 ,   中村歩希 ,   川口公悠樹 ,   榊原陽太郎 ,   田中雄一郎

ページ範囲:P.199 - P.203

Ⅰ.はじめに
 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の発生部位としてanterior condylar confluent(ACC)部は時に見受けられる.一方で,その近傍に発生する稀な頭蓋外動静脈瘻として上行咽頭動脈-内頚静脈瘻(ascending pharyngeal artery-internal jugular vein fistula:APA-IJV AVF)がこれまでに5例報告されている1-3, 7, 8).今回は,下位脳神経麻痺で発見されたAPA-IJV AVFを経験し,経静脈的塞栓術(transvenous embolization:TVE)で治療したので報告し,考察を加える.

教訓的症例に学ぶシリーズ

術後短期間で死亡した大細胞神経内分泌癌の脳転移例の1例

著者: 尾崎祥多 ,   栁澤俊介 ,   坂倉悠哉 ,   野田龍一 ,   玉井雄大 ,   井上雅人 ,   岡本幸一郎 ,   猪狩亨 ,   原徹男

ページ範囲:P.205 - P.210

Ⅰ.経験症例
〈患 者〉 77歳 男性
既往歴 特記事項なし

--------------------

目次

ページ範囲:P.2 - P.3

欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.5

次号予告

ページ範囲:P.212 - P.212

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?