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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科49巻3号

2021年05月発行

雑誌目次

特集 グリオーマ—現在の常識と近未来のスタンダード

Editorial

著者: 武笠晃丈

ページ範囲:P.465 - P.465

 グリオーマなど脳腫瘍の診療は,近年目覚ましい発展を遂げている.これは,診断においては次世代シーケンサーの登場をはじめとする分子遺伝学的解析技術の加速度的な進歩により,そのゲノム・エピゲノム異常の解明が急速に進み,2016年に改訂された中枢神経系腫瘍のWHO分類においても,分子遺伝学的異常に重きを置く病理診断が画期的な形で導入されたことにも象徴されている.今や常識となったグリオーマのIDH遺伝子異常にしても,それが初めて報告されたのは2008年であり,まだ10年と少ししか経っていない中での日常臨床でのスタンダードの変化には驚くべきものがある.この分子遺伝学的異常の同定は画像解析技術の進歩とも相まって,radiomics/radiogenomicsという新しい分野も拓きつつある.また,2019年にはがん遺伝子パネル検査が保険収載されるなど,ゲノム医療は実際の治療へ向けても応用されつつある.
 治療においては,特に医用工学的な進歩が目覚ましく,画像解析技術向上による精細な術前シミュレーション画像作成などの周術期支援強化に加え,手術の現場も大きく変容しつつある.術者による職人技を支えるさまざまな電気生理学的モニタリング技術やナビゲーションシステムの進歩と普及,神経内視鏡の一般化や外視鏡などの機器の開発,術中MRIの導入など種々の変革がもたらされ,われわれ医師はこれらの新技術に対応できる必要がある.手術以外でも,放射線治療機器・技術の向上のほか,分子標的療法,免疫療法やウイルス療法などさまざまな治療法開発が急ピッチで進んでいる.

Ⅰ知っておくべきグリオーマの生物学的基礎知識

グリオーマのゲノム・エピゲノム異常

著者: 大場茂生

ページ範囲:P.466 - P.475

Point
・グリオーマの発生にはさまざまなゲノム・エピゲノムの異常が関与している.
・ゲノム・エピゲノム異常には診断マーカーや予後因子,予測因子として有用なものも多く含まれる.

グリオーマの細胞生物学

著者: 立石健祐

ページ範囲:P.476 - P.484

Point
・腫瘍起源が神経幹細胞,前駆細胞由来であることを支持する研究成果を概説する.
・グリオーマの発生・進展につながる遺伝子異常の役割について実験結果を紹介する.
・腫瘍内多様性,神経—腫瘍ネットワークについて最近の研究結果を紹介する.

—▼TOPICS—海外での基礎研究と治療開発の動向—基礎研究留学の意義

著者: 大須賀覚

ページ範囲:P.485 - P.489

Point
・免疫応答と腫瘍周辺環境がグリオーマ分野の主要研究トピックとなっている.
・グリオーマ分野の基礎研究は米国と中国が牽引している.

Ⅱグリオーマの疫学と診断

疫学

著者: 篠島直樹

ページ範囲:P.491 - P.499

Point
・原発性脳腫瘍においてグリオーマは髄膜腫に次いで多く,およそ20%前後を占める.
・熊本県脳腫瘍統計ではグリオーマは年々増加傾向だが,米国脳腫瘍統計(CBTRUS)では減少傾向である.
・熊本県および米国ではグリオーマは小児において増加傾向である.

グリオーマの画像診断とradiomics

著者: 木下学

ページ範囲:P.501 - P.509

Point
・グリオーマ診療でCTやMRIなどの放射線画像を正しく理解するためにはある程度の基礎・理論を知っておくことが望まれる.
・定性画像と定量画像それぞれの利点と欠点,ならびに撮影条件の基本をおさえよう.
・Radiomicsなどの新規技術はこれからもますます発展すると思われるが,過度の期待は禁物である.

病理分類—改訂版WHO分類とcIMPACT-NOW

著者: 増井憲太 ,   小森隆司

ページ範囲:P.510 - P.519

Point
・2016 WHO分類でのグリオーマの診断には,分子情報を含む「統合診断」が要求される.
・WHO分類に基づく分子診断の実践的問題に対し,cIMPACT-NOWの提言がなされた.
・加速する脳腫瘍の分子分類に対し,遺伝子パネルやAIの利用が期待されている.

脳腫瘍におけるがんゲノム診断の臨床応用

著者: 高橋雅道

ページ範囲:P.520 - P.526

Point
・2019年に本邦でもがん遺伝子パネル検査が保険収載され,がんゲノム医療がスタートした.
・脳腫瘍患者が参加できる臨床試験・治験はまだ少ないが,今後増加することが予想される.
・脳腫瘍に効果をもつ薬剤を探求する意味でも,積極的にがんゲノム医療に参加することが重要である.

—▼TOPICS—グリオーマの低侵襲的診断法—Liquid biopsyの現状および展望

著者: 棗田学 ,   温城太郎 ,   渡邉潤 ,   塚本佳広 ,   岡田正康 ,   藤井幸彦 ,   安達淳一 ,   西川亮

ページ範囲:P.527 - P.534

Point
・脳腫瘍の低侵襲診断法liquid biopsyには,ddPCRによるctDNAの解析が有用である.
・ctDNAの検出精度を向上させるためには,脳脊髄液サンプル採取後に適正な処理が重要である.
・将来的には次世代シーケンスゲノムパネル検索や融合遺伝子解析が可能となると期待される.

Ⅲグリオーマの手術technique

グリオーマ手術手技と手術支援技術の基本

著者: 齊藤邦昭

ページ範囲:P.536 - P.548

Point
・グリオーマ手術の目標は“maximum safe resection”である.
・Subpial dissectionでの境界剝離はグリオーマ手術において有用である.
・穿通枝に至るまで血管を温存して術後合併症を回避する.

—▼TOPICS—最新のグリオーマ手術支援機器と術中MRIの活用法

著者: 齋藤太一 ,   村垣善浩

ページ範囲:P.549 - P.555

Point
・術中MRIはbrain shiftの補正,残存腫瘍の検出による摘出率の向上に有用である.
・術中フローサイトメトリーは術中に腫瘍悪性度の評価ができ,摘出戦略の検討に貢献する.
・光線力学的療法は膠芽腫に対する安全性と有効性が承認され,生存予後の延長に寄与する.

脳神経ネットワークと覚醒下手術

著者: 木下雅史 ,   中田光俊

ページ範囲:P.556 - P.567

Point
・覚醒下手術はグリオーマに対する有用な治療法として確立された手法である.
・大脳の多くの神経ネットワークが解明され,術中評価と機能温存が可能となった.
・さまざまな高次脳機能温存と神経機能解明のために,覚醒下手術の発展が期待される.

—▼TOPICS—神経内視鏡および外視鏡の応用

著者: 荒川芳輝

ページ範囲:P.568 - P.574

Point
・神経内視鏡手術は,深部型グリオーマに対して低侵襲での腫瘍摘出が可能である.
・ポートを用いる腫瘍摘出では腫瘍内部からの摘出になるため,腫瘍出血の制御に注意が必要である.
・外視鏡手術ではビデオカメラのポジションの自由度が高く,術者の視軸では得られないような鏡視軸での手術操作が可能となる.
・外視鏡手術は表層型グリオーマの摘出に応用でき,特に覚醒下手術では有用である.

Ⅳグリオーマ治療法update

放射線療法

著者: 井垣浩

ページ範囲:P.575 - P.587

Point
・多様な病理型のグリオーマに対する放射線療法は,膠芽腫に対するエビデンスを基に構築されている.
・線量分割法や標的体積の決定法に関するエビデンスは少ない.
・強度変調放射線治療(IMRT),粒子線治療,ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)などの新たな放射線治療モダリティが用いられるようになりつつある.

化学療法

著者: 齋藤竜太

ページ範囲:P.588 - P.596

Point
・全身化学療法において,血液脳関門により化学療法薬の脳腫瘍内集積は制限される.
・カルムスチン脳内留置用剤は,局所高濃度化学療法を達するが浸透性に限界がある.
・脳腫瘍への化学療法は,有効性向上に向けた研究が必要とされる分野である.

—悪性神経膠腫に対するVEGFを中心とした—血管新生標的療法および免疫療法の効用と展望

著者: 石川栄一 ,   宮崎翼

ページ範囲:P.597 - P.607

Point
・悪性神経膠腫において,豊富な新生血管を標的とした抗VEGF抗体療法は患者の急激な病態悪化の制御に有用である.
・VEGFおよびそのシグナル経路の関連分子は免疫抑制微小環境の形成を促進しており,これらの分子を標的とする療法はこの環境改善にも寄与すると期待される.
・悪性神経膠腫においても免疫チェックポイント阻害薬は最も注目される療法であるが,本療法自体は微小環境における免疫応答のブレーキの一部を解除する役割のため,アクセルすなわち獲得免疫を刺激するような免疫療法との併用,抗VEGF抗体療法や腫瘍関連マクロファージ(TAM)阻害薬など免疫抑制環境を抑制する治療法との併用が望ましい.

—▼TOPICS—グリオーマの遺伝子治療,ウイルス療法

著者: 黒住和彦 ,   小泉慎一郎 ,   大谷理浩

ページ範囲:P.608 - P.616

Point
・遺伝子治療は,腫瘍治療を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することである.
・ウイルス療法は,腫瘍特異的に腫瘍溶解性ウイルスが増殖し腫瘍を破壊する治療である.
・遺伝子治療,ウイルス療法も,さまざまな臨床試験が行われており,最近では認可される予定のものもある.さまざまな角度から検討と改良が加えられ,ますます発展していく.

—▼TOPICS—臨床留学からみえる海外でのグリオーマ診療

著者: 髙見浩数

ページ範囲:P.617 - P.622

Point
・北米では分業が定着し,各部署が「自分の」患者としてケアに当たるため,効率的でスピーディなグリオーマ治療が可能となる.
・グリオーマの治療内容や治療成績は先進国で大差ないが,保険システム,人種の多様さ,宗教などの違いが,医療の提供の大きな違いを生んでいる.
・海外の医療の見聞は,日本の医療の強みや常識と捉えてきたことを見直し,また共通項が普遍的な価値であることを知る機会になる.

Ⅴ各種グリオーマの集学的治療戦略

膠芽腫

著者: 田中將太

ページ範囲:P.623 - P.631

Point
・膠芽腫に対し,外科的摘出,放射線療法,化学療法による集学的治療が重要である.
・腫瘍治療電場を利用したNovoTTF(オプチューン®)が,初発膠芽腫の新規治療として認可された.
・症候性てんかんには,薬剤相互作用の少ない新規抗てんかん薬が選択されることが多い.

低悪性度グリオーマ

著者: 本村和也

ページ範囲:P.632 - P.639

Point
・低悪性度グリオーマに対する外科手術は,supratotal resectionを含め腫瘍摘出度が高いほど,生存期間や再発までの期間を延長することができる.
・高リスクのWHO grade Ⅱグリオーマに対しては,放射線治療に加え,PCV(procarbazine, CCNU, vincristine)療法が推奨される.
・1p/19q共欠失のある退形成性乏突起膠腫において,放射線治療にPCV療法を上乗せすることで有意な予後の延長を認める.
・分子分類に基づいた組織型別の治療法が開発され,さらに新規薬剤である変異型IDH1選択的阻害薬の併用療法にも期待したい.

小児グリオーマ

著者: 寺島慶太 ,   荻原英樹

ページ範囲:P.640 - P.646

Point
・小児グリオーマの多様な病態と解剖を理解し,正確な手術適応に基づいた脳神経外科手術を行う.
・小児グリオーマの分子生物学的特徴を理解し,正確な診断および精密な治療を行っていくことが必要である.
・現在,小児グリオーマの治療に対して新しい分子標的薬の臨床応用が急速に進んでいる.

高齢者グリオーマ

著者: 山崎文之 ,   高安武志 ,   花谷亮典

ページ範囲:P.647 - P.659

Point
・臓器機能や認知機能の低下に対して高齢者総合機能評価(CGA)を行い,治療強度を適切に調整する.
・脆弱(unfit)の高齢者患者に対して寡分割放射線照射やテモゾロミド単独療法などが開発され,非劣性が示された.
・高齢者グリオーマに対するてんかん治療では,臓器機能や認知機能と薬物代謝に配慮が必要である.

—▼TOPICS—グリオーマ患者のQOL評価の意義

著者: 沖田典子 ,   成田善孝

ページ範囲:P.660 - P.664

Point
・多くのがん腫でpatient reported outcome(PRO), quality of life(QOL)は予後と相関することが示され,グリオーマ診療にかかわる際に今後一定の知識が必要となることが予想される.
・臨床試験でのQOLの解釈には,それぞれの試験で用いられたQOL評価内容や評価法の定義などを整理した上で結果を理解する必要がある.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脊髄動静脈奇形病変に対する外科治療

著者: 遠藤俊毅 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.665 - P.676

Ⅰ はじめに
 脊髄動静脈奇形(spinal arteriovenous malformation:spinal AVM)は,動脈血が静脈に病的に流出することにより,くも膜下出血,髄内出血,あるいはうっ血性脊髄症などを来す疾患群の総称である1).本稿では,spinal AVMの分類,脊髄血管解剖,診断のポイント,そして外科治療の実際について概説する.

症例

血管内治療で救命し得たビニル傘による両側頚動脈穿通損傷の1例

著者: 望月達城 ,   劉美憬 ,   佐藤慎祐 ,   島彰吾 ,   井上龍也 ,   桒本健太郎 ,   新見康成 ,   岡田芳和

ページ範囲:P.677 - P.682

Ⅰ.はじめに
 外傷性頚動脈損傷(traumatic carotid injury:TCI)は本邦では極めて稀な外傷である.TCIは外傷機転により穿通性頚動脈損傷(penetrating TCI:PTCI)と非穿通性頚動脈損傷(Non-PTCI)に分類され,Non-PTCIでは仮性動脈瘤や動静脈瘻,動脈解離等の多様な臨床像が知られている7).PTCIでは頚動脈断裂に伴う出血が一般的な病態であるが,仮性動脈瘤や動静脈瘻を呈する症例も報告されている34, 37).頚動脈断裂は,大量出血,血腫による気道圧排,脳虚血など極めて重篤な病状を引き起こす.特に複数損傷部位による大量出血例の救命,治療は最も困難である37).これらの結果,PTCIの致死率は10〜22%と高く3, 8, 18, 23, 25, 34),救命例でも10〜19%で何らかの神経脱落症状を来す予後不良の疾患である8, 23, 34).特に両側PTCIによる活動性出血例で救命された症例報告は筆者らが文献的に渉猟し得た範囲(PubMed,医中誌)では1例であった33)
 今回,搬入時頚部より活動性出血を来していたビニル傘による両側PTCI症例を血管内治療により救命し得たので文献的考察を加えて報告する.

脳結核腫の1例

著者: 室田裕大 ,   田村郁 ,   田中洋次 ,   相澤有輝 ,   小林大輔 ,   松岡義之 ,   橋本聡華 ,   稲次基希 ,   成相直 ,   前原健寿

ページ範囲:P.683 - P.688

Ⅰ.はじめに
 先進国の結核患者数は結核予防対策および抗結核療法の進歩により戦後から減少傾向をたどり,それに伴って脳結核腫の頻度も減少した.本邦では2020年現在の脳結核腫数の統計は渉猟し得た限り存在しなかったが,1980年の時点においても脳結核腫は全頭蓋内腫瘍の0.1%とわずかであった7, 13)
 しかし,近年高齢者やエイズ患者などの免疫不全者に結核患者が増加する傾向にあり,多剤耐性結核菌の出現という因子も加わり,結核は再興感染症として再認識されている8)
 今回われわれは,腫瘍性病変との鑑別が困難であった脳結核腫の1例を経験したため,鑑別診断における血液・髄液検査所見,画像検査所見の特徴に着目して報告する.

書評

—監:吉村 知哲,田村 和夫 編:川上 和宜,松尾 宏一,林 稔展,大橋 養賢,小笠原 信敬—がん薬物療法副作用管理マニュアル—第2版

著者: 岩本卓也

ページ範囲:P.535 - P.535

手元に置きたい,実践に強い本
 「いかに副作用を軽減して治療を継続するか」——われわれががん薬物治療を開始するときに必ず考えることである.いくら最新のがん治療,エビデンスの高い治療であっても,患者が実際に治療に耐えることができなければその恩恵を得ることはできない.また,がん治療に前向きな患者ばかりではなく,副作用への心配から自ら治療の道を閉ざしてしまう方もおり,そのような患者に対しては一層丁寧な説明が必要になる.このようなとき,実践に強い参考書,副作用について素早く整理できる本が手元にあると心強い.本書は,好評を博した初版の刊行から3年を経て,さらに内容を充実させた第2版であり,医療従事者に求められる副作用管理のポイント,経験に基づくアドバイスが随所に挿入された実践向けの本である.もちろん,患者に要所を押さえた説明をする際にも最適である.
 本書は,抗がん薬投与後に発現する主な副作用を取り上げ,その発現率,好発時期,リスク因子,評価方法をまとめている.また,典型的な症例提示もあり,副作用アセスメントの進め方をイメージできる.そして,第2版では「患者のみかたと捉えかた」を新設し,腫瘍内科医が身体所見,検査,副作用の評価方法を記載しており,診療の進め方を理解するのに役立つ.また,各論では「味覚障害」「不妊(性機能障害)」「栄養障害」が新たに追加され,「免疫関連有害事象(irAE)」の項目も充実している.

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目次

ページ範囲:P.460 - P.461

欧文目次

ページ範囲:P.462 - P.463

次号予告

ページ範囲:P.690 - P.690

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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