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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科49巻5号

2021年09月発行

雑誌目次

特集 頭部外傷診療アップデート—ガイドラインを読み解く

Editorial

著者: 刈部博

ページ範囲:P.921 - P.921

 頭部外傷診療は,脳神経外科医がイニシアチブを取り専門診療を行う本質は以前から変わっていませんが,近年では病院前救護,救急部門,手術部門,集中治療部門,リハビリテーション部門など診療局面が細分化され,さまざまな局面での診療内容が高度化したことにより,各職種のプロフェッショナルが協働することによって成り立っています.このような状況で,職種や経験の異なるスタッフによる協働作業を円滑に進めるためのシステムが「標準化」であり,標準化の指針となるのが診療ガイドラインです.
 頭部外傷の診療ガイドラインは2000年に初版が発行されて以来,6〜7年ごとに版を重ね,2019年10月に現行第4版の『頭部外傷治療・管理のガイドライン』が発刊されました.この新版ガイドラインは,白衣のポケットに入れて持ち運びができるよう従来のA5判サイズを踏襲していますが,頭部外傷診療の細分化・高度化に伴い,大幅に増補され充実した内容となりました.

Ⅰ 初期診療と急性期評価・診断

初期診療から専門診療への連携

著者: 横堀將司

ページ範囲:P.922 - P.933

Point
・外傷診療は時間との勝負である.迅速な初期蘇生はもちろんのこと,正確な重症度,緊急度の評価は必須である.
・根治的治療がシームレスに継続されるための情報伝達項目を明確にしておく.チーム医療(戦略,戦術,チームワーク)の確立は必須である.
・搬送を急ぐあまり,気道,呼吸,循環の安定化を怠ってはならない.付加的な二次的脳損傷は患者転帰をむしろ悪化させる.

画像診断

著者: 前田剛

ページ範囲:P.934 - P.945

Point
・急性期頭部外傷における初期診療で第一選択とする画像診断法は単純頭部CTである.
・初回CTでは,緊急開頭術が必要な頭蓋内出血の有無を評価する.
・二次性損傷を評価するためrepeat CTを行う.
・軽傷頭部外傷では,放射線被曝を考慮して神経学的随伴症状などを確認してCTの適応を決める.

凝固線溶系障害

著者: 中江竜太

ページ範囲:P.946 - P.953

Point
・頭部外傷患者の20〜35%は凝固線溶系障害を伴い,転帰と相関する.
・特に線溶系が亢進して出血傾向となることが特徴であり,線溶系マーカーのD-dimerは予後予測因子となる.
・凝固線溶系マーカーのモニタリングを行いながら刻々と変化する病態を把握し,治療を進めていくことが望ましい.

Ⅱ 外科的治療と神経集中管理・治療

重症頭部外傷急性期モニタリングと神経集中治療

著者: 中川敦寛 ,   工藤大介 ,   園部真也 ,   麦倉俊司 ,   久志本成樹 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.955 - P.963

Point
・現在の神経集中治療では二次侵襲を最小限にとどめ,生体の自己回復能力を最大限に引き出す環境を作ることに主眼が置かれている.
・神経学的所見やモニタリングから得られる情報を統合し,頭蓋内圧亢進を的確に評価して治療のタイミングを逃さない.
・今後,インフォマティクスなどがモニタリングや管理の質の向上を支援することが予想されるが,生理学,病態生理を深く理解することが本質であることには変わらない.

頭蓋内圧亢進に対する減圧開頭術

著者: 大谷直樹 ,   吉野篤緒

ページ範囲:P.964 - P.975

Point
・減圧開頭術(DC)による転帰は内科的治療と比べて致死率は減少するが,機能予後は不変である.
・重症頭部外傷で脳ヘルニア徴候や開頭術の適応がある症例,特に若年症例ではDCを施行してもよい.
・DCを施行する場合には,大開頭による前頭側頭頭頂開頭(12×15 cm以上,あるいは直径15 cm以上)が勧められる.

外傷性頭蓋内血腫の外科的治療

著者: 八ツ繁寛

ページ範囲:P.977 - P.985

Point
・急性期外傷性頭蓋内血腫である急性硬膜外血腫,急性硬膜下血腫,脳挫傷,脳内血腫が手術適応の場合は,可及的速やかに行わなければならないことが多い.
・病態に合わせて,開頭術,穿頭術,減圧開頭術などの術式を選択していく.

外傷性てんかんの治療と管理

著者: 稲次基希 ,   前原健寿

ページ範囲:P.986 - P.993

Point
・頭部外傷後1週間以内の早期発作は急性症候性発作であっててんかんではなく,1週間以降の晩期発作を認めたものがてんかんとして扱われる.
・急性期の抗てんかん薬の予防投与は推奨されているが,慢性期の予防投与は否定されている.
・てんかん重積状態は予後を悪化させるため,積極的な診断・治療が必要である.特に非けいれん性てんかん重積では持続脳波モニタリングが有用である.

外傷急性期精神障害への対処

著者: 奧野憲司

ページ範囲:P.994 - P.999

Point
・脳外傷後急性期はせん妄や通過症候群を来し得るが,それら病態を理解して見極めることが重要である.
・脳損傷で生じた興奮に対し,各種抗うつ薬(SSRI),気分安定薬(バルプロ酸,カルバマゼピン)の投与を考慮し,無効例には抗精神病薬の投与を考慮する.
・抑制困難な症例に対しては精神科と協力して治療を行うことが勧められる.

Ⅲ さまざまな頭部外傷の病態

Talk and deteriorateと高齢者頭部外傷

著者: 刈部博

ページ範囲:P.1001 - P.1009

Point
・高齢者頭部外傷は転帰不良であり,高齢者特有の身体能力の低下や解剖学的特徴,生理学的特徴に外傷リスクや悪化リスクがあると考えられている.
・Talk and deteriorateは高齢者頭部外傷における転帰不良の要因である可能性がある.
・外傷後の凝固線溶系障害や抗血栓薬内服はtalk and deteriorateを惹起する可能性がある.

虐待による頭部外傷

著者: 荒木尚

ページ範囲:P.1011 - P.1023

Point
・身体的虐待による頭部外傷を総称してabusive head trauma(AHT)と呼ぶ.
・乳幼児の急性硬膜下血腫を認める場合にはAHTを鑑別する必要がある.
・AHTの病態にはけいれんが強く関与し,超急性期から抗けいれん薬投与が必要である.
・AHTの診断は脳神経外科をはじめ,複数診療科・多職種によるチームにより行われることが望ましい.

抗血栓薬服用例への対応

著者: 末廣栄一

ページ範囲:P.1024 - P.1030

Point
・抗血栓薬服用例において外傷性頭蓋内出血を認めた場合,すみやかに抗血栓薬を中止し適切な中和療法を行う.
・血腫拡大による二次性脳損傷は不可逆的な変化をもたらすため,症状が軽いうちに対応することが重要である.
・頭部外傷の急性期を過ぎたら,抗血栓薬の再開を忘れずに行う必要がある.

スポーツ脳神経外科—脳振盪への対応

著者: 荻野雅宏

ページ範囲:P.1032 - P.1039

Point
・脳振盪はあくまで症状から診断され,背景にある病態生理は単一ではなく,簡便な診断方法も見出されていない.
・段階的に復帰すべきことは広く認識されつつあるが,効果的な治療法やリハビリテーションも今後の課題である.
・反復受傷の結果とされる慢性外傷性脳症(CTE)の病理学的所見は解明されつつあるが,臨床診断や検査法の確立にはさらなる研究が必要である.

外傷性頭頚部血管損傷

著者: 小畑仁司

ページ範囲:P.1041 - P.1055

Point
・外傷性頭頚部血管損傷は稀であるが,重篤な症状を呈することが多く,良好な転帰を得るためには迅速な診断・治療が必要である.
・スクリーニングにはCTAが有用であるが,脳血管内治療に移行できるDSAが診断のgold standardである.
・外傷性頭頚部血管損傷の治療では,基本的な脳血管外科手術と脳血管内治療に習熟し,多様な病変に柔軟に対応する必要がある.

外傷に伴う低髄液圧症候群—類縁病態の診断基準と近年の動向

著者: 土肥謙二 ,   加藤晶人 ,   八木正晴

ページ範囲:P.1056 - P.1065

Point
・診断については低髄液圧症に関する症状を理解し,直接的な髄液の漏出を証明するために診療指針に基づいて画像診断を行う.
・治療についてはまず安静と十分な補液を行う.硬膜下血腫合併例では患者ごとの病態と緊急性を判断して治療の優先順位を決定する.
・病名については臨床・研究ともに未だ混乱している.グローバルな研究を推進するためには正しい診断と病名の統一が必要である.

▼コラム

ライフマネジメントとしてみる頭部外傷診療の心構え

著者: 刈部博

ページ範囲:P.1066 - P.1069

Point
・頭部外傷診療では急性期局面の診療を行いつつ,長期的視野に立ってさまざまな連携を意識することが重要である.
・慢性期以降の高次脳機能障害診断のためには急性期MRIが有用である.
・外傷後早期から患者や家族に周知・教育することにより,外来フォローアップのドロップアウトを予防することが重要である.

Ⅳ 急性期からつながる慢性期診療と社会復帰

早期リハビリテーション

著者: 中村俊介

ページ範囲:P.1070 - P.1083

Point
・頭部外傷に対する早期リハビリテーションとは,多方面にわたる機能を維持・改善・再獲得するために,48時間以内に開始される治療アプローチである.
・廃用を予防し,早期のADL向上を図るため,早期離床や早期からの積極的な運動を行うように勧められるが,十分なリスク管理が必要である.
・早期リハビリテーションは,多職種で構成されたチームで継続的に展開することが重要となる.

急性期から留意する高次脳機能障害

著者: 河井信行 ,   畠山哲宗 ,   三宅啓介 ,   田宮隆

ページ範囲:P.1084 - P.1092

Point
・頭部外傷患者の急性期診療にあたり,高次脳機能障害に関して下記の点に留意する.
・意識は「意識清明度(覚醒状態)」と「意識内容」の2つの要素で構成されており,覚醒状態のみで「意識清明」と判断しない.
・早期にCTのみならずMRI(急性期には拡散強調像やFLAIR像,亜急性〜慢性期にはT2像や磁化率強調像)を行い,微細な損傷を含め器質性病変の検出に努める.
・急性症候性発作とてんかんを混同して「脳外傷後てんかん」と安易に診断しない.
・軽症を含め,すべての頭部外傷患者に高次脳機能障害が発症する可能性について,患者・家族に説明する.

総説

脳神経外科領域における手術部位感染

著者: 安原隆雄 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1093 - P.1104

Ⅰ はじめに
 脳神経外科手術では,手術部位感染(surgical site infection:SSI)がほとんど起こらない血管内治療を除くと,開頭術,穿頭術,脊椎脊髄手術,経鼻内視鏡手術,水頭症手術,小児脳神経外科手術,その他,さまざまな術式においてSSIを完全に制御することは困難である.
 本稿では脳神経外科領域のSSIについて,まず,2018年と2019年に行われた本邦のアンケート調査結果および,脳神経外科領域に関して2020年に追補された『術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン』の内容を簡潔にまとめる.次いで,脳神経外科領域で扱う医療材料について,新しい素材も含め,SSIに関する報告を示す.最後に,脊椎脊髄領域のSSIと予防,ならびに頭蓋底切除を伴う手術におけるSSI予防について,われわれの考え方・取り組みを紹介する.

書評

—監修:氏家 良人 編:木澤 義之—救急・集中治療領域における緩和ケア

著者: 林寛之

ページ範囲:P.1040 - P.1040

患者さんの人生に寄り添うための,熱くて深い! 救急緩和
 Palliative emergency medicine(救急緩和)というのは,世界でも比較的新しいトピックで,北米の救急医学にはフェローシップコースもできている.救命・集中治療と緩和ケアなんて,スポコン漫画と恋愛小説くらいベクトルの違うもののようにみえるが,どっちも必要なんだ.生きとし生けるものは全てに始まりと終わりがあり,人間の死亡率はなんと100%! 一世を風靡(ふうび)した『鬼滅の刃』の炎柱(えんばしら),煉獄杏寿郎も「老いることも死ぬことも人間というはかない生き物の美しさだ」と言っているではないか.患者さんの人生において,その人自身の価値観を尊重し,その人らしい人生を送る「生き方(死に方ではないよ)」をお手伝いすることもわれわれ医療者の大事な仕事であり,救急・集中治療も緩和ケアも目の前の患者さんにとっては非常に重要だ.患者さんの意思に反した延命処置がいかに医学的に無駄であり,患者さんの自尊心を傷つけているかということは,世間でもたびたび議論の的になっている.その意味では,本書は手探り状態の日本の「救急・集中治療の緩和ケア」において「一寸先は光」をまさしく照らしてくれる.
 医学生や研修医も含め,多くの医師はこんなの習ったことがない.目の前の困難事例を各自の臨床能力と経験だけで乗り切ってつらい思いをしていることだろう.でも本書を読めば大丈夫.本書はその歴史的成り立ちから,考え方,さらには具体的な対処法まで,熱く深く記載されている渾身の1冊となっている.決してHow toだけでは語れないんだ.

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目次

ページ範囲:P.916 - P.917

欧文目次

ページ範囲:P.918 - P.919

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1105 - P.1105

次号予告

ページ範囲:P.1106 - P.1106

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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