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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科5巻1号

1977年01月発行

雑誌目次

これからの医学教育と脳神経外科学

著者: 長島親男

ページ範囲:P.5 - P.6

 「これからの医学教育はどうあるべきか」の問題は,わが国のみならず世界の各国が真剣にとり組み,検討されている重要な問題である.この問題について,すでに15年のキャリヤーをもつイリノイ大学・医学教育学部Center for Educational Development, University of Illinois College of Medicineの教授団による「評価に関する医学教育ワーク・ショップ」が日本医学教育学会主催のもとに,さる5月27日と28日東京において行われ,筆者も参加する機会を得,米国の医学教育についての基本理念,医学教育が十分に行われたか否かの評価法,さらに教育方法や試験技術の新らしい方向などについて,いろいろ学ぶことができた.
 このワークショップで筆者が感じたことは,ほとんどあらゆるものがコンピュータ化され,機械化医学の最先端をゆく,あの米国においてさえ,医学教育の根底をなす基盤は,医学の知識の豊かさではなく,"医師と患者との人間関係"においていることである.その証拠の1つとして,卒業試験の評価の対象には,各学科の点数だけでなく,Habits and AttitudeとSkillがきわめて重視されていることからもわかる.Habits and Attitudesとは,医学生が患者や患者の家族に対する態度,接し方,話しのし方など入間関係を評価する項目である.

総説

神経因性膀胱—特に脳膀胱を中心として

著者: 宮崎一興

ページ範囲:P.7 - P.14

はじめに
 神経因性膀胱neurogenic bladderという診断は排尿に関係のある体性神経,自律神経が器質的変化を生じたため,蓄尿および排尿の生理機構に何らかの異常をきたしたものの総称である.その神経の障害は,糖尿病,梅毒,Neuro-Behcet's syndromeのように,系統的な神経変性に基づくもの,頭部外傷や脳出血のように主として脳神経にその原因が求められるもの,脊髄の外傷,腫瘍のごとく,脊髄の横断麻痺によるもの,さらに骨盤神経損傷のような末梢神経障害に基づくものと原因は様々であるが,なかでも脳神経に基づくものを脳膀胱brain bladder,脊髄神経障害によるものを脊髄膀胱cord bladderと呼んでいる.
 脳膀胱と脊髄膀胱とでは一見臨床症状には相似点があることが多いが,そのよって来る原因には相違点があり,治療に至っては脳膀胱の方がはるかに複雑で,脊髄膀胱と同じ考え方では治療成績が上がりにくい.

手術手技

脳寄生虫の手術—脳肺吸虫症を中心として

著者: 青木秀夫

ページ範囲:P.15 - P.20

はじめに
 人体に寄生する寄生虫のうち脳にみられるものは肺吸虫.日本住血吸虫,有鈎嚢虫44),人体包虫,施毛虫,マンソン孤虫23)の6種が知られているが14,27),さらに広東住血線虫32),糞線虫31)その他の稀なものや,原虫症としてToxoplasmosisなどがある.しかし本邦においては特に前二者が圧倒的に多い.
 脳腫瘍(広義)中で寄生虫症の占める割合はCushingの統計39)では2,023例中0.1%,Zülchの5,718例中9例0.16%38)であるが,本邦では1957年桂16)による全国統計で3,312例中55例,1.6%と著しく高頻度であった.次いで1963年植木45)による集計では7.108例中64例,0.9%と相当減少しているがなお欧米に比し高率である.しかし最近本症が著しく減少の傾向を示していることは,全国各施設で経験されているところである.事実前述の令国集計は両者間に6年間の隔たりがあるが,この間の増加分をみると3,896例中9例,0.23%となり,相当欧米の統計に近い.これは本症に対する予防医学,啓蒙運動が地道な効果をあげていることを示しており,まことに喜ばしい.

診断セミナー

Wallenberg症候群

著者: 塚越廣

ページ範囲:P.21 - P.27

Wallenberg症候群とは
 Wallenberg症候群とは一側延髄外側部の病変により,特有の神経症状を示す一群の病気を言う.その主要な神経症状は嘔気,嘔吐,めまい,病巣と同側の顔面半分の温度覚および痛覚障害,Horner症候群,嚥下障害,言語障害,上下肢の小脳症状,病巣と反対側の体半分の温度覚および痛覚障害である.
 本症候群は脳動脈硬化,糖尿病,梅毒などに関係ある血栓,変形性頸椎症,頭蓋底陥入症などの頸椎異常,変形に伴う血流障害,心内膜炎,心臓弁膜症などに基づく塞栓により脳血管発作として生ずることが多い.脳血管障害としては大脳の血管障害に比較して,年齢の若い方に多く,予後がよいという特徴がある.一方脳腫瘍,延髄空洞症,多発性硬化症などが,延髄外側部の病巣を生じて本症候群を起こすことがあり,種々の異なる原因によって,特異な神経症状の組み合わせを呈するので,症候群と呼ばれている.

研究

前大脳動脈瘤の手術

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志 ,   内田桂太

ページ範囲:P.29 - P.33

Ⅰ.はじめに
 前交通動脈分岐部より末梢の前大脳動脈に発生した動脈瘤(distal anterior cerebral artery aneurysm)は,発生頻度が少なく8)1人の術者の経験する症例数1,4,5,7,15,16)が乏しいことなどにより,この部の動脈瘤の発生部位による特殊性についての追求はい虫だ十分にはなされていない.我々は1973年12月31日までに,A2以下末梢に発生した前大脳動脈瘤を46症例経験し,45症例に直接手術を施行した.これらの症例をもとに,この部の動脈瘤に関する手術術式について一定見が得られたので報告する.

RI cisternographyによる脳腫瘍の診断—とくに天幕上腫瘍について

著者: 三輪佳宏 ,   福光太郎 ,   村田高穂 ,   徳力康彦 ,   松村忠範 ,   堀井広志

ページ範囲:P.35 - P.41

Ⅰ.はじめに
 生体内における脳脊髄液(CSF)の生理学的動態をとらえる方法として,radioisotopecisternography(RI cisternography)は近年になり広く用いられているが,対象疾患は水頭症やクモ膜のう腫,髄液瘻などが主であった.しかし頭蓋内mass lesionによる脳表クモ膜下腔への影響により,CSF動態に種々の変化が生じることも当然予想されるところである.この面では小脳橋角部腫瘍による小脳橋槽の閉塞5)や慢性硬膜下血腫11,12)についての報告はみられるが,天幕上腫瘍についてのまとまった研究はみられない.
 我々は当初extracerebral tumor(髄膜腫など)とintracerebral tumor(神経膠腫など)の鑑別にRI cisternographyを用いたが,症例を重ねるに従って腫瘍の脳表クモ膜下腔に及ぼす影響により,それぞれ特徴的なpatternをとり,天幕上腫瘍の補助的診断法として有用であり,かつ術後の,あるいは放射線療法後の効果判定にも役だつことを見出したのでその結果を報告する.

脳神経外科領域におけるglucocorticoid投与法の検討(第1報)—脳神経外科手術前後の下垂体ホルモン分泌能について

著者: 森信太郎 ,   魚住徹 ,   渡部優 ,   滝本昇 ,   最上平太郎 ,   橋本琢磨 ,   大西利夫 ,   宮井潔 ,   熊原雄一 ,   松本圭史

ページ範囲:P.43 - P.49

Ⅰ.緒言
 脳神経外科領域では主として脳浮腫の予防あるいは治療の目的で比較的大量のglucocorticoidがひろく用いられている.
 その臨床的効果および有用性については,これに携さわる臨床家の認めるところとなっているが,その使用量,投与方法,副作用,適応,禁忌などについて系統的な検討はなされておらず,脳浮腫の発生する状況に応じて経験的に使用されているのが現状である.

くも膜下出血時の髄液線溶動態—脳動脈瘤再出血との関連について

著者: 今永浩寿 ,   大杉保 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.51 - P.58

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤再出血の防止には,頭蓋内直達手術によるneck clippingが最も確実な方法であり,患者のgradeが良好の場合には早期手術を行うことが常識とされている.しかし,状態のよくない患者では一定の状態にまで症状が落ち普くのを待って手術を行う.ところが手術待機中に再出血をきたすことはたびたび経験することである.そこで少なくとも手術にいたるまでの間,再出血を防止する方法が講じられなければならない.周知のごとく,再出血の発現機序には血圧とともに線溶現象が大きく関与しており,その対策として血圧のコントロールと抗線溶療法が行われている.しかしながら,線溶現象が脳動脈瘤出血におよぼす機序は十分には解明されていない.脳動脈瘤破裂部の血栓融解に線溶現象がどのように関連しているかを把握するには,血液線溶系よりも局所線溶系を捉えることが大切である.しかるに,従来この観点よりの線溶動態の検索はきわめて少ない.そこで著者らは局所線溶を敏感に反映するものとして,髄液の線溶現象に着目し,検討を加えた結果興味ある知見を得たので報告するとともに,治療上の問題についても見解を述べてみたい.

症例

多発脳血管奇形の1例—中大脳動脈窓形成,前交通動脈瘤,および脳動静脈奇形を合併した1症例について

著者: 馬場元毅 ,   清水隆 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一 ,   小林直紀

ページ範囲:P.59 - P.64

Ⅰ.はじめに
 脳動静脈奇形に脳動脈瘤を合併した例は,1942年Walsh & King13)が初例を報告して以来,その報告は少なくない.しかしながら脳動脈奇形,脳動脈瘤の合併に更に他の血管奇形を同時に有する例はきわめて稀である.頭蓋内血管の窓形成(fenestration)に関しての報告はほとんど椎骨脳底動脈領域におけるものであって,この領域以外の脳血管系での報告はきわめて少なく3,11),特に脳血管撮影でこれをとらえた例は更に少ない11).著者らは,右前頭極部の動静脈奇形,前交通動脈瘤,および右中大脳動脈のsphenoidal segment(M1部)での窓形成を合併するきわめて稀れな症例を経験したので,症例を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

脳血管Moyamoya病に合併した脳底動脈動脈瘤について

著者: 児玉南海雄 ,   峯浦一喜 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.65 - P.69

Ⅰ.はじめに
 脳血管Moyamoya病3,8-14)の脳動脈瘤台併例1,2,5-7)の報告は稀なものとされているが,我々は現在までに5例を経験し,その3例についてはすでに報告4)した.今回報告する2例は脳底動脈領域に発生した脳動脈瘤で,既発表の3例とは異なるtypeの動脈瘤であるので,若干の考察を加え報告する.

脳室腹腔吻合管を経由した悪性脳腫瘍の神経管外転移—2剖検例の報告および文献的考察

著者: 柴崎尚 ,   武田文和 ,   川淵純一 ,   鈴木豊 ,   柳沢昭吾

ページ範囲:P.71 - P.79

Ⅰ.はじめに
 Ventriculocardiac shunt(Nulsen and Spitz 1952),Ventriculopleural shunt(Ransohoff 1954),Ventriculoperitoneal shunt (Scott et al.1955)などのmechanical tubeを用いた髄液内誘導術21)が交通性,非交通性水頭症に対して頻繁に行われ大きな成果をあげ,なかでも髄液路の閉塞をきたした頭蓋内腫瘍の治療においてshunt operationによる頭蓋内圧のコントロールが,きわめて有効な手段として用いられている.
 しかし,近年shunt tubeを経由した脳腫瘍の神経管外転移例の報告が稀ながら見られるようになり,脳腫瘍治療.上の新しい問題を提起している.われわれは第4脳室腫瘍,松果体部腫瘍がそれぞれ脳室腹腔管を経由して神経管外転移を生じた2例を報告し,あわせて文献上の症例につき考察を加えた.

Spontaneous 3rd ventriculostomyの1例

著者: 宮坂佳男 ,   森井誠二 ,   高木宏 ,   大和田隆 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.81 - P.87

Ⅰ.序論
 脳室内出血後,急激に髄液の通過障害が増強したと考えられ,重篤な状態となったがspontaneous 3rd ventriculostomyにより,閉塞性水頭症のspontaneous arrestがもたらされた稀有なる第3脳室後半部腫瘍の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

舌咽神経痛—迷走神経上位第1枝切断時に低血圧・右脚ブロックを伴った症例

著者: 坂口新 ,   長島親男 ,   上笹皓 ,   川沼清一

ページ範囲:P.89 - P.94

Ⅰ.はじめに
 特発性舌咽神経痛の治療としては,保存的療法としてDiphenylhydantionやTegretolなどの抗痙攣剤の投与が奏効するとされ18,20,29),最初に試みるべき治療法であるが,これらで奏効しないものや副作用が耐えがたいものは,当然,他の治療法が考慮されねばならない.局麻剤によるブロックは,効果が短かく永続的治癒が望めず,むしろ診断的価値の方が高い3,33,37,38),またアルコールなどによるブロックは技術的にむずかしく,かつ副損傷を引き起こしやすいという難点がある25).手術的療法としては,頭蓋内または頭蓋外での舌咽神経の切断術が施行されている15,16,21,30).頭蓋内と頭蓋外での切断を比較すると,神経の同定が容易である点と効果が確実で再発が少ないという点では,頭蓋内での切断が優っているように思われる17,24,25,30,36)
 しかし,頭蓋内の舌咽神経切断の場合でも舌咽神経単独の切断では治療効果が確実でないものや,再発することが多いこと,また舌咽神経痛の病態生理の解明にともなって,舌咽神経以外に迷走神経の関与が重要であることが明らかにされてきた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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